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06.聞いた話だけどな


 困っていた称号がステータス情報から消えてくれた。


 あたしは足取りも軽く週明けの教室に向かう。


「おはようございまーす」


『おはようー』


 もう来ていたクラスメイト達に挨拶して自分の席に向かう。


 少ししてみんなが集まりだすと、ディアーナと話している子たちの声が聞こえてくる。


 教皇さま達のモフのミサ関連の奇跡について、話しているみたいだった。


 彼女はあたしとソフィエンタのやり取りを、神域で見ていたんだよな。


 そう思っていると視線に気が付いたのかあたしを見る。


 何となく彼女とアイコンタクトして、二人で苦笑してから頷き合った。


 午前中の授業を受けてお昼になり、実習班のみんなで昼食を食べた後にあたしとキャリルは『敢然たる詩ライム・オブ・ブレイブリー』の打合せに向かった。


 実習棟ではいま使い魔のスキルを覚えるための練習をしている生徒が多いので、今週は魔法の実習室での打合せは場所を変えた。


 集合場所は、大講堂前だ。


 キャリルと向かうと、近くのベンチにコウとレノックス様とカリオがいた。


「お待たせ」「お待たせしましたわ」


 彼らはモフのミサ関連の奇跡について話をしていたそうで、大して待っていないと言ってくれた。


 直ぐに【風操作(ウインドアート)】で周囲を防音にして話を始める。


「それで先週ダンジョンに行ったが、今週はまた『王都都市計画研究会』として活動しようと思う。どうだろうか?」


 開口一番にレノックス様が提案する。


 あたしとしては王都散策はキライじゃ無いし、別に構わない。


 ただ元々この集まりは鍛錬目的なんだよな。


「あたしは賛成なんだけれど、そもそもこのパーティーは武の実戦経験を積むのが最初の目的だったのよね? レノとしてはその辺りは大丈夫かしら?」


「オレの都合でいえば問題はない。ダンジョンに全く行かなくなるというなら問題だが、そういうわけでは無いからな」


 レノックス様としては、実戦を意識する場があるなら、それで大丈夫だということらしい。


 そのあといつもの感じでカリオが決を採る。


「じゃあみんな、気になってることは無いみたいだし、ウィンも納得したみたいだ」


「そうね」


 あたしの返事にカリオが頷く。


「レノの提案通りに、『王都都市計画研究会』として王都散策でいいと思う奴は手を挙げてくれ」


『はーい』


 そうして満場一致で王都散策が決まった。


 あたしとしてはまた屋台が気になると思うのだけれど、心配事があるんだよな。


 屋台の件――


 オーロンが言っていた『赤の深淵(アビッソロッソ)』の件だ。


 仙人夫婦の話はあたしを信じて明かしてくれた話だ。


 でも『赤の深淵』の話は完全に別物だと思う。


 そもそもギルドとして調査依頼を冒険者に出すとか言っていたし、目ざとい人たちは『赤の深淵』と屋台の話を関連付けるんじゃないだろうか。


 加えて『キャリルとレノックス様の安全』と『オーロンの支部長としての仕事のネタ』なら、あたしは迷わず二人の安全を選ぶ。


 そこまで頭の中で計算して、あたしはみんなに話をすることにした。




「ちょっといいかしら。王都散策自体は賛成なんだけれど、あたしの伝手で気になる情報があるの。ただ、まだ裏付けの調査も終わって無い話なんだけれど」


 そう言ってあたしはみんなを見渡す。


 声色で不穏なものを感じ取ったのか、コウとカリオが表情を硬くしているぞ。


「どういう話なんだいウィン?」


「わたくし達が耳にしても良い話ですのね?」


 キャリルも念押ししてくるけれど、いちおうクギは刺されていない。


 ただ、注意が必要なのは言わなきゃな。


「ちょっと安全にかかわるかも知れない話だし、口止めはされていないわ。加えて近々冒険者ギルドから依頼が出るらしいの」


「聞かせてくれウィン」


 レノックス様に促され、あたしは説明する。


「ええ。じつは昨日の闇曜日に、街なかで冒険者ギルドの支部長に会ったの――」


 気配やデイブ達から聞いていた外見的な特徴から、あたしと気付いて声を掛けた。


 オーロンはもともと『赤の深淵』の動きを調査していた。


 怪しい動きをしている商会に気づき、そこが運営する屋台を調べに来た。


 具体的な危険は不明だったが、念のため声を掛けてその場を離れるのを促した。


「――いちおうその場にニナもいたのだけれど、【鑑定(アプレイザル)】とか【真贋(オーセンティシティ)】でもオーロンさんの話はウソでは無さそうだったわ」


『…………』


 あたしが説明を終えると、みんなは考え込む。


 特に表情を険しくしているのはカリオだ。


 共和国出身だし、『赤の深淵』の本拠地があるのは向こうだから、秘密組織のヤバさは感覚的に理解できるんだと思う。


 そしてカリオは口を開く。


「そういう話があるなら、俺は王都散策はあまり乗り気じゃあ無いな。やるとするなら、警備が厚そうな北側の王城に近いところか、貴族の居住地区に限定すべきだ」


「カリオはやっぱり『赤の深淵』の動きが気になるのかい?」


「もちろんだぞ。……っていうのも、ウィンの話とは別の話があるんだ」


「別の話ですの?」


「教えてくれ、カリオ」


 レノックス様の言葉に頷いて、彼は告げる。


「ああ。じつは共和国出身の獣人の情報網――というか、フレディさんから聞いた話だけどな、『 白の衝撃(インパットビアンコ)』に動きがあったみたいなんだ」


 それはそれで、ちょっと不穏に聞こえる話だな。


「カリオ、ありがたい情報だけれど、それをあたし達に話してフレディさんに迷惑は掛からないのよね?」


 だって共和国の駐在武官なんだよな。


 場合によっては軍事機密も関係するんだろうし。


 話せない秘密をカンタンにカリオに伝えるとも思えないけれど、確認は必要だろう。


「大丈夫だぞ。何でかって言えば、仕事上の情報網っていうよりは、風牙流(ザンネデルヴェント)の門人の情報網みたいなんだ」


 そういうことか。


 確かに風牙流を身につけている人には色んな立場の人が居るだろうし、いち早く安全にかかわるような話も伝わるんだろう。


「なら教えてくださいましカリオ。動きとは、具体的にはどのような話ですの?」


「分かっている内容は少ないぞ。『白の衝撃』の実働部隊が二十人ほど、共和国本国からディンルークに向かったらしい」


「目的は分かるかい?」


「分かっていないみたいだ。フレディさん達は、その情報の確認で忙しいみたいなんだ。俺は『レノやウィンにそれとなく伝えて欲しい』と言われている」


 『それとなく』っていうよりは、思いっきり真正面から伝えている気がする。


 まあ、カリオらしいからいいんだけれども。


 彼の言葉であたしは思わずレノックス様に視線を向ける。


 その視線に頷いてから、レノックス様は告げる。


「カリオ、情報に感謝する。あるいは我が家にもすでに伝わっているかも知れないが、確認をさせてもらおう」


「あたしもちょっとデイブに話をしておくわ。ありがとうカリオ」


「ああ」


 レノックス様とあたしの言葉に、カリオは満足げな笑顔を浮かべた。


 その後も念のためみんなで少し話合い、今週の王都散策は貴族の居住地区を中心に行うことに決まった。




 『敢然たる詩』の打合せを終えて防音を解くと、レノックス様はその場でポンポンポンと三回手を叩いた。


 すると周囲の小動物並みに気配を抑えていた暗部の人たちが動き、すぐにレノックス様の前にスーツを着込んだ男女一名ずつが現れる。


 特徴が無いのが特徴のような、一見して学院の職員に見える人たちだった。


「内密の話がある」


 レノックス様がそう告げると、女性が無詠唱で【収納(ストレージ)】を使ったようで、手の中に懐中時計サイズの魔道具を取り出して作動させる。


 その後はレノックス様が話をしていたけれど、終始落ち着いた所作で暗部の人たちは応対していた。


 魔道具の効果と思うけれど、レノックス様たちの声は一切聞こえなかった。


 直ぐに話を終えてから、暗部の人たちはその場から気配を抑えて駆けていった。


「やはり把握していなかったようだ。感謝するカリオ」


「気にしないでくれ。感謝はフレディさんに頼む」


「あたしもちょっと連絡してくるわ」


「でしたらわたくしも、念のため家の者に連絡しますので解散いたしましょう」


 あたしとキャリルはそう伝えてから、その場から離れた。





お読みいただきありがとうございます。




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