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06.慣れることはできる


 デイブは自身の母校であるブライアーズ学園の施設については良く把握している。


 そのため彼は自身の目的のために、ザックを体育科の演習林に案内した。


「やれやれ、デイブと言ったかい? 学園内の人目に付かないところで始末されるとかは勘弁願いたいんだが?」


「お、いいねえ。ヘンに取り繕う必要は無いぜ、おれは下町育ちだからな。言いたいことがあったらどんどん言ってくれ」


 デイブの言葉に、内心ため息をつきながらザックは問う。


「君については月輪旅団の元締めだと聞いているよ。そんな人間が私にわざわざ会いに来てどうするつもりかね?」


「そりゃまあ、他の奴に任せられねえ話があったからだ。――そうだな、この先もう少し行くと目的地だが、ひと気も無い。歩きながら話すか。まず一つはあんたが元気にしているか調べるよう、サイモンに頼まれたんだ」


「サイモン様は几帳面だからね。口調や態度では四角四面だけれど、不器用さの裏返しというか」


「あ、それ変わったみたいだぜ?」


「は?」


 デイブの言葉にザックは当惑するが、王立国教会で儀式を受けてから周囲の評価が変わった話を聞いて納得した。


「そういうことか。まったく、ボスの弟子だったころはムリしていたのかね」


「さてな。その辺の話はおれは知らん」


「まあ、サイモン様が息災そうなら、私としては特に何も無いがね」


「それで、あんたの方は無事に暮らせているのか? サイモンが気にしていたが」


 デイブの言葉にザックは怪訝な表情を浮かべる。


「サイモン様が私などを気にかけているとも思えないが、そうだね。学園での生活は充実しているよ」


「分かった。そういう風に伝えておく」


 鷹揚に応えるデイブに、ザックはふと思いついたことを問う。


「なあ、デイブさん。君の組織は侯爵様と組んで動くことにしたのかい?」


「そういうワケじゃあねえな。ちょっと色々あって接点が出来ただけだ。いちおう敵対的ではないとだけ言っておく」


「それで結構だよ」


 彼らが少し歩くと樹々の中に奇妙な建造物が出現する。


 地球の記憶があるものが見れば、解体途中の小中学校やマンションのようだとでも評しただろうか。


 そこにあるのは石造りの三階建ての大きな建造物だったが、窓も扉も無く、魔法で作られた床と壁と柱があるだけの建物だった。


「さて、着いたぜ」


「ここはどういう建物だい?」


「まあ、体育科の授業に接点がない研究者は知らねえよな。演習林がそもそも体力づくりとか戦闘の訓練のために使われるんだが、この建物は屋内戦闘の訓練施設さ」


「屋内戦闘?」


 デイブの言葉の不穏な響きに、ザックは眉をひそめる。


「ああ。体育科の卒業生は冒険者か騎士志望が多いのは知ってるだろ? ここは賊とかを想定した戦闘の訓練に使うんだ」


「それはまた物騒な施設だね」


「ああ。だが訓練しておけば慣れることはできる。そんでもって休みの日にここに来る奴はほぼいない。ナイショ話とか、色んな確認をするには都合がいいだろう」


 デイブが朗らかに告げると、ザックは頭を掻きながら訝し気な視線を彼に向ける。


「ええと、いまとても不吉な言葉を聞いてしまった気がしたんだが」


「細かいことは気にすんな。まずは入り口ホールに行こうぜ」


「やれやれ、本当に何て日だよ」


 嘆きの声を上げるザックを引き連れて、デイブは屋内戦闘の訓練施設に入った。




 装飾も何もない、魔法でとにかく床と柱と壁を作ったというだけの建物だ。


 その入り口をくぐるとホールがあり、広い空間になっている。


 周囲には誰の気配もなく、建物を含めた周辺エリアにはデイブとザックしかいない


 二人は入り口ホールの壁際にある横倒しの石柱まで歩き、並んで腰掛けた。


「それでだ、幾つか知りたいことがあってここまで来てもらった。まずはナイショ話をしたい」


「どんな話だね?」


「あんたが言う『竜担当』とは何を担当するんだ? あんたが魔神さまから『精霊と魔法』を習ったことは知っている」


 デイブの問いに即答せず、ザックは彼の表情から真意を探ろうとする。


 デイブとしては、とくに今は駆け引きするつもりもないのだが。


「サイモンから聞いたが、『竜担当』という言葉で竜魔法を研究するつもりなのかとサイモンは思ったそうだ。だがおれと話すうちに、それなら『魔法担当』でいいはずだと言ってたぜ」


「そういえば、あまり表立って説明したことは無かった気がするかな」


「あんたらは仲間じゃなかったのか? ザック、あんたが関心を向けている『竜』に関することは何だ?」


 デイブの問いにザックは遠い目をした後に少し考えてから口を開く。


「『魔法担当』って、サイモン様がそんなことを?」


「ああ言ってたな」


「そうなんだ、ホントに私に関心を持ってくれたのか。ずいぶん丸くなったなあ。感慨もひとしおだよ。うんうん」


 デイブの言葉に自らが知るサイモンのことを思いだしたザックは、嬉しそうな表情をしていた。


 その様子にデイブは微妙そうな表情を浮かべる。


「そんなにサイモンって『凄かった』のか?」


「なんかねえ、他人の言動にわれ関せずって感じだったよ。いつも仕事に追われてる感じがしたかなあ」


「ふーん。まあいいや。それで『竜』の話は?」


 デイブに核心部分の問いを告げられ、ザックは固まった。


「どした? 言えねえのか? 言いたくねえのか? 言うつもりがねえのか?」


「…………」


「何なら、言いたくなるように脅迫してやってもいいんだが?」


 そう言いながらデイブは、爽やかな笑みをザックに向けてみせる。


 だが今はその爽やかさが内容を伴っていないため、非常に残念な方向にうさん臭さが増しているのだが。


「爽やかな笑顔で言うような言葉かね?! そうだなあ……、君が救いがたい悪党で王国に仇為すような手合いなら、色々と面倒ごとが増えそうなので断っただろうさ」


「おれは善良な一庶民だぜ?」


「君が善良な一庶民かは措いて、サイモン様の友人というのはその言動とか真贋の内容から間違いなさそうだ」


 ザックはそう言って、重いため息をつく。


 彼の言葉にデイブは不敵な笑みを浮かべつつ問う。


「真贋を確かめたのか?」


「いけなかったかね?」


「いや、なかなか器用だなって思っただけだ」


「こっそり魔道具を使っただけだよ。――まあそれはいい。デイブさんがサイモン様の友人なら懸念がある。君は王国貴族では無いね」


 そう言ってザックはデイブが纏う雰囲気や服装や装備品を観察し、これまで観察した内容をふまえてデイブに確認した。


「そんな身分に見えるか?」


「違うんじゃないかな」


「ご明察だな。そもそも下町育ちだって言っんだが、真贋は魔道具で確かめたんだろ?」


「そうは言っても、お隣のフサルーナ王国では爵位を購入できる。そこから王国貴族と養子縁組もできるだろう?」


 ザックが指摘するが、デイブは肩をすくめて「貴族なんざ柄じゃねえよ」と笑った。




 本人に伝えるつもりも無いが、ザックとしてはデイブの率直な物言いに安心感を増していた。


 それでも今日、ノエルとオードラから詰めが甘いとお小言を山ほど貰ったばかりである。


 ザックは一つ嘆息してからデイブに告げる。


「うん、ということで、ディンラント王国の貴族では無い君が『竜』に関する秘密を知れば、君は王国の敵扱いになるかも知れない」


「へえ」


「それはすなわち、私が呪いの件で逃げた理由でもある」


「単純に、呪いを学生に掛けたことで、社会的な地位を追われることが嫌で、とっとと失踪したって話じゃねえのか?」


 デイブの言葉にザックは顔をしかめる。


「その程度で済むなら、私はとっとと出頭していたとおもう」


「それはつまり、そうしなかった理由があるわけだよな? 単刀直入に言って、それは『王家の秘密』に関わるのか?」


 再び爽やかな笑顔を浮かべて問うデイブを見て、ザックは思わずため息を漏らした。





お読みいただきありがとうございます。




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