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08.基本にして秘伝


 個人的にはステータス上の妙な変化があったけれど、ニナの精霊魔法の特別講義は大きな問題は無く今日の分は終了した。


 ニナの話では次回辺りには、精霊の姿を狙い通りに出せる参加者が出てくるだろうとのことだった。


 いつものように休憩の後、刈葦流(タッリアーレレカンネ)の指導に入るという。


 その間にあたしは参加者が使った道具を片付けた。


 今日もキャリルとアルラ姉さんとロレッタ様が来ているので、片付けの後に話しかけてニナを待つ。


 すぐに十五分の休憩が終わり、刈葦流の指導が始まった。


 全体練習を行ってから型稽古を行い、いまは二人一組で木製の大鎌を振るって約束組手を行っている。


「ウィンはこのあと予定はございますの?」


「そうね、ウィクトルに話を訊きに行こうかと思っているわ」


 キャリルに問われてそう応える。


 気は進まないけれど『白の衝撃(インパットビアンコ)』で動きがあるという。


 ウィクトルは、そのメンバーであるユリオの弟だし、何か知ってるんじゃないだろうか。


「わたくしも、ウィクトルに聞いて良いと思いますわ」


 どうやらキャリルも自分の家に情報を流すために、ウィクトルと話をするつもりだったらしい。


 そういうことなら一緒に行こうと、あたし達は二人で話していた。


 目の前では参加者の皆さんが、約束組手を練習をしている。


 週一回の鍛錬だし、急激に動きが良くなるということは無い。


 ただアルラ姉さんなどは、護身用の状術で覚えた体捌きが土台にある。


 ほかの参加者にしても入試で実技試験を潜り抜けているから、何かしらの基礎はあると思う。


 そこにニナからの刈葦流の指導が加わっている感じだ。


 だから見学している感じでは、意外とサマになっていたりする


 近くで他の参加者の約束組手を見ているアルラ姉さんに声を掛けて、そういう指摘をしてみた。


「でも私は、実戦では使えないわよ?」


「もし使えるようになりたいならあたしも手伝うわよ?」


 母さんには前に、姉さんが望むなら月転流(ムーンフェイズ)を教えるように言われている。


 あたしとしても特に否は無い。


「そこまで急いで戦えるようになりたいワケじゃあ無いわ。学院を卒業するまでに、遺跡調査で身を護れるようになれればいいと思っているけれど」


 卒業までか。


 刈葦流の皆伝は当然ムリにしても、身を護るための戦闘力を目指すなら行けそうな気もする。


「ならそこは積み重ねなのじゃ」


 あたしとアルラ姉さんの話し声が聞こえたのか、たまたま近くに来たニナが告げた。


「他の流派は詳しくないのじゃが、刈葦流の指導はどこまでも、基本の精度がのちの上達に関わるのじゃ」


「それはどの流派も同じと思いますわ」


「あたしも同感ね」


 キャリルとあたしの言葉に頷きつつ、ニナは言う。


「妾が教えられておるのは、『大鎌の一振りはイクトゥス・ファルキス・のちの豊穣に至る(フェルティリータス)』という言葉なのじゃ」


「それって口訣かしら?」


 アルラ姉さんが興味深そうに問うけれど、油断すると刈葦流の歴史とかの話に持っていきそうな気がする。


「大層なものでは無いがの、『基本にして秘伝』じゃとノーラお姉ちゃんからは教わったのじゃ」


 ニナはそう言って微笑む。


 基本が結局奥義への近道というのは、うちの流派でも言える話なんだよな。


 今さらながらに思う事ではあるけれども。


 あたしが思わず母さんにしごかれていた日々を思い出して内心しんみりしていると、キャリルが口を開く。


「やはり一撃必殺は美学ですわ!」


「そういう意味では無いのじゃ」


 嬉しそうに告げるキャリルに、ニナは困ったような笑顔を浮かべていた。


 あたしは思わずポンとニナの肩に手を置いた。




 やがてニナの刈葦流の指導が終わり、解散となった。


 あたしは、キャリルとニナとディアーナとアンとカレンと共に、部活棟に移動した。


 途中でカレンから使い魔の話になったけれど、あたし達は無難な感じで『練習中だ』と応えて済ませた。


 すでに覚えてしまっているのを言えないので、カレン以外は微妙な顔をしていたんですよ。


 部活棟でキャリル以外と別れてみんなを見送る。


「どこから探しますの?」


「そうね。まずは武術研じゃないかしら?」


「確かにそうですわね。参りましょう」


 そう言ってキャリルは部室の方に向かおうとする。


 間違いでは無いのだけれど、今日は着替えないし武術研で練習する予定は無いと伝えたら残念そうな顔をされてしまった。


「確かにまずはウィクトルから話を聞くのが優先ですわね。殴り合いはいつでもできますもの」


「殴り合いっていうのは検討の余地があるとして、話を聞くのが優先なのは間違いないと思うわ」


 キャリルとあたしは頷き合って、まずは武術研の部室を覗くことにした。


 ウィクトルを含めて誰も居なかったため、あたし達は部活用の屋内訓練場に向かった。


「「こんにちはー (ですの)」」


『こんにちはー』


 武術研のみんなに挨拶するけれど、どうやら空振りのようでウィクトルの姿は無かった。


 その代わりというわけでは無いけれど、今日はカリオの姿があるぞ。


 どうやら他の人たちのスパーリングを見学していたみたいだけれど、あたし達のところに歩いてきた。


「ウィンとキャリルもウィクトルを探しに来たのか?」


「そうですわね」


「そうね」


 カリオの言い方だと、彼もウィクトルから話を訊くつもりだったんだろう。


「放課後になって直ぐに来たけど、ウィクトルは今日は来てないぞ」


「そうなのね」


 ということは別の場所か。


「男子の寮以外ですと、ウィクトルはどこに居そうでしょうか?」


「たぶん礼法部だと思うぞ。まえに『武術研に来ない日は礼法部で鍛錬している』って嬉しそうに言ってたんだ」


 礼法部というとパメラの所か。


「そうねえ……。礼法部で確認して居なかったら、居そうな場所を訊いてみましょうか」


 あたしの言葉にキャリルが頷く。


「俺は今日は武術研に居るから、なにか続報があったら教えるぞ」


「お願いするわ」「頼みましたの」


 そうしてあたし達は直ぐに屋内訓練場を後にした。


 去り際に武術研のみんなからは、今日は練習して行かないのかと弄られてしまった。




 部活棟に戻ったあたしとキャリルは礼法部の部室に向かった。


 道すがらあたしは、キャリルに礼法部の活動について訊いてみた。


 彼女も詳しくは知らないみたいだけれど、『礼法』と言ったら日常の所作や挨拶から始まって、食事のマナーとか言葉遣いや文章表現の研究など、幅広いものを含むそうだ。


 礼法部の部室前の廊下に到着すると、部屋の中に知った気配がする。


 ウィクトルの気配の他に、パメラの気配がすることに気が付いた。


 部室の扉をノックすると、それほど待たずに中から女子生徒が現れた。


 その生徒はあたしとキャリルを見てギョッとした表情を浮かべる。


 まあ、普段見かけない風紀委員が尋ねてきたら警戒するよね。


「こんにちは、こちらに魔法科初等部一年生の、ウィクトル・フェルランテさんが来ていますよね?」


 あたしが声を掛けると、女子生徒も挨拶を返してくれた。


 そして部室内を振り返ってから、室内に居ることを教えてくれた。


「入ってもよろしいですか?」


「はい、どうぞ。ようこそいらっしゃいました」


 女子生徒はそれでも柔和な笑顔を浮かべてそう告げた。


 あたしとキャリルは礼法部の部室を訪ねるのは初めてだったけれど、室内の装飾がえらく豪華だ。


 貴族邸のような飾り付けがされているけれど、キュロスカーメン侯爵邸くらいには格調が高そうな部室だ


 そんなことを考えながら、あたしはキャリルと一緒にウィクトル達がいるテーブルに歩いて行った。





お読みいただきありがとうございます。




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