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01.話す順番を間違えたか


 フリズに相談されたあたしとキャリルは武術研究会を訪ねた。


 武術に関する向き不向きを判断するために、武術研のみんなにも意見を貰えたらと考えたのだ。


 その結果フリズには、本人が希望する『攻撃的な武術』を修めるには、普通の人以上の努力が必要だろうという話になった。


 もともとの相談では、彼女は今すぐにでも強くなって、本人が慕っているウィクトルと並び立ちたいという希望がある。


 でもドルフ部長やライナスをはじめとする武術研の先輩たちの見立てでは、それは難しいという結論になりそうだった。


 話が終わりそうだったのだけれど、あたしは魔法であるとか、それ以外だと遠距離攻撃の武術の適性を確認していないことを想起した。


 フリズの話では、魔法については習う当てがあるそうだ。


 ならもう一方の未確認である遠距離攻撃の武術の適性は、あたしが弓術の腕をすこしは見られるかも知れない。


 頭の中でそこまで考えている時に、なぜかティーマパニア様の声が聞こえた気がした。


 そしてあたしは我に返る。


「弓矢を試してみませんか先輩?」


 そう伝えるとフリズは不思議そうな表情を浮かべていた。


 だがあたしの声でドルフ部長は戸惑った声を上げる。


「ちょっと待てウィン。おまえはまさか、あの流派のことを考えているのか?」


「違いますよ部長。まずは今日はフリズ先輩の向き不向きですよ」


 部長の心配は分かるんだよ。


「それは確かにそうだが……。しかしもし白梟流(ヴァイスオイレ)のことが念頭にあるなら、俺は素直には勧められん。初心者の心を折る流派と悪名高いからな」


 なにやら先にぜんぶ言われてしまった気がするな。


 でも白梟流が弓術の全てでは無い。


 狩猟部の部活のときにエイリーンから聞いたけれど、王都にも狩人をしている家はあるみたいだ。


 そういう家にフリズが弟子入りすることはできるだろう。


 特定の武術流派でなくても弓術に適性があるなら、フリズに弓矢を勧めることはできると思う。


 あたしがその辺りの説明を部長たちにすると、いちおう納得はしてくれた。


 そこまで横で黙ってあたし達のやり取りを聞いていたフリズだったけれど、本人としては何やら気になった言葉があったらしい。


「ねえウィンさん?」


「あ、はい、何ですかフリズ先輩?」


「白梟流って何かしら? 話の流れでは、弓術の流派なのよね?」


 好奇心半分で、やる気半分というところだろうか。


 質問の口調から判断するに、フリズは知らないみたいだけれど、どうにも食いついている。


 ここで妙な先入観を与えるのもどうかと思うので、あたしが説明してもいいのだろうかと考えつつ、キャリルに視線を向けると彼女は微笑む。


 アイコンタクト的には、我がマブダチはあたしに任せるということらしい。


 思わずドルフ部長やライナスに視線を向けるけれど、「当然だ」とか「お前が教えろ」という雰囲気であたしに頷いていた。


 確かに弓矢の話を始めたのはあたしだし、説明だけはしてみるか。


「覚えていませんか? 先輩が襲われた時、ディナ先生が魔力で作った矢を放ってネズミ獣人を制したんです。あの時のワザが、古式弓術の白梟流の技ですよ」


「ん? あれって魔法じゃないの? 風属性魔力でスパっと切れてた気がするけど」


「先生が魔力で矢を作って、矢じりの形を変えて、それでスパッと切った感じですね」


「やる!」


「え?」


「私覚えたい!」


 マズいな、話す順番を間違えたか。


 白梟流の難易度を説明する前に、フリズが食いついてしまった。




 あたしがどう説明すべきか考えていると、見かねたドルフ部長が代わりに説明してくれた。


「――というわけで、現在は公国の本家は途絶えた弓術の流派だ。習得難易度は高めだな」


「そうですか。でもディナ先生は師範代とのことですが、もともと師範代の家ですか? ディナ先生は王国西部出身ですよね?」


「違います。先生の実家は職人の家だったとおもいます」


 あたしが補足すると、フリズは勝気な笑みを浮かべる。


「それってつまり、弓術に向いていれば師範代になれるってことよね?」


「理屈の上ではそうですが……」


「そもそも今日は、向き不向きで相談に乗ってくれているんですよね?」


 フリズはそう言って武術研のみんなを見渡す。


 するとドルフ部長が口を開く。


「やれやれ。確かに一足一刀の間合いと、百歩一射の間合いは別のものだ。試すというなら俺は止めん」


「いや、意外と悪くないかも知れない」


 肯定的なことを言い始めたのはライナスだ。


「ライナス先輩は賛成ですか?」


 思わずあたしは確認する。


 うかつな理由だと、場合によっては話が迷走しかねないし。


「まあ、反対する理由は無いな。フリズの弓術の向き不向きに関しては、俺の勘ではアリだ。視野とか魔力制御とか、拍子の取り方とか、色々と良い材料な気がする」


 その辺りはライナスに言われるまでもなく、あたしも同感なんだよな。


「何よりウィンの嗅覚はヤバいからな」


 ふっと会話が途切れたところに、カリオのひと言がその場に響く。


 思わず殺気を込めながらツッコもうとしたのだけれど、時すでに遅し。


「ウィンは勝ちを選び取りますわ」


「たしかにまあ、勘が鋭いね」


「ヘンに悩むときは、ウィンの指摘が怖いほどハマるんだよな」


「ある意味で武術家や狩人というよりは、職人に近いといえる」


「確かに、独自のセンスとか戦いの嗅覚とか勝負に関して、野生動物のような迫力はときどき感じるな」


 またみんなは野次馬な感じで好き勝手に言って、最後にライナスが余計なことをマシ気味に言ってくれた気がした。


 その声を聴いたフリズはあたしに視線を向けつつ、何かを企んでいそうな気配をしていた。




「ねえウィンさん。逆の立場ならあなた、どういう選択をするかしら?」


「そうですねえ……」


「私もあなたの勝負強さは噂でよく聞くの。先輩を助けると思って、ちょっとだけ教えてくださいな」


 そう言ってあざとい笑みを浮かべつつ、両手を合わせて指を組んで自身の頬に寄せ、上目遣いで何やらくねくねアピールしている。


 フリズにとってはあれはおねだりしている感じなのだろうか。


 べつにそんなことをされなくても、真正面から聞かれたら応えるんだけれども。


 思わず息を吐いて、あたしは告げる。


「フリズ先輩、あたしにナゾのアピールは不要ですよ。そういう可愛げな仕草は本命の男子に取っておいてあげてください……」


 あたしの物言いに少しだけムッとした表情を浮かべるものの、フリズは苦笑してあたしに問う。


「分かったわ。それでウィンさん、参考に教えてちょうだい?」


「ええ。あたしなら、ですね?」


「そうよ」


「はい。さっき部長たちにも話しましたけれど、弓術って狩猟が源流にあるんです。だからまず弓矢を試して、向いてそうだなって思ったらディナ先生に相談します。でも白梟流が難しすぎるなら、王都の狩人の人に弟子入りして弓の実戦勘を教わります」


 あたしの言葉に不敵な笑みを浮かべつつ、フリズは何やら頷いている。


 そして納得したのか、彼女はあたしに告げた。


「さすがね斬撃の乙女(スラッシュメイデン)。あなた自身はこの二つ名がキライみたいだけれど、私の迷いはあなたがいま斬り捨ててくれたわ」


「そうですか……?」


 フリズはあたしに一方的に告げた後、武術研のみんなに声をかける。


「すみません、弓矢に挑戦してみたいです。誰か、いちばん最初の基本を教えてくれませんか?」


 彼女の言葉に頷いて、ドルフ部長はあたしや狩猟部と兼部している武術研の先輩たちに声を掛けた。


 あたしがフリズに弓矢を教えることになり、他の先輩たちは急きょ部活用の屋内訓練場の中に【土操作(ソイルアート)】で人型のマトを作る。


 そうして準備が整ったところで、あたしはフリズに声を掛けた。





お読みいただきありがとうございます。




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