表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
879/913

03.さて困ったぞ


 デイブとの連絡を終えたあたしは、自分の部屋から【風のやまびこ(ウィンドエコー)】でカースティに連絡を入れた。


 幸いにも彼女には直ぐつながる。


「こんばんはカースティさん、こんな時間にすみません」


「あ、こんばんはウィンさんー、全然大丈夫ー」


 割と軽い感じで返事が返って来る。


 何というか彼女と話していると、ホリーと喋ってる感じを思いだしてしまうけれども。


「もしかしてヒツジの件かしら?」


「あ、そうです。どこまで把握してますか?」


 カースティに確認すると、デイブから聞いた話はすでに把握していた。


「――って感じだけど、わざわざウィンさんが連絡して来たのは『赤の深淵(アビッソロッソ)』で情報共有って感じかしら?」


「ええ。元々そいつらが王都で活動を始めてるんじゃないかって話でしたし、ヒツジはたぶん生贄ですよね?」


「そうね、私もそう思うわー。情報は他にある?」


「あります、ちょっと碌な話じゃあ無いんですけど」


 あたしの言葉にカースティは、それなら先にと言って彼女が知る情報を話してくれた。


 それによると、闇ギルドの手勢の規模が、ランクA相当の手練れを中心に二十人くらい王都に入っているという。


「うへぇ、それって一般兵換算だと数百人規模の戦力ってことですよね?」


「そうねー。でも今回は『赤の深淵』を狩る動きみたいだし、闇ギルドと被らない限りは敵対しないんじゃないかしら」


「え、でも、カースティさんは『女の三塔(さんとう)』を狩るって言ってましたよね?」


 そう指摘すると彼女は笑う。


「フフ、そうだけどー、私としては王都がクリアになれば取りあえずはいいのよ」


 あ、そうか。


 デイブの店で彼女と話した時は、故郷である王都の治安悪化が気に食わないって言っていたか。


「分かりました。状況によって闇ギルドの討ち漏らしを狙う感じですね?」


「それでいいんじゃないかなー。私からは以上だけれど、他に情報があるかしら?」


「ええ。『魔神の巫女』から神託を預かりました。彼女はすぐ王宮に報告するそうです。あたしは教皇さまとデイブに連絡済みです」


「教皇さま? ……フレデリック猊下?! なんで連絡できるの?!」


 あ、そうか、確かに普通はそういう反応になるのか。


 でも教皇さまって庶民派だし、ご近所さんとかだったらふつうに連絡できるんじゃないだろうか。


 あと重度のモフラーだし、横のつながりは多そうだけれども。


 カースティに確認されたので、あたしは説明する。


「えっと、お爺ちゃんが教皇さまと友達なのであたしも顔見知りなんです。ちなみにあたしはモフラーではありません」


「そういう繋がりなのねー。えっとそうね、魔神さまからの神託を教えてもらえる?」


「分かりました――」


 そうしてあたしはディアーナから聞いている話を説明した。




 ヒツジの生贄は『赤の深淵』の仕業だ。


 典型的な禁術の構造で、人間の生贄を使うつもりらしい。


 どこを儀式の場所にして、どのタイミングで行うかが読み切れない。


 儀式の場所として有力なのは王都の中央か東西南北の各広場だが、儀式の設計で位置をセオリーから外せる。


 儀式の場所は『王都で確定』と思われる。


 人間の生贄の人数は不明。


 そういう一連の話をカースティに説明した。


「――というところまで聞いています」


「分かったわ、重要な情報ね。王宮に伝わるならブルー伯父さんも直ぐ把握すると思うけれど、母さんに連絡しておくわー」


 レイチェルさんは冒険者ギルドの副支部長だし、連絡してもらえば必要なところに伝達してくれるんじゃないだろうか。


 たぶんデイブが冒険者ギルドの相談役として、レイチェルさんに連絡しているとは思うけれども。


「あともう少し話があるんです。共同墓所の話は知ってます?」


「共同墓所? って何かあったのー?」


 あたしは思わず息を吐き、大量の人骨が盗まれたことと『骨ゴーレム』の件をカースティに伝えた。


「そりゃヤバいわねー……。さて困ったぞ」


「そうなんですよ。だからできるだけ早く『赤の深淵』を討伐するべきですよね」


「禁術が成立するのを避けるのはもちろんだけど、一秒でも早く連中を仕留めたいわねー」


「はい」


 カースティから『禁術が成立するのを避ける』と聞いて、『魔神騒乱』の時のことを思いだした。


 あの時は『諸人(もろびと)の剣』として動いたけれど、今回は儀式が進んでいたらどうしたらいいんだろう。


 ソフィエンタに確認してみようか。


 そこまで考えていたら、カースティが制圧を優先すべきという話をした。


「結局のところ、戦争なんかと違って秘密組織の掃討でしょ? 制圧を早めるほど被害が減ると思う」


「たしかに光竜騎士団もいますし闇ギルドもやる気みたいですし、早く動いて制圧を早くするのが一番いいでしょうね」


 彼女とそこまで話したところで話題が途切れたからか、カースティは半ば無理やり話を逸らしてきた。


「ところでウィンさんー、別の話だけどー、フェリックスとは何か進展があったり、逆にムリに迫られて困って無いかしら?」


「いきなりですね?!」


 確かにカースティから見て、フェリックスは従弟(じゅうてい)ないとこだ。


 身内の動きは気になるのかも知れないけれども。


「えっと先ず、ムリに迫られてることは無いです」


「うんうん」


「あと進展って言われても交際とかそういう話なら、貴族家という時点でムr――恐れ多いんですよ」


 あぶないあぶない、また本音をダダ漏れにするところだった。


 まあカースティは、デイブ達から国教会での『勉強会』の時の話は聞いている。


 あたしが今さら取り繕ってもバレバレではあるのだけれど。


「ハハハ、べつに無理しなくていいよー。でも先ずはあの子と友達になってやってくれるかなー?」


「“友達付き合いで既成事実を積み上げる”とかがこわいです」


「ハハハハハハ」


 あたしの言葉に彼女は可笑しそうに笑っていた。


 カースティとはそこまで話して連絡を終えたけれど、彼女は直ぐにレイチェルと情報共有すると言っていた。


 たぶんブルー様にも伝わるだろうと、あたしは考えていた。




 ここまで連絡を終えた後、立て続けに話をして少しくたびれてしまった。


「ちょっと一息つこう……」


 そう呟いてからヨロヨロと立ち上がり、ティーサーバーとハーブティーの茶葉を用意して共用の給湯室に向かう。


 急ぎで連絡しなければいけない所は連絡したと思うけれど、あとはキャリルにも伝えておくか。


 けれど我がマブダチは『赤の深淵』討伐としても、ティルグレース家の方で動いた方がいいんじゃないのか。


 でも気持ち的には、ここで情報を後出ししたくないんだよな。


 でも幾らキャリルが雷霆流(サンダーストーム)上級者としても、彼女を危険な目に遭わせたくはない。


 さっきのカースティじゃ無いけれど、さて困ったぞ。


 まあ、危険じゃ無ければいいんだけれども。


 頭の中でそんなことをぐるぐる考えつつ自室に戻り、ハーブティーを飲みながらスウィッシュを呼び出す。


「ねえスウィッシュ、キャリルにも情報を伝えておきたいんだけれど、彼女を危険に晒したくないのよ、どうしたらいいと思う」


「『赤の深淵』の件だね? 伝えるかどうかでいえば、ウィンは伝えなきゃダメでしょ、マブダチなんだよね?」


 スウィッシュはあたしの前を浮遊しながらお気楽な感じで告げる。


 悩みが無さそうな顔をしてるなあ。


 チョウゲンボウはそんな顔をしないと思うけれども。


「そうね。キャリルの安全は?」


「キャリルに、シンディ様に相談するよう頼めばいいんじゃないかな?」


 そうか、キャリルひとりに全てを任せなくてもいいわけだ。


 というか、ティルグレース伯爵家で方針を決めるようにお願いすればいいのか。


「冴えてるじゃないスウィッシュ」


「ウィンがくたびれてるだけだと思うなあぼくは。ちょっと落ち着いた方がいいと思うよ。きみが全部仕切る必要は無いんだからね?」


「あ、はい。あたしもそうおもいます」


 全部仕切らなくていいっていうのは当然だ。


 なにをそんなに前のめりになっていたんだろう、もっとラクをしないと。


 スウィッシュは普通に言ってくれたけれど、あたしとしてはお小言で言われるよりもダメージを食らったのだった。





お読みいただきありがとうございます。




おもしろいと感じてくださいましたら、ブックマークと、


下の評価をおねがいいたします。




読者の皆様の応援が、筆者の力になります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ