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05.幾つかテストみたいなことを


 その後あたしとキャリルは部活棟から寮に移動する。


 自室に戻ったあたしは、直ぐにウィクトルから聞いた話を伝えるためデイブに連絡した。


 【風のやまびこ(ウィンドエコー)】を使って話しかけると直ぐに返事がある。


「それで、何か分かったのか?」


「具体的なことは何も無いわ。でも参考になるか分からないけれど、以前ユリオが『白の衝撃(インパットビアンコ)』の仲間に手紙を書いたそうよ――」


 そうしてあたしはウィクトルから聞き出した話を伝えた。


 以前デイブがユリオを王立国教会本部に紹介した。


 彼が建築の仕事を手伝えるからという話だったためで、デイブ本人ももちろん覚えていた。


 ユリオがデイブと知り合い、表の職業として建築関係の手伝いが決まった。


 それに加えて王都が聖地になって拡張する関係で、建築関係の仕事が今後増える。


「――そういう話を伝えたらしいの」


「そうか。単純にディンルークで活動するための人員で、国教会の仕事をユリオと同じように手伝うって言うんなら安心だが、確証はねえな」


「そういう話はウィクトルは知らないみたい」


「それじゃあ仕方ねえ。事前にユリオの方で何か把握していれば、まだ安心できるが……」


 確かにふつうに考えれば、仲間を送り込んでくるなら事前に連絡するだろう。


 でもディンルークに居るユリオに連絡を入れる手間を惜しむなら、そうする理由があるはずだ。


 その辺りのことをデイブが話してくれる。


「乗り込んでくる人員も実働部隊の二十人だし、そのうちの幹部は全員ユリオと同じくらいの技量と想定は出来るだろう――」


 ユリオの強さは以前の立体機動鬼ごっこの時の感じでは、ランクAの冒険者くらいだった。


 ランクの違いによる強さの違いは個人差が大きい。


 それでも一つランクが上がると、少なく見積もっても下のランクの五倍程度はあるだろう。


 光竜騎士団一般兵一人がランクC冒険者一人と同じくらいなので、ランクB冒険者は一般兵五人分の強さがある。


 その上のランクAだと一般兵二十五人分に相当するか。


 雑な計算だなとは思うけれども。


「二十人の実働部隊という以上、仮に最小単位はチームにしやすい人数で五人で四チームと想定する。各チームのリーダーがユリオと同格だったとして、冒険者ランクAが四人でサブリーダーがランクBで四人。残りの十二人がランクCとか、そんなもんかな」


「それでも凄いじゃない。ええと……、単純計算で一般兵に換算すると百三十二人分の戦力が動いてくるってことになるの?」


 地球の記憶にある何かのテレビゲームの数字じゃあ無いんだから、そこまで見積もりは簡単では無いと思うけれど。


「まあ、ザックリした見通しならそれで充分だろ。王都の治安という意味では衛兵が動けばどうとでも対処できるが……。揉め事が起きたときは大規模になるだろうな」


「うわぁ……。ユリオさんには確認は取れてないの?」


「まだ本人と話が出来て無いんだわ。魔法で連絡が出来ない以上、たぶん国教会本部のどこかにいる。だからいま月輪旅団(うち)の人間を国教会に送ってる」


 そういうことなら待つしか無いのか。


「分かったわ。もし手が足りないようなら連絡をちょうだい」


「ああ。でも取りあえずは……、そこまで神経質になる必要は無い気もしてきたんだがな」


 デイブは何かそう告げる根拠があるんだろうか。


「ええと……、どうしてそう思うの?」


「ユリオが手紙を書いたって話が本当なら、恐らく連中はうちか神官戦士団のところに挨拶に向かうはずだ」


「うん」


 手紙の内容にもよるけれど、王都での生活のために関係しそうなところに挨拶くらいはするだろう。


「おれの勘ではたぶん、格闘神官(モンク)の本部にアポなしで乗り込んで、親睦を深めるとか言いだして試合を始めるだろ。間違いねえ」


 デイブの勘の話を聞いてしまうと、あたしとしては心配するだけ時間の無駄な気がしてきた。


「うわぁどうしよう、凄く想像できるわ……」


「まあ、その場に加わってお嬢が一緒に試合してくるとかじゃ無ければ、取りあえずは関係ねえ感じじゃねえかな? ――取りあえずの話としてはな」


 そこまで聞いて、あたしは我がマブダチの可憐な笑顔が脳裏をよぎった。


 いや、べつに面倒ごとの予感はしないし、あたしが格闘神官の本部に連行されることは無いはずだ。


 ともあれデイブとはそこまで話をしてから連絡を終えた。




 いつものように夕食に行く前に、ソフィエンタに連絡を入れてみることにした。


 屋内訓練場で、ティーマパニア様の声を聴いたような気がした件だ。


 勉強机の椅子に座り窓際のローズマリーの鉢植えに向き直り、指を胸の前で組んで目を閉じてソフィエンタに呼びかける。


「ねえソフィエンタ、ちょっと教えてほしいことがあるの」


「どうしたのウィン?」


 直ぐに念話で返答がある。


 今回は特に神域に呼ばれるような内容でも無いのだろうか。


「さっきあたし武術研のみんなと一緒に、フリズっていう子の武術の適性を見てたのよ。そのときにティーマパニア様の声を聴いたような気がしたの」


「そうなの?」


「気のせいかもしれないけれど、何かあるならティーマパニア様を手伝おうかなって思って」


 ソフィエンタは念話で「そのままでちょっと待ってね」と言って数十秒ほど沈黙する。


「お待たせ。ティーマパニアに確認したけれど、問題の子を自分の巫女候補として面接中だったみたい」


 はて、面接中とな。


「ええと、あの時とくに変化はなかった気がするけど、もしかして……」


「そうね。フリズちゃんだけ神域に呼びつけて、面談して幾つかテストみたいなことをしたみたい。スカートにローブを合わせて試験官のコスチュームをしたとかなんとか」


「ふーん……」


 コスチュームか。


 そういえばティーマパニア様はあたしに『時輪脱力法(じりんだつりょくほう)』を指導するときに、なぜか付けヒゲをしていた。


 彼女は形から入るのが好きなんだろうと思う。


「それで、フリズ先輩は『時神の巫女』になったの?」


「口止めもされていないから教えるけれど、保留みたいね。他の候補者もいるみたいだけれど、同じような感じみたい」


 保留という事は、フリズには時神の巫女の資質がある訳か。


 何というかあたしの視点からすれば、フリズはけっこうグイグイくるタイプだし何かを企むのが好きなひとみたいだ。


「前に話した『自分の中の時間を持つ人』が基準なの?」


「他に二つ、基準を決めたみたいね。機会があったら直接聞いてみなさい、友達でしょ? ティーマパニアとは」


「そうね、そうする」


「フリズちゃんは二つをクリアしたけれど、残りの一つは判断保留みたい」


 例えばそれをあたしが訊いて、フリズに基準を教えてクリア出来たら、彼女は巫女仲間になるんだろうか。


「ちなみにフリズちゃん本人からは、ティーマパニアと面談したときの記憶は取り除いてあるそうよ。今後も他の候補者と同じく、少し様子見するみたい」


「そうなのね」


「ウィン、あなたが考えそうなことは分かるわよ。でも、巫女の仲間になることと、知り合いとして親しく接することは別の話よね?」


 そんなことは分かっている。


 仮にあたしが今後フリズと縁が出来たことで、彼女と親しくすることを選ぶとする。


 でもそれは、フリズが巫女になるというのは関係無い話だ。


 少なくとも、あたしの流儀ならそういうことだ。


「少しだけ種明かしすると、『自分の中の時間』はクリアして、その他に善性に関する基準はクリアしたみたい」


「善性? よく分からないけど、真面目ってこと?」


「さて、その辺はティーマパニアに訊いてね。本体として助言すれば、ネコを被った振る舞いを含めて、フリズちゃんと接するのはあなたにはいいことかもね」


「でも、ぶっちゃけ面倒くさそうな人じゃない? フリズ先輩って」


「その辺の判断は任せるわ。――他には何かあるかしら?」


「とくに無いわね。やれやれ、何だか身近なところに巫女とか(かんなぎ)が増えてる気がするわ」


 あたしの言葉にソフィエンタは笑う。


「ふふふ、分かってると思うけれど、巫女や(かんなぎ)があなたの周りに集まってるのは、べつに神々のご都合主義っていうわけでは無いわよ?」


 神々のご都合主義って何なんだろう。


 互いに巫女や(かんなぎ)を集めて、管理しやすくするとかそういう話だろうか。


「何か理由があるの?」


「そうね。時代の流れなんかにもよるけれど、大きくは確率的な問題と、人口分布の問題、神々が介入するときの守備範囲の問題とかがあるの。その辺りを考えると、神々の権能にもよるけれど分布が似てくるのよ」


 分布が似てくるとはどういう事だろうか。


「例えばだけれど、商業地区で甘いもの屋が固まったほうが、相乗効果でお客さんが増えるのと似てるのかしら?」


「………………」


 あ、念話越しだけれど、ソフィエンタがイヤそうな表情をしている予感がする。


「その意見は完全には否定しないけれど、人間とか社会とか世界が抱える問題は、神々にとって似たような場所で起こりやすいとでも考えておいて」


「そ、そうなんだ」


 あたしはそこまで話した後ソフィエンタに礼を言って念話を終えた。





お読みいただきありがとうございます。




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