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03.植物を生やすように


 言葉の響きでその場の皆さんは呻き声を上げてしまったけれど、仕方がないだろう。


 大量の人骨が共同墓所から盗まれたことは想定できる。


 それが禁術のために使われそうと分かっていても、『肉ゴーレム』とか『骨ゴーレム』とか言われたら動揺すると思うんです、うん。


 ただ『骨ゴーレム』で動揺したのは、この場の暗部のリーダー役の人とかデイブやロクランだった。


 あるいは禁術そのものより何か懸念していることがあるのか。


 そこまで考えていると、ザックが説明を続けた。


「いま上げた二つのゴーレムの研究については、その歴史はかなり古いようです。ただ、両方とも時間が経つにつれて、単純にゴーレムと呼べるようなものからはズレていきました」


「だが、ゴーレムはゴーレムなのだろう? 『肉ゴーレム』とは、屍肉を素材としたゴーレムなのか?」


 ザックの言葉にレノックス様が険しい表情で問う。


 直ぐ近くでは枢機卿さまが哀しげな表情を浮かべて、何やら聖印を切って祈っていた。


 たしかに冒涜的な内容だし、聖職者の人には衝撃的な内容だよね。


 ザックは元神官なのに動揺せずに話しているけれど。


 いや、それでもこの人は、あたし達に説明するのに躊躇はしていたか。


「そこは説明が必要ですね。私も詳細は知りません。ただ、現在も残る闇魔法の魔法体系と魔道具の技術を取り込んで、研究が発展したようです」


「闇魔法、ですか?! まさか……」


 枢機卿さまが何か想像したのか絶句しているけれど、ザックも困った様な表情を浮かべている。


「ええ。ご想像の通り、人間を生きながら精神を破壊し、ゴーレム――術者の意のままに動くような人形に造り替える方向に発展しました」


『うわぁ……』


 室内には呻き声が上がるけれども仕方がないと思う。


 カリオとか小声で『禁術ヤバいだろ……』と呟いてる。


 だがそこにデイブが熱も無く告げた。


「本題の方に移ってくれ。もう一方の『骨ゴーレム』だとあれか? 魔獣としてのスケルトンを人為的に製造する技術ってことか?」


 その一言でやや動揺していた室内の空気が引き締まる。


 『肉ゴーレム』の話は悪趣味極まりない禁術の話だけれど、今回の本題では無いわけですよ。


「おおよそ正解だね」


 デイブの問いにイヤそうに頷きながら、ザックは答えた。


「人骨をそんなことに使う時点で、人間を何だと思ってるんだって感じだけれど……。説明を続けます」


「ああ、頼む」


 レノックス様が頷くのを見て、ザックは説明を続けた。




「簡単に言えば、『骨ゴーレム』は人骨を使った魔法人形のようなものです」


「わざわざ人骨を使うなんざ、色んな奴からヤバい奴扱いだろうな」


 ボソッとロクランが呟くけれど、あたし達は思わず頷いてしまう。


「それは、一般的なゴーレムよりも優れているということですの?」


 ザックの説明に思わずといった感じでキャリルが問う。


 でも彼女がそう訊きたくなる気持ちは分かるんだよな。


「そこなのですが、例えば地魔法の【土人形形成(ビルドゴーレム)】の場合は一度に一体しか作れません。並列思考のスキルがあれば、複数作れますが……」


「それでもどんなに鍛錬しても、二十体同時に作るのが限界でしょうか。そんなことをするくらいなら、その鍛錬の時間を他の魔法の鍛錬に使うべきですね」


 ザックの説明に枢機卿さまが補足してくれた。


 その言葉に皆さんは頷く。


 でも『骨ゴーレム』は【土人形作成】と違うんだろうか。


「一方で『骨ゴーレム』は儀式を行う禁術であり、儀式場の地面に書いた魔法的回路――魔方陣と呼んだりもしますが、その範囲から植物を生やすように作れるようです」


『うわぁ……』


 地面に書いた魔方陣から、ニョキニョキ茸か何かの如く『骨ゴーレム』が生えてくる光景を思わずイメージしてしまった。


 『骨ゴーレム』がどんな姿をしてるかは知らないけれど、要するに人骨だしそういう格好なんじゃないだろうか。


 思わず絶句するあたし達だったけれど、レノックス様が冷静に問う。


「待て。その場合は必要な魔力はどのように用意するのだ?」


「不明です。私もさすがにこのようなおぞましい禁術はやりたいと思いませんので、調べたことはありません。ただ……」


 そう言ってザックは腕組みして目を閉じ考え込む。


 かなり集中して頭の中で想定を行っている感じだろうか。


 この人がしでかしたことで忘れがちだけれど、ザックは魔神さまの弟子だ。


 禁術の実践の経験が無いとしても、もしかしたら自分なりに魔法の内容について想像することが出来るのかも知れないな。


「……失礼しました」


 そう言ってザックは目を開いた。




 何か気が付いたのだろうか。


 そう思ってその場のあたし達はザックに視線を集める。


「あくまでも想像ですが、誰でも思いつくのは環境魔力を使う方法です。王国の場合は広域魔法――戦術魔法と戦略魔法がありますね」


「そうだな。そして広域魔法は竜魔法を研究して生まれた」


 レノックス様がザックの言葉に頷く。


 竜魔法は王族の魔法だし、レノックス様にはこだわりとか誇りがあるんじゃないだろうか。


「仰る通りです。そして広域魔法はその習得をディンラント王国が厳しく管理しています――」


 これは言い換えれば、複数の属性の環境魔力を自在に扱うには、かなりの鍛錬が必要とのことだった。


「以前文献で読んだ『骨ゴーレム』を魔法的回路で生やす技術の場合は、制御に複数の属性魔力が必要になります。これを広域魔法の使い手が行うにはかなりの鍛錬が必要でしょう」


 その一方で、より簡単に環境魔力を無尽蔵に扱える方法があるという。


「――精霊魔法なら、より簡単に実施できると思われます」


「環境魔力の供給を、精霊から行うということか?」


「はい、あくまでも私の想像ですが。……加えて四大属性の地水火風について、一人ずつ精霊魔法の使い手を用意するだけで供給する属性魔力のコントロールもできるでしょう」


 レノックス様とザックのやり取りを聞いていたデイブが念押しする。


「つまりはそれで『骨ゴーレム』がぞろぞろ生えてくるわけだな?」


「恐らくは」


『…………』


 ここまでの話で、皆さんは黙り込んでしまった。


 ピエールさんを使って、共同墓所から大量の人骨が持ち去られた可能性がある。


 その目的は禁術が想定されて、もしかしたら『骨ゴーレム』が魔方陣からニョキニョキ生えてくるらしい。


「一応確認ですが、人骨の他の使い方は無いですね?」


 枢機卿さまがザックに硬い視線を向ける。


 ザックがジェイクに呪いをかけて逃げたことで、国教会に迷惑をかけたことを枢機卿さまはどう思っているんだろうか。


 ふとそんなことを思ってしまう。


「そうですね……。私が知る限り、他には思い浮かびません。禁術で人骨となるとドキッとします。それが魔道具のパーツのように使われるとなると釈然としません」


『…………』


「ですが古来から、人類は祈りのために人骨を使って来たんです。これは宗教儀式に含まれますね。だからこそ、異様なものは目立つわけです」


「そうですね、確かにそれはあなたの言うとおりだ」


 ザックにそう告げる枢機卿さまの視線は穏やかだった。




 そこまで話が及んだところでキャリルが手を挙げた。


「けっきょく『骨ゴーレム』とは、魔獣のスケルトンとは違うということですの? それとも同じものですの?」


「そこなのですが、疑似的な精神生命体を宿し、環境魔力を吸って自律的に動くようです」


「そりゃもうスケルトンなんじゃ無いのか?」


 キャリルとザックのやり取りにデイブが横から問う。


 その言葉にザックは難しい表情を浮かべる。


「外見とか色んな加工ができるみたいなんだ」


『えっ?!』


 あたし達が驚く声を上げるのを気にせず、デイブが確認する。


「つまりはどういうことだ?」


 ホントにこういう時、デイブは冷静だな。


「人骨を材料にした、『骨ゴーレム兵』を用意しようとしている者がいるのかも知れない。ここで厄介なのは、密度を上げることでより強くて大型の個体が作れることなんだ」


 ザックの説明で、あたし達はそれぞれが考え込んだ。





お読みいただきありがとうございます。




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