02.あたしの予感ではダメですか
まえに『赤の深淵』を狩る話をしたので、あたしはディアーナの部屋を訪ねて情報共有した。
デイブから聞いたヒツジが路上で溶けた件と、共同墓所から大量の人骨が盗まれた件だ。
あたしとしてはマルゴーさんとかエルヴィスに連絡してもらえればと思ったのだけれど、ディアーナは直ぐに魔神さまに連絡を入れてくれた。
確かに『赤の深淵』が狙っているのが禁術の儀式なら、魔法の守護者たる魔神さまに訊けば何か分かるかも知れない。
結果的には魔神さまの話として、ディアーナを経由して典型的な禁術の儀式の想定を聞けた。
恐らくは人間の生贄をもとに、神さまを作り上げるのではという内容だった。
ただ、神さまうんぬんはあたしとディアーナで秘密にしてほしいらしい。
ディアーナは『魔神の巫女』として魔神さまから神託があったという体で、すぐに王宮に報告を上げるそうだ。
『骨ゴーレム』についても陽動に使われそうという話は教えてもらった。
そこまで話してから、あたしはディアーナに確認する。
「それじゃあディアーナ、神託として王宮に報告したあとは、マルゴーさんとエルヴィス先輩に情報共有してもらっていいかしら?」
「分かりました。ウィンさんはデイブさんとカースティさんに連絡ですね?」
ディアーナはそう言って確認するけれど、さっき魔神さまと話した時に段取りを聞いているのかも知れないな。
「そのつもりよ。他に連絡した方がいい所はあるかしら?」
「あ、はい。魔神さまによると、デイブさんに連絡を入れる前に大急ぎで教皇さまに連絡を入れてほしいそうです。なんでもその……」
そう言ってディアーナは苦笑する。
どうしたんだろうか、何か教皇さまについて困ったことでも――――アレか。
「もしかしてモフモフ関係で何か行ってるの?」
「はい……、ヒツジが生贄に使われたことで、急きょ薬神さまにモフモフを守ってもらうためのミサを行おうと一生懸命指示を出しているみたいです」
「あー……、そういう方向性なのね」
それでまたソフィエンタがイラついたら、ヘタしたら今度こそあたしに『モフの巫女』の称号を正式に投げてきやがるかも知れない。
そのときはあたしが王都のモフモフ係にされそうな気がする。
何をする係かは知らないけれど、それは避けた方がいいだろう。
「分かったわ。まず自分の部屋に戻って大急ぎで教皇さまに連絡する。そのあとデイブとカースティさんに連絡しておくわ」
「お願いします」
「こちらこそお願いします」
あたし達はそう言い合うと、思わず笑みがこぼれた。
そうして彼女の部屋を出てから大急ぎで自分の部屋に戻り、教皇さまに連絡を入れることにした。
部屋に戻ってさっそく【風のやまびこ】を使って連絡を取ってみた。
「こんばんは教皇さま、こんな時間にすみません。いまよろしいですか?」
「――――――」
どうにも反応がない。
【風のやまびこ】は双方が連絡を取れる状態じゃあ無いと成立しない魔法だ。
他のことに一生懸命になっていたり、魔法で話す気分になれないときは連絡が成り立たない。
だから今回の場合はディアーナの話だと、モフモフのミサでソフィエンタに呼びかけるために必死になっている可能性がある。
これは確かに放置したら、あとでソフィエンタに何を言われるか分からないよね。
もうちょっと気合を入れて呼び掛けてみようか。
あたしは部屋の真ん中で自然体に立ち、目を閉じて『時輪脱力法』を行うときのように集中する。
そして【風のやまびこ】を使い、教皇さまに話しかける。
「教皇さま、モフモフのことでお話があります」
「何じゃろうかウィンちゃんっ!!」
なんだよこの人は。
一回で出て欲しいですよ。
「もしや神託でもあったのかのう?」
いや、確かにあたしは『薬神の巫女』だと教皇さまに教えて、それとは別にソフィエンタがモフモフ担当だとこの前確定しましたが。
「あたしでは無いですけれど、寮で『魔神の巫女』から神託を預かっています。大至急です」
「――すまぬ、話してくれぬか」
あたしの言葉ですぐに教皇さまは真剣な声色になる。
「承知しました。すでにご存じのようですが、本日王都の各所でヒツジが生贄に使われたようです。これは赤の深淵が行ったとのことです――」
あたしがディアーナの部屋で聞いた話を一通り説明すると、教皇さまは少し考えた後に告げた。
「禁術の実践……、畏れ多いのう。分かったのじゃ。まずは『魔神の巫女』の話の裏付けをするため、主だった神々に神託を求める儀式を始めることにする」
そう言われたことで、あたしに予感が働く。
教皇さまは神々と言ったけれど、その中に秘神の本体が含まれていないだろうか。
なんでそんなことを思いついてしまったんだろう。
「――――」
「ウィンちゃん?」
そうか『主だった神々』という言葉で引っ掛かったのか。
あたしは前にソフィエンタが『大物』という言葉を使ったのを思い出す。
あの時は確か――
「どうしたのかの?」
「財神……」
「財神さまがどうかしたかの?」
「いえ、失礼しました。詳しいお話はできないのですが、この件については魔神さまと薬神さま、あとは時神さまと闇神さまのみに相談して頂けますか?」
完全にあたしの独断だ。
ソフィエンタはともかく、他の神さまたちは友達だったり友達が巫女な神さまだ。
そういう意味ではコウが火神様の覡で、シルビアが風神さまの巫女、グライフが地神さまの覡だ。
それぞれの神々も信頼できるとは思うけれど、あたしは会ったことが無いか、きんにk――ちょっと保留したいのだ。
あとは豊穣神さまや創造神さまには会っているけれど、気軽に呼べないよね。
「その神々にするのは、何か理由があるのかの?」
「あたしの予感ではダメですか?」
教皇さま相手に不敬な物言いではあるのだけれど、他にうまく説明できる言葉が無いんですよ。
それでも教皇さまは穏やかな声で応じてくれた。
「承知したのじゃ。なにかそうする巡り会わせなのやも知れぬ」
「お願いします」
「分かったのじゃ。もとより薬神さまにはモフモフへの護りを願う予定じゃった。儀式を手分けするのはそこまで大変では無いのじゃ」
教皇さまはそう言って笑ってから連絡を終えた。
教皇さまの後には直ぐにデイブに連絡を入れた。
ディアーナからの情報を伝えたけれど、『想定内』と言われてしまった。
「人間が生贄にされるっていうのも想定してたの?」
「そういうこともあるかな程度にはな。つってもなんだ、『骨ゴーレム』の話が出ただろ。あの時点で、王都全体で陽動じみた騒ぎが起きるだろうって思ってたのさ」
「あー、そういうことなのね」
そう言えばデイブは『骨ゴーレム』ってきいて呻いていたのだったか。
「そうそう……。だから月輪旅団の連絡網にはその辺も含めて情報共有は回しておいた」
さすがデイブだな、手抜かりは無いけれど。
「その話、あたしがディアーナから神託を聞いて無かったらまだ聞いて無かったことにならないかしら?」
「そんなの順番だっての。……はあ、お嬢はある程度ここまで情報を把握しているし、他の連中に連絡し終わってからでもいいって話だ」
「あー、そういうこと」
「そうそう。だから仲間外れにしたってわけじゃあ無いから安心してくれ。それにお嬢はうちの伝手で動くよりは、学院でアルラや友達とか仲間を護った方がいいだろ」
姉さんとかみんなのことを考えての判断なら歓迎ではある。
「そういう気配りだったのね」
「そうだ。あんまし実感はねえかも知れねえけど、共和国なんかじゃあ『赤の深淵』は厄ネタだ。躊躇せず斬れるように、気合入れておけよ」
「分かったわ、ありがとう」
デイブとはそこまで話して連絡を終えた。
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