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01.成功するといいですね


 闇曜日の休日に、ザックとフレイザーは王都の商業地区を歩いていた。


 もともとはザックが闇ギルドのオードラに頼まれ、王都に潜伏する『赤の深淵(アビッソロッソ)』の構成員を探す方法を検討していた。


 ザックが案出しに行き詰っていたところに、自らが顧問をする部活の生徒に探し方を相談した。


 その結果、一般的なセオリーを外れた禁術の類いを使い、周囲に魔力の動きを隠しながら潜伏していることに思い至る。


 中でもザックが真っ先に思い付いたものが、自身の意識の中に通常の自我とは別の『閉じた魔法的自我』を呪いで作り出す技法だった。


 技法の使用者の自我が壊れていく副作用はあるものの、秘密組織ならその辺りは気にしないのではないか。


 ザックはそう考え、多重人格を可視化する闇魔法を指輪に組み込んで魔道具とした。


 今日はブライアーズ学園が休みであるため、フレイザーを誘ってザックは商業地区に繰り出していた。


「露店で使われている魔道具としては、やはり計量する魔道具が一番普及しているのでしょうか?」


「いや、さすがに計量は分銅を使うものの方が多いだろうね。魔石を使ってまで計る必要があるものは、意外と限られると思うのだが」


「そう言われればそうですね。となると、やはり無難にマジックバッグになりますか?」


「その通りだね。よく観察してご覧。おおよそ、どの店でも使われているのだから――」


 人の多いところで、魔法や呪いなどの際どい話をしながら歩けば、ザックとフレイザーは注目されるかも知れなかった。


 少なくともその自覚があったザックは、フレイザーと生活用の魔道具の話題を話しながら移動することにした。


 台所用品やマジックバッグ、文房具や寝具などなど。


 普通の魔道具の話ではあったが、研究畑を自認するだけはあり、ザックの話は道具の発達と交えてちょっとした『魔道具の文化史』の様相を呈していた。


 そうして二人は歩く。


 フレイザーはザックの話題に自然と集中しつつも、ある地区で姿がブレて見える者が増えて事に気付く。


 気付いたことをザックに話してもいいが、目的の者たちだったなら自分たちの身が危険に晒されるかも知れない。


 『禁術を普段から行う人でなしの連中』と聞いていたフレイザーは、どう相談したものかと頭に過ぎった。


「ふむ……、先生。非常に興味深い話ですが、『ありふれた論考』で、『その辺に満ちていることの話題』になってきていませんか?」


 ふだん自身が使わないような言葉をザックに向けたところ、それを耳にして彼は笑みを深くする。


「そうだね。これまで話した以外に『色々示唆的な情報はある』から私は『君が気になるのは分かる』よ」


 そう言ってザックは足を止め、肩をすくめてみせた。


 事前に文献を使って、王国における多重人格者の話をザックは調べていた。


 学園の図書館の医学書によれば、概数ではあるが集団の中で百人から数百人に一人の割合で存在するとのことだった。


 王国の医学では『体質の一種』という説が採用されていて、攻撃的な人格が社会生活の妨げになっている場合は、闇魔法による治療が推奨されていた。


 その辺りの情報はフレイザーと共有していたが、彼らが商業地区のその一角に入り込んだところ、すでに数名の多重人格者を見かけていた。


 少なくともザックの魔道具により、そのように判断された。


「『分かっている』のなら、仕方ないですね」


 やや当惑するようにフレイザーが告げるのに微笑みつつ、ザックが口を開く。


「仕方ないかな。ふむ、ここに来るまで生活用品の魔道具の話をしてきたね?」


 そう言いながら手の平を動かし、フレイザーに歩くように示して歩を進める。


「はい……」


 フレイザーは息を吐いてザックに並んで歩く。


「台所用品の中では、冷蔵の魔道具は中々普及しなかったんだ。この話は聞いたことがあるだろうか?」


 周囲の状況も気になっていたが、ザックの話に興味を抱いたフレイザーが告げる。


「中々ですか。身近にあれば使うと思うのですが、普及しなかったのは何故ですか? やはり魔石を使うからでしょうか?」


「そう言ってしまうとその通りだけれど、細かく言うと、結局魔法で何とかしてしまうという事でね」


 ザックの言葉に言葉にフレイザーは頷く。


 ここまで歩きながら話をしているが、商業地区の中でも人通りはそこまで激しくない通りだ。


 たまにすれ違う通行人に気を付けつつ、二人は歩く。


「冷やす時は氷を作ったりするからね。気がつけば沢山いるはずのお客も、氷のように溶けていくといった話になるだろうか」


「どこかに行ってしまう……」


「ああ」


「そう考えると、魔道具開発の本質は、工芸技術というよりは商売に近いように聞こえてきます」


 二人がそこまで話すと、声を掛ける者がいた。


「面白い話をなさっていますね」


 背後から声を掛けられ、ザックとフレイザーが足を止めて振り向く。


 するとそこにはローブを着込んだ一人の獣人の男が居たが、彼らには姿がブレて見えていた。




 表情を硬くするフレイザーをよそに、ザックは頬を緩める


「ああ失敬、声が大きくなってしまったかな」


「いえ、魔道具の話は共和国ではそこまで議論されないのです。歩いている方向が同じでしたので聞こえてしまいまして、不躾ですが聞き入ってしまいました」


 獣人はザックとフレイザーの視覚の中で、その姿を二つにブレさせながら愉快そうに笑う。


「意外ですね。今どき公国からもそれなりの輸入があるでしょうに」


「王国ほどにはなかなか。共和国では地域格差がありましてね。ところであなたは魔道具に詳しそうですが、冷蔵の魔道具など、厨房用の魔道具を売る店は知りませんか?」


 妙に穏やかな雰囲気で問われ、フレイザーは毒気が抜かれていた。


 それでもザックは特に表情を変えることも無く、薄く微笑みながら言葉をつなぐ。


「そうですねえ。商業ギルドで訊くのを勧めますよ?」


「仰る通りですが、ギルドはこちらの商売のネタがバレそうですから」


 獣人はそう言って腕組みする。


 その様子に、ザックは考え込むような表情に切り替える。


「ふむ、そういうものですか。そうなると、そうだなあ……。私が知る商会が、魔道具店を持っています。そこは品質が確かですね。ヘタな安物を買うと壊れた時に大変ですよ?」


「なるほど。参考にその店を教えて頂けませんか?」


「構いません――」


 そう応えてザックは、ノエルの商会が経営する魔道具店を紹介した。


 場合によってはオードラたちが気付くかも知れないと思いつつ、咄嗟に店の名前を伝えることにしたのだ。


 加えて道順や品ぞろえの情報なども獣人に伝えると、相手は表情を緩めていた。


「なかなか参考になりました。情報料を、お支払いしなければなりませんね!」


「あ、いえ。ただの世間話にお金は取れませんよ。王都で暮らせば、知る者は知っている店なので」


 ザックはそう告げながら、油断なく視覚にダブって見える獣人を観察する。


「ところで、王国にはお仕事ですか? 巡礼のお客様という風では無さそうですが」


「ああはい。巡礼客を当て込んで、訪ねています」


 獣人の表情はあくまでも穏やかだ。


 その様子にザックは笑顔を浮かべつつ頷く。


「なるほど、成功するといいですね」


「はい。お話ありがとうございました」


「いえ、それでは」


 ザックはそう告げるとフレイザーに「行こう」と短く告げて、二人で歩を進めた。


 その後もザックとフレイザーは魔道具の話をしながら散策を続け、自分たちの調査にそれなりの手ごたえを得た。




 冒険者ギルドを離れ、あたしは教皇さまの家に向かった。


 商業地区からはほど近い庶民が済む区画で、中央広場からも大して距離が無いため直ぐに着いてしまった。


 約束の時間には少し早めだけれど一階部分の喫茶店とは別の、以前も訪ねた入り口を入り、神々の石像が飾られた中庭を通り過ぎる。


 そのまま集合住宅の玄関に入り、階段を昇って最上階に辿り着く。


「内装とか、清潔感がある気がするわよね……」


 思わず呟いてしまうけれど、内装というよりは手入れが行き届いているからかも知れないな。


 たしか教皇さまの話では、この集合住宅には教会関係者がほとんどだと言っていた。


 あるいは生活空間を清潔に保つのは、修行の一環なのかもしれない。


 そんなことを思いつつ、目的の扉の前に立ちドアノッカーを使う。


 程なく扉が開き、中から教皇さまが現れた。


「こんにちはウィンちゃん」


「こんにちは教皇さま」


「ああ、今日は仕事でないし、いつも通りデリックで構わぬよ」


「恐れ入ります。そもそも休みの日に済みません」


 あたしの言葉に教皇さまは破顔する。


「はっはっは。気にせんでいいのじゃ。ゴードの孫なら吾輩の孫みたいなものじゃ。まあ、上がりなさい」


 教皇さまに促されて、あたしはお宅に上がり込んだ。



――――――


従来より各話に添付してきたイメージ画ですが、

aipictors様の生成環境の変化により、今回以降は省略いたします。

既存の画像はそのまま残しますので、ご了承ください。

今後とも拙作をよろしくお願いいたします。 (2025/8/28)


――――――





お読みいただきありがとうございます。




おもしろいと感じてくださいましたら、ブックマークと、


下の評価をおねがいいたします。




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