01.自分の方針を決める
お昼休みに実習班のみんなと昼食を食べた後、あたしは食堂でお喋りしていた。
するとデイブから【風のやまびこ】で連絡がある。
みんなに断わってからひと気のないところに移動して折返し連絡を入れると、ユリオと連絡が取れたという。
要するにユリオも所属している、武闘派秘密組織『白の衝撃』が実働部隊を送ってきた話になった。
ところが彼らは、ユリオが最近居候している王立国教会本部の神官戦士団の人たちと意気投合したらしい。
どうやら試合やら稽古をしつつ、宴会じみた食事会をしていたそうだ。
その話に加えて、月輪旅団の仲間――彫金師のナイジェルという青年が現地を訪ねると、そのまま酒を勧められて一緒に飲んでいたとのことだった。
あたしとしては、いいかげん『白の衝撃』の話はどうでも良くなってきた気がした。
それでもデイブは情報だからと続きを話してくれた。
「そんで現場にナイジェルを送ったのはロクランだったんだが、心配して国教会に行ったワケだ。するとナイジェルはいい感じに出来上がってた」
「あー……」
「ロクランもロクランで酒が売れるってんで、そのまま自分の店に引き返してマジックバッグで樽を持ち込んで売りさばいてやがった」
そう言ってデイブは息を吐く。
参考になるのか、この話?
「でもロクランって、デイブなんかよりも抜け目ないようなイメージがあったわよね」
「そうだろ? おれの方が純朴な感じするよな?!」
「どの口が言うのよ! ……そこまでは分かったけど、ここまで情報めいたものは白の衝撃が月輪旅団に好意的な感じってことよね?」
「まあな」
「あとは彼らが王都のお酒も飲むってことくらいかしら」
あたしのくたびれたトーンの言葉にデイブが笑う。
だって仕方ないじゃないか。
みんなとお昼時にお喋りしてた時に、なぜ戦闘狂たちの宴会の話をされなきゃいけないんだろう。
これで情報が何もないなら時間のムダな気がするんですけれども。
「ハハハ、そうだな。……ロクランはそのまま先方に酒を飲ませて、情報を吸い上げてきたぜ」
「何か分かったの?」
「一応な。整理すれば、今回の実働部隊の連中の目的は三つだ――」
そう言ってデイブが説明してくれた。
一つ目は王都に馴染むこと、二つ目は闇ギルドの手勢を監視・けん制することだった。
そして三つ目が、前出の二つを行いながら、その過程で『赤の深淵』を補足出来ればそのまま叩くことという話らしい。
正直言って闇ギルドの動きがある以上、不穏な話だ。
『赤の深淵』だって、まえに学院に入り込んできていたわけだし。
それでも、考え方によってはまだ猶予はあるだろうか。
「じゃあ具体的に何か、彼らに敵対勢力を分析したようなシナリオとかがあって、作戦で動いてるってワケじゃあ無いのね?」
要するに具体性が無さそうな感じだ。
行き当たりばったりとも言うだろうか。
デイブが心持ち穏やかな口調で告げる。
「さてな。ロクランの話だと、その辺は素人っぽい感じで組織化されてねえとさ」
「あー……」
それは今回の場合はいい情報なんだろうか。
あたしではちょっと判断がつかないですけど。
「ただ、戦力的には、こないだお嬢と話した時の感じみたいだったらしいぜ」
「なるほど……! 騒ぎになればそれなりに大ごとになるわけね」
「そういうこった。めんどくせえな」
「同感だけれど分かったわ。ところでマルゴーさんから聞いたんだけれど――」
デイブに闇ギルドが兵隊を集めている話をしたら、『まだ確認中だ』と言っていた。
ただ現時点ではマルゴーの指摘通り、共和国を拠点にする連中が多いらしい。
ここまでの話を頭の中で整理しつつ、あたしは自分の方針を決める。
「ねえデイブ。そうなると、あたしは基本は普段通りに過ごしつつ、『闇ギルド』がハデに動いたときはデイブに連絡する感じでいいわね?」
「それで構わねえ。『白の衝撃』の連中がどんな連中かは、ここまで伝えた通りだ」
「ひとことでいえば、『ユリオさんとその悪友たち』って理解でいいわよね?」
「ハハハ、それでいいぜ。じゃあ、何かあったら頼む。おれも情報があったら連絡する」
「分かったわ」
あたしはそこまで話してデイブとの連絡を終えた。
食堂に戻ったあたしはみんなの席に加わってお喋りをして昼休みが終わり、午後の授業を受けて放課後になった。
あたしとキャリルは部活棟に向かうみんなと別れて寮に戻り、外出の手続きを済ませる。
一度そこで自室に戻って普段着に着替え、キャリルと共に学院の正門に向かった。
他のメンバーはすでに揃っている。
ふと思いついて周囲を確認するけれど、『聖地案内人』で集まっている生徒たちの姿は無かった。
コウ達に聞いてみると、あたし達と入れ替わりで王都の南広場にある衛兵詰め所に向かったそうだ。
「それで、今日はどこに行くんだ?」
「お前の提案の通り、今日は王都北の貴族の居住地区で活動しようと思う」
カリオとレノックス様の会話にあたし達は頷く。
昨日の『敢然たる詩』の打合せのときに、みんなににオーロンが『赤の深淵』の調査の話をした。
これについてカリオが慎重意見を述べたのだ。
王都散策はあまり乗り気ではなく、やるなら警備が厚そうな北側の王城に近いところか、貴族の居住地区に限定すべき。
そういう話だった。
レノックス様の言葉やあたし達の反応に、カリオがホッとした表情を浮かべた。
「それは少し安心だな」
「安心といえば、『カリオから聞いた件』で新しい話があるわよ」
「何か分かったのかウィン?」
レノックス様が興味深げな表情を浮かべる。
「分かったんだけれど、ここで立ち話するのもどうかと思うのよね」
なんせ王立国教会本部で、戦闘狂たちが神官戦士団と意気投合した話なんだよな。
「それでしたらいい考えがありますわ。実はわたくし達の班は、明日『聖地案内人』の当番なのです。そして王都観光の話をしていましたら、共同墓所の話が出ましたの」
「なるほど、共同墓所に行ってみるか。そこで少し話をしてもいいだろう」
レノックス様がそう告げると、コウとカリオが不思議そうな顔をして首を傾げていた。
あたし達はダンジョンに行く時と同じように、身体強化と気配遮断を行って王都を駆ける。
周辺には暗部の人たちが展開しているから気楽ではあるけれど、『赤の深淵』などの不穏な情報もある。
『敢然たる詩』のみんなが簡単に後れを取るとも思えないけれど、万が一があったときでは遅いのだ。
いつもよりも少しだけ気合を入れつつ周囲を警戒しながら王都を移動した。
そして王都西広場を通過し、そのまま北側の貴族の居住地区に進む。
程なく緑豊かな大き目の公園があり、その入り口にあたし達は辿り着いた。
「ここが共同墓所なのか?」
「ここだけ見る限りでは、公園に見えるねえ」
カリオの言葉にコウが応えつつ、共同墓所入り口にある門のプレートに視線を走らせる。
そこには『王都ディンルーク国立共同墓所』と記されていた。
「大層な名前が付いているが、王国で“共同墓所”と言ったときは、公式にはここを指すのだ」
『ふーん』
「そこまで辛気臭い場所では無いし、どんな場所かは案内してやろう」
レノックス様は少しだけ得意げにそう言って、あたし達を促した。
木立の中の馬車も進める道の歩道を歩きながら、レノックス様は共同墓所について説明してくれた。
と言っても、あたしとキャリルが昼休みにみんなと話していた程度の内容だった。
それでもカリオとコウは初耳だったらしく、建築規模で作られた【収納】の機能のある魔道具という話に驚いていた。
木立を抜けるとよく手入れされた庭園が広がり、その向こうには石造りの建物が見える。
それほど人出は無いけれど、庭園で思い思いに過ごす人の姿もある。
あたし達は喋りながら進み、やがて建物前の車寄せに辿り着いた。
建物の入り口には円柱が並んで石屋根を支え、古代の神殿を思わせた。
「まずは中に向かおう」
レノックス様の声であたし達は車寄せから伸びる階段を上り、建物入り口へと向かった。
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