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07.真相を封印していた


 『闇神の狩庭(あんじんのかりにわ)』を使って『夢の世界』に入り、みんなで魔法の練習をしている。


 その合間に屋上に椅子とテーブルを虚空から出して、あたし達は休憩した。


 相変わらずなんでも思い浮かべるだけで取り出せるのは便利だけれど、記憶しか現実に持ち出せないのは残念だよなと思う。


 ジューンが用意してくれたワッフルを食べながらそんなことを考えていると、ホリーが話しかけてきた。


「ねえ、ウィンたちの班って、今週『聖地案内人』の当番よねー? 何日目だったっけー?」


「ええと、三日目よ? どうかしたの?」


 実習班の仲間とアイコンタクトで確認しながらホリーに応える。


 すると彼女はニヤリと微笑む。


「ど、どうしたの?」


「そうねー。いきなりその時までナイショにして、ウィンの反応を後から聞くのもいいけどー……。わたしとしては色んな意味でウィンを敵に回したくないし、教えるねー」


「ええ……。ありがとう?」


 何の話を始めるんだホリーは。


 そう思っていると、予想していなかった方向からの話をされた。


「実はフェリックス兄さんも、ウィンたちと同じ日が『聖地案内人』の当番なのよ」


「そうなんだ?」


 あたしが割と素な感じで聞き直すと、ホリーは微妙に残念そうな顔を浮かべる。


「あー、ウィンはイジワルだなあ。ねえ、ウィンは兄さんのことをどう思う?」


 そんなことを言われても、とくに捻った回答は用意していないんです。


「どうって言われても、ホリーのお兄さんだなって思ってるだけよ?」


「そっかー……、これは結構難易度が高いミッションよ、父さん……」


 父さんとな?


 ホリーのお父さんとなるとブルー様のことだけれど、そこまで話が及んであたしにも何となく察しは付いた。


 ホリーの家、つまりクリーオフォン男爵家に嫁に来ないかという話だろう。


 でもフェリックスには許嫁や許嫁候補とか居ないのだろうか。


 まあ、貴族家当主の跡継ぎなら、複数の候補が居てもおかしくは無い。


 あたしが二人目以降の許嫁候補とか言われても驚かないし、


「ねえウィンー、人ごとみたいな顔をしてるけどー、兄さんと婚約してみないー?」


 ホリーが婚約という単語を使った直後、あたしにみんなの視線が集中した。


 なんだよその期待するような視線は。


 あたしとしては容赦はしないんだぞ。


「あたし貴族はムリね! 許嫁とかありえないわ」


 あたしがそう告げると、プリシラとホリーは固まってしまった。


 他のみんなの反応としては、キャリルとロレッタ様とアルラ姉さんとニナが苦笑を浮かべている。


 残りのサラ、ジューン、アンは不思議な生き物を見るような目であたしを見ていた。


「いや、ええと……」


 あたしとしてはみんなにどう説明したものかと考え始めていた。




 何とかあたしはその後、自分が貴族家の大変さが受け入れられないという話を説明することに成功した。


「ウィンはもうちょっと丁寧に説明するべきですわ」


「はい、ごめんなさい、いろいろはぶきすぎました」


 あたしがキャリルにお小言をもらい、ショボーンとしているのを見てホリーが口を開く。


「ウィンが貴族がキライっていう訳じゃないなら安心だねー」


「ウィンの貴族への意識を把握できたことで、私が安どしたことをここにお伝えします」


 プリシラもそう言ってホッとした表情を浮かべている。


 そうだよなあ、気を付けないと貴族という存在に、嫌悪感を持っていると受け止められるよね。


 学院には貴族家の子も多いし、何より友達にもクラスメイトにも貴族家の子がいるから配慮しないとな。


 あたしはそう考えながら、割とガチ目で反省していた。




 それでもあたしとしては、まだ弁解の余地があると思うんですよ。


「でもさホリー、あなたがいきなりフェリックス先輩の話を出さなかったら、ヘンな方向に話が転がらなかったと思うわよ?」


「そう? 父さんからはいつでも機会があれば、ウィンを我が家に誘うように言われてるよー?」


 いや、ちょっと待って欲しい。


「ブルー様に評価いただいてるのは光栄だけど、そもそもフェリックス先輩はどう思ってるの?」


「確かに王国では、貴族でも恋愛結婚は増えて居るわね」


 あたしとホリーのやり取りを聞いていたロレッタ様が、横から告げる。


 ロレッタ様はペレと婚約しているし、将来的には女当主として伯爵家を継ぐだろう。


 彼女の視点は色々と参考になるかも知れない。


「ただ政略結婚も、相変わらず行われるのは否定できないけれども」


 そう思っていた時期がありました。


 ロレッタ様によれば、現当主が婚約者を選べば、跡取りがそれを拒むのは限界があるそうな。


 まあ、庶民のように気軽に結婚できないだろうし、貴族家だと家が結婚相手を決める面はあるよね。


「フェリックス兄さんがどう思っているか、ですか? そうだなー。たぶん兄さんの場合は変に大人しい子は苦手だとおもうかなー」


『ふーん』


 なぜかあたしよりもみんなの方が、集中して聞いている気がします。


「たぶんウィンみたいな、躊躇なく物申すタイプの方がいいんじゃないかなー」


 ホリーはそう言って一人で納得している。


 でも話しぶりから察するに、フェリックスの言葉などを元にしている訳では無さそうだ。


「取りあえずそれはホリーの見立てよね? 元々は『聖地案内人』の当番の話だったと思うけど、その話はどうなったの?」


「あ、そうだねー。なぜかは私も分からないけど、父さんから兄さんとウィンが『聖地案内人』で同じ日になったって聞いたのよ」


「…………」


「詳しくは聞いていないけど、もしかしたら案外おなじ組になって、商業地区を回るのかなって思っただけかなー」


 まさかとは思うけれど、ブルー様が大人げなくクリーオフォン男爵家の諜報の力を発揮して、『聖地案内人』の当番の日が重なるようにしたわけじゃないだろうな。


「色んな裏工作の予感がするのは気のせいなの?」


「いいでは無いですかウィン。フェリックス先輩は真面目そうな人だと評していましたわよね?」


「比較論の問題よ」


 あたしが絞り出すようにキャリルに応えると、ホリーが途端に喜色を浮かべる。


「お、もしかしてウィンはー、兄さんにけっこう好印象だったりするのかなー?!」


 ホリーがそう言って微笑むと、みんなもあたしの表情を窺っている。


 どうしよう――


 あたしとしては色々と問題があると判断して、本当の真相を封印していた面がある。


 でもこれを口にすることは、あたしだけじゃなくて本人たちにとっても色々と問題となる可能性がある。


 そう言っても事ここに至って、いつまでも封印し続けるのはむしろリスクしかない気がするのだ。


 思わずあたしは重いため息をついた。


「ウィンー?」


「ええとホリー……、いままま黙っててごめんなさい」


「ん、どうしたの?」


 あたしの緊張感が伝わったのか、ホリーが心持ち居住まいをただす。


「じつは前から思ってたんだけど、フェリックス先輩って……」


「うん、フェリックス兄さんって」


「どこまでも、ウェスリーとその取り巻きのワンセットってイメージが強いのよ」


『あー…………』


 ホリーだけじゃなくて、その場のみんなが同意したような呻き声を上げた。


 でもあたしとしての実感なので、どうしようもないんですよ。


「そういう意味ではパトリックも同じだけれど、フェリックス先輩とか彼らに言うと、『ウェスリーと一緒にされて侮辱された』とか言われそうで黙ってたの」


『…………』


 微妙な沈黙が流れたけれど、気を利かせたのかサラが口を開く。


「まあそんでもウェスリー先輩って、けっこう料理とかで繊細な腕前を見せたりするんやで――変人やけど」


「そうですね、食品研と共同で料理研が活動するときは見かけたことがありますが、無駄のない立ち振る舞いで料理を仕上げていた印象はあります――変人ですけど」


 ジューンもサラと同様に、彼が変人だという認識を持っているのか。


『……………………』


「ま、まあ、ウェスリー本人と同格の変人とは言わないわ。でもフェリックス先輩たちを思い浮かべると、ウェスリーとセットで思い出すのよ。こめんねホリー」


 あたしはそう応えながら息を吐いた。


 ホリーは頭を抱えていたけれど、すぐに立ち直って真面目な顔でフェリックスに色々忠告すると言っていた。


 あたしとしては、いくらウェスリーが変人でも、友情があるなら大切にすべきだと伝えておいたけれども。


 そんな感じで休憩をしたあたし達は、引き続き魔法の練習を行った。





お読みいただきありがとうございます。




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