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07.態度の軽さが鼻につく


 デイブが『王家の秘密』を口にした事で、ザックは軽いめまいのようなものを覚える。


「やれやれだ……。月輪旅団ともなると、情報の引き出しが多そうだね。その問いについては肯定しよう」


 そこまで言葉をひねり出してから、ザックはどう応えるべきか悩んでしまう。


 正直なところデイブは、ザックにとっては先ほど知り合ったばかりの人間である。


 サイモンの飲み友達という言動が、真贋鑑定の指輪型魔道具で真実だと告げていなければ、もっと早くに伝えていたかも知れない。


 そのことで月輪旅団がディンラント王家にとってどんな存在になるかは、自分としては知った話ではないからだ。


 そこまで頭に過ぎってから、デイブの笑顔を見てまたため息を漏らす。


「けれど、そうだね、私は君に王家の秘密にも関係しそうな竜の話をしたくない」


「ちょびっとだけでもダメか?」


 デイブは心持ち表情を引き締めて問うが、その言葉はどこまでも軽い。


 そしてその軽佻さがゆえに、底が読めない不気味さを感じてしまう。


「君は……。私の話を聞いていたのか? はあ、国際政治の力学に関わると言っておこう」


「へえ」


「それで、私が呪いをかけたのは、その学生を助手にしようと考えていたからでね。彼がもし仮に王家の秘密を知ることがバレれば、秘密裏に殺される懸念があった」


「そんな秘密を教えたのか?」


「本人の才能と意欲と人間性で判断したんだけれどね、結果論からいえば失敗したね」


 ザックはそう言って肩をすくめる。


 その様子を伺いつつ、デイブは確認を進める。


「反省はしている口ぶりだな?」


「まあね、だが後悔はしていないかな。彼の呪いが発動したのは巡り会わせであって、状況的にあの時点でバレたのは事故みたいなものだったと思っている」


 ザックの言葉は基本的に黙って聞くだけのつもりだったのだが、デイブは思わず言葉が出る。


「おまえなあ、その呪いを掛けられた学生の身内から、地の果てまで追跡されて吊るされる可能性とか考えなかったのか?」


 デイブの視線を受けるものの、それが変人を見るような目だと判断したザックは自嘲気味に笑って応える。


「考えて無かったな。ジェイクは優秀だったし、いずれは私と共に竜の件に関して知見を深めていたと思う。そんな未来を根拠なく考えていた」


 デイブとしては少々呆れ気味な視線を強くする。


 それでもここまでの話をふまえて、話を整理することにした。


「まあいい。話しぶりをまとめると、『竜』には王家の秘密に関わるような内容で、国際政治の力学にも関わる内容がある。『竜担当』はその状態をテコ入れする行動をしたかった。そういう話だな?」


「そうだね、色々核心部分を省略しているけれど、実利として大きな方向性はそれで構わない」


「省略してるのか?」


「これ以上は言わないよ? なんなら侯爵様に頼んで貴族にでもしてもらってくれ」


 そこまでザックは告げると、デイブと視線を交わす。


 互いにどこで妥協すべきか考えつつも、ザックは少なくとも自分の言えることは伝えたと認識していた。


 ある意味ハラが据わった様な態度に、デイブも話題を変えることにした。




 デイブとしてもただ内緒話をするためだけに、屋内戦闘の訓練施設を訪ねたわけでは無かった。


 その話を切り出すためにどう説明するかを少し考えてから、彼は口を開く。


「はあ。――まあいい。『竜』の話は正直もうちっと訊いておきたいんだが、別件を先に済ませちまおう」


「何だい、まだ何かあるのかい? 君は厄介ごとを押し売りしに来たんじゃないだろうね?」


「さてね。それでだザック、おまえは『八重睡蓮(やえすいれん)』は知っているか?」


 突如デイブから告げられた単語に意表をつかれ、ザックはその内容に意識が向く。


 しぜん、普段の研究内容などの話が頭をよぎった。


「花の名前かい? ――睡蓮を使った呪いがあったような記憶があるんだが、そういう話かい? 私に魔法などの相談なら、そういう件だろうが……」


「いや、ちげえし。うちの傭兵団の新鋭が『八重睡蓮』って二つ名持ちの学生なんだ」


「ふーん」


 学生で二つ名持ちというのは優秀なんだろうとまず想起し、相手が伝説的傭兵団の王都における元締めというオードラの話を思い出す。


 そこまで思いだすと、デイブが冒険者ギルドの相談役もしているという話を想起し、段々とザックの表情が悪くなる。


「そいつは、ジェイクと言ったか、おまえが呪いをかけた学生の後輩なんだわ」


「へえー…………」


「そんで呪いの一件で、おまえをシメるってブチ切れてるから」


 そこまで嬉しそうな笑顔を浮かべてデイブが告げると、ザックは表情を暗くした。


「…………マジかい?」


「マジだな」


 そう言ってデイブは笑顔を浮かべてサムズアップしてみせる。


 デイブの所作に軽い頭痛を覚えながら、ザックは頭を抱えた。


 彼の反応に少しばかり満足し、デイブは告げる。


「一応本人には闇討ちとかはやめとけって言っといた」


 その言葉でザックは顔を上げ、喜色をにじませてデイブを見る。


 学生とはいえ、月輪旅団の二つ名持ちの新鋭に敵意を向けられている状況は、王家の秘密を知っているという状況とは別の角度の切迫感があった。


 ザックとしては可能な限り状況はクリアにしておきたいと考える。


「感謝するよデイブさん、君は中々気が利く――」


 だが――


「闇討ちするくらいなら、決闘にしておけと言っておいたぜ!」


 デイブはそう言って心持ち笑顔を増し、再びサムズアップしてみせた。


「あんまりだ。私は武闘派じゃ無いんだ……」


「それでだ、今日おれがここに来たのは、うちの新鋭との決闘を見据えて、おれと模擬戦をしておかないかって言うためなんだわ」


「…………マジかい?」


「マジだな。予習も無しに決闘なんかした日には、手加減したつもりがサクッと仕留められかねんし」


 デイブの言葉でザックは背筋に冷や汗が浮かぶ。


「『八重睡蓮』ってそんなに強いのかい?」


「二つ名持ちは伊達じゃあねえな。条件で振れるが、おれと同格かちょっと下くらい……、いや、誤差だな。結構つええぞ」


 月輪旅団の王都の元締めが、態度の軽さが鼻につくものの、いちおう敵対的では無く真贋の魔道具でそれと分かるウソを言っていない。


 それに加えて話の流れから考えて、手勢を使って自分を誘拐するでもなく、わざわざ名乗って話を持ってきた。


 ここまでの流れが、すでに色々とひっ迫しているものを感じさせる。


 ザックはそう認識して重い息を吐いた。


「その子はジェイクの後輩だって言ったよね?」


「ああ、初等科の一年だな」


 さらに聞きたくない情報を知ってしまい、ザックは思わず首を横に振る。


「初等科一年で月輪旅団の元締めと同格って、本物のバケモノじゃないか……」


「この世の終わりみたいな顔してるなあ」


「なにをニヤケて笑っているんだ君は! ああ、なんて日だホントに……」


 ザックが精神的な疲労を増しているのを眺めつつ、デイブは確認する。


「そんで模擬戦はどうする? いらないっつーんなら「やっておくよ」」


 ザックの言葉にデイブが頷く。


「ああ、そう来なくっちゃな」


「私としては望んだ戦いではないんだ。気は進まないがね、それでも君の申し出には感謝する」


 ザックの言葉に何度も頷きながらデイブが告げる。


「まあ、今日は模擬戦でうちの動きのイメージを覚えてくれりゃあいい」


「やれやれ、私は研究畑の人間なんだがね」


「サイモンからはそう聞いたから、俺が出張ってきたんだ」


「それは――、感謝するよデイブさん」


「まあ、おれは殴ったり手足とか首を斬り飛ばしたりしないから、気軽に戦ってくれ」


 デイブの言葉で思わず立ち上がり、ザックは距離を取る。


「首を切られたら私は死ぬよ?!」


「あ、うん、そうだろうな」


 あくまでもデイブの軽佻な言葉に、ザックは首を横に振っていた。





お読みいただきありがとうございます。




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