11.日頃の行いも関係する
冒険者ギルドに顔を出すことにしたのは、少しだけ苦情を言いたかったからだ。
ギルドの相談役であるデイブからは謝罪してもらったし、尾行騒動の黒幕の話はサイモン様から聞くことが出来た。
だから今回の件は腹は立てていないけれど、今後も尾行者が出てくるようならちょっと困る。
正確には面倒くさいです。
なのであたしとしては、直接ギルドにモノ申しておくことにした。
冒険者ギルド入り口を入り、一階ロビーに入るとそこまで混んでは居ないようだった。
そのまま『総合受付』の行列に並び、待つことしばしあたしの番になる。
「こんにちは、本日はどういったご用件でしょうか?」
「こんにちは、ええと、ギルドへの苦情はこの窓口でいいですか?」
あたしの言葉に受付のお姉さんが一瞬固まる。
「恐れ入ります、どのような苦情でしょうか?」
「そうですね、他の冒険者が受けた依頼の内容に関係しますが、ここでその内容を話していいですか?」
「しょ、少々お待ちください」
受付のお姉さんはそう言ってから席を立ち、事務スペースにいる別の職員に相談してから直ぐに戻ってきた。
「恐れ入ります、お客様は冒険者登録証をお持ちですか?」
「はい、ありますよ?」
あたしが【収納】から取り出して示すと、受付のお姉さんは完全に営業用スマイルを張り付けてあたしに告げた。
「ウィン・ヒースアイル様ですね。ご用件は伺っております。恐れ入りますが、三階の応接室でお待ちいただけませんでしょうか?」
「分かりました」
あたしが頷くと、お姉さんはホッとした表情を浮かべてあたしに一礼した。
そのまま階段を昇って指定された応接室に入る。
ソファがあるので適当な席に座り少し待つと、ギルド職員の男性が現れていきなり頭を下げられた。
今回あたしが学院で冒険者に尾行されたことは把握しているそうだ。
用意した学院の制服を着用して学生に成りすまし、その状態で尾行するのは依頼内容には書かれていなかったという。
尾行した冒険者もデイブがお説教したそうだし、ギルドとしても再発防止に努力するとのことだった。
話の途中で職員の男性にはソファに座ってもらったけれど、そこまで説明されたら応接室がノックされてレイチェルがやってきた。
「本当にごめんなさいねウィンさん。すでに説明があったかも知れないけれど、依頼者についてはギルドが調査を行っています」
おっと、その件はキュロスカーメン侯爵家の“庭師”の皆さんと、北部貴族の人たちが対処したハズなんだけれども。
あたしがそのことを考えていると、納得できなかったように見えたのか、レイチェルと職員の男性が視線を交わしてから再度頭を下げた。
なにやら本格的な謝罪に発展しそうだったので、あたしとしては先ずそこまで気にしていないことを最初に伝えた。
「今回のことはあたしの伝手で色々と背景の情報は把握しています。なのであたし個人としてはもう終わった話と思っています」
「ウィンさん……」
「ただ、今日訪ねたのは似たようなことが、今後も起こるのは困りますって言っておきたかったんです」
あたしの言葉に二人は頷き、再発を防ぐ努力をすると明言してくれた。
レイチェルの口調はこの段階では、終始仕事モードで対応してくれた。
「本当は支部長にも頭を下げさせたかったんですけれどね。こんな時こそ責任者なら頭を下げないといけないのですが」
レイチェルがそう言って苦笑いを浮かべる。
それを聞いてあたしはどう応えたらいいものか考え込んでしまった。
さっきまでオーロンとマーゴット先生に会ってたんだよなあ。
「…………」
あたしが思わずこめかみを押さえていると、レイチェルが不思議そうな顔をする。
「どうしたんですかウィンさん? べつに支部長に頭を下げさせるのは、今回は妥当な対応なのです。学院生徒の安全に関わる話ですし」
「あ、いえ、何というかさっき、オーロンさんと彼女さんに街で会いまして」
「え゛……?!」
あたしの言葉でレイチェルが笑顔を浮かべたまま固まり、殺気が膨らんでいく。
いや、オーロンには心配されて声を掛けられたんですけれども。
「オーロンの彼女って、例のドワーフ族の血を引く方かしら?」
あ、レイチェルの口調が、鬼ごっこで会ったときの感じになった気がする。
「はい、あたしの知人でもあるので」
「…………野郎、またシメるか」
レイチェルが殺気を込めてボソッと告げると、隣に座っていたギルド職員の男性はビクッとしていた。
そのままのテンションでレイチェルを放流しても、微妙にオーロンが可哀そうな気がした。
日頃の行いも関係するかも知れないけれど、念のためあたしはフォローする。
「あ、いえ、独自に何か気が付いたことがあって調べていたみたいなんです。そこにあたしとクラスメイトが通りかかって、心配して安全なところに案内されたんです」
「…………野郎のその言い分は本当かしら?」
「あたしはウソを言ってるようには感じませんでしたよ」
そう告げると、応接室の中には重苦しい沈黙が満ちていく。
職員の男性は何やら顔色が悪くなっているぞ。
何だろうこの空気。
あたしが戸惑いながらレイチェルの反応を待つと、彼女は細く息を吐く。
「分かったわウィンさん。――でもそれはそれとして、今回の尾行の件はキチンと調査して再発防止しておきますね」
「はい。あと、黒幕についてはデイブにも相談してみてください」
デイブの名前を出すとレイチェルは微笑んだ。
月輪旅団が何か掴んだと判断したんだろう。
「なるほど、そういうことですか。承知しましたウィンさん。お気遣い感謝します」
そこまで話してから、あたしは応接室を離れた。
冒険者ギルド一階のロビーにもどると、知り合いの気配がしたので視線を向ける。
するとそこにはゲイリー達が居た。
しばらく見かけなかったけれど、元気そうだな。
相変わらずスキンヘッドとかピアスが閃いているけれども。
それでもゲイリーとケムとガスの三人は、以前よりは気配がマシになっている気がする。
折角だし少し話してみようと思い、声をかける。
「こんにちはー。元気そうね三人とも」
「ん? おお、こんにちは八重睡蓮のお嬢」
「「こんちわー」」
「そうだな、お陰さんで元気だぜ。お嬢はなにか依頼の手続きか?」
ここであたしの尾行騒動の話をするのも、ギルドのメンツをつぶしかねないんだよな。
お茶を濁しておくか。
「そんな感じね。あなた達も依頼かしら」
「いや、最近は闇曜日はダンジョンに行ってねえんだ。きっちり休みを取るようにしたんだぜ――」
そう言ってゲイリーはスキンヘッドを閃かせる。
ゲイリーによれば闇曜日の午前中は、それぞれが習っている武術の道場でトレーニングをしているそうだ。
その後に三人で集まって昼食を食べたあと、王都をブラブラして過ごしているらしい。
そうか、王都を普段から散策しているのか。
彼らに最近の王都で気になることは無いかを訊いてみた。
「何か人手不足みたいだな」
「だな。おれ達も冒険者でパッとしなかったら、速攻で足洗ってたかもしれないくらいだ」
「そうそう。ヘタすりゃ冒険者ギルドの依頼をこなすより、商業ギルドの依頼をこなしたほうが割が良さそうだ」
ゲイリーとケムとガスが順に告げる。
「そうなのね。でもあなた達は冒険者を続けるの?」
あたしが問うと、ゲイリー達は続けると胸を張った。
自分たちを鍛える算段が付いたので、今後も冒険者を続けて、それが行き詰まってから足を洗ってもいいだろうと相談しているそうだ。
「なかなか手堅いじゃない」
「そりゃまあメシのタネは、多いに越したことはねえからよ」
ゲイリーはそう言って得意げに笑っていた。
ウィン イメージ画 (aipictors使用)
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