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06.許可を取ってありますわ


 訓練施設では、神官戦士団の人たちと獣人の集団が集まって待っていた。


 整列というよりは固まって待機している感じだ。


 あたしたちが近づくと、案内してくれた神官戦士団の幹部の人が手を打ち注目を促す。


「よし諸君ッ!! 殿下に礼ッ!!」


 するとその場で待っていた人たちは一斉に礼をして、元の姿勢に戻る。


「レノックス殿下、お言葉をお願いします」


 幹部の人に促されてレノックス様が頷く。


「どうか皆、楽にして欲しい。ここは公の場ではないし、オレは学生としてパーティーの仲間と共に見識を広げるために来たのだ」


 レノックス様はそう言ってその場の人たちを見渡すけれど、皆さんの表情が和らいでいくのが分かる。


「王国は魔神さまと繋がりができたが、かねてから熱心に魔神さまを信仰してきた『白の衝撃(インパットビアンコ)』の諸君から、学べるものがあればと考えている。宜しく頼む」


 レノックス様がそう告げると、その場で待っていた人たちは一斉に拍手を始めた。


 しばらく観察してからレノックス様は右手を上げて、拍手を終えるように促した。


「それでは皆、好きに過ごして欲しい」


『はい。よろしくお願いいたします』


 そこで待っていた皆さんは訓練施設の中にバラけて行ったけれど、獣人の人が二人、あたし達のところに歩いてきた。


 一人はユリオだったけれど、もう一人は気配の感じとか雰囲気からユリオと同格くらいの強さの人だと思う。


 二人はレノックス様に挨拶を始めたけれど、もう一人はどうやら今回きた『白の衝撃(インパットビアンコ)』の実働部隊のリーダーだったようだ。


 何やら王国や国教会や、神官戦士団をベタ褒めしているのが聴こえてくる。


「結構本音で褒めている感じがするねえ」


 コウがあたしに声を掛けるけれど、それは同感だ。


「そうですわね。率直というか素直というか、そういう意味ではウィクトルを思い出しますわ」


「あの人たちは良くも悪くも単純なんだと思うぞ」


「カリオが言うなら相当なのね」


「どういう意味だよウィン……?」


「何でもないわ」


 あたし達が話していると、壁際に控えていたロクランとナイジェルがあたしのところに歩いてきた。


「こんにちはお嬢」


「こんにちはロクラン、ナイジェル」


「あれ、おじょうがさんにんだ、ぶんしん? すきるかい?」


 何やらナイジェルからはお酒の臭いがして、完全に出来上がっているみたいだ。


 表情が凄くゆるみ切っていて残念な感じなんですよ。


「ちょっと飲みすぎなんじゃないナイジェル?」


「せいちょうがはやいなあっ。キャハハハハハハ」


 どうにも会話が成立しないな。


 あたしは何となくハラが立ってきたので、躊躇なく水魔法の【解毒(デトックス)】を使い、ナイジェルの身体からお酒を追い出す。


 ついでにお酒の臭いも消しておこう、うん。


「はい【洗浄(クリーン)】~……。まだお酒は残ってるかしら?」


 あたしがじとっとした視線を向けると、ナイジェルはバツが悪そうな顔を浮かべた。




 確か以前月輪旅団の仕事で会ったときには、彫金師と聞いたし職人らしい実直そうな頼れる青年という雰囲気だった気がする。


 それがお酒を飲んだだけでこの変わり様である。


「済まないお嬢。僕はそこまで呑んだつもりも無いんだけれど、不快にしたなら謝る」


 あたしは思わず苦笑しつつ告げる。


「別にいいわ、魔法で直ぐ戻ったし。それで、二人は何でここにいるの?」


 あたしがナイジェルとロクランを交互に見やると、ロクランがナイジェルと自分を指さしつつ短く告げる。


「ナイジェルが担当者で、俺がその補佐だ」


 担当者というのは多分、『白の衝撃』の担当者という事なんだろう。


 それはいいのだけれど。


「その本音は?」


「できれば酒も売りたい!」


 ロクランはそう言って胸を張る。


 あたしは思わずじっとりした視線を向けてしまった。


「はあ……、デイブの幼なじみっていうのは伊達じゃあ無いのね」


 もうちょっとデイブよりはマジメそうな人だと思っていたのだけれど、油断できないよね。


 そんなやり取りをしていると、あたしは後ろから声を掛けられた。


「さあウィン! 二対二でスパーリングをしますわよ?」


「あたし? やらないわよ?」


 あたしの声で、何やらキャリルは大げさに驚いたような表情を浮かべて固まってみせる。


「そもそも婚約前の貴族家の娘が、学院の外で殿方とスパーリングってどうなのよ? 今日はウォーレン様もシャーリィ様も居ないのよ?」


 あたしが諭そうとすると、途端にキャリルは自信ありげな笑顔を浮かべる。


「その点は心配ございませんの。神官戦士団の方々の訓練施設でスパーリングすることは、お婆様に許可を取ってありますわ!」


 そう告げて彼女はあたしをビシッと指さす。


 あたしは何となくその指をむんずと握りしめて、近くの壁際で気配を消しているティルグレース伯爵家の“庭師”の男女に視線を向ける。


 すると訓練施設の喧騒の中でも話を聞いていたようで、彼らはあたしに頷いてみせた。


 参ったなあ。


「そういう事ですのでウィン、スパーリングをいたしましょう!」


 キャリルはそう言ってドヤ顔を浮かべているけれど、あたしの答えは変わらないんですよ。


 ただ、シンディ様の許可を取っているなら手はあるか。


 キャリルの指を放しながらあたしは言い放つ。


「あたしはやらないわよ? キャリルとは武術研でスパーリングしてるじゃない」


 そう告げるとまた彼女は大げさに固まってみせる。


 あたしは思わず息を吐きつつ提案する。


「そんな顔をしなくても、月輪旅団(うち)のナイジェルがスパーリングに参加してくれるんじゃないかしら?」


「僕が?! なんでだよお嬢?!」


「ええと、『きゃははははは』、だったっけ? “担当者”なのに遊びすぎじゃない?」


「なんだよ、酒くらいいいじゃん。はあ……。分かったよ」


「そういうことでしたら、承知しましたわ」


 どうやらキャリルは納得してくれたようだ。


 よーし、とりあえず目の前の面倒ごとは回避できたぞ。


 そうしてキャリルとナイジェルは、期待感を浮かべた表情でずっと黙って待っていた格闘神官(モンク)と獣人の二人組とスパーリングを始めた。




 十分なスペースがあることを確認すると、あたし達の目の前でキャリルとナイジェルは訓練相手と距離を取る。


 そうしてナイジェルが神官戦士団の人に開始の合図を頼むと、程なく始まった。


 予め打合せをしていたのか、開始直後に格闘神官と白の衝撃の獣人の人が高速でキャリルに突撃した。


「うわー、スパーリングじゃないの? 試合みたいじゃない……」


 見学しながらあたしが思わず声を上げると、隣にいるロクランが説明する。


「連中はさんざんナイジェルとスパーリングしたし、キャリル様の腕前を見たいんだと思う」


 そういえばナイジェルとロクランは昨日から居るのかと思っていたら、キャリルから向かって右側の獣人の傍らに瞬間移動したようにナイジェルが居る。


 キャリルがもう一人の格闘神官の突きを、魔力を纏わせた木製の戦槌(ウォーハンマー)で往なす。


 なおかつその挙動から続けて、戦槌の柄を使って格闘神官の前に出ている足を払って転ばせるけれど、その時にはナイジェルが獣人の人を殴り飛ばしていた。


 ナイジェルは片手しか使って無いなと思いつつ見ていると、吹っ飛ばされた獣人の人は直ぐに後ろに回転して起き上がり構えをとる。


 でもその時にはナイジェルが瞬間移動するような速さで間を詰めて、右手だけで連撃を繰り出している。


 キャリルの方はというと、こちらも転ばされた格闘神官がそのままの勢いで後ろに自分で跳ねて距離を取りながら起き上がり、キャリルに二度目の突撃を行った。


「ナイジェルって、あんなに速いのね」


「ああ。武器の使い方が適当というかあまり得意じゃないが、格闘のセンスがあって素手で仕事をすることが多い。そして速さだけなら王都のトップクラスだな」


 ロクランが小声で教えてくれた。





お読みいただきありがとうございます。




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