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02.不当な何かのために


 魔族からてんこ盛りで呪いを掛けられたピエールから、あたし達は彼が何をしたのかの話を聞き出している。


 彼にとっては幸か不幸か記憶が残っていたけれど、さっきザックの説明で記憶破壊の呪いが掛かっていたという話があった。


 たぶん呪いを掛けた者としては、こうして情報が漏れるとは思っていないのではないだろうか。


 その点は犯人の魔族を追う側にはいい材料だろうけれど、気になることもある。


「そもそも露見しても問題無いと思ってたら、やっかいそうね」


「どうしたんですの?」


 あたしがため息交じりに小声で呟くと、キャリルが問う。


「あ、ごめんなさい。ピエールさんの話を聞きましょう」


 みんなで彼の話を聞いたところ、指示された場所に行き、指示された通りに渡されたマジックバッグを置き、壁にあったレバーを動かしただけとのことだった。


「どこでそれを行いましたか?」


「はい。王都の共同墓所の地下九階層です――」


 暗部の人が確認したけれど、地下九階層にある礼拝堂みたいな場所に行き、ピエールは祭壇にマジックバッグを置いた。


 すぐ近くのカベにあったレバーを動かすと、祭壇とマジックバッグが光り始めた。


 そのまましばらく待つと祭壇奥にある天秤のオブジェが光り始め、祭壇とマジックバッグが光らなくなった。


 祭壇からマジックバッグを回収すると、祭壇奥の天秤のオブジェが光らなくなった。


「――あとはそのマジックバッグを持ち出しました。そして共同墓所の敷地を出ると魔族に会い、マジックバッグを渡しました」


「その後はどうしましたか?」


「説明された手順で祭壇から何かを移し替えたことを伝えると、私の名前や出身地を聞く人が『真の魔神様の御使い』だと言っていました」


「御使いですか?」


「はい、魔神さまから奇跡を賜ることが出来るのだと。その御使いなる者に見付けてもらうために、人が多いところを歩くように言われました」


『…………?』


 ピエールの話を聞いていたあたし達はどう判断すべきか首を傾げたけれど、ザックが冷ややかな笑みを浮かべて告げる。


「恐らく、ピエールさんに自己紹介させるのが、呪いの発動条件だったんでしょう」


 その言葉で応接間の空気が一気に冷え込んだ。


 そしてその空気を落ち着かせるようにレノックス様が告げる。


「だがピエール殿は無事だった。神々や魔神さまのお導きだろう」


「まさにその通りです。レノ様や皆様に感謝するとともに、魔神さまや神々に感謝をしたいです!」


 嬉しそうに応えるピエールの言葉に、枢機卿さまが満足そうに頷いていた。


 その後ピエールには【誓約(プレッジ)】で他言無用を誓わせることになり、枢機卿さまが廊下に控えていた神官に指示して彼を退出させた。


 応接間を去るとき、ピエールは何度も笑顔で頭を下げていた。


 エイダン先生も学園の附属病院に戻ると告げて部屋を去った。




 レノックス様が応接室に残ったあたし達に告げる。


「さて、ここまで分かったことで、いま何が起きているか検討したいのだが」


 その言葉に枢機卿さまが硬い表情で口を開く。


「確認が必要ですが、埋葬されていた遺骨が大量に持ち出されたのではないかと思われます」


 その言葉は想定通りではあるけれど、あたしとしては気になることがある。


 せっかくだし訊いてみるか。


「あの、済みません。ちょっといいですか?」


「どうしたウィン?」


 レノックス様があたしに視線を向ける。


「基本的なことですみませんが、ピエールさんの話だとマジックバッグを祭壇に置いて壁のレバーを倒すだけで何か仕組みが動いたようです。これは誰でもそうなるんですか?」


 あたしの問いに、枢機卿さまが首を横に振る。


「そこも確認が必要ですね。通常は特定のマジックバッグや容器にしか、魔道具が作動しないようになっています」


「その仕組みが細工されていたか、用意されたマジックバッグに仕掛けがあったということですか?」


「恐らくそうだと思います」


 暗部の人が横から枢機卿さまに確認すると、硬い表情で頷いた。


 そうなると今回の出来事で、共同墓所の地下九階層から遺骨が大量に盗まれたのは確定として、目的は何なんだろう。


「そうなりますと、なぜ遺骨が持ち出されたのでしょうか?」


 キャリルがあたしの思考と同時に言葉にした。


 目的はどうにも気になるよね。


「私は禁術のためだと考えます」


 それまで冷ややかな笑みを浮かべていたザックが告げる。


 この人の表情に浮かぶ感情は怒りだろうか。


 不当な何かのために怒ることが出来るのに、ホントにどうしてジェイク先輩に呪いをかけたのかと小一時間説教したくなるわけですが。


 それでも思考を妨げて話を聞き漏らすのも癪なので、あたしは話に集中する。


「具体的には?」


「ふつうに考えれば、いや、禁術の時点で普通の価値観からは逸れるのでしょうが……」


 レノックス様に問われてザックは言いよどむ。


 魔神さまによれば呪いに詳しいみたいだけれど、この人が言い淀むようなヤバい内容があるのだろうか。


「構わん、言ってくれ」


「……承知しました。共同墓所に納められている時点で、通常は遺骨が勝手にアンデッド化することは防がれています」


 たしかに王都でアンデッドが発生したなんて話は聞いたことは無い。


 この場に居る皆さんの表情を伺ってみても、特に否定する人もいないようだ。


「これは国教会の神術によって遺体や遺骨が聖別され、アンデッド化することが防がれているからです」


「なら人の遺骨は、禁術ではアンデッド化させることは無いのか?」


 それまで黙って聞いていたデイブが、突然質問した。


 確かに核心部分に関わる内容ではある。


 場合によっては国教会の葬儀にも関わるかも知れないし。


 でもザックは首を横に振る。


「順番に説明するよ。――ここから語る内容は、他言無用に願います。私も自身の好奇心を優先しがちな人間ですが、人倫にもとる話はその外にありますので」


 彼の言葉へのあたし達の反応を確認してから、ザックは話を続けた。


「例えば骨という“物”として見たとき、武器や防具の素材としては人骨よりは魔獣の骨の方がコストや強度などから優先されます――」


 ザックによれば、それでも魔道具に人骨を使うことがあるという。


 特定のステータス情報を持つ骨を使うことで、別の魔道具を動かすためのカギとして作り上げることはできるそうだ。


「つまりは、『誰の骨か』が分かっていることを利用する使い方だな?」


「はい。王国では一般的ではありませんが、北の公国では金庫のカギの魔道具に使い、『血族の照合』をカギと使用者と金庫の三つが一致することで確認するものがあります」


 そこまで話してみんなの反応を見ているけれど、デイブやロクランや枢機卿さまは知っている話なのかあまり表情が変わらない。


 ちなみに『敢然たる詩ライム・オブ・ブレイブリー』のみんなでいえば、カリオとコウがかなり衝撃を受けたような表情をしている。


 キャリルやレノックス様は静かに話を聞いているな。


 あたしとしては知らない話だったけれど、地球の記憶にある個人を認証するような仕組みが思い浮かんだりした。


「これは未踏ダンジョンで見つかった機構を研究して、実装された技術であるようです」


 ザックの説明に皆さんは納得するような声を上げた。




 順番に話すということだったけれど、ここまでの説明でザックは特に禁術に関する内容には触れていない。


 そのことが気になったのか、改めてレノックス様が確認する。


「およそのイメージは分かった。だが今回は、特定の誰かの骨というよりは、かなり大括りな指示だったようだが?」


「そこで先ほどの確認になりますが……。重ねて申し上げますが、私は文献で読んだことがあるのみで、個人的に忌避する技術があります」


「構わん、話してくれ」


 レノックス様に促されて、ザックは覚悟を決めたような顔をして説明を始めた。


「では――。禁術の分野には『肉ゴーレム』とか『骨ゴーレム』と呼ばれるものを作り出す研究分野があるようです」


『にくっ?!』『ほねっ?!』


 室内ではザックの言葉を聞き、皆さんは呻き声をあげていた。


 ちなみにあたしは、思わず『肉?!』と呻いてしまっていた。





お読みいただきありがとうございます。




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