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02.人類がかつてのように


 神域でソフィエンタの他に、魔神さまとディアーナを交えて話をしている。


 いまはソフィエンタから、神性龍が大精霊と連携して環境魔力を制御することになった切っ掛けの話を聞いているけれど、古代に大事件があったみたいだ。


「大精霊って、精霊の上位存在よね?」


「そうね。その理解で大丈夫よ」


「精霊でも自然の力そのものみたいな感じなのに、その上位存在だとヤバくない?」


 あたしの言葉に、顔をしかめてソフィエンタが頷く。


「もう大変だったわよ……。あたしはあの時ちょうど、神として着任したばかりだったのよ。研修もまだ実地分が残ってて、タジーリャさまから受けてたんだけれど、いきなり天変地異よ? 地上を壊すわけにも行かないし、でも星全体が更地どころかどこの地獄ですかって状態で半ベソの半ギレだったわ」


「お疲れさまでしたソフィエンタ先輩」


 ソフィエンタの話しぶりに魔神さまが微笑む。


 その笑顔に嘆息して、ソフィエンタは話を続けた。


「……まあそれでも結局、アカシックレコードの利用申請をして何とか巻き戻したわ。魂の状態を記録と揃えるのが大変で大変で……。技術的な話もできるし、セミオートで再帰的に拡散する、魂の状態の更新の話をしてもいいけれど……」


「あ、うん。それを聞いてもあたしの参考にはならないわ」


 そんな話をされてたまるか。


 確実に早い段階で意識が飛んじゃいますよ。


「ウィンはそういう事みたいだけど、ディアーナちゃんは興味があるならアレスマギカに聞いてもいいかもね。当分先の話だけれども」


「分かりました!」


 ディアーナは何やら嬉しそうな表情を浮かべている。


 彼女はそんな話を聞いて、どこに向かうつもりなのやら。


 それでもここまでの話で、過去に大精霊が暴走した話は聞くことが出来た。


「それで、大精霊が二度と暴走しないように、神性龍に監視させているっていうのが神々の秘密なの?」


「うん、大正解。さすがねウィン」


 珍しくソフィエンタに褒められたな。


 特に嬉しくは無いけれども、話の流れ的にそういう説明だろうと思っただけだったりするわけで。


「ぼくが把握している話だと、犯人は捕まらなかったけれど、再発は防止する必要があった。だから竜という魔獣を作り、その中の強力な個体を神性龍として監督役に据えたってことですよね?」


「そういう事ね」


 ソフィエンタの言葉に、魔神さまが大きく息を吐く。


「その辺りの事情は、さすがに人間だったころは思いつかなかったんですよ。竜種だけ、他の魔獣とはちょっと異質な進化があっただろうって考えたんです。何が切っ掛けであんなに強力な生物がこの世界に生まれたのかって、悩み抜いた時期がありましたし」


「まあ、色々あったのよ。単純化すれば神々の秘密だけれど。あと、神性龍に大精霊の監督を任せるようになってから、暴走は起きていないわ」


 ソフィエンタの話によれば、神性龍が暴走を見張っていることで、神々が大精霊にいたずらしようとしても時間稼ぎ出来るようになったそうだ。


「神性龍は神々とケンカ出来るってこと?」


「守勢なら大精霊を制御して、時間稼ぎは出来るわ」


 でもそれって、古代の再現になるんじゃないだろうか。


「そのレベルって、天変地異じゃないの?」


「範囲の制御も出来るから平気よ」


「ふーん」


 あたしとソフィエンタの気軽なやり取りを、魔神さまとディアーナは面白そうに伺っていた。




「それで、アイザックに教えた内容だけれど、流石に今の話ほどには詳しくなかったんだ」


 いや、それはそうでしょうよ魔神さま。


 だって三百万年前の謎の事件だぞ。


 それを想像できる人類は、ある意味変態の類いでは無いでしょうか。


 あたしの思考を読んだのか、魔神さまは面白そうに笑う。


「でもぼくには当時、超魔法文明の知識は残っていたんだ。禁術でムリヤリ思い出させられた、転生前の前世の記憶だけれどね。――そしてかの文明では神性龍と交流があった」


「それは――信仰ということですか?」


 いや、ちがうか。


 でも大精霊の監督者である神性龍と『交流があった』というのは、どういう話なんだろう。


「環境魔力を使った、自然環境の維持とか制御に協力してもらっていたと記憶している。だから信仰では無くて、『同盟関係』が近いと思うんだ」


「もしかしてアイザックさんは、その話を知っていたからですか?!」


 突然ディアーナが元神官の名を口にした。


 魔神さまのことばを集中して聞いていた彼女が指摘するけれど、あたしも同じ意見だな。


「そうだね、だから彼は『精霊同盟』という名を思いついたんだろう」


 そう言って魔神さまは頷いた。


 ここまでの説明はあたしでも理解は出来た。


 神々の秘密は横に置いたとしても、超魔法文明の時代には人類は神性龍と同盟関係にあって、大精霊の力を借りていたということか。


「なら『竜担当』とは、人類がかつてのように神性龍と同盟関係を組むってことですか?」


「それなんだけど……。たぶんアイザックはぼくの構想をそのまま採用したんだと思う」


 魔神さまはそう言って微笑んで、テーブルの上に視線を向ける。


 ソフィエンタが用意した紅茶とチーズケーキは頂いてしまっていた。


 そこに魔神さまは、カフェオレとアマレッティ (アーモンドクッキー)を視線だけで出してくれた。


 あたしとしては思わず、「ありがたやー」と叫んでしまいそうになったけれども。




 魔神さまが人間だったころの構想は、神性龍と人類が協力することは大前提だったらしい。


「ぼくの構想としては、いずれは神性龍に人類を鍛えて貰う予定だった」


「それは、何でですか?」


「超魔法文明の後期に、『超人』という人間たちがごく少数だけど、そうやって世に現れていたんだ」


 超人とな。


 確かオーロンとマーゴット先生の正体が仙人夫婦だけれど、ニナの話ではアラン(=オーロン)は『超人スペリオールヒューマン』だったハズだ。


 リシア (=マーゴット先生)が『超人』かは知らないけれどさ。


「ウィン、その二人なら両方『超人』よ」


 ソフィエンタがそう言って補足してくれた。


 ディアーナは首を傾げているけれど、申し訳ないけどあの二人のことはあたしからは言えないんだよな。


 身内として教えてくれたし、ニナ達が許可しないとあたしは言うつもりは無い訳で。


 その辺りのモヤモヤを察したのか、魔神さまがディアーナに告げる。


「ウィンは個人的な伝手で、そういう知り合いがいるみたいでね。本人たちに確認しないと、ウィンからはディアーナが相手でも話せないんじゃないかな」


「あ、そうなんですね。分かりましたウィンさん。大丈夫ですよ」


「ありがとうございます」


 あたしはホッとしながら魔神さまとディアーナに礼を言った。


「神性龍が鍛えると、人間は『超人』になるんですか?」


「そうだね、数年くらいかな。比較的あっさりっと変化したと思う。そしてそれが進めば、いずれ竜たちと対等になれると考えていたんだ、――人間だったころにはね」


 魔神さまの言い方だと、竜たちの役目を人類に移させたかったという風に聞こえるんだよな。


 『人間だったころには』という言い回しをしているけれど、今は強引に進めるつもりはないようなことを人づてに聞いたような気がする。


 それよりも問題は魔神さまの弟子だろう。


「その元神官のひとは、いまでもそういう構想が頭の中にあるってことですか? それが『竜担当』の目的だと」


 あたしの言葉に魔神さまは頷く。


「ザックは多分ぼくからの宿題のように感じているんだと思う。それでも、ぼくが加護を与えられるようになったし、以前よりは目指しやすくなっているかな」


「いや、――それでも遠大な計画だと思いますよ?」


 あたしの言葉に「そうだねえ」と言ってから魔神さまは微笑む。


「ウィンの言うとおりだけれど、竜っていう生き物は、神々が与えた仕事のために造られたわけじゃないか」


「そうですね」


「ある意味で人類だってそういう面があるのは、ぼくも神になってから気が付いたけれど……。何て言ったらいいのかな……」


 そこまで話してから、魔神さまはカフェオレを一口飲んでから告げる。


「人間は自分たちのことをもっと自分たちで面倒見るべきだし、竜はもっと自由でいいんじゃないかと思ったりはするよ」


「それでも神としては関与するつもりはないのよね? べつにその気があるなら、あたしは止めないわよ?」


 不思議そうな表情を浮かべつつ、横からソフィエンタが魔神さまに問う。


「ぼくは、人間も自由であるべきだと思うんです」


 魔神さまがそう告げると、ディアーナが感極まったような表情で頷いていた。





お読みいただきありがとうございます。




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