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03.素晴らしいことをして


 共同墓所の王族の礼拝堂で、あたし達は司教さまとレノックス様から説明を受けている。


 それも一段落し、あたしは礼拝堂の壁に広がるレリーフを見渡す。


 順番に目を移せば、どうやら物語になっているようだ。


 竜たちの群れから旅立った竜が居て、大きな水辺――湖のほとりに辿り着く。


 竜に姫が出合うが、人族の兵に囲まれて刃を向けられる。


 竜は神に祈り奇跡を賜り、人間となる。


 人間となった竜は自身と姫の敵をうち倒す。


 人化した竜は姫と城に向かい、玉座に座す。


 あとは竜の石碑らしきものがあって、それを背にして民衆に囲まれた王と姫が手を振って応える。


「絵巻物ってわけね」


「そうですわね」


 あたしの言葉にキャリルが頷き、しばしあたし達はレリーフと礼拝堂の中の装飾について見入っていた。


 王族の礼拝堂を案内された後、司教さまに共同墓所の地下を案内してもらうことになった。


 といっても、地下一階にあるという高位貴族のための礼拝堂のみだ。


 司教さまは何となく張り切っていたのだけれど、レノックス様が今日はそこまででいいと告げた。


 そうして移動することになったけれど、レノックス様がいるしキャリルもいる。


 二人以外はお供という扱いで、みんなで揃って貴族用の階段を降りて下に向かう。


 大きな階段で、古代神殿を思わせる造りなのは変わらないなと思いながら階段を移動する。


 そして地下一階まで下りたところで、あたしは庶民用の階段の上り口を歩く人影が目に留まった。


 遠目に見えるのは、フードを目深に被った旅装の人だ。


 何やら背負い鞄(バックパック)を担いでいるけれど、商人とかにはよく見られる格好だ。


 街を歩けば最近よく見る巡礼客と変わりはないとおもう。


「とうしたんですの?」


「あ、うん……」


 何だろう。


 あたしとしても言葉にするのが難しいんですよ。


 一言でいえば違和感だけれども。


 父さんと母さんに鍛えられて、あたしは気配が読める。


 これは狩人としてだけではない。


 前にあたしは『月輪旅団所属の冒険者として動けるレベル』になっていると、マーシアに言われたことがある。


 気配とは気のあり様のことだけれど、それはつまり人間の内在魔力の様子のことともいえる。


 ヤな感じをしていればそれは分かるし、ヤバそうな感じをしていればそれも分かる。


 底意とか殺気はそうやって判断できるけれど、そういう手合いとは違う。


 視線を気にするでもなく、その人物はそのまま庶民用の階段を上って行ってしまった。


「何か気がかりなことでもあったのかい?」


 コウも声を掛けてくれるけれど、どう応えたらいいものか。


「そうね。ついさっき階段を上って行った人なんだけれど、違和感があったのよ」


「不審人物ということだろうか?」


「そういうことなら身柄を押えるか、尾行をすべきですわ」


 確かにレノックス様が言うように断言できるなら、キャリルの言う通りにするべきなんだけれども。




 あたしの様子をカリオが不思議そうに見ている。


「俺はとくに分からなかったぞ。べつにヤバそうな感じはしなかったし」


 それなんだよなあ。


 カリオに言われるまでもなく、あたしとしてもその点は同感なんですよ、うん。


「ヤバそう、では無いのよね」


 違和感の正体は危険というよりは、どちらかといえば普通から外れているという感じだろうか。


「ううん……、そうか。ある種の変態じみた感じなのよ」


 あたしとしてはようやく言語化できてホッとする。


 だが――


「なんだそれ? ウィンはスキルに『変態感知』とかあるのか?」


 カリオの奴は真面目な顔をしてあたしに訊きやがった。


 これはどうしてくれようか。


「無いわよ! そうじゃなくて! ……さっきの人、魔力の感じがヘンな多幸感でいっぱいだったの」


「多幸感?」


 あたしの言葉にカリオは首を傾げている。


 分かりづらいといえばそうなんだよな。


 でも、いま明確に伝えておいた方がいい予感がするんだよな。


 なぜかは分からないけれど、けっこう強めな予感だ。


「ええと、カリオに分かるように言えば、悪いことを考えてるわけじゃ無いのよ」


「ああ、それは分かる。というか俺はさっきからそう言ってるぞ」


 カリオの言葉に頷いてあたしは続ける。


「そういうのじゃなくて、ええと……。『世界中の誰よりも、自分が素晴らしいことをしている』と確信しているような変な感じ、だとおもうわ」


「あー……。それは確かに変態だわ」


「おめでとう、カリオにも『変態感知』スキルができたわね」


 あたしがそう告げると、カリオはイヤそうな顔を浮かべた。


 さっきのお返しは出来たぞ。


「ふむ、そういう話か」


「不審者というよりは、異常者の類いに近いかも知れないね」


 あたしとカリオのやり取りに、レノックス様とコウが頷く。


 ただコウの言うように異常者と言っていいものなのかは、自信が無いんだよな。


 でも気になる情報もあるんですよ。


「話は分かりましたわ、ちょっとわたくしが声を掛けて確かめてまいりますの」


「ちょっとまってキャリル!」


「どうしたんですのウィン?」


 彼女は不思議そうな顔をあたしに向けるけれど、どう言ったらいいものなんだろうか。


 まあ、ここには他のみんなもいるし、警備で周囲に暗部の人たちやティルグレース伯爵家の“庭師”の人たちも展開している。


 何かあっても対応はできるだろうか。


 思わずあたしは息を吐いてから告げる。


「うーん。異常者とかだと、いま王都には気になる『三つの勢力』が居るのよ」


「どういう話だ?」


 あたしの言葉にレノックス様が反応する。


「その話もまだ出来ていないけれど、いま簡単に言えば例の『白』と『赤』の二つよ」


 あたしの言葉にみんなは表情を硬くする。


「残りの一つは何ですの?」


「『赤』を目の敵にしてる『闇』ね」


 あたしの言葉でコウは首を傾げた。


 キャリルとレノックス様とカリオには話が伝わっている感じがする。


 あたしはまず、ざっくりと説明してしまうことを優先することにした。


「『白』ならまだいいのだけれど、『赤』だとここで捕まえるか泳がせるかは悩ましいわ」


「分かった、手勢に調べさせる」


 レノックス様は短くそう告げて、ポンポンポンと手を三回打った。


 すると気配を抑えて周辺に展開していた暗部の男性二人が歩み寄り、レノックス様の前に控える。


「話は聞いていたか?」


『はい』


「方法は任せる。先ほど向こうの階段を上って行った人物の身元を確認しろ」


『承知いたしました』


 暗部の人たちはそう応えるとレノックス様の前から離れ、一人が魔法でどこかに連絡を始めた。


 そして直ぐに移動し、警備を続けるために元居た場所に戻った。





お読みいただきありがとうございます。




おもしろいと感じてくださいましたら、ブックマークと、


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