表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
850/919

02.今の形になったのは


 あたし達は階段を上り、衛兵が両脇に立って警護する入り口に進む。


 何やらあたし達が通るときに揃って敬礼をしてくれた。


 直ぐにレノックス様に向けたものだと分かるけれど、彼は微笑んで軽く手を振っている。


 キャリルは堂々としているものの、あたし達は思わず恐縮して一礼しつつレノックス様に続く。


 その様子に、すれ違う人たちが不思議そうに視線を向けていた。


 第三王子さまがこんな少人数で、ここを訪ねてくるとは思わないよなあ。


 そんなことを考えつつ中に入ると、石造りの巨大な礼拝堂が広がっていた。


「外から見るよりも、中はずい分広いんだねえ」


 コウがそんな声を漏らすけれど、あたしも同意できてしまう。


 学院の大講堂並みの広さがあるけれど、王族の皆さまが執り行う公式行事が行われるなら、このくらいの広さになるんだろうか。


「なあ、この左右の階段が地下の墓所に向かうのか?」


 入り口のすぐ脇にある横幅が確保された大きな階段を見て、カリオが声を上げる。


「そうですわ。入り口から見て右側が貴族用で、左側が庶民用とされるはずですの」


「ああ。だが庶民がそれを破ったとしても別にペナルティは無い。ただ、マナーがなっていないとみなされるがな」


 キャリルとレノックス様が説明するけれど、それを聞いたカリオは『身分制度かあ』と呟いていた。


 地下への階段も気になるけれど、あたしとしてはやはり礼拝堂の壁にあるレリーフが目についてしまう。


 あたしの視線に気づいたレノックス様が告げる。


「ここは礼拝堂だが、見ての通り、壁や天井にある竜が特徴的だな」


 その言葉にカリオとコウも視線を向ける。


「どのくらい古いものなんだい?」


「今の形になったのは数百年前と言われているな」


『ふーん』


「それ以前も、地魔法を使った建築で礼拝堂が造られていたようだ」


 レノックス様によると、いまある礼拝堂は魔法建築で土台を作り、その上に自然石を切り出して組み上げられているのだという。


「基本的なことを聞いていいかしらレノ」


「なんだろうか」


「ここは礼拝堂という以上、王族の方々の葬儀や祭礼のときに、神々への祈りをささげる場所だと思うの」


 あたしの言葉にレノックス様は頷く。


「ああ、そうだな」


「そこに竜のレリーフがあるということは、竜もまた信仰対象ということなのかしら?」


「それはちがうな。もう少し前に進んで見てみよう」


「分かったわ」


 レノックス様に促され、あたし達はさらに礼拝堂の奥へと進んだ。




 石造りの長椅子のあいだに敷かれた、赤いカーペットの上を歩き前へと進む。


 すると腰ほどの高さの木製の柵がある。


 たぶんここまでが庶民が入れるという外陣(げじん)の境なのだろう。


 柵の前には法衣を着た男性が静かに立っているけれど、近づくとレノックス様に一礼する。


 それに対しレノックス様は目礼して口を開いた。


「手間を掛ける。今日はレノとして来た。ここまででいい」


「そうでございますか。承知いたしました――」


 そう言って男性は柔和な笑みを浮かべた。


 男性は自己紹介してくれたけれど、共同墓所を取り仕切る司教だという。


 ここの責任者の人だったか。


 あたし達も順番に自己紹介して挨拶を済ませた。


 なぜかあたしとキャリルの名前が知られていたけれど、詳しく訊くのが怖かったのでスルーしました。


「司教殿、さきほど仲間から、竜が信仰対象なのかという問いがあったのだ」


「そうでございましたか」


 レノックス様の言葉に司教さまは頷き、あたし達に説明をしてくれた。


 ここでの祭礼では王国の一般的なものと同じく、創造神さまへ祈りをささげるという。


 地方によってはさらに豊穣神や薬神など、教会ごとに異なる神々にも祈りをささげる。


 けれど葬儀ということであれば、王立国教会の正式な儀式としては創造神さまに祈るのだと言っていた。


「それでは竜がなぜ礼拝堂に描かれるのかといえば、建国神話を忘れないためと言われています」


 そう言って司教さまが、礼拝堂の壁の一角にあるレリーフを示す。


「そうですわね。『竜とお姫様』ですわ」


 思わずキャリルが口に出した感じだけれど、そこには竜と対峙するドレス姿のティアラを付けた女性のレリーフがあっラ。


 あたし達の様子にカリオが何かを言おうとして、ためらっているような表情を浮かべている。


「どうしたのよカリオ。あなたのことだからもっとズケズケと根掘り葉掘り質問しまくると思ってたんだけれど」


「失礼だなウィン。俺だって少しは場をわきまえるぞ」


「どうしたんだカリオ。何か疑問でもあるのか?」


 レノックス様に真っ直ぐに問われ、カリオが細く息を吐く。


「いや――。王国に無礼があったら申し訳ないんだが、前から共和国民として不思議だったんだ。あの童話は、まちがいなく建国神話なのか?」


 まあその辺りは普通に思い浮かべる話だよね。


 あたしだって前にアシマーヴィア様から実話と断言されていなければ、『そういうお話なんだ』というところで認識が止まっていたとおもう。




 カリオからの問いに特に反応を選ぶこともなく、レノックス様が告げる。


「ああ、寓話では無くて、実際にあったことだと言われている――」


 そこまで言ってから彼は司教さまに視線を向けた。


「もっとも、王立国教会にある文献でも、せいぜい千五百から千六百年前までという話だな?」


 いや、レノックス様は『せいぜい』とか言っているけれど、千五百年前の文献が残っているのは貴重だと思うんですが。


 日本の記憶でいえば古墳時代の話じゃあなかっただろうか。


 まあ、あたし達の世界は魔法があるんだよね。


 もしかしたら状態を保つ魔法とか、石板やら木の板を硬化させたりする魔法もあったかも知れないし。


 あたしが思わず遠い目をしている間にも、司教さまが頷いている。


「仰る通りです。そして国教会の教義では、初代ディンラント王国国王となった王子は、竜族の王子であったそうです」


 竜族の王子か、それは初耳な気がするな。


 というか、竜の一族には王制とかあるんだろうかとツッコんだら負けなんでしょうか。


 だってグライフが、前に竜にケンカを売られてたって言ってたし。


 王国の権威付けのために、歴史の中でそういう話になったんじゃないんだろうか。


 さすがのあたしもレノックス様や司教さまに、そんなことをツッコめるほど根性は座っていませんけれども、うん。


「それが人間になったんですか?」


 だがさすがのカリオだった。


 “それ”呼ばわりはヤバく無いんだろうか。


 真正面からあたしでも訊けないような根本的な問いを、レノックス様の前でしてくれた。


 それでも司教さまも慣れたものというか、柔和な笑みを浮かべて話を続けてくれる。


「民間では魔法によってとか、スキルによってヒトとなったなどと諸説があります」


 今さり気なく、魔獣が魔法やスキルで人間に変化するという話をしたな。


 でも亜人の魔獣だって上位種になると人間と変わらないみたいだし、そういう種族もあるのかも知れないな。


「国教会では神々の奇跡によって人間――ドラゴニュートになったと言われています。それゆえ国教会では『建国神話』と呼ぶのです」


「ドラゴニュートとは、簡単に言えば“竜の因子”と呼ばれる性質を持つ人間のことだ」


 司教さまとレノックス様の言葉にカリオは頷く。


「さすがに俺でもドラゴニュートは知っています。ですが神々の奇跡によって変わったとすると、国教会ではどの神と伝わっているんですか?」


「いい質問ですが、実はそこは伝わっていません」


 司教さまの言葉に『そうですか』と応えるカリオだったが、それを見てレノックス様が告げる。


「王家に伝わる話で民間にも公開している話だが、初代国王から数代は頭に竜のような角を持つ子が生まれていたそうだ」


『へー……』


「そしてその辺りの話が、王族が竜魔法を使えるゆえんと言われているのだ」


 そこまで説明を受けて、あたしは礼拝堂の壁にあるレリーフを見渡した





お読みいただきありがとうございます。




おもしろいと感じてくださいましたら、ブックマークと、


下の評価をおねがいいたします。




読者の皆様の応援が、筆者の力になります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ