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12.妙な二面性は感じる


 食堂で声を掛けられたあとはいつも通りにみんなと昼食を食べ、昼休みを過ごして午後の授業を受けた。


 帰りのホームルームではディナ先生から『聖地案内人』の説明があったけれど、今日は活動エリアの話だった。


 放課後になってあたしは実習班のみんなやプリシラたちと部活棟に向かう。


 狩猟部の練習に参加するためだったけれど、道すがら昼間のことをサラやキャリルがプリシラたちに説明した。


 するとホリーが苦笑しながらあたしに告げる。


「ウィンが食べるの大好きなのは知ってるけどさー、フードファイトって要するに大食い対決だよねー?」


「そうだと思うわ」


「ウィンはどっちかといえば、“量より質”ってタイプだと思ってたんだけど違うのー?」


 べつにそんなことは無いんだけどな。


 いわゆる地球の記憶でいうところのB級グルメをたくさん食べるのだって、ないがしろにしている積もりは無いんですよ。


「そんなワケ無いじゃない。あたしお貴族さまじゃ無くて平民よ? 街の食堂の味とか大好きなんですけど?」


「いや、貴族がどうこうじゃなくてさー、『街で評判になってる美味しい店』とかで、量に挑むよりは美味しさを求めてるっていうかさー」


 そんなことを言われても、それはケースバイケースだと思うわけで。


「別に間違いじゃあ無いけれど、料理研が関わっているみたいだし気になるじゃない?」


「まあ、たしかにその話がホントなら、大ハズレな料理は出てこないと思うけどさー」


 そんなことを話しているうちに部活棟についてしまう。


 ホリーとの話もそこそこに、あたしとサラはみんなと別れて狩猟部の部室に向かった。


 身体を動かせる服に着替えたら、他の部員と一緒に部活用の屋外訓練場に向かった。


 ディナ先生が訓練場に到着し、あたし達は身体強化をしない合同練習を行った。


 その後に個別練習に移り、エイリーンに見てもらいながら白梟流(ヴァイスオイレ)千貫射(せんかんしゃ)無影射(むえいしゃ)の練習をした。


 魔力の矢を打ち出す無影射については成功するものの、射るときに殺気がこもってしまうのは自分でも把握できていた。


「せっかく覚えた無影射ですけど、これじゃあ狩人の仕事では使えませんね」


 あたしが手を止めてエイリーンにそう告げると、笑われてしまった。


 本来はもっと時間を掛けて覚える技だし、殺気を消したとしても今成功している水属性魔力以外の属性魔力でも満遍なく成功する必要があるそうだ。


「――他にもたぶん想像できると思うけれど、飛距離を伸ばしたり矢継の速さを鍛えたり、けっこう課題はあるのよ?」


「そうですね。動物や魔獣相手に狩猟を行うなら、キリなく練習した方がいいですよね」


 あたしが苦笑いを浮かべるとエイリーンは微笑む。


「ウィンちゃんは弓矢を使うこと自体が好きみたいだし、それって才能よね」


「そうなんですかね?」


 二人でそんな話をしつつ、あたし達は白梟流のワザの練習をして過ごした。


 狩猟部での練習を終えると、あたしは制服に着替えるために部員のみんなと移動した。


 その道すがら、サラから声を掛けられる。


「なあなあウィンちゃん、けっこう白梟流の練習に集中しとったやん。ウチ、ウィンちゃんやったらフードファイトを想像して、ソワソワするんちゃうって思っとったんやけど」


 サラはあたしの様子を観察していたのだろうか。


「見てたのね?」


「見てたいうか、目に入ったいうか。たまたまやで」


 そんなことを言われてもなあ。


「うーん、あたしとしてはむしろ、すでにフードファイトは始まってる気がしたのよ」


「どういう事なん?」


「カンタンな話よ。たくさん食べるには、お腹をすかせていくべきよ。そのために練習に集中して体力と魔力を使ったのよ!」


 あたしがそう主張するとサラは笑う。


「ふふ、ウィンちゃんやったらそう言うと思っとったわ。そんでホントのところはどないなん?」


「もちろんいま言った理由も真実だけど、弓矢に集中するのが好きだからよね」


「うん、知ってたで」


 あたしがサムズアップすると、サラは可笑しそうに笑っていた。


 狩猟部の部室で着替えたあたしは食堂に移動した。


 サラもイベントが気になったらしく、あたしに同行してくれている。


 二人で食堂の入り口をくぐると、たぶん許可を取ったのだろうけれどテーブルの並びが変更されて、そこはフードファイトのイベント会場になっていた。




 食堂でウィンにフードファイトへの参加を促したのは、非公認サークルの『地上の女神を拝する会』に所属する生徒だった。


 ウィンは顔を覚えるのが得意なことは彼らに知られていたため、面識がないことが確実な者が選ばれてウィンに声を掛けた。


 そもそもの話は『地上の女神を拝する会』の二大派閥が関係していた。


 ひとつは生徒会書記のシャロンを優等生の正統派美少女として推す派閥だ。


 そしてもう一つは、裁縫部の部長であるエレンをやり手のお姉さん系美少女として推す派閥だった。


 彼らはことあるごとに、互いの派閥のメンバーを切り崩すために努力を重ねていた。


 ところが学院で新年度が始まって以降、新しい勢力が発生した。


 それがウィンを推す派閥で、第三勢力として急速に数を増やしていた。


 これに危機感を覚えたシャロン派とエレン派が一時休戦の上で結託し、ウィン派へ対抗することになった。


 一月の最終週のある日、派閥の主要メンバーたち数名が放課後に集まり、学院の食堂の一角で話し込んでいた。


「――そもそも俺は、彼女のファンになる理由がいま一つ理解できないんだが」


「ああ、おれも同感だが、一応話を聞いてみた」


「何か分かったのか?」


「色んな声があったんだが……、二つ名持ちで恐ろしいほどの斬れ味を持つ名剣のような手練れなのに、食いしん坊のギャップがたまらないってのは良く聞いた」


「ギャップで陥落したのか?」


「ギャップなんだろうか……? 守ってあげるべき妹風の可憐な雰囲気があるのに、いちど不条理なものに怒ると守ってもらいたくなる覇気を感じるとか」


「確かに妙な二面性は感じる。勉強はできる優等生だけれど、それでいて困ってる生徒を見捨てられない人情味とかは、風紀委員会のメンバーでも定着してるだろ」


「いや、そこはキャリルさんやニッキーさんと被るんじゃないか? ――とにかく、彼女の派閥の話を聞いてから感じるのは、『何か予想もつかないことをしでかす美少女』という評価らしいんだ」


「あー、好奇心が満たされる系か。……それって『地上の女神』なのか?」


 何やら盛り上がっているのか盛り下がっているのか、よく分からない気勢で彼らは話し込んでいた。


 それでも彼らの話は、ウィン派閥へ対処するために、ウィンを何らかの形で陥れられないかという方向性に転がる。


 ところがその話も、ウィンの武の腕前であるとか風紀委員会に所属すること、勉強の成績なども優れていて性格的にも陥れるスキが無いことが指摘された。


 彼らの話し合いは暗礁に乗り上げたが、そこに一人の男子生徒が声を掛けた。


「なかなか面白そうな話をしているじゃないか諸君。もし良かったら俺がひとつ提案してやるが、いかがだろう?」


 その場の『地上の女神を拝する会』のメンバーが視線を向けると、そこには怪しく微笑むウェスリーの姿があった。


 即座に警戒する表情を浮かべる彼らをなだめつつ、ウェスリーはフードファイトの開催を提案する。


「――つまりウィンの“食いしん坊さん”なところにつけ込むわけだ。人間だれしも本性は変えられん。果たして彼女が大量の食べ物に臨んだら、何が起こるだろうな?」


 ウェスリーはそう告げてくつくつと笑う。


 その場の『地上の女神を拝する会』のメンバーがウェスリーに説得される頃には、フードファイトイベントの骨子が決まっていたのだった。


 そうして奇妙な思惑を秘めたイベントが開催されることになり、当日の放課後に至った。




 あたしはサラと一緒に食堂に入り、すっかりフードファイト会場になってしまった場所に向かった。


 すでに野次馬が集まり始めているし、あまり大ごとになるのは悩ましいところだった。


 それでもあたしには三つの料理の食べ放題が待っている。


 少しばかりの騒ぎくらいは気にしない方が味わえるんじゃないだろうか。


 そう信じてあたしは中央のテーブルに向かった。


 そこには昼間に声を掛けてきた男子生徒と、知った顔が集まっていたからだ。


「こんにちは。もしかして待たせたかしら?」


「こんにちはにゃーウィンちゃん。時間的にはちょうどいいにゃ」


 あたしの声に応えたのはエリーだった。


 他にはすぐ傍らにパメラの姿があり、視線を移すと実習班のみんなやシルビアの姿もある。


 彼女たちは応援に来てくれたのだろうか。


 そう思っているとあたしの表情を察したのか、シルビアが口を開いた。


「ウィンさんこんにちわっす。今日はよろしくお願いするっす」


「こんにちはシルビア先輩。……先輩は、ええと料理研に入ったんでしたっけ? もしかしてお料理担当ですか?」


 あたしが訊くと朗らかに笑う。


「あはは、いやーウェスリー先輩にすすめられて、今日はフードファイトに参加するっす」


 それはちょっと想定していなかった話だ。


「ええと、シルビア先輩は大食い対決って大丈夫ですか?」


「そうっすね、対決って言われると怪しいっすけど、じぶん食べるのはちょっとだけ得意っす」


「あれ……? 闇曜日にシルビア先輩たちに会いましたけど、あの時にウェスリー先輩やエリー先輩もいましたよね。もしかして参加は決まってたんですか?」


「いやー、じつは知ってたっすけど、ナイショにしていた方がウィンさんは喜ぶって聞いたっす」


「聞いた? 誰にですか?」


「もちろんウェスリー先輩っす」


 そう言って笑うシルビアは、初対面の時のどこか冷めたような雰囲気からは遠く、柔らかい印象が感じられた。


 ノーラの魔法だとか学院で過ごす時間が、彼女を癒しているんじゃないだろうか。


 彼女の笑みで、あたしは何となくホッとしてしまった。


 ウェスリーに関してはそのうちシメよう。


 あたしはそんなことを考えていた。



挿絵(By みてみん)

エリー イメージ画 (aipictors使用)




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