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09.わたしが特定したんだ


 オーロンは冒険者ギルド支部長として、『赤の深淵(アビッソロッソ)』の動きを追っていたらしい。


 その過程で幾つかの商業ギルドを介さない商会の活動が目についたそうだ。


「でまあ、じっさいに商会の活動を見てみたくなったわけよ」


「それであの広場の近くに潜んでおったのじゃな」


 ニナの言葉にオーロンが頷く。


 それはいいんだけど、結局あたしが声を掛けられたのは、月輪旅団関係者だと思ったからなんだろうか。


「オーロンさん、なんであたし達は声を掛けられたんですか?」


 彼は「そうだなあ」と呟いて、少し考えてから説明を始めた。


「まずあの広場の屋台のどれかに、魔法的な仕掛けでもあるかなって観察してたのよ」


「なるほど。それは見つかりましたか?」


 あたし的には妙な予感は働かなかったんだよな。


 でもオーロンが気が付いた何かがあったんだろうか。


「それがねえ、ウィンは知らないと思うけど、ソルミオンていう粒子が妙な動きをしている気がしたのさ」


「ソルミオン、ですか? 粒子?」


 この世界では、化学は失伝しているんじゃなかったのだろうか。


 粒子という概念はどこから出てきたんだろうか。


「うんそう。で、オジサンとしては怪しさ満点に感じたので、君らに声を掛けた。で、ちょうどマーゴットが来る。そして不審人物の気配は無かったけど、念のため『三塔』を警戒して認識阻害を掛けてもらった」


「「ふーん」」


 あたしとニナはいま一つ分からない部分がある。


 いや、ニナは分かっているのだろうか。


 なにやら怪訝そうな表情を浮かべているぞ。


「ソルミオンは“役割”が仙人(ルート)じゃないと分からないだろうねえ」


 オーロンの言葉にニナが首を横に振る。


「“存在の三要素”じゃったか? そんなものオカルトなのじゃ」


「さっきオーロンさんが粒子って言ったけれど、粒子って?」


 あたしがニナの様子を伺いつつ、他の三人に問う。


 するとマーゴット先生が嬉しそうに説明してくれた。


「お言葉だねニナ。あれを見つけたのはわたしだよ? ええと、粒子っていうのはモノの材料みたいなんだ。鑑定の魔法を細かく細かく使っていくと、砂粒もその材料が見えてくる。そして材料の材料とかをどんどん遡っていくと、そこに辿り着いたんだ」


 そう言ってマーゴット先生は胸を張る。


 どうしよう、専門用語が飛び交うマニアック(オタク)な議論が始まるんだろうか。


 あたしが空気になろうと頑張っていると、ニナが告げる。


「それは初耳じゃが、客観的に検証できないものは妄想と変わらんのじゃ」


「詳しいことはもう覚えてないけど、俺たちが高位の仙人を目指した時も、『仙人なんか妄想と同じ』って、里で似たようなことは言われたねえ」


 オーロンがニナの言葉に目を細める。


 べつに彼女の言葉にガッカリしている訳でも無さそうだ。


 というか、たぶんあれはソルミオンなるナゾの粒子 (?)を信じて疑わないカンジだろうか。


 ニナがオカルトとか言っていたけれど、カルトじみた妙な方向に進むならあたしは帰ろうかな。


 そう思っていたらマーゴット先生がニナをなだめる。


「まあ、気持ちは分かるよニナ。わたしも魔法による検証は何百年か前に保留にしたし」


「話にならんのじゃ」


 ニナは嘆息しつつ肩をすくめる。


 あたしからもひと言ツッコんだ方がいいんだろうか。


 ニナがテンションが下がってそうなんだよな。


「ええと、どういう話なんですか? オカルトじみた未検証の粒子を、仙人のスキルとかで察知したとか?」


「スキルってわけじゃあ無いけど、感覚的に『世界を構成するもの』がなんとなく分かるようになってくるんだ」


 あたしの言葉にマーゴット先生が微笑んだ。




 マーゴット先生の話では、『世界を構成するもの』をまず魔法的な手段で集めたそうだ。


 具体的には魔力の集中と制御を儀式魔法で行って、属性に分かれる前の魔力を一か所に集めた。


 それに対して、鑑定の魔法を連鎖的に発動して調査したとかなんとか。


「そして鑑定の魔法とかを駆使して、三種類あるところまではわたしが特定したんだ――」


 ひとつはソルミオンという粒子で、魂とかの構成要素。


 別の一つはエマニオンという粒子で、性質から判断して魔素とおなじもの。


 もう一つはロギオンという粒子だけれど、先生では理解不能だったらしい。


 そこまで黙ってマーゴット先生の話を聞いていたニナが、苦笑いを浮かべる。


「ノーラお姉ちゃんを経由して闇神さまに質問を投げたら、『秘密ね~』としか言われなくてショックで寝込んでおったのう」


「そんなこともあったね」


 マーゴット先生はそう言って、ニナと二人で笑っていた。


 いや、ちょっと待って欲しい。


 ノーラはあたしと同じで闇神さまの分身だ。


 その彼女が秘密だと伝えたなら、それはアシマーヴィア様の答えだろう。


「ええと、ふつうにそれ、神々の秘密なんじゃないですか?」


 あたしが思わず指摘するとオーロンが口を開く。


「どうなのかねえ。仙人の中でも上位の存在は、皮膚感覚で察知できるわけよ。神々の秘密なのかねえ?」


 上位の存在か。


 恐らく仙人という“枠割”にも段階があるんだろう。


「まあ、ぼちぼち話を戻すけど、何か普通の状態じゃ無いカンジであの広場でソルミオンが蠢いてたところに、ウィンたちが来たってわけなのよ」


 マーゴット先生にあたし達を魔法で変装させたのは、念のため『三塔』を警戒してということだった。


 あの場所を離れたのは、ニナがオカルトだと言っているナゾの粒子がヘンな動きをしていたからだった。


 いちおうそこまでは話は分かった。


 納得したかは別だけれども。


「わたしを呼んだのは、ダブルチェック目的かいオーロンくん。うん?」


「そんなの、もちろんデートが主目的だね。学院に近い広場から始めたのは、君に会いに来たからだし」


「うふふふふ、なーんだ、そうだったんだ」


 外見的にはマーゴット先生の魔法で獣人の耳としっぽが生えているけれど、オーロンがオジサンなのは変わらない。


 その彼がマーゴット先生に甘い言葉を伝えるのは、年の差カップル的なものを思ってしまった。


 確かにレイチェルに何か言われるかも知れないかな。


「そうそう。でもついでに、赤の深淵(アビッソロッソ)が魂に関する妙なことをしてるようなら、ソルミオンの動きで異常が出るかなって思ってたわけ」


「完全に理解したよオーロンくん」


 なにやらここまでマーゴット先生は終始ゴキゲンだな。


 魔法で変装しているとはいえ、自分の旦那さんと休日に街歩きをしているのは気分がいいんだろうか。


 あたし的には二人に確認しておきたいことはあるけれども。


「結局あの場から逃げてきたっていう事は、ナゾのオカルト粒子が危ない動きをしてたってことですか?」


 あたしが『オカルト粒子』というと、マーゴット先生が苦笑いを浮かべた。


「オジサンの勘だとあの場では大丈夫そうだった。けどねえ……」


「どうしたのじゃ?」


「飲み込まれたらヘンな効果があるかも知れないって一瞬考えちゃったのよ。指向性があるかは調べればよかったかな」


 ニナに問われてオーロンが少しだけ真面目な表情で応えた。




「わたしとしてはもうちょっと調べたかったよ」


「まあねえ。でも屋台関連がクロらしいってのは分かったから、あとは普通の人間でも検証できる証拠を集めさせようと思ってるのよ」


 オーロンがそう告げるとマーゴット先生は頷いた。


「ええと、一応確認したいんですけれど、『屋台での買い食いが危ない』ってことですか?」


 ここははっきりさせておかないと、あたし的には非常に困るんです。


「とりあえず、屋台で客相手に何かを仕込んでいるわけじゃあ無さそうだったなあ」


 そう言ってオーロンは考え込む。


「ニナとウィンが来た途端に、ゆっくりとだけど迫ってきたのはどういうことなんだろうね」


 マーゴット先生がそう告げるけれど、断言できないなら困るんだよなあ。


「屋台が利用できないのは、わりと死活問題なんですけど?」


「魂に関わる粒子は、ヤバかったら教会で祈るなり、教会に行けないなら自分の部屋で祈るなりすれば大丈夫だと思うよウィンくん。今回はそんなに激しい動きじゃ無かったし」


「…………やっぱりオカルトなのじゃ」


 どうにも要領を得ない話になったけれども、オーロンやマーゴット先生的には屋台は怪しいのだそうだ。


 さらに言えば、ニナにとっては『オカルト粒子』とするものが怪しいようだった。


「一応確認しますけれど、あたしとニナを担いでるわけじゃあ無いんですよね?」


「そんなことをするメリットは、オジサンたちには無いねえ。マーゴットとデートしてても良かったし」


 ウソは言っていないみたいだし、状況的にオーロンが言っていることは妥当なんだよな。


 そういう話なら、今回は善意で声を掛けてくれたと思うことにしよう。


 微妙にモヤモヤするけれども、あたしはそう考えていた。



挿絵(By みてみん)

ノーラ イメージ画 (aipictors使用)




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