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14.設定集(60章時点)まとめ


※1.第50章時点での設定集と同様に、第60章終了時点での設定関連の情報を以下に記します。


※2.前章までの設定に加え、(地理の)都市など、冒険者のランクについて、血神(けっしん)について、の記述を加筆しました。


●地理


惑星ライラ

 主人公ウィンの転生先。豊穣神タジーリャが責任者を務めるライラックシルト宇宙の中で、ウィンの本体である薬神ソフィエンタが管轄するライラックバーン惑星系に存在する。


〇大陸

 ディンラント王国がある大陸はアウレウス大陸と呼ばれる。また、存在が知られる別の大陸は、ディンラント王国とその周辺国はアルゲンテウス大陸と呼ぶ。


〇国家


ディンラント王国

 ウィンが産まれた国。


プロシリア共和国

 ディンラント王国の東にある共和制の国。魔族と呼ばれる古エルフ族と、その傘下にあるエルフ族、および獣人族が暮らす。エルフ族も魔族と呼称されることが多い。(エルフ族や獣人ではない)ヒト族に虐げられた魔族と獣人が約二百年前に独立戦争を起こす。のちに『プロシリア共和国独立戦争』と呼ばれる戦いが八年間行われた。戦後は周辺の獣人の都市国家を次々と併合し、現在の形になっていった。現在ではヒト族もそれなりの規模が暮らしている。


オルトラント公国

 ディンラント王国の北の国。魔道具による技術立国に成功した中規模の国で、元首は王ではなく公爵が務める。元首の相続は長子制度ではなく、技術立国を支えうるかという視点の複数の要素で判断される。また、その対象は五大公爵家と呼ばれ、その全てがディンラント王家と古い縁戚関係がある。経済や人口の規模は、ディンラント王国を百とすれば六十から七十程度となっているが、技術力ゆえに大陸内での存在感は年々増している。


フサルーナ王国

 ディンラント王国の南の国。

 コメを主食とする独自の文化を持つ、マホロバ自治領を擁する。マホロバ自治領は『モノ』という姓の氏族が当地に船で漂着したことで発生したらしいが、その船がどこから出港したかは記録が無い。モノ氏の伝承では『(よろず)の神々が住まう国から追われて来た』とされる。


パールス帝国

 アルゲンテウス大陸西部の国。地球でいえば中近東の文化圏に相当。代々商才ある皇帝と、魔法の才に優れた臣下たちが代々統べる。識字率も高く、穏やかな国民性で知られる。加えて伝統医療と魔法医療の統合を果たしていて、世界的な医療技術の中心地として有名。物語中は多神教的な神々の世界だが、世界を作った創造神を唯一の神とし、その他の神々は創造神の御使いと見なしている。


ダルマ国

 アルゲンテウス大陸中部の国。地球でいえばインド周辺の文化圏に相当。王族と戦士階層は超エリート主義で、トップ層の超人的な為政者が国を動かす。大部分の庶民はほぼ毎週一回はあるお祭りで騒いで暮らすカオスな人たちという極端な国。


春江国(しゅんこうこく)

 アルゲンテウス大陸東部の国。地球でいえば中華文化圏に相当。王から庶民まで利権至上主義の国。軍事行動するカネがあったら商業等に使って利権を貪ることを是とする。利権のための暗闘には明け暮れるが、国難には自分の実績でのちの発言力を増すため団結して協力する面倒な国。賄賂や交渉が出来て当たり前で、清廉潔白すぎる役人は無能とされる。国是は『生きることは儲けること』で基本的には個人主義と部族主義。互いに利があるうちは、かつての敵とも組む合理主義者の国。


〇都市など


ミスティモント

 ウィンの故郷。聖地認定され、人口が拡大中。ティルグレース伯爵領に属し、聖塩騎士団の本拠地。


ティルグレース伯爵領

 ディンラント王国の東南東に位置する。領都はリフブルーム。領内はハーブの産地として知られる。


アロウグロース辺境伯領

 ディンラント王国の東部に位置する。領都はシゲルオセルで、ディンラント古語で『太陽の土地』を意味する。領都周辺に遺跡があり、観光目的で訪ねる者も多い。また、同領には湯治を目的とする温泉保養地がある事で知られる。


ディンルーク

 ディンラント王国の王都。


 王都全体が魔法建築による城壁で囲まれているが、城壁内部にも部屋や通路が張り巡らされており、戦時や緊急時には、王城に収まらない王国各地からの増援を収容する。


 北側に王城や行政機関、騎士団の施設などがある。


 その南に貴族や騎士、文官など王城に通う者の居住区がある。


 その南が王都の中央地区で、中央広場を中心に王立国教会や冒険者ギルドをはじめとする各種ギルド本部がある。それを囲むように商業地区がある。


 その南が平民が主に住む地区があり、さらにその南が学校が立ち並ぶ地区がある。


 王都内の広場は中央広場のほかに、北に王城前広場、南に南広場、東に東広場、西に西広場があるが、中央広場よりは小規模。


 王都西にコロシアム(闘技場)と貧民街がある。貧民街から中央寄りの区画に花街がある。


 王都西広場の北側へと貴族の居住地区を入ったところに大きな公園があり、その中に王都ディンルーク国立共同墓所 (共同墓所)がある。


 商店は中央は高級志向で南は庶民向き。


 都市内は大型の箱馬車の乗合い馬車があり、王都民の足になっている。


ディンアクア

 聖地であるサンクトカエルレアス湖に接する都市。聖地である湖を漁師が主体となって保護している。近隣に、地球でいう高層ビルほどの大きさの“竜の石碑”や“ディンアクアの石碑”と呼ばれる巨大な石の柱がある。


 ディンアクアの石碑は内部が竜魔石の安置所となっており、ディンラント王家が代々秘密裏に管理している。


 大精霊の力を身に宿すことに成功した竜は寿命を終えるときに魔石に魂を移し、竜魔石に生まれ変わる。


 王都とディンアクア市のほぼ中間に、『王都南ダンジョン』があり、ディンラント王国協力のもと冒険者ギルドで管理している。


ルーモン

 プロシリア共和国の首都。共和国の古語で“流れ”という意味があるが、首都近傍を流れるルーモン川が語源。


●王族や貴族など


ティルグレース伯爵家

 ディンラント王国の東南東に領地を持つ。南部貴族。武門で知られ、現当主である伯爵は単独での竜討伐で国の内外に名を知られる。キャリルとロレッタの実家。


フラムプルーマ伯爵家

 南部貴族。ディンラント王国の南部に領地を持つ。同領はコウの出身地。


アロウグロース辺境伯家

 ディンラント王国の東部に領地を持つ。中立派の貴族。領地の南部をティルグレース伯爵領に接する。キャリルの母シャーリィの実家。


リベルイテル辺境伯家

 ディンラント王国の西部に領地を持つ。中立派の貴族。マーヴィンの実家。


キュロスカーメン侯爵家

 ディンラント王国の北部に領地を持つ。北部貴族。プリシラの実家。


ラクルブルム伯爵家

 ディンラント王国の南部に領地を持つ。中立派の貴族。ペレの実家。


クリーオフォン男爵家

 領地を持たない中立派の貴族。代々王国の諜報活動に深く関わる。ホリーの実家。


ディンラント王家

 ディンラント王国を治める。他国の史学者から『金持ち喧嘩せず』と評されるほど、国力に比して覇を唱えない王家として知られる。現在王子は三人いるが全員聡明という評判は国の内外に知られている。王族は竜の因子と呼ばれる血の力が強く、竜魔法と呼ばれる魔法体系を行使する。レノックスの実家。


ディンラント王立国教会

 ディンラント王国の王都ディンルークに本部を持つ多神教の宗派。他国の教会とも交流を持つ。国教会内部は教皇を頂点に役職が設定されており、高い順に教皇、枢機卿、大司教、司教、司祭、助祭が定められている。


●ディンラント王国貴族派閥について


 ディンラント王国貴族は南部貴族、北部貴族、中立派と呼ばれる三つの派閥がある。地縁や血縁の面で、南部貴族はディンラント王国の南にあるフサルーナ王国と縁が深く、北部貴族はディンラント王国の北にあるオルトラント公国の縁が深いと言われる。北部貴族領は食用作物の耕地面積が少なく、歴史的に王国南部や他国から食料を買い付けてきた。北部貴族が買い付ける穀物の価格交渉は南部貴族の方が優位に立つことが多く、これが先述の地縁や血縁の他に派閥形成の根幹にあると言われる。この状況を変えたのが北部貴族によるオルトラント公国からの魔道具輸入であり、交易路を押さえることで王国南部への取引量を穀物買い付けの交渉材料にしてきた。だが近年、王国内での魔道具の普及が一巡し、北部貴族の影響力が低下する可能性を指摘する声が商業ギルド関係者などから上がってきている。


●ディンラント王国の政治体制について


 ディンラント王国は王制を敷いており、最高権力者として国王が国政の決定権を有している。王国政府の中で立法、行政、軍権を国王が握っているが、その全体の運営に関しては宰相が監督している。宰相は大臣や地方総督と連携し王の片腕として国政に深く関わる。軍権に関しては宰相と同格の立場で将軍が監督を担っている。大臣は国政の主たる分野ごとに置かれ政策の決定と実行を担っており、宰相に監督されて国王に決裁を受ける。地方総督は王国各地で国王の代理として地方の行政や軍事などを担う。

 作中では王国内に貴族の派閥問題が顕在化し、これが地域間の対立の火種となることが王国貴族共通の問題として認識されている。このため地方行政と国政の連携を密にして対策する方法が模索され始めている。


●ディンラント王国貴族の爵位と要職について


 ディンラント王国貴族は爵位について格の高い順に、公爵(デューク)辺境伯(マルグレイヴ)侯爵(マーキス)伯爵(アール)子爵(バイカウント)男爵(バロン)騎士爵(ナイト)が存在する。


 爵位の高低と王国の要職の高低は必ずしも一致しない。爵位の高低は一部の例外を除けば祖先を含めた王国への貢献度の差であり、要職の高低は本人の資質などを含めて総合的に判断された結果となる。


 王国内の要職は、将軍、宰相、宮内大臣、外務大臣、法務大臣、大蔵大臣、地方総督などがあり、将軍と地方総督を除けば副宰相や各大臣の副大臣職が存在する。


●ディンラント王国における貴族の邸宅などについて


 ディンラント王国貴族は王都ディンルークに邸宅を持つが、これはタウンハウスとも呼ばれる。これ以外に領地を持つ貴族は、領都などにある本邸や城に自身の統治機能を集約させており、これをカントリーハウスとも呼ぶ。領地を持つ貴族はこの他に自身の領内に砦の機能を持たせた別邸を持つことがあり、これをマナーハウスと呼ぶことがある。


 貴族の使用人には執事、侍女、家令、その他の使用人などが居る。執事と侍女は貴族の側仕えであり、家令は貴族家の財務会計を始めとした諸事の管理担当者である。彼らは概ね、何代も同じ貴族に使える素性のはっきりした平民であることが多い。執事長や侍女長と家令は、王国の場合カントリーハウスに常駐する。この他にタウンハウスやマナーハウスには家令は置かないが、副執事長や副侍女長を常駐させる。


 一般的にはこれらの使用人には戦闘能力は無いが、貴族家の方針により護衛も兼ねて戦闘能力を持たせる場合もあるようだ。その他の使用人の中で、王国で“庭師”と呼ばれる者は貴族家の諜報担当者をさす隠語の場合もある。


 また、庭師以外には家政婦や施設管理人、料理人や御者など貴族家の財力により様々な人員が雇われる場合がある。その助手や見習いまで含めると、使用人の数は高位貴族になるほど膨れ上がる傾向にある。領兵は貴族家内の日常業務担当では無いので使用人ではない。貴族家の領地を防衛する兵力である領兵は貴族家がその運用資金を負担している。ただし、他国との国境を接するような領地の場合は、領兵のための軍資金に王国から補助がある。


 王都における貴族家の邸宅の敷地面積は、伯爵家はおよそ二ヘクタールほどで、公爵家、辺境伯家、侯爵家の邸宅がおよそ四ヘクタールほどの敷地面積を持つ。ちなみにルークスケイル記念学院の敷地面積は、およそ五十ヘクタールほどとなる。一ヘクタールは一万平方メートルで、正方形で一ヘクタールを考えると一片の大きさは百メートルとなる。


 王都はおよそ直径九キロメートル弱の円形の城塞都市となっており、面積でいえば日本の東京山手線内の面積ほどの広さとなる。この中で全ての貴族家の邸宅の敷地面積を合算すると、王都の面積の数パーセントほどの広さとなっている。実際には貴族家が集中するエリア内には貴族家の領兵の宿舎や、王宮の文官や王城で仕事を得ているエリート層の住まいも集中しており、それらは王家が管理する施設と共に王都の北部に集まっている。


●王都ディンルーク内の貧民街について


 王都には貧民街、いわゆるスラムがあり、貧困層の住民が暮らす。善政が敷かれる王都でそのような地区がある原因は様々だが、根本的には「王国の資金の不足」、「重犯罪者を身内を持つ者の受け皿」、「裏社会の勢力の受け皿」の三つがある。


 これらの原因に加え、代々の宰相や王宮の要職にある者たちが「王都の必要悪」と位置づけ、一定の範囲以上は介入をしてこなかったことがある。これには多分に、反社会的勢力の拡大による王都全体の治安悪化などを防ぐ戦略の影響がある。


 貧民街が王宮の許容範囲を超えて拡大しそうな場合は、様々な手段を用いて秘密裏にこれを制御してきた隠された歴史があることが、近年研究者などから指摘され始めている。これに対し王宮側は明確な回答を示していない。王宮側の理由としては王国騎士団内の暗部組織の活動拠点が置かれていることがあるが、これを知る市井の者は高ランク冒険者や特定の傭兵団、王都の裏社会組織の幹部たちなどに限られる。


 一般的な王都住民の立場として、大別すれば大半の無関係を貫く者と、宗教的な使命感から貧民を助けようとする少数の者に二分できる。貧民街の街並みはうらぶれていて埃っぽいが、道沿いに立ち並ぶのは古い石造りの建物が多い。歴史的には歓楽街があった時期もあるが、王都の変遷の中で取り残されて今に至っている。貧民街の住人は様々だが、強いて分ければ様々な理由で自活する手段が無い者か、世を倦んだ都市の中の隠者の二種となる。


●魔獣について


 魔獣というのは体内に魔石という結晶状の鉱物をもつ生き物を指す。非常に攻撃的なものが多いが例外も存在する。一般的にただの獣よりも強靭な生命力をもつ。主人公が生きる世界では魔獣ではない獣でも魔法を使える場合があるが、魔獣の方が凶暴であり人間の脅威となっていることが多い。


 魔獣にもさまざまな種類があるが、一般的には野生動物に似た四足歩行のものや鳥を思い浮かべることが多い。ただしゴブリンやオーク、コボルドやオーガ、トロールなど、二足歩行をする魔獣がいる。


 二足歩行をする魔獣の上位種には人間と同等の知性を持つ者も居り、人間と子を成すこともできることが知られている。このため、そのような上位種とその子孫は人類に含めるべきだという意見が近年主流になりつつある。


 魔獣の中には精神生命体と呼ばれる種が存在し、単純な物理身体ではなく魔力によって形成した特殊な肉体を有する者が居る。妖精や死霊、悪魔や天使などが含まれるが、天使については各国の教会から魔獣に含めるべきではないという主張がなされている。


 冒険者などから魔獣扱いされているものを含め、天使は神々の頂点たる創造神の御使いを起源とする説が主張されている。このうち、人間に悪徳を考えさせるために一部の個体が悪魔になったと言われている。これらの起源に近い天使や悪魔は名前付き(ネームド)と呼ばれ、その力を人間に一時的に宿す祈祷や呪術が存在することが知られている。


〇スライムについて


 スライムという魔獣は雌雄同体でありオスとメスの区別がない。そして食べ物が足りている状態で身体が成長すると勝手に分裂して増殖する。どの程度まで成長すると分裂するかは種類や個体差により違いがある。概して外見的特徴はゼリー状であることが多いが、食物により身体の大きさや頑丈さなどが変わってくるという説がある。中には鉱物(ミネラル)スライムなど人体に有害ではない種類もあり、その生態の全容は研究の途上にある。


●ダンジョンの魔獣におけるボス個体について


 ダンジョンと呼ばれる天然または人工の構造物の中では、魔獣などの人類に敵対的な存在が活動する。その種類は様々であるが、慣例的に『ボス』あるいは『ボス個体』などと呼称される強力な魔獣が活動していることがある。


 ボスとは呼ばれるものの、それらの強力な個体は必ずしも下位の魔獣を従えているわけでは無く、ダンジョン全体やあるいは自身の生息域の魔獣を統率しているとは限らない。従い社会集団の長という意味での『ボス』ではなく、あくまでも冒険者や騎士団などの戦闘集団が強力な個体を他と識別するために慣例的に呼称している例が一般的だ。


 学術的には、『ボス』と呼ばれる魔獣がなぜダンジョン内の特定の階層に発生しているのかの研究が、幾度も試みられている。その結果現時点での主流の分析では、余剰の環境魔力が集中することによる発生という説が有力である。任意の階層内で環境魔力の循環が起こり、その結果として魔獣が発生する。魔獣は通常の生物のように食物を摂取する傍ら、環境魔力を体内に取り込み活動の源としている。その環境魔力の循環が特定のエリアの中で起こり、ダンジョンの構造を規定していることが多い。そしてその循環の中でも環境魔力の滞留や集中が起こりやすい地点があり、そこに『ボス』と呼ばれる個体が発生するとされる。


 人工的なダンジョンの場合は、この『ボス』が発生する箇所をかなり意図的に制限することに成功していることが知られる。だが、天然のダンジョンの場合はそうではなく、冒険者などの事故につながる要因となっている。


●精霊について


 この惑星に存在する“精霊”というものが何かという問いは古くからあるが、現在に至るまで正式には「不明である」という答が主流である。その一方で精霊魔法の実践が盛んなプロシリア共和国では魔獣にみられるような精神生命体であるというものが有力説となっている。通常の学術的な難問であれば、この世界では神々に祈祷の類いを行えばヒントを神託で授かる可能性がある。ところが精霊に関しては、有史以来共和国を含め、どの国でも神託を得ることに失敗している。この事から状況証拠的に、精霊という存在は神々の秘密に関わると考えられるようになった。その上で精霊について調べてみると、気配を持っていることに多くの者が気付いた。気配がある時点で動物や魔獣などの生物に近いが、精霊は物理身体を持たない環境魔力の塊である。それゆえ精神生命体という説になった。生き物の精神活動では、意志と感情と知性の働きが通常は存在するが、人類が平素接するような精霊は状況の知覚とか認識などの限定的な知性のみ有する。従い共和国では、精霊とは精神生命体と魔法生物の中間にある存在で、神々の道具として環境魔力に関する働きを担うとされている。なお神々の道具を人間が利用することについては、共和国では人間が神々の作品であるから看過されると説明される。


●使い魔について


 スキルなどによって主人の魂の情報と魔力をもとに形成された、疑似的な精神生命体を使い魔という。比較的小型の動物や鳥類の姿を取ることが多い。使い魔の個体名を名付けることで存在が固定され、名付け以降は名を呼ぶだけで呼び出すことが出来るようになる。


 主人とのリアルタイムでの記憶の共有は出来ないが、魔力に戻り主人に吸収されることで使い魔として行動していた時の記憶を主人にもたらすことが出来る。使い魔の能力としては情報収集や魔法発動の補助が挙げられ、習熟すると主人が仕える魔法も独自に放つことができるようになる。野生の魔獣や動物などに攻撃されて主人に合流することが叶わなくなった場合は、その状態から一日経過すれば再度呼び出せるようになる。


 使い魔の姿は魂の情報に依存するため、類型化が難しいとされる。魔法が工業利用されるまで発達した先史文明でさえ、特定された事実は少ない。具体的には、鳥などの空を飛べる生き物の姿をした使い魔は理性が強い魂とされ、それ以外の使い魔は感性に優れる魂とされた。使い魔の姿が一定しないのは魂の多様性を原因とし、それ故に振れ幅が大きいとする。


●天使の位について


 天使には位があることが知られる。あくまでも目安として、最も下の天使が一般兵並みの耐久力があり、その上の位の大天使が天使十体分の耐久力があるといわれる。その上の権天使(ごんてんし)が一体で天使百体分の耐久力があると言われるが、個体によってその能力に幅があることが報告されている。天使の外見はトガを纏ってサンダルを履いた有翼の姿で、大天使はその姿が少なくとも身長二メートル以上に巨大化したもの。権天使は鎧を纏った姿をしている。


●竜と神性龍について


 魔獣の頂点に近い存在として(ドラゴン)がいる。彼らは年月を経て脱皮をしながら身体を作り変える。それにより『上位竜(スペリオールドラゴン)』や、『古代竜(エンシェントドラゴン)』などと格が上がっていくことが知られている。なお、脱皮したときの古い皮が見つかることはあまり無い。これは脱皮したばかりの皮には大量に魔力が含まれるため、幼い竜に食べさせることが多いことが研究により判明している。

 竜は総じて強靭な生物であるが、戦闘してこれを討伐することは不可能ではない。ただし、上位竜以上の格上の竜種との戦闘はその難易度から、防備を固めた砦へ突撃するくらいの覚悟が必要なようだ。


 彼らは人間と同等以上の知性を持つ。その一部が精霊の試練とも呼ばれる過程を経て、世界に満ちる精霊たちと交感できるようになった存在を神性龍(ディバインドラゴン)という。神性龍は太古に神々より竜から誘導されて発生した存在で、惑星ライラに存在する大精霊を制御して環境魔力を調整する役目を神々に託されている。


 彼らが神々から役目を託された事実は人類史から失伝している。約三百万年ほど前に神格とみられる何者かが大精霊を暴走させた事件が起きた。この対策として神性龍が大精霊と連携して環境魔力を制御する仕組みが神々に構築された。古代の超魔法文明では人類は神性龍と交流があり、自然環境の維持とか制御に協力してもらっていた。この関係は神性龍と人類の同盟関係に近く、人類は神性龍に協力する見返りとして大精霊の力を借りたり、『超人』と呼ばれる存在に至る助けを得ていた。


 竜が精霊の試練に失敗して狂化した場合、これを殺すのは親たる神性龍の務めだった。この子殺しを見かねたのが魔法により人化したディンラント王家の者たちで、狂った竜を狩るのを長く王家の役目としてきた。だが神性龍は人類にとって神とも感じられる強大な存在であり、信仰の対象とする人間も存在する。故にディンラント王家は“神殺し”などと謗られるのを避ける意味で、義務として神性龍の子竜を狩ることを王家の秘密としてきた。


 なお古い文献では竜と龍は“Dragon”と“Dragonn”や“ドラゴン”と“ドゥラゴン”などの表記の差異があった。これが年月と共に表記ミス等と判断され、現代では混乱を招いている。加えて神性龍を信仰する人間たちでも同様の混乱があるため、竜と龍と神性龍は人類にとっては歴史の謎となっている。これ故ステータスの魔法などで生じる“龍人”の意味を正しく理解できる人間は、人類には非常に少ないうえにその理解を証明する手段が少ない。


 ディンラント王家が把握するところでは世界中に神性龍は十体存在するという。それらは全て並みの人類を超越した知性を持つ存在ではあるが、感情を持つリスクをディンラント王家は懸念している。


●伝承など


〇竜とお姫様


 一般的には、ディンラント王国の建国に関わる話として伝わる。内容は以下の通り。


 昔々大草原と聖なる湖のある国に美しい姫が居た。

 悪い竜が聖なる湖にいるので、魔法が得意な姫に懲らしめてほしいと王命がある。

 姫が竜に会いに行くと、竜は神の使いだった。

 竜が湖の穢れを取り除こうとしていると、竜の牙や鱗が欲しかった王が姫を利用した。

 姫は竜を気に入るが、同行した騎士が竜に弓を向ける。

 姫は王命に背いて竜を助けるが、逆賊として騎士に狙われる。

 見かねた竜が人間の王子の姿になり、悪い騎士や王様を懲らしめる。

 姫様は王子になった竜と結婚する。

 王子と姫は、正しい国が続くように聖なる湖に祈りを込めて石碑を建てる。

 そして二人は末永く、幸せに暮らした。


 王家や高位貴族には上記の話で登場する王子となった竜が“龍人の始祖”と呼ばれるが、その呼称の由来は失伝している。龍人はドラゴニュート等とも呼ばれ竜と縁が深い存在とされる。龍人の頭部には斜め上後方に向かって伸びる角が生えていたとされる。竜と龍は別の存在とされるが、その差異は失伝している。


〇我堂の歌


 マホロバ自治領の一地方に落人伝説があり、当地では現代に伝わっている。落人はガドという姓の者たちだったが、政治的な失敗により国を追われてマホロバに流れ着いた。彼らは自分たちの失敗を悔いて歌を残したが、『我堂の歌』と呼ばれて今も残っている。内容は以下の通り。


 「かみよのとちをたまわりし、りゅうのくにのひかりのち


  ひかりのしたにねむるまち、せいれいにてをのばしたち


  すべてふうじたことわりは、いまもわれらにといをなす


  すべてふうじたおたからは、ねむりしゆえにやすきなり」


〇超魔法文明について


 プロシリア共和国内には未踏の遺跡が多く、その殆どは1万年前に滅んだ超魔法文明の遺構である。超魔法文明の中心国は『肥沃な地』を意味するフェルティリスという名だった。合衆国制を取り、大統領を頂点として州政府が政治を行った。首都はアウレアフェルティリスという名だったが、主人公が現在暮らすアウレウス大陸にその名を残している。この他に現在のアルゲンテウス大陸に、副首都であるアルゲンテアフェルティリスがあった。


 魔神アレスマギカが人間だったころに有していた記憶では、フェルティリスは二つの大陸にまたがる大国だった。首都のある大陸に八つの州があり、副首都のある大陸に八つの州があった。各州は色の名を頭につけて州の名とし、州の名がそのまま州都の名とされた。


 現在のディンラント王国領内には、二つの州があったことが魔神の巫女により報告されている。具体的には『水色の肥沃な地』を意味するカエルレアフェルティリスと、『薔薇色の肥沃な地』を意味する。ロセアフェルティリスがあったようだ。人間だったころの魔神の分析によれば、カエルレアフェルティリスは王都ディンルーク周辺にあったらしい。また、ロセアフェルティリスはディンラント王国西部海上の群島にあったそうだ。


●組織など


光竜騎士団

 ディンラント王国の正規軍。第一師団から第五師団まであり、大まかに中央、東、南、西、北を担当エリアとする。


 王国中央の防衛を担う第一師団には三つの旅団があり、旅団の中には二つずつ連隊が存在する。


 このうち防衛拠点たる王都を二つの連隊で護り、王都の東西南北に位置する地域の都市や街を四つの連隊で護っている。


 王都でいえば二つの連隊を用いて王城の防衛と、王都の防衛を隔年で入れ替えて任に当たらせている。


 格闘術にディンルーク流体術を制式採用しているが、地球でいうムエタイに近い。


ディンラント王国暗部

 光竜騎士団の第一師団内にあるが、詳細は秘されている。二つ名は“鱗の裏”で、格闘術に不生流(ノーバース)を制式採用している。


 王都ディンルークの貧民街に関係者しか入れない区画があり、そこを本部としている。王国側の関係者以外では高位の冒険者のごく一部か、特定の傭兵団や王都の裏勢力の幹部しか具体的な場所を知らない。


王立国教会神官戦士団

 大陸で戦乱が頻発した時代に、神官を護るために組織された部隊。兵種は戦棍(メイス)と盾か、素手で格闘を行う者がいる。団員全員が各種の回復魔法に加えて祈祷を使用可能。諜報に関しては教会の組織と信者のネットワークが情報収集に向くため、専門部隊を持たない。裏社会からは『人狩り神官』などと呼ぶ向きもある。


冒険者ギルド

 冒険者を管理する世界組織。


商業ギルド

 商人を管理する組織。


傭兵団・月輪旅団(げつりんりょだん)

 武術流派月転流(ムーンフェイズ)の宗家が代々団長または幹部を務める集団。一団で戦局を打開する打撃力を持つと言われ、彼らが通った後は肉と血の河しか残らないとも評されたことがある。常設の傭兵団ではなく、その団員は平素は諸国で庶民として暮らし、必ずしも戦闘を伴わない仕事で生計を立てているという。その連絡網が一国の諜報部にも匹敵する情報網となっているという分析もある。


傭兵団・霧鉛兵団(むえんへいだん)

 闇ギルド幹部が団長を務めることが度々噂される傭兵団。人員の実力は一定せず、トップ層は冒険者ランクでいえばSに届く一方で、損耗を前提にチンピラ同然の人員を運用することが知られている。王都ではそれなりに歴史ある傭兵団だが、ここ十年ほどは依頼ごとの料金設定を工夫し業績を上げてきた。闇ギルドとのつながりが示唆される割には手際がそれなりに手堅く、貴族や商家などからの評価も安定している。傭兵団のマークは分銅と交差する連接棍棒(フレイル)


王立ルークスケイル記念学院

 王都ディンルークにある名門の学校。初等部、高等部に分かれている。附属研究所、附属病院、附属農場などがある。教養科と魔法科があるが、王国で一二を争う権威ある学校でブライアーズ学園とよく比較される。貴族が多く、留学生を多く受け入れている。


王都ブライアーズ学園

 王都ディンルークにある学校。初等部、高等部があり、高等部以降に通うものが多い。附属病院などがある。国内の各ギルドが主体となって運営していて自由な校風を至上とする。実学を重んじ、体育科、魔法科、商業科、医学科があり、ルークスケイル記念学院とよく比較される。留学生を多く受け入れている。


聖セデスルシス学園

 王都ディンルークにある学校。王立国教会が運営し、神学科のみの単科の学校となっている。初等部と高等部がある。規律というよりは躾を重んじる校風と知られる。


王都ボーハーブレア学園

 王都ディンルークにある学校。貴族や豪商の寄付によって運営され、教養科のみの単科の学校となっている。初等部と高等部がある。規律というよりは躾を重んじる校風と知られる。


国立ルーモン学園

 プロシリア共和国の首都にある国立学校であり、同国を代表する名門とされる。国立ながら自由な校風であり、留学生も多く受け入れている。魔法科、体育科、教養科、医学科、工学科、商業科に分かれ、それぞれ初等部と高等部がある。


王都裏勢力

 王都の花街などに拠点を持つ大小さまざまな集団で、水商売に加えて脱法行為や触法行為で資金を稼ぐ。明文化されていない“暗黙のルール”をもち、それを破った者は他に潰される。


精霊同盟

 魔神たるアレスマギカが人間だったころに、何人かの弟子を取った。そのうちディンラント王国で活動する三名の互助のための連絡会である。名を『同盟』としたのはアレスマギカが当時、『先生』と呼称されるのを嫌ったところ『ボス』と呼称されるようになり、それが定着した。ボスが主要人物ならばと『精霊同盟』と名付けた者がおり、弟子はそれぞれ『政治担当』、『経済担当』、『竜担当』を名乗るように決められた。


闇ギルド

 闇ギルドは国をまたぐ組織で、様々な汚れ仕事を請け負う。主たる顧客は国や貴族が抱える暗部や諜報組織でその下請けとして動くが、商家や個人相手にも取引がある。組織の全容は謎に包まれているが、反社会的勢力の集合体であるとか互助組織であるという分析がある。裏仕事の仲介を行うことが最も多いが直轄部隊を持ち、上からの指示で暗殺、誘拐、監禁、拷問、虐殺、略奪などを行う。手口の非道さなどから、討ち取った場合に賞金が出ることがある。


赤の深淵(アビッソロッソ)

 魔神信仰の保守派であるとか守旧派、あるいは過激派と呼ばれる者たちは、執り行う宗教儀式の残酷さから為政者より取り締まられてきた。このため時代を経て秘密組織化して現在に至っているが、その中でも伝説的な魔神信仰の秘密組織の一つが『赤の深淵』である。当局も実態は把握できておらず、数年おきに酸鼻を極める禁術実践の痕跡が見つかり報道されたりする。秘密組織ゆえ裏社会に近い存在と思いきや、裏社会の代表的存在である闇ギルドとも事を構えることをいとわない狂信的集団であるようだ。


白の衝撃(インパットビアンコ)

 共和国本国では『魔力は闘争のためにある』という教義で固まっている事で有名な魔神信仰の秘密組織。戦闘狂の集団だが、弱者を暴力から守るのは宗教的な使命であり義務としている面がある。その自分たちの正義への偏執的な執着は、彼らへの評価を二分する遠因になっている。全員が回復の魔法を高度に鍛錬しており、蘇生の魔法が使える者も多い。それゆえ倒しても起き上がる点を揶揄するように『白のゾンビ』などと呼ばれたりもする。構成員にイタチ科の獣人が多いことが経験則的に知られているが、魔族の構成員もいるようだ。


●光竜騎士団の役職と会社の役職の対比イメージ


 光竜騎士団のトップはディンラント王国国王であり、その次が将軍で、そこからは師団長、旅団長、連隊長、大隊長、中隊長、小隊長、分隊長と続く。現代日本の一般的な会社では社長に当たるのが国王で、専務が将軍閣下、常務が師団長、本部長が旅団長、部長が連隊長、次長が大隊長、課長が中隊長、係長が小隊長、主任が分隊長というイメージになる。


●暦と季節


 1年は360日、1か月は30日で5週間、1週は6日。


 一週間は地、水、火、風、光、闇曜日で、闇曜日はディンラント王国のある大陸では休息日として休むことが多い。


 1年は冬至から始まり、冬季が1月から3月、春季が4月から6月、夏季が7月から9月、秋季が10月から12月。


●学校について


 ディンラント王国のある大陸では、その年の1月から12月のあいだで該当する年齢になる子供が対象になる。


 例えば3月時点で10歳になる子がいるとして、初等部の対象年齢になる。


 その場合、1月に行われる前期試験か2月に行われる後期試験で受験し、9月入学になる。


 特待生試験も同じタイミングで実施される。


 初等部は10歳以上での入学で、高等部は13歳以上での入学となる。


 卒業後は研究機関に入職したり、各職業の見習いに入職したり様々な進路がある。


●聖地案内人について


 いわゆる『魔神騒乱』と呼ばれる騒動を経て、ディンラント王国の王都ディンルークは魔神アレスマギカの聖地となった。このため魔神を信仰する者や、その加護を得たいと考える者が多くディンルークを巡礼するようになる。巡礼客の増加を経た王都の変化を把握する意図で、ディンラント王国の王宮は王都にある四つの学校組織より学生を巡礼客の案内人として巡回させることを計画した。この学生たちの集団を『聖地案内人』と呼ぶ。


 基本的な前提として、学生たちには王都内で巡礼客のガイドをさせる。その過程で彼らが見聞きした街の様子をレポート形式で回収し、街の変化の情報収集を行う計画である。各学校には王宮より予算的な補助が出ており、学生たちは活動により王都に流入する異文化の知見が得られ、王宮は最新の情報の収集窓口を増やすことが出来るよう企図している。


 王都の南広場に各校の参加者が集まり、隣接する衛兵の詰め所で点呼やら班の組み合わせを行って実施される。この時に参加者と判別できるように学生たちには目立つ色の腕章が専用装備として用意され、装着して巡回する。王都にある四つの学校組織より、各校の生徒が月に一度参加するように参加者数が調整されている。


●医療について


 ディンラント王国があるアウレウス大陸では魔法医療が発達し、現在までその技術が発展してきた。診療科に着目すれば魔法医療の場合は治療に切開や切除がともなう外科と、切開や切除をせずに治療をする内科。幼児特有の病気を治療する小児科、妊婦特有の病気の治療などを行う産科。そしてあらゆる手段を使って救命措置を行う総合診療科に分かれている。これは一定規模以上の大病院では共通する。


 病院の規模が大きく専門的になるほど、それぞれの診療科の中で属人的に特定の病気の専門家が揃っている。専門家がいない病気の場合は治療法が確立している病気に関しては専門家ではない医師でも魔法医療を実施することが出来るが、治療日数などで差が出るとされる。


●度量衡など


〇接頭辞


1,000,000 = ミーガ =地球のメガ

1,000 = キール = 地球のキロ

0.001 = ミール =地球のミリ


〇距離など


メートル = ミータ

センチ = サンチ


 なお、マホロバでは尺貫法が古くから用いられており、一寸は地球換算の三センチほどとなる。


●貨幣


〇大陸共通硬貨

 商業ギルドが各国に提案し受け入れられたもの。品質を下げると商家が逃げるので、各国は偽造や品質劣化に神経質。


 貨幣価値の概略は以下の通り。


 ・銅貨一枚が、日本円のおよそ百円。


 ・銀貨一枚が銅貨十枚で、日本円のおよそ千円。


 ・金貨一枚が銀貨三十枚で、日本円のおよそ三万円。


 ・大金貨一枚が金貨四枚で、日本円のおよそ十二万円。


 ディンラント王国王都ディンルークの物価イメージは以下の通り。


 ・庶民向けの食堂が一食銅貨三枚(三百円)くらい


 ・庶民向けの宿が銀貨三枚(三千円)くらいだ。


 ・庶民向けの集合住宅の賃料が月額で銀貨二十枚(二万円)くらいで、年間で金貨八枚(二十四万円)くらい


 ・王宮の文官一年目の年収が、大金貨十二枚。


●国債や銀行について


 主人公が暮らす世界では、国債や銀行も登場している。国債とは国家が民間から資金を集める手段であり、国が民間の出資者に対して借金をする形になる。このとき国は資金を借りる代わりに、返す時に利子をつけることが決まっている。


 利子は年単位の複利計算で発生するが、複利計算は利子で増えた金額を含めて次年の利子を計算する方式だ。たとえば年率五パーセントの利率で金貨百枚で国債を買ったとする。このとき複利計算では一年後には利子がついて百五枚になっているが、二年後はこの百五枚に対して五パーセントの利子を計算する。その結果、三年目は百十五枚、四年目は百二十一枚、五年目は百二七枚のように計算され、十年後には(国債の場合は小数点以下を十年目の数字について切り捨てて)百六十二枚 になる。


 単利計算の場合はよりシンプルで、毎年発生する利子は最初に購入した国債の額――上記の例では金貨百枚に対して利子が計算される。一年後には五パーセントの金貨五枚を足し百五枚、二年後には金貨五枚を足し百十枚、三年後には百十五枚、四年後には百二十枚、五年後には百二十五枚と計算され、十年後には百五十枚となる。


 主人公が暮らす世界では銀行の機能は商業ギルドの中に設けられており、商業ギルドの会員に限らず口座を持つことはできる。ただしディンラント王国やその周辺国では貨幣価値が安定している現状がある。それに加えて長く金本位制を採用してきた関係で、必ずしも預金をせずに手元で現金を管理する者も少なくないようだ。


●証文について


 商取引で一定額以上の代金が発生すると、即日の支払いが難しくなることがある。この場合、客は約束手形や契約書などの『証文』を作成し、何をどれだけ注文し、売り手にいつまでにいくら支払うかを約束する。売り手はその証文を受け取り、商品を客に引き渡す。証文の期日に客は売り手に代金を支払い、売り手は証文を返却することで取引が完了する。以上が証文を用いた商品の販売と購入の基本的な流れである。一方、証文の支払いを別の証文で行う場合もあり、これを『証文の引き受け』と呼ぶ。これは『信用取引』とも呼ばれ、複数の取引を連鎖的に支える手段とすることができる。物語中の各国では、長く硬貨による直接取引が中心だった。証文の引き受けなどの複雑な取引形態は、商取引の安全性等の面から避けられてきた歴史がある。


●貸与税について


 物語中の主人公の住地である王国では、不動産と呼ぶときは一般的にその時に建てられた建物を指す。これは王国における土地の所有者が王族と貴族に限定されるためで、庶民は税金の形で為政者に使用料を支払う事が定められている。これを『貸与税』という。使用者が土地を利用する際には、税金の形での賃貸料と、使用期間や土地の用途、契約者などを定める必要がある。ただし地方に行くと識字率などの都合で、町長や村長などの土地の長が為政者との契約を取りまとめて行うことも慣習的に認められている。また、一般的に税率については為政者が独自に決定権がある。物語中では時代背景として庶民の経済活動の力が増していることもあり、貸与税の税率については抑制的に定められているようだ。加えて、農地や住居の税率が低めであり、商業地区の税率が高めとなる傾向があるとされる。


●成人について


 ディンラント王国とその周辺国では、慣習的に十五歳を迎えた時点で成人としている。結婚の年齢的な制約については法的な制限は無いが、成人とされる十五歳を当事者双方が超えていることが教会などでの成婚の条件とされることが多い。地球では成人と同列で飲酒喫煙などの法的制限が行われることが多いが、主人公の世界では酒もたばこも嗜好品であり贅沢なものという扱いがされる。飲酒については文化的な素地があり、水の代わりにエールやワインを飲む地域がある。このためこの世界では、深く泥酔しない限りは未成年が飲酒することは咎められることはない。一般的には未成年は酒ではなく果実水などを楽しむ傾向があり、好んで飲酒をする未成年は少ない。


●魔法金属について


 鍛冶や彫金などに用いられる素材で“魔法金属”と呼ばれるものがある。最もこの世界で身近なものとして真銀(ミスリル)があるが、地球でいう所のスプリングスチール(ばね鋼)に近いものであるようだ。


 具体的には鉄鉱石を主成分とし、炭素やマンガン、シリコン、クロムなどを加えて合金が作られる。この際に銀を一定割合で加えることで、魔法による不純物の除去や素材の均質化のマーカーとしてドワーフ族が利用し始めたのが始まりらしい。その製造に使われる魔法の影響により、真銀は魔力の伝導率が通常の合金よりも高くなる性質を持つようになった。以後研究が進み、伝導率に加えて魔力の保持についても向上して現在に至っている。


 このほか魔法金属として、硬度はそれ程でもないが経年劣化にとても強い神鍮(オリハルコン)が有名だ。神鍮はオルトラント公国のドワーフ族の一部に秘伝として製法が伝わる金属で、魔力の伝導率が異常に高く魔力を保持しやすい。またマホロバに伝わる日緋色金(ヒヒイロカネ)は弾性に優れ、刀剣の材料に供される。


 他にアダマンタイトは特殊な磁性鉱物の合金で、聖剣や神剣と呼ばれる伝説級の武器の素材に供される。アダマンタイトに関しては、魔族が武器製作に用いる磁性鉱物を用いた合金に源流があると言われる。この他には真銀に魔法生物や隕鉄などの素材を用いた、個別の鍛冶屋に口伝で伝わる合金などもあり、技術としての裾野はかなり広くなっているようだ。


●身体について


 身体は上位霊体と下位霊体からなる。


 神は自らの身体のうち上位霊体を主として働かせて活動する。


 人は自らの身体のうち下位霊体を主として働かせて活動する。


 霊体は高次のものからモナド体、アートマ体、ブッディ体を上位霊体と呼び、コーザル体、メンタル体、アストラル体、エーテル体、肉体を下位霊体と呼ぶ(今作では分類上、物理身体も霊体の一種とする)。


●加護と祝福について


 神々や大精霊などは人間に加護(プロビデンス)を与えることがある。その理由は様々であるが、本質的には与える側にとってその人間が自身と関係性が深い存在であるという証と考えられている。神々の中でも光と闇と時の神については、経験的に同時に授かることが無いのは人類にも広く知られている。この三柱の神の加護がもつエネルギーが魂の許容量を圧迫するためとも言われているが、ほぼ事実である。また神々にとって自身の加護を与えられない人間に対し、その魂の守護のための細工などを施す場合は祝福(ブレス)と呼ばれる魂の領域を用いるようだ。一般的に加護はステータスに表示され人類にとって画一的な効果を持つが、祝福はステータスに表示されずに個人に根差す効果を持つ。


●ダンジョンについて


〇王都南ダンジョン


 ディンラント王国の王都ディンルークから、徒歩数時間の距離にあるダンジョン。王国が魔石を確保する鉱山のように扱っている関係で、長い年月をかけて整備がされている。地下五十階層まであり、各フロアの入り口に冒険者ギルドが設置した転移の魔道具がある。このため魔道具に一度魔力を通しておけば、地上と魔力を通した階層を好きに行き来できる。一階層は適性ランクの冒険者が約四時間で踏破できる広さ。


 内部は洞窟ではなく、独自の自然環境が再現されている。十フロアごとに自然環境の特徴が切り替わる。


 一から十階層までは草原と林からなり、各所で王都の人間などが運営する牧場が多くある。


 十一階層から二十階層までは密林からなり、各所で王都の人間などが運営する農場が多くある。


●冒険者のパーティーとクラン


 冒険者を束ねる単位としては、まず“パーティー”があり、これはダンジョンなどに実際に挑むときの実働部隊の単位。これよりも大きな単位としては“クラン”がある。クランは目的や理念、地縁などを同じくする冒険者がまとまる単位であり、冒険者ギルドに登録していないものも含めると数多く存在する。


●冒険者のランクについて


 登録時にランクEとなり、依頼を十回達成か同等の魔獣討伐数でランクDになる。


 ランクDから上は、現在のランク以上の依頼十回達成か同等の魔獣討伐数に加え、上のランクの魔獣を単独で討伐できることが求められる。


 ランクCで一般の騎士団か領兵の一兵卒並。


 ランクBが各国に数千名強登録。ランクAが千名強、ランクSが百名強、ランクS+が十名強、ランクS++が数名。


 ランクS+++は国に数名いるかいないかで、事実上冒険者ギルドの階級での頂点。


 神話級というランクがS+++の上に一応あるが、非公式記録で過去千年に三名いるという数字だけが伝わっている。


 ランク昇格は基本的には依頼の達成や魔獣討伐実績によるが、国から推薦が出る場合は対象者を昇格させることもある。特にランクBくらいまでは貴族が王国に推薦し、国が冒険者ギルドに推薦する形で昇格しやすいことが知られる。



 王都の学生で卒業後に冒険者の道に進む者は、ランクBを最低ラインの目標としていることが知られる。これは冒険者ギルドが提示しているわけでは無く、慣習的に学生同士で伝わっている常識だ。実際に卒業生の声として、卒業までにその程度のランクになっていないと冒険者として生計を立てるのは難しいらしい。その意味でランクBは一つの指標となる。


 別の指標として王都ディンルークでは、十歳で冒険者登録して直ぐにランクBに到達する者が例年数名いる。これらはかなり早期にランクが上がる者たちだが、そのごく一部から最終的にランクSに届くものが出ることが経験則として知られている。


 ランクの違いによる強さの違いは個人差が大きい。それでも一つランクが上がると、少なく見積もっても下のランクの五倍程度はあると考えられる。便法だが、一般兵一人がランクC冒険者一人と同じくらいなので、ランクB冒険者は一般兵五人分の強さがある。その上のランクAだと一般兵二十五人分に相当すると計算することもできる。これは装備や練度や地形把握など諸条件ですぐに変わる指標ではあるが、簡易的に彼我の戦力を検討する場合に用いられる考え方である。


●祭りや宗教行事など


聖塩の祝祭(せいえんのしゅくさい)


 毎年八月第二週にミスティモントで行われる薬神への感謝の祭り。地竜の群れがミスティモントに迫ったときに奇跡が起き、地竜が塩の像に変えられて街が護られたことに由来する。三日間行われ、街の色々な場所に荷車に乗せた地竜の木像を引く市民が現れる。それに向けて塩や小麦やパンくずなど白い粉末と卵を投げつける祭り。最終日の夕方には地竜の木像を新市街の広場で燃やして、祭りの締めにする。


賛神節(さんじんせつ)


 毎年十二月の最終週は、一年を無事に過ごせたことへの感謝を神々に捧げる期間とする。主として教会で祭事が行われ、各国の教会本部には為政者などが列席したりする。曜日ごとに主として感謝をささげる神が決まっており、地曜日には地神と豊穣神、水曜日には水神と薬神、火曜日には火神と戦神、風曜日には風神と財神、光曜日には光神と賢神、闇曜日には闇神と諸神への祈りが捧げられる。


〇王都ディンルーク健康スライム祭り


 ディンルークでは毎年一月第四週の光曜日から三日間、健康を感謝する祭りを行う。これはギデオン・モルダー・ルークウォード・ディンラント治世の折、第一王子の妃ローズ・ヴィクトリア・ルークウォードがスライムを用いた治療法によって病を治したことを記念する祭り。王国の威信を示すための祭りではなく、王国で暮らす者の健康に感謝する祭りとして王家によって定められたのが特徴的な祭りである。王都民はスライムの形をしたクッキーを食べて祭りを祝うのを習わしとしたが、その発祥は王立ルークスケイル記念学院でのこの祭りへの学校行事が最初とされる。


●魔石とその流通について


 魔石は魔獣の体内から採取される魔力の塊を含む結晶を指す。その生成に関しては諸説ある。一般的なのは、生物の進化の過程で環境魔力や魔素を体内に保持することで、他生物種より有利に生きることを選んだ結果とするものだ。生成の機序は研究が進められており、数年ごとに人造魔石が作られたと発表され、否定されたりコストに合わないと廃される流れが一般的になっている。

 魔石は通常各国の戦略物資として扱われるのが一般的である。その殆どが各地のダンジョンの魔獣体内から採取されるが、市場で販売されるまでに流通量を各国がコントロールしている。そのために価格調整が行われ、税金や人件費、事務手続きの諸経費が仕入れ値に上乗せされる。販売は一般的に街の魔石屋と呼ばれる商店で行われるが、貴金属店に準じる扱いを受けている。商店によっては不当に諸経費を水増しして価格転嫁する例も散見されるため、初めて利用する店は地元での評判を集めるのが常識とされている。


●魔道具について


 魔道具とは動力を魔石とし、内部の回路によって固有の魔法的作用を引き起こす道具である。回路の作成には魔石から作成された特殊な染料を用いる。魔道具内の回路では魔法的作用を最大化する目的で、魔力の波形を一部フラットにするのが一般的だ。これは同一効果の魔法を発動する際に、術者の魔力に由来する個人差の揺らぎの部分を排除する意図で実施される。

 現在魔道具は世界中に普及しており、人類の生活の様々な場面で用いられている。

 魔道具の歴史はかなり古く、各国辺境にあるダンジョンの未踏区画から千年以上前に製作された魔道具が見つかる場合がある。古くに作られた魔道具がより強力という訳ではないが、現在では逸失している技術が使われている場合がある。また、歴史的遺物である魔道具についてアーティファクトであるとかレリックと呼ぶ場合があるが、後者は宗教的遺物としての価値も有するものを指す。


●魔法について


 四大属性や四大元素と呼ばれる地、水、火、風の各属性の魔力を主として用いる。


 各属性が混ざり合った魔法体系として生活魔法や創造魔法がある。


 この他に竜魔法と呼ばれる魔法体系があるが、発動には竜の因子という血の力が遺伝している必要がある。


 竜魔法を研究することで広域魔法と呼ばれる魔法体系が生まれた。その魔法の習得に関しては安全保障上の理由から、ディンラント王国に厳しく管理されている。


 広域魔法は魔法使用者に内在する魔力以外に、環境に存在する魔力を用いて発動できる。


 この他に精霊魔法と呼ばれる魔法体系がある。詠唱も存在せず、念ずるだけで発動できる魔法体系。使用者の精神に様々な影響が出る。


 精霊魔法の習得については四段階に分けて行うことが一般的で、環境魔力中の精霊の感知、精霊のイメージ形成と出現、精霊に環境魔力を扱わせる指示、精霊に魔法を使わせる指示に大別される。


 四大属性をスキルなどによって融合させると、以下の通り別の性質を帯びた魔力になる。


 ・地と水:氷、地と火:溶岩、地と風:樹木、水と火:気象、

  水と風:分解、火と風:雷、地水火:死、水火風:成長、

  地火風:生、地水風:進化、地水火風:始原


 三属性以上の四大属性魔力を同時に用いる魔法で、安定した効果が確認されているものは創造魔法と呼ばれる。


 四大属性魔力全てを同時に用いる魔法は見つかっていない。


 属性魔力をその身に纏わせる場合は、基本的には各属性の性質を引き継いだ効果が引き継がれているとされる。ただし、光と闇と時の各属性魔力は事情が異なる。光属性魔力の場合は『透過』の性質が出るとされる。闇属性魔力の場合は『侵食』の性質が出るとされる。時属性魔力の場合は諸説あるが、『脱離』の性質が出るとされる。


 何らかの手段で魔法の発動のタイミングを合わせ、複数の魔法の使い手が同じ魔法を放つことで効果を高めた魔法を合体魔法と呼ぶ。集団魔法と呼ばれることもある。


●魔法の起源について


 今作における魔法――Magicの起源は何か。諸説あるが最も古い言葉では『力、能力、可能性』を指した。これは世界を動かす働きが、本質的に力や能力、そしてそれらがもたらす可能性によって成り立つと人類が理解したからに他ならない。この成り立ちは宇宙を異にしても等しくなることが多く、人類が魂のレベルで魔法を魔法として理解できるのはそのためである。


●詢術について


 今作の主人公の本体は薬神だが、彼女は人間だったころは魔法とは異なる(わざ)を極めていた。彼女が生きた宇宙では、その業を詢術しゅんじゅつ――Maatikaマーティカと呼んだ。その起こりは諸説あったが、当地の最も古い言葉で『(秩序を)問う、象る、在らしめる』ことを指したことによる。彼女が人として生きた宇宙はすでに熱的死を迎えてしまったが、その最期を見届けたことで創造神によって彼女は神として召された。従い事実上詢術を習得するには、彼女のように神として召された存在から授かるしかない。


 詢術を魔法と比較するなら、魔法が世界に根差す力に根差すのに対し、詢術の本質は意志による(すべ)である。魂が世界を認識することによって根源的な問いが生まれ、存在を象る。それは世界の物理法則以前に成り立つもので、世界が秘める本能のようなものといえる。しぜん詢術に必要なのは世界に根差す魔力ではなく、世界に存在することに根差す根源的な問いへの衝動であり、極小から極大まで、また刹那から永劫までを術理の対象とすることが出来る。問いを源泉とした、神の奇跡を象った術――それが詢術の本質である。


●生活魔法について


 子供からお年寄りまで簡単に覚えやすく、火の元の安全など一般常識的な注意は必要なものの誰でも安心安全に使える魔法体系が存在する。慣習的に生活魔法と呼ばれるが、詠唱の方法は変化しつつもその歴史は古く、数千年以上前から存在すると言われる。いわゆる地水火風の四大属性魔力のみならず、幅広い属性に対応していることで知られる。これには一般的には加護が無いと発動できない光、闇、時などの各属性に関わる魔法も含まれている。なおかつ発動者の技量を選ばないのは、必要とする魔力を発動者本人のみではなく周囲の環境魔力を補助的に取り込む機序を魔法の魔力波長の中に埋め込んであるためといわれる。このことから魔法の専門家には、生活魔法を『属性環境魔力技法』と呼ぶ向きもある。総じて使用が簡単な反面、開発には非常に高度な知見が要求される魔法であるようだ。一説には精霊魔法に造詣の深い魔族が最初に開発したのではないかとされるが、詳細については歴史から失われている。


●最強の魔法について


 数十年前にディンラント王国が存在する大陸で、『最強の魔法は何か』というテーマで議論が起きた。武術などと異なり魔法の場合は使用者のイメージが重要になるため、諸説が提示され議論は白熱した。威力で決まるという意見が最初に登場し、運用であるとか使い方によるという意見や、練度や習熟度によるという意見、あるいはそれらの条件がすべて組み合わさったものという意見が出た。その過程を経て、魔法の研究者などの専門家、そして軍や政治機構などで魔法を使う者たちから、最も反対が少なく、正解に近いとされた答えが登場した。これを“単一式理論シングル・フォーミュラ・セオリー”という。具体的には各属性魔法の“操作に関わる魔法”について極限まで練度を極めるという内容である。これは剣技で言い換えれば『斬るを極める』という発想に近いかも知れない。単一式理論の発想について神に挑むように自然を弄る技術に感じる者も居るが、これは間違いではない。


●魔法の無詠唱技術について


 魔法の発動に際しては、通常その魔法の名を詠唱する必要がある。古くはこの詠唱について、より発動のイメージを明示的に方向付ける祭句や呪文が付随した。だが魔法が一般化して技術として洗練された結果、発動のイメージは魔法の使用者が自己の精神によって形成できれば省略できることが判明し、現在の形となっている。そしてさらに洗練が進み、魔法名をも口にせずとも発動可能なことが判明した。この技術を無詠唱技術という。国や地域、団体などでその習得の流れは違いがあるが、他のモデルとされることが多い王立ルークスケイル記念学院の魔法の実習においては、五段階の過程でこれを習得させる。列記すると、第一段階では魔法のオンオフや、滑らかな魔法の威力の制御などの基本的制御技術。第二段階では発動させる魔法の、属性魔力の保持の技術。第三段階では内在魔力による魔法の、魔力波形の感覚的把握。第四段階では内在魔力による魔法の、魔力波長の感覚的把握。第五段階では使用者の意志の働きのコントロールによる、魔法発動プロセスの統合をそれぞれ習得させる。


 ディンラント王国では体系的にこれを学べるのは学院のみであり、王国内の他の諸団体では個別の指導を積み上げることが求められる。具体例としては王都ブライアーズ学園魔法科では、実習の授業の成績上位者を対象に、特別講義として人数をかなり限定して個別指導している。


●魔法による蘇生について


 主人公が暮らす世界では、条件付きではあるが魔法による人間の蘇生が可能である。一般的には光魔法の【復活(リザレクション)】を死後一か月以内に実施する必要がある。この場合は遺体か、毛髪や皮ふや血液など蘇生対象の身体の一部を用意する必要がある。また、殆ど知られていないが時魔法の【符号遡行(レトロサイン)】を死後三日以内に実施することでも蘇生が可能だ。この場合は魔法の使用者が蘇生対象の知人であるか、魔法の使用時に蘇生対象の知人が近傍に控えている必要がある。加えて【符号遡行】は魔力消費が激しいため、魔石を用意するか環境魔力を扱える者が魔法を使用する必要がある。

 一般的に蘇生魔法は魔力の節約を意図して、生命活動に必要最低限どの部分までを魔法で形成した後に、地魔法の【回復(ヒール)】か光魔法の【復調(リカバリー)】で残りの身体各部を再生する手法が取られる。

 人類には経験則と知られているが、生物の魔法による蘇生は神々が監視しており、蘇生しても行動に改善の余地がない悪人の類いは神々の権限で蘇生を失敗させている。


●魔法の指導方法について


 魔法の指導方法について、現在主人公の世界で主流の方法は二種ある。一つはプロシリア共和国起源の古い指導方法である『主動機(しゅどうき)法』、あるいは『メインモチーフ・メソッド』である。もう一つはオルトラント公国起源の指導方法である『模作(もさく)法 』、あるいは『トレース・メソッド』という。

 『主動機法』は音楽になぞらえた指導方法で、『模作法』は工芸になぞらえた指導方法とされる。二つの指導方法はそれぞれメリットがあるが、一般的に学校などの教育機関での指導には『模作法』が採用されることが多い。理由として段階的で確実な鍛錬による習熟度の管理が挙げられ、ひとつの魔法を習得したときはその魔法の性能を発揮できる状態になっていることが大きい。

 他方『主動機法』の場合は魔族、即ち古エルフ族の古式に近づくほど指導の説明が感覚的になりやすい。このためここ百年ほどは『主動機法』でも、獣人たちが簡便に指導を行えるよう洗練させた方法が用いられることが多い。『主動機法』で覚えた魔法は当初は魔法本来の性能を発揮できず、性能向上のための鍛錬が要求される。その代わり、魔法を覚えること自体は『模作法』よりも早くに達成できることが知られる。

 一見して古式の『主動機法』は廃れる可能性が想定されやすいが、魔法の習得方法として見たときに優れている点がある。それは文献の中など、イメージだけで伝承されている魔法を再現するのに優れた方法であることが指摘されている。


●魔素と魔力


 魔力は魔素から構成されることが知られており、魔素に指向性や極性を持たせたものが魔力とされる。魔素には両義性と呼ばれる性質がある。魔力量などの量的な尺度で魔素を捉えるとき魔素は『粒』として振舞う。同時に、個々人の魔力の波長の違いの話をする時のように、魔力の属性や独自性を語るときに『波』として振舞うことが知られる。


 魔力の波長には、出身地域や血縁や加護の有無などで似た波形が保存される領域がある。例えば王国出身者、共和国出身者、マホロバ出身者などで共通する箇所があるが、これを魔力波長の保存領域と呼ぶ。


 人間の場合、内在魔力を枯渇するまで使い切っても即死することは無い。だが一般的には内在魔力の枯渇によって気絶することが知られており、そのまま意識が戻らず魔力の回復も進まないで肉体が衰弱していくケースも報告されている。


 魔力は属性を持つのが一般的ではあるが、波長を有さない魔力のあり方もその可能性が論じられている。具体的には気配などが該当すると論じるものが居り、別の説では気配は属性を獲得する直前の魔力であるというものもあるが、詳細は研究が進められている。その具体例としては殺気であるとか、場合によっては意識を向けるだけで魔力の起こりが観測されるとする。これは人類にとって未解明の機序で、意識状態によって魔素が観測されることで状態が定まることによることが示唆されている。


 ディンラント王国王立国教会に伝わるところでは、この世界における環境魔力から個人の内在魔力への魔力の流れは、基本的には上から下に向かう流れとされる。逆に広域魔法の発動における魔力の流れは、下から上に向かう流れとされる。これはディンラント王家が使用する竜魔法を調べることで見出されたが、同時に神々の奇跡における魔力の流れでも見られる。個別の事象に照らせば例外はあるものの、『環境魔力は天上の神々のもの、内在魔力は地上の自分たちのもの』などと教示されている。事実、魔神が神になったときの魔力の流れも、上から下方向への流れだったことが観測されている。


●存在の三要素


 世界における物質レベルでの存在に関して、詳細を神々の秘密とする人類が未到達の知識がある。創造神が構築した多宇宙構造の中で、アカシックレコードに代表される万物の本質的存在の構成要素はロギオン(Loghion)という粒子からなる。また、多宇宙構造内をめぐる魂の構成要素はソルミオン(Solmion)という粒子からなる。そして世界の構成要素のひとつであり魔素と同じ粒子をエマニオン(Emanion)という。これらはいわゆる地球ではダークマターと呼ばれる粒子の未解明のものの一種であり、宇宙によって天然環境下での分布量に差異がある。それぞれの粒子は存在のエネルギー状態を変化させ、粒子として振舞ったり波として振舞い、観測することで存在を確定させる性質がある。


●魔法の範囲使用について


 一般的に、魔法は使用者から標的に対して一対一の関係で成立するものだ。これは魔法の発動に意志の働きが深く関わるからであり、原則となる。しかし現実には複数の対象に効果を及ぼしたり、対象の数を絞らずに特定範囲に効果を現わすものも存在する。


 これは意志の働かせ方によって魔法の範囲使用が可能となるためであり、多くの上級魔法であるとか魔力検知などの魔法の使用者の空間認識を補助するものなどが含まれる。上級魔法の場合は使用する魔力量を増大させることで、結果的に魔法の効果範囲を広くするアプローチがとられている。一方、使用者の認識補助などは五感を使用するときのイメージを発展させる形で効果範囲を広げている魔法もある。


 上記の方法論は古くからある一般的なものだが、近世になってから風属性魔法の性質を利用した魔法の範囲使用を実践する者も登場している。具体的には感覚としてイメージしやすい、風属性の周囲に広がる魔法を発動させる。その折に風魔法が魔力を振動させる性質を利用して魔力の波長を制御し、別の魔法属性に書き換える手法である。この書き換え後の魔法には、本来は一対一での関係で発動する魔法も含まれることが知られている。


●神気と神術について


 神の気配を神気と呼び、厳密には個別の神格ごとに別種の神気が存在するとされる。この神気を祈りや精神集中などによって自らの裡に呼び起こし、望んだ効果を得る術を神術と呼ぶ。一般的には祭句を唱えることで発動させるが、必要なものは神気を得る対象である特定の神への祈りであるとされる。


 神々への祈りに際しては聖印と呼ばれる印を空中に描く所作が良く行われる。主人公の暮らす世界では十字架を聖印とする文化は無く、ただの丸が聖印とされている。描く者から見て逆時計回りに描く所作を以て聖印を切るとされ、この所作によって神々への祈りを自らに呼び起こすことを目的としている。丸印が聖印とされた経緯は諸説あるがその起こりは古く、失伝している。


 神術の発動を略式で行う場合は簡易的に、一人で実施することも可能ではあるし、聖者や聖女と認定される個人は平素よりそのように執り行うことが出来る。だがより成功率を上げるために、一般的には複数人による儀式の形態で行われることが多い。その目的は祈りをささげた対象の神々から、極々微かな現実改変のための奇跡を賜ることを目的とする。神術の目的により祈りをささげる神々には、教義的に適切な権能を持つ相手が選ばれる。


 神術の儀式に際して魔法的に危険な状態が予見される場合は、儀式の段階をより深く執り行い、神術を施す対象に疑似的に神性を付与することも行われる。これは神術の中でも奥義に通じる内容であり、密儀とされる。その密儀の本質は神学的に様々な視点があるが、神々の被造物たる人間から、神に由来する性質を増幅し、瞬間的に地上の神としてその場に在らしめることを究極的な目的とする。


●今作での初期宇宙論とネゲントロピーについて


 主人公たちが暮らす宇宙を含め、全ての宇宙は創造神が造った。その作業では『根源空(こんげんくう)』という状態の中に無が作られ、さらにその中にいくつも宇宙が創造された。創造直後の宇宙は構造物としての機能しか無く、完全に安定した状態で存在していたらしい。その後に各宇宙にて『初期特異点』という場を作り出し、個別の宇宙のエネルギー分布に『変化』が発生した。その変化は『乱雑さ (エントロピー)』を増す切っ掛けとなった。


 宇宙には本質的に『乱雑さ』が増える性質があり、それによって時が流れる方向が決まる。だが宇宙の一部には例外的な現象が発生する。エントロピーが過剰に増したり、逆に減ったりすることがあるという。それを原因として宇宙のどこかでは時間の流れが局所的に乱れたり無限ループになることがある。これを調整し、『秩序を保つこと (負のエントロピー、あるいはネゲントロピー)』によって『乱雑さ』のバランスを調整する必要がある。これは時の流れる速度の調節とも関係し、多くの場合は時の神格群がその働きを担う。


●呪いと祈りについて


 機能の面からいえば呪いと祈りは同質のものであり、任意の対象に継続的かつ魔法的な効果を付与する技術である。両者の違いは祈りが神々の方を指向し信仰によって行われるのに対し、呪いが術者の欲望を指向して意志によって行われるところによる。この性質は古くから王国のみならず各国の教会組織が把握してきた事実であり、神々への信仰を推す立場の教会からは呪いは忌むべきものとされた。これが市井に流布され、呪いを人々が恐れる遠因となっている。

 だが昨今では学術的な研究も一定程度進み、法制度の面からは単純な呪いの実施だけでは処罰の対象としない国が増えている。これは呪いの有する魔法の付与技術という側面が注目されている証左といえる。加えて現在ある魔道具の原型として呪いが存在したという技術史的側面からの分析も存在する。根本的には呪いも祈りも他の魔法技術と同様に、用途によって法規制の対象となる技術体系であるといえる。

 作中にアレスマギカがウィン達に説明したところでは、畢竟呪いとは目的のための魔力操作の経験知を集積した技術体系である。まず呪いをかける対象に魔力が流れた際の魔力波長を把握する。魔力波長からは『存在のあり方を規定する部分』を読み取る。この魔力感知を深めると、対象に関わる事象の選択肢が選べる場合がある。これを経験則的に蒐集して技術体系とした。

 先史時代の文明では呪いの機構を魔道具に組み込んでおり、魔力以外を動力源として使う例がみられる。


●魔神について


 『魔神』はプロシリア共和国の、古エルフ族に伝わる祖霊信仰で登場する神である。各国の教会で認定された神ではない。精霊魔法の起源の一つが古エルフ族と考えられていて、彼らの祖霊信仰が精霊魔法の発展の歴史に関わる部分がある。ディンラント王国は『魔神』の信者を問題視している。『魔神』信者の古エルフ族が王政を嫌い共和制を望む部族であり、信者の価値観が『魔神』への信仰に影響されることを問題視している。さらに、『魔神』信者の一部が祖霊信仰を先鋭化させ、各国で禁術とされるような魂や死霊に関する魔法を扱っているのを問題としている。特に禁術については呪いに近い魔法を行使したり、供物をささげる祈祷を行ったりする者が、未だに共和国に居る点が危惧されている。ここでいう供物とは家畜であるとか人間の命で、酷いものになると生きながら解体する儀式もあるようだ。

 魔神信仰の守旧派や保守派の中でも誘拐や殺人などを行う危険な者は秘密組織を形成し、共和国の中でも大小さまざまなものがある。その実態については共和国も把握しきれておらず、近年問題視されることも多い。

 ディンラント王国におけるいわゆる『魔神騒乱』の後は魔法の守護者たる魔神アレスマギカの存在が周知され、上述の状態が次第に変化していくこととなる。


血神(けっしん)について


 『血神』はプロシリア共和国の、吸血鬼族に伝わる祖霊信仰で登場する神である。各国の教会で認定された神ではない。共和国土着の神であり信仰とされ、一般にはあまり知られていない。これはその信仰の性質から、広く信者を集める必要が無かったことによる。時代が(くだ)るにつれて、祖霊信仰から離れ一柱の神であるとみなす解釈が登場する。祖霊信仰は吸血鬼族で見られる概ね穏やかな思慕の対象だ。対して一柱の神としての血神はプロシリアで秘された神として扱われ、供儀を必要とする存在として扱われるようになった。


 さらには秘神オラシフォンによって明らかにされたところによれば、一柱の神としての血神はヒトから造られる神であり、『血の聖櫃(せいひつ)』と呼ぶべき存在であるという。秘神によれば本来の死者の魂は生まれ変わる存在だが、『血の聖櫃』たる性質を持つことで、血神は死者の魂を自らの中に溜め込むことが出来るという。この虚時間(イマジナリータイム)を応用した権能により、血神は世界の終りまで取り込んだ者たちの魂と共に神として生きる存在として設計されているようだ。


●ステータスとスキル


 一般的には【状態(ステータス)】の魔法で取得できる自分自身に関する情報を指すが、【鑑定(アプレイザル)】を鍛えることでも同様の情報を得られるようになる。王立国教会の説に依れば、この情報は各人の魂に関連付く情報で、地神と水神が管理しているらしい。ステータス内の耐久、魔力、力、知恵、器用、敏捷、運などの数値は一般成人が百ほどを基準値とするが、戦闘技法や魔法などで値が上下する。三百で精鋭、四百で達人、五百で地域の歴史に名を残すような偉人、六百が国の歴史に名を残すような英雄、七百が世界の歴史に名を残すような伝説的存在と言われる。その上は神の使い等の領域らしい。ステータス内の“役割”は未修得のスキルが発生しやすくなり、該当する技能の習熟度に影響する。神格的には“役割”やスキルは『魂に極性を与えるため』の神の道具であり、本質的にはエネルギーに過ぎない魂に方向性を与えるために存在する。なぜ極性や方向性を与えるのかは因果律やカルマの仕組みに関わり神の秘密に属する。


●称号について


 一般人などでも使用頻度が比較的高い【状態(ステータス)】の魔法によって得られる情報には、“称号”という情報が含まれる。これは魂に関連付く情報であるが、何を指すかという点については諸説ある。各国の教会が伝えるところでは、魂の形を安定させるための柱のようなものという説明がしばしば使われる。この場合の安定性とは『魂に極性を与えるため』の情報である“役割”の安定性に関わっているが、教会勢力からそこまで詳細に説明されることは稀である。過去に実施されたディンラント王国の統計調査によれば、称号を有する方が無い者よりも“役割”やスキルを伸ばしやすい傾向が分かっている。神々が意図するところでは他者からの評価の積み重ねを拾い、ステータスの“役割”やスキルを得やすくする助けとしている。


●武術流派


月転流(ムーンフェイズ)

 体術から起こった斬撃の流派で、無手や片手剣や片手斧などの切断武器で戦う。武器を使うときは二刀流を基本とする。一撃必殺よりは連撃必倒を是とする。技が速く静かに発動する上に隙が無い。夜空の月の満ち欠けが如く場に化し、月が照るが如く静かに討つのを流派の名に込めた。魔力制御による身体強化や反射増強、疑似思考加速を行い、高速戦闘が基本である。魔力による武器の強化も常用する。


雷霆流(サンダーストーム)

 アロウグロース辺境伯領で領兵が制式採用している武術。槍や戦槌などの大型の打撃武器を用い、魔力を併用して戦場で戦うことを想定した流派。一撃の強さを重視する。突く打つ払うの基本動作を極め、体内魔力の制御を極めることで兵士を自律する武器とする発想で進化した。体内魔力の制御が基本にして奥義であるため、攻撃力の強化と耐久力の強化が成され、継戦能力が非常に高いことが知られる。


風牙流(ザンネデルヴェント)

 共和国に興った体術で、風の魔力を纏って戦う流派。打撃や斬撃、貫通技をもつ。獣人の基礎体力の高さを魔力で強化するコンセプトで成立した。連撃必倒を是とし、月転流の創始者に影響を与えた。魔力制御による身体強化や反射増強、疑似思考加速を行い、気配遮断も行える。


風漸流ヴェントトルトゥオーソ

 共和国に興った体術で、風の魔力を纏って戦う流派。打撃に特化している。獣人の基礎体力の高さに加え、風魔力による振動波を攻撃対象に叩き込むコンセプトで進化した。攻防一体で相手にかすっただけでもダメージが入るが、一撃必殺を至上とする。


鳳鳴流シンギングフェニックス

 フサルーナ王国のマホロバ自治領の古流刀術。基礎訓練で打撃主体の体術を修める。強力な切断力の斬撃と刺突技で知られる。魔力制御による身体強化や反射増強、疑似思考加速を行い、魔力による武器の強化も常用する。継戦能力が高い。


朱櫟流(イフルージュ)

 細剣術の流派で、ディンラント王国南方のフサルーナ王国が発祥。神速の剣として有名で、魔力制御による身体強化や反射増強、疑似思考加速を行い、魔力による武器の強化も常用する。継戦能力が高い。熟練者は無詠唱を使うことで戦術魔法を武器にのせることができる。


竜征流(ドラゴンビート)

 ディンラント王国の古流剣術。打撃体術と大剣術が基本だが高位習得者には斧を使う者もいる。打撃と斬撃が強力であり、大型武器を用いて円の動きで場を制する特徴を持つ。魔力制御による身体強化や反射増強、疑似思考加速を行い、魔力による武器の強化も常用する。


屹楢流(シェヌモンタン)

 グレイブ(西洋薙刀)と蹴り技をつかう流派で、ディンラント王国南方のフサルーナ王国が発祥。刺突技と斬撃の使い分けで、面制圧と貫通力に優れる。魔力制御による身体強化や反射増強、疑似思考加速を行い高速戦闘も対応できる。


蒼蛇流(セレストスネーク)

 ディンルーク流体術の源流の武術で、古式ディンルーク流体術ともいう。格闘術で肘やひざを含めた手足による打撃が主体だが、投げ技や締め技もある。熟練者は魔力制御による身体強化や反射増強、疑似思考加速を行い高速戦闘も対応できる。王都で習う者は多いが、熟練者は少ない。


ディンルーク流体術

 ディンラント王国の騎士団で制式採用されている体術として有名で、蒼蛇流(セレストスネーク)を元に洗練させたもの。格闘術で肘やひざを含めた手足による打撃を用いる。投げ技や絞め技は廃止されていて、握り込んだ拳を使うことを特徴としている。また奥義とされる技が無いことで知られ、基本である手足による打撃をどこまでも極めることが求められる。魔力制御による身体強化や反射増強、疑似思考加速を学ぶことはできるが、騎士団やコロシアムなど王国の関連組織が技術体系の伝授を管理している。このため、学校組織などでは身体強化の指導は義務では無い。使用する魔力の種類に制限は無く、四大魔力のほか光や闇属性魔力を身体に纏う技法も対応する。経験的に、魔力制御による身体強化まで習得すると一人前で、ステータスに習得していることが表示されることが知られている。


蒼蜴流(セレストリザード)

 蒼蛇流から起こった流派で、片手剣一本と格闘術を併用する。投げ技と締め技を捨て、片手剣による斬撃や刺突技を取り入れた。蒼蛇流が使う打撃技はすべて受け継いでいるが、他に剣による技を持つ。熟練者は魔力制御による身体強化や反射増強、疑似思考加速、気配察知や気配遮断を行い高速戦闘も対応できる。王都で使う者は少ないが、王国の中でも諜報活動を行う者が修めていることが多い。


竜芯流(ドラゴンコア)

 正統派剣術として名高い流派。古式ディンルーク流剣術とも呼ばれ、ディンラント王国内で制式剣術に採用する騎士団や領軍は多い。利き腕に片手剣を持ち、逆の手に盾を持って戦うオーソドックスなスタイルで斬撃と刺突技を行うほかに、盾を使った打撃技も用いる。基礎訓練段階から素手での体術も同時に修得する。熟練者は魔力制御による身体強化や反射増強、疑似思考加速を行い高速戦闘も対応できるが、盾による突撃を除けば攻撃力は低めと言われる。守勢に回ればとても堅いので継戦能力は非常に高く、集団戦闘で真価を発揮すると言われる。

 正統派剣術ゆえに習得者が多い反面、竜芯流の真の姿を使いこなせる者は全体の中でも少数となっている。これは竜芯流が片手剣の一刀流に盾を持たせた流派という理解が流布している中で、実際には片手剣と盾術の二刀流という身体操作が出来る者が少ないことによる。


巨芯流(ギガントコア)

 北部ディンリューク流棍術とも呼ばれる。竜芯流(ドラゴンコア)から派生した流派で、盾と戦棍(メイス)を用いる流派。奥義の名は竜芯流から多少は変わって居るものの、竜芯流から多くの技法を受け継いでいることが知られている。ディンラント王国北部に本拠地があり、各国の神官戦士に広く普及している。実戦棍術であるため、源流たる竜芯流よりも剣の扱いに習熟する分の時間を節約でき、早期に習得できることが知られる。中遠距離攻撃が無いことを除けば、これといった弱点は無いとされる。なお、竜芯流同様に盾術を攻撃として繰り出すことが出来る者は、流派の中で少数となっている。


不生流(ノーバース)

 ディンラント王国暗部の体術。基礎となる格闘術そのものはディンルーク流体術を流用しており、コンセプトは『ディンルーク流体術の完成形』。魔力を併用する格闘の技に加え、糸状に収れんさせた魔力による刺突や切断を行う。魔力制御による身体強化や反射増強、疑似思考加速を行い高速戦闘も行う。


刻易流(ライフトハッケン)

 ドワーフ族に伝わる手斧術。源流はドワーフ族の喧嘩殺法を体系化したものと言われる。片手斧または片手槌の二刀流。『最速で敵を撃て』と『壊れるまで叩け』をモットーとする攻撃的な流派。素手での打撃による格闘術も行う。魔力制御による身体強化や反射増強、疑似思考加速を行い高速戦闘も対応できる。火属性魔力と地属性魔力を併用する。


白梟流(ヴァイスオイレ)

 オルトラント公国発祥の古流弓術。元々は狩猟に用いていた弓術を戦場で用いるために洗練させたと言われている。公国では習得難易度のため魔法攻撃が選ばれることが多くなって伝承が絶え、ディンラント王国西部に伝わっていた分家が新たな宗家となって伝承している。近接戦闘が若干不得手なものの対応はでき、的との距離がある戦いで真価を発揮する。魔力制御による身体強化や反射増強、気配遮断や気配察知、疑似思考加速を行い高速戦闘も対応できる。


前田流(まえだりゅう)

 フサルーナ王国マホロバ自治領の地方領主である前田家に伝わる戦闘術。刀術や槍術と体術がある。体術は鎧組討(よろいくみうち)とも呼ばれ。属性魔力で身体各部を鎧状に強化した状態で敵を投げ捨てて無力化する技を多用する。敵が受け身を取れない状態にした投げの直後に蹴り技で追撃をすることも多い。魔力や重心の動きを彼我の攻防の中で制御して大地に叩きつけることを基本とするため、彼我の体格や質量差をほぼ無視して投げ飛ばすことができる。


渦層流(ヴィーベルシヒト)

 オルトラント公国発祥の古流剣術。片手剣の二刀流。地属性魔力と水属性魔力を体表面にらせん状に循環させ魔力による氷を形成する。その状態で氷の粒子が絶えず身体や武器の表面を循環するよう制御して戦う。触れた箇所がやすりに掛けられたように傷つくため、攻防一体の技となっている。素手による戦闘術は無いが、その分二刀流で剣術を発展させた。魔力制御による身体強化や反射増強、疑似思考加速を行い高速戦闘も対応できる。


刈葦流(タッリアーレレカンネ)

 プロシリア共和国で起こった大鎌術。歴史は古く、元々は共和国東部の穀倉地帯の農民が、農閑期に傭兵や冒険者として活動するときに使われていた杖術を起源とするらしい。そこに農作業で大鎌を使う者が、戦闘術としてまとめたものが流派となったと言われている。熟練者は木や金属、あるいは鉱物などを材料にした棒に自らの魔力で微細に振動する刃を作り出し戦う。魔力制御による身体強化や反射増強、疑似思考加速を行い高速戦闘も対応できる。


一心流(シンプリーチタス)

 古エルフ族の護身術に源流を持つ実戦杖術。歴史は古く、現在伝わる実戦杖術流派の源流の一つとされる。杖に属性魔力を込めない状態でも相応に戦闘能力が高いが、その真価は魔力を込めたときに発揮される。打撃や単純な突きはもちろん、魔力の集中を制御することで切断や貫通などを行うことが出来る。惜しむらくは起源が古すぎるゆえ、魔力を飛ばすという概念が発生しなかったため、接近戦でのみの技術体系となっている。また、掌打や投げ技などの基本的な体術も組み込まれているため、近接戦闘での戦闘力は高い。魔力制御による身体強化や反射増強、疑似思考加速を行い高速戦闘も対応できる。


山猫流(ガトモンテス)

 フサルーナ南西部の、イスパニル神猫(しんびょう)という土地神を信仰する地域で起こった古流剣術。古くは長めの柄の片手剣を両手持ちで使う。剣術としての完成度が高いうえに、上級者ともなると剣に纏わせた魔力で鞭状に刀身を変化させた魔力の刃を瞬時に形成するのを特徴とする。この場合は魔力探知が出来ない者は剣筋を避けることも出来ない。魔力制御による身体強化や反射増強、疑似思考加速を行い高速戦闘も対応できる。


蜂道流(ビーライン)

 長めの柄の片手剣を使う剣術流派で、武術研究家によれば山猫流(ガトモンテス)から派生したとされる。剣術としての完成度が高く魔力の刃により剣の形状を自在に変化させるのは山猫流に似る。だが変化後の形状を剣に限定することで、山猫流よりも修得しやすさを向上させている。フサルーナ王国北部からディンラント王国南部で修得者が多い流派だが、剣の形状を変化させて戦うスタイルを外連と見る向きもある。魔力の刃を飛ばす技は存在しないが、剣の形状を変化させることで剣の動作で槍に近い刺突や斬撃を繰り出すことができる。魔力制御による身体強化や反射増強、疑似思考加速を行い高速戦闘も対応できる。


リベルイテル流槍術(そうじゅつ)

 ディンラント王国西部のリベルイテル地域で発達した槍術。リベルイテル辺境伯領の領兵が制式採用していることで有名。その源流は古代の狩猟槍にあるといわれ、流派の歴史は古い。かつては短愴術と長愴術があったが統合され、刺突と打撃が重視される。魔力制御による身体強化や反射増強、疑似思考加速も可能だが、伝授に際しては各指南所がその可否を厳密に管理している。他国にも指南所があることが知られ、使い手の裾野は広い。


芳炎流(ノビリスフランマ)

 魔族発祥の体術であり、その原型は舞踊にあると言われる。その特徴は蹴り技を多用することと、構えが無く予備動作の無い状態からの打撃技であるといわれる。実際には正面向き(スクエアスタンス)の構えが基本であるようだ。立った状態での変幻自在の蹴り技に加え、回避やダウンしたと見せかけて上半身を倒れ込ませた状態からでも多彩な蹴り技を繰り出すことが出来る。蹴りによる単純な打撃よりも、火属性魔力を纏わせた蹴りによる斬撃を多用する。惜しむらくは起源が古すぎるゆえ、魔力を飛ばすという概念が発生しなかったため、接近戦でのみの技術体系となっている。近接戦闘での戦闘力は非常に高い。魔力制御による身体強化や反射増強、疑似思考加速を行い高速戦闘も対応できる。





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