10.打算が働くけれども
あたしの寮の部屋にディアーナが来て、ザックとかいう例の元神官の話をしてくれた。
その後の話の流れでマルゴーの名前が出てきて、あたしはふと『赤の深淵』の情報を訊けないかと考えてしまう。
ディアーナに【風のやまびこ】を使ってもらい、そのままあたしとディアーナとマルゴーの三人で話を始めた。
その結果、『赤の深淵』では動きが無いものの、闇ギルドが王都に手練れを集めているという話が出てきた。
マルゴーによればその連中のうちの一部が、『赤の深淵』関連で闇ギルドが投入する戦力では無いかと考えているようだ。
「そう考える根拠は何ですか、マルゴーさん?」
「二つ名持ちの数だね」
「「……?」」
あたしとディアーナが首を傾げていると、魔法連絡ごしに察したマルゴーが説明をしてくれた。
どうやら彼女によれば、闇ギルドが呼び寄せてる手練れについて、普段の拠点とか活動地域を確認したらしい。
二つ名持ちのような手練れはどの地域にいるのかがある程度分かるそうだが、今回把握できた中では共和国から入って来る者が多いという。
「共和国の闇ギルドは、例の連中をホントに毛嫌いしてるからね。共和国からの数が多いってことは、仕留めにかかっているかも知れないね」
「その話は……、デイブも知ってますかね?」
あたしの問いをマルゴーは肯定する。
デイブからその辺りの話を聞いていない事を告げると、マルゴーが諭すように告げた。
「恐らくまだ確認中なんだろ。ワタシは噂を集めただけだ。デイブなら裏を取るね」
そういうことか。
あたしがデイブに『白の衝撃』の実働部隊の話を伝えたとき、彼らが移動してくる理由の話になった。
明言は避けていたけれど、デイブは心当たりがあるようなことを言っていた。
「分かりました。もしかして、『それに関連した動き』かも知れないことがあるんです」
そこまで語ると、マルゴーが興味を示した。
「関連した動き? どういう話だい?」
「実は『白の衝撃』の実働部隊二十人が、ディンルークに向かったそうなんです」
「いつだい?」
「不明です。ただ、共和国の駐在武官が、風牙流の伝手で聞いた話らしいです」
マルゴーは「ふーん」と呟いて考え込み、言葉を選ぶようにして告げた。
「それだと……、もう着いてる可能性もあるのかね」
「月輪旅団でも情報を集めていますし、王宮や共和国大使館も動いている話です」
「デイブはその話は何か言ってたかい?」
マルゴーが確認するけれど、デイブはウィクトルの手紙の話を聞いて判断したんだよな。
その辺りは少し話を省くか。
「そうですね、『白の衝撃』の人たちは、月輪旅団か王立国教会に挨拶に行くだろうって言ってましたけど」
「王立国教会? それはどういう流れだい?」
やっぱりツッコまれるよなあ。
「細かい経緯は省きますけど、前に『白の衝撃』の人と知り合いになったんです」
「なんで?」
マルゴーは淡々と確認している感じだ。
何でって言われても、ニコラスと友達だったんだよな。
ジャニスの交際相手がニコラスで、その友人がユリオで、ユリオが『白の衝撃』に所属していた。
その辺りの話をカンタンに説明した。
「何だか……、意外と狭い範囲での話になってる気がするねえ」
「いや、この場合はニコラスさんが、風牙流の関係で顔が広いってことだと思うんです」
「ふーん……、そのユリオって子が花屋の小娘を介して繋がったのは分かった。なんで王立国教会なんだい?」
参ったな、結局ぜんぶ説明する羽目になったぞ。
まあいいか、いざって時にはマルゴーさんが助けてくれるかもしれないし。
ちょっと打算が働くけれども。
「どうにも『白の衝撃』の人たちが戦ったせいで、共和国でたくさん建物を壊したそうです。それで自分たちで直すのをかなり経験してるみたいなんですよ――」
あたしが一通り説明をすると、マルゴーは絶句していた。
一方あたしの目の前でディアーナは、嬉しそうな表情を浮かべている。
「ディアーナ?」
「ウィンさん、『白の衝撃』の人たちは、王都で魔神さまの教会を建てることができるのですか?」
「いや、うん、たぶん建てられるんじゃないかなっていう話だと「素晴らしいです!」」
何やらディアーナのテンションが一気に上昇していたけれど、マルゴーがなだめて元の話に戻った。
元は『白の衝撃』の実働部隊が王都を目指しているという話だ。
ユリオがデイブから国教会に紹介され、その話を手紙で書いた。
だから『白の衝撃』の人たちは月輪旅団か王立国教会に挨拶に行くだろう。
「――という流れです」
「分かったよウィン、細かい説明は助かるよ。やれやれ、挨拶の後は例の組織を狩り始めるのかねえ」
「そこまでは、あたしには分かりません」
そういう情報は無い訳ですよ、うん。
「案外、闇ギルドの方が“おそうじ”を始めちまうこともあるかもだねえ」
「どうします姉さん?」
マルゴーの言葉にディアーナは特に動揺していない。
彼女の中では、どこまで『赤の深淵』を狩る話に前向きなのだろうか。
あたしとしては面倒ごとはキライだけれど、禁術を実践する秘密組織を放置する方が、後悔することは多い気がする。
「まあ、状況次第だね。当然だが、うちの店の子の身内が巻き込まれそうなら手を打つのは確定だ」
「その時はわたしも手伝うわマルゴー姉さん」
そう言って目の前でディアーナは一つ頷く。
彼女の迷いのない表情に一つ息を吐いて、あたしは告げる。
「あたしは多分そういう話になったら、カースティとデイブに連絡を入れて、たぶん動きます」
そう言ったあたしの言葉にマルゴーが直ぐに反応した。
「ん? カースティ? まさか『暗殺令嬢』かい?」
あ、言って無かった気がするぞ。
いま話せばいいけれど、連絡しておいてよかったな。
「はい。冒険者ギルド副支部長のレイチェルさんの娘さんですね。この前デイブの店にあたしが居るときに訪ねてきたんです」
「それで知り合ったのかい? なんだいウィン、あんたもしかして賞金首狙いをやるのかい?! 結構向いてるとは思ってるんだけどさ」
それはどう応えたらいいものなんだろうな。
マルゴーとしては、彼女の信念で賞金首を狩って来たみたいだ。
その彼女が『向いている』という以上、仲間意識みたいな言葉と思うんだけれども。
カンタンに否定するのも悩ましい気がする。
「どうなんですかね。向いてるかはちょっと分からないですけれど、カースティさんと『赤の深淵』の話になったんです。彼女が狙ってる賞金首がいるそうで」
「へえ、面白い話になってきたじゃないか」
「カースティさんの言葉をそのままいえば、『女の三塔』ってことでした」
「なるほどね」
「ちなみに、マルゴーさんとディアーナも噛ませてほしいって言っておきました」
あたしの言葉にディアーナが両手を握り込んで告げる。
「分かりました、おそうじ上等です!」
即答したよこの魔神の巫女。
「そうかいそうかい、そういう話なら、お姉さんも噛んどくのは吝かじゃあないね。でかしたよウィン、中々面白いねえ」
マルゴーはマルゴーで、魔法連絡の向こう側でものすごく機嫌が良さそうな気配がした。
あたしとしても二人のように、カースティとこの件で共闘するのに否は無い。
カースティは標的を『禁術が大好きで、人間を魔道具の部品とか思ってそうな奴』と言っていた。
あたしは知り合いが被害に遭ってから後悔したくないんだ。
そこまで考えているとマルゴーが問う。
「それで、『暗殺令嬢』は何つってたんだい?」
「お二人の話をしたら、『それはまた濃いわねー』って言ってましたよ?」
「ハッハッハ、あの小娘に言われたくはないねえ」
まあ、カースティも二つ名が濃いからなあ。
でも二つ名といえば思いだしたことがあった。
「カースティさんは、マルゴーさんの二つ名を両方知ってましたよ」
『臓姫』と『人狩り狩りのマルゴー』のことだ。
「ハハ、それなりに有名だからね。――まあ話は分かったよ。あんたたち、まずは動くときは連絡をおくれ」
「「はい」」
そう言ってからマルゴーはディアーナに、一人で突っ込まないように諭していた。
「いいかい? 最低でもエルヴィスを引きずってきな。あれでもあたしの片腕分ぐらいの仕事はするだろうからさ」
「分かってるわマルゴー姉さん」
微妙にエルヴィス先輩の扱いが雑な気もするけれど、マルゴーの言葉からは二人への信頼感も感じられた。
マルゴーは他に情報は無いとのことで、何かあったらディアーナかエルヴィスかあたしに伝えてくれると言って連絡を終えた。
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