04.まだ尾行されたってだけ
あたしが史跡研究会の部室でみんなと話したり、マクスに謝らせたりしている間に、エルヴィスはどうやらあたしを尾行していた人を確保したらしい。
ディアーナが魔法で連絡を受けて聞いたところでは、尾行者はあたしを見失った後に狩猟部の部室の前から移動したそうだ。
事前にどこかから情報を集めていたらしく、薬草薬品研究会の部室を見張っていたとのことだった。
そして部活棟を中心にパトロールし始めた、エルヴィスと彼の友達の女子たちが尾行者を見つける。
あとは尾行者に話を聞いて色々とつじつまが合わなかったので、リー先生に通報したとのこと。
すぐに高等部の先生がやってきて、そのまま高等部の職員室に連行となったらしい。
連れていかれる前に先生たちが【真贋】の魔法で確認しつつ聴取したら、どうやらあたしの名前が出てきたとのことだった。
「――そういうことですので、いま学院構内を巡回する衛兵さんや、リー先生が指示して筋肉競争部の部員さんたちを中心にパトロールを強化しているとのことでした」
「何だかいきなり大ごとに聞こえるのだけれど……、あたしの調査って……」
ディアーナの話に思わず呻く。
誰がどういう目的のために、あたしを調べようとしたのだろう。
月輪旅団に所属する八重睡蓮としての顔。
『敢然たる詩』で、レノックス様やキャリルと過ごしていること。
あるいは斬撃の乙女や諸人の剣からの調査。
幾つか思いつくけれど、人を使って調べさせるというなら――――
「やっぱりアレなのかしら……」
あたしが思わず呻くと、その場のみんなはあたしに視線を向ける。
「なにか心当たりがあるのか?」
「ウィン、カチコミをやるっつうんなら俺様も手伝って構わねえんだぜ。さっきの詫びのぶんくらいはぶっ込んでやるんだぜ?」
ライゾウとマクスが順に告げる。
「心当たりはありますけど、もしかしたら貴族絡みです。――マクス、べつに謝罪は受け入れたから気にしなくていいわ」
二人はあたしの言葉に釈然としない表情を浮かべている。
「貴族の問題ということなら、わたしも力になれるかも知れませんよ?」
確かにディアーナは『魔神の巫女』ということで、王国から一代限りの騎士爵に任じられてはいる。
ただ今回の話は場合によっては、北部貴族の人たちに目を付けられたセンが思いつく。
要するに、王国での議会制度の話を持ち出したことだ。
あたし的には一切、後悔は無いのだけれども。
そうでは無かったとしても、将軍様やあたしに目を付けた誰かが何らかの調査を始めた可能性もあるか。
貴族家の許嫁の話とかは全力で断りたいけれど、そのくらいはまだカワイイものだ。
北部貴族の人たちの中には、あたしが気に入らないと言い出す連中もいるかも知れない。
「まだ尾行されたってだけなのよ。問題はその尾行した人がヘタクソだから、あまり人を選んでいるヒマがなかったか、腕利きを使いたくなかったか」
「なら、なおさらわたしから王宮に――」
ディアーナの言葉をさえぎって、あたしは首を横に振る。
「色々あって、複数の貴族に目を付けられた可能性もあり得るの。ディアーナの影響力が必要ならお願いするけれど、まずは情報を集めなきゃ」
これはお爺ちゃんと、デイブの両方に話しておくかなあ。
そう思っているとディアーナは溜息をついて告げる。
「分かりました。そういうことでしたら、たしかに月輪旅団の皆さんに相談した方が良さそうですね」
「うん。それとブルースお爺ちゃんにも話をしておくわ」
あたしがディアーナに応えると、コウが口を開く。
「ウィン、たぶんデイブさんたちが動くなら大丈夫だと思うけれど、ボクたちで手伝えることがあったら遠慮なく声を掛けて欲しい」
「そうだね。僕たちは君の味方だよウィン」
パトリックもそう言って微笑んだ。
「分かってるわ。ありがとうね、みんな」
あたしの言葉にみんなは頷いてくれた。
その後あたしは確認のために、史跡研究会の部室から【風のやまびこ】でリー先生に連絡を取った。
状況についてはディアーナから説明された通りだったけれど、学院内のパトロールが一段落するまではその場にいて欲しいと言われる。
「なんだかあたしのために済みません」
「気にしないでくださいウィンさん。不審人物に対処するのは、当たり前の対応ですよ」
そう言ってもらえると少しは気がラクになる。
「そういえばあたしを尾行していた人ですけれど、どういう人間だったんですか?」
「冒険者でした。ランクはCで、依頼は『指定した人物の素行調査』という名目だったようです」
素行とか言われても困ってしまうんだけれども。
あたしの食い意地とかが判明するかも知れない調査だな。
「冒険者ギルドを経由した依頼っていうことですか?」
「そうみたいですね。直ぐに冒険者ギルドに照会しましたが、本人も依頼人も犯罪歴などは確認されなかったので、良識の範囲内ということで受理したとのことでした」
「調査対象があたしというか、学生なんですけど」
「そうですね。ウィンさんの名前が出たタイミングで、冒険者ギルドでも依頼人の調査を開始すると確約頂きました」
「そうですか……?」
「ええ。ギルドの中でもファンが多いのだと言っていましたね」
それを聞いたあたしは脱力した。
「そ、それは身に余る光栄です」
「はい。ですので、尾行した人物はただ依頼をこなしただけと考えて良いでしょう」
そういうことなら尾行者には問題無いか。
デイブには夜に連絡を入れようかと思っていたけれど、直ぐにでも連絡した方が良さそうだな。
「分かりました。パトロールが一段落するまで、あたしは史跡研究会の部室で待機します」
「お願いします。日頃のアツいトレーニングの成果を活かして、わたしの筋肉競争部の生徒たちが、肉体を震わせながら学院中を駆け回っています。ぜひその猛々しい熱量を想起しながら、その場で待機してくださいね?」
「………………」
イヤだなあとおもったけれど、それを口に出さなかったのは褒めて欲しい。
過程はともかく、目的ではお世話になっている訳だし。
「待機してくださいね?」
「………………はい」
その後、あたしは気を取り直して、リー先生に礼を言ってから連絡を終えた。
みんなにはリー先生から聞いた話をかいつまんで伝えてから、あたしは直ぐに【風のやまびこ】でデイブに連絡を入れる。
「こんにちはデイブ。いまいいかしら?」
「――――」
「デイブ? おーい?」
「――――ああ、お嬢すまねえ。尾行があった件だな? ギルドの方で審査が甘かったようだな、悪かった」
デイブは相談役だし、もう学院での話が伝わっているだろう。
べつにデイブのせいじゃ無いのだし、気にしないで欲しいけれど。
「べつに大丈夫よ。それよりも尾行してた人は冒険者だったみたいじゃない? ランクCってことだったけれどあの人ヤバいわよ?」
「ヤバい? なんかされたのか?」
「そんなワケ無いじゃない、とっとと撒いたし。そうじゃなくて、あの尾行の腕じゃあそのうち大ケガするわよ」
「あー……、わかった。そいつも仕事でやってただけだからクレームを入れる訳にはいかんが、学院に潜入って時点でギルドに確認しなかったのは怒っておく。尾行の腕もな」
そういうことなら問題無いか。
「冒険者ギルドってそんな依頼も受けるの?」
「ああ、学生の調査くらいならふつうに受ける。だが、学院の敷地に入り込んで、事務手続きで調査って訳でも無しにいきなり尾行とかは、冒険者ギルドの流儀じゃねえな」
「ふーん?」
「依頼人の方はいまギルドで調査を始めたし、それとは別にロクラン経由で月輪旅団の連中に投げてたとこだ」
酒屋のロクランってことは、月輪旅団の偵察チームが動き始めたのか。
あたしのことでみんなの仕事を増やしちゃったんだな。
それは申し訳ない感じがするなあ。
「ごめんね、手間を掛けちゃってさ」
「微塵もお嬢が気にする必要はねえからな。おれらの身内で起きたことはお互いさまだ。お嬢も何かのときに手伝ってくれりゃあいい」
「分かったわ、ありがとう。みんなにもありがとうって伝えて」
「ああ。なんか分かったらまた連絡する」
「うん。あと今回の件、ブルースお爺ちゃんにも話しておくわ」
「連隊長の爺様か、いいと思うぜ。おれらが動いてることも伝えておいてくれ」
「分かった。ありがとうデイブ」
そこまで話してあたしは連絡を終えた。
ディアーナ イメージ画 (aipictors使用)
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