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08.普通ではない状態になって


 目の前で起きたサイモン様の変化に、参列したあたし達は一斉に叫ぶ。


『弾けた?!』


「サイモン!」


「あなた!!」


「お父様!!!!」


 だが周囲に巻き散らかされた奇妙な魔力は、シンディ様とニナとイネス様が展開した盾の魔法で防がれている。


 不思議なのは教皇様をはじめとした教会関係者だ。


 盾の魔法を展開しているようには見えないのに、ネチャッとした魔力を弾いている。


「なるほど、そういうことですか……。シンディ、協力してください!」


「何か分かったんですの?」


「魔力の動きを見る限り、教皇様達は【焚気(ウィリグナイト)】を掛けているようです。おそらく事前に準備したのでしょう」


 そのやり取りでシンディ様は頷き、無詠唱で火魔法を放った。


 範囲展開されたその魔法は、あたし達に火属性魔力をしみ込ませた。


 途端に意識が明瞭になった気がする。


「どういう魔法なんですのお婆様?」


「火魔法の一つで、意志の働きを強化し、精神や思考に関する能力低下をふせぐことが出来るようになります」


「副次的な効果じゃが、意思決定の速度上昇がみられるのじゃ」


 キャリルが問うと、シンディ様とニナが応えた。


「教皇様たちも事前に教えてくれれば良かったのに」


 あたしが思わず呻くと、その声が聞こえたのかイネス様が苦笑いする。


「恐らくは、ここまで広範囲に及ぶことは想定していなかったのでしょう。せいぜい儀式を行っている、神官の皆さま方で済む範囲と思っていたのではないかと」


「ここまで広がったのが想定外ということは、サイモンは大丈夫なのでしょうかお義母様?」


 ウルリケ様がそう訊いて表情を暗くする。


「その点は問題無いでしょう。責任問題という話なら儀式を行っていたのは教皇様です。他のどなたが行ってもこうなったでしょう。本人は意識が無いようですが、魔力の状態は安定しているように見受けられます。あれなら肉体的には問題無いでしょう」


 イネス様がそこまで話すと、ウルリケ様はホッとした表情を浮かべた。


「問題はなぜ、こんな奇妙な魔力がサイモンから出てきたのかですが――」


 そこまで告げてイネス様は言葉を濁す。


 さすがにイネス様にもその原因までは想像できないようだ。


 あたし達がそうやって話している間にも、目の前で儀式は続いていく。


 幸いというか何というか、一度ネチャッとした魔力を飛び散らせた後は、サイモン様の魔力に異常は感じられない。


 ただ本人は気絶してしまったのか、身体を神官戦士団の人たちに支えられている。


 魔力を放出してしまったのが原因だと思うけれど、気配は普通の人間のそれなので肉体的なダメージなんかは無さそうな気がする。


 プリシラのときと同じように、順番に儀式は進んでいった。




 やや巻き気味というか、急いで行っている感じはあたしが見ても分かる。


 本人が気絶しているし、早めにサイモン様を手当てしたいのだろう。


 あたしとしては目の前の儀式も気になるのだけれど、何となく周囲の気配が妙なことになっているのに気づく。


 王立国教会本部の敷地内で、色んな人がそれぞれの仕事をしたり礼拝なんかをしている感じは何となく気配で察知できていた。


 何となくというのはダンジョンに潜っている時と比べると、人間の数が多いので気配が多すぎて全体としては追いきれないからだ。


 それが変化してしまった。


 魔力が弾けた後から、国教会本部の敷地内に居る人の気配が怪しくなった感じがする。


 ひどい酔っ払いというか錯乱というか、普通ではない状態になった人がどんどん増えているような気がした。


「あの、すみません。シンディ様、なんだか国教会本部の敷地内でヘンな人が増えてる感じがするんですけど。そういう気配がするというか」


「妾もそれは気になっておるのじゃ」


「少し待って下さいまし」


 その直後にシンディ様は無詠唱で風魔法を使った。


 魔力の感じは【振動圏(シェイクスフィア)】に近いのだけれど、放たれた魔力の量が【風操作(ウインドアート)】並だ。


 ひどく薄い風属性魔力がシンディ様を中心に、波が広がるように周囲に広がって行った。


 気を付けていなければそよ風を感じたのと錯覚するくらいの変化だけれど、あれは魔力による振動が伝わっている感じだ。


 シンディ様のことだから、【風操作】で【振動圏】を再現したんじゃないだろうか。


「――そうですわね、たしかにあまり好ましくない状況のようですわ」


「どういうことですのお婆様?」


「状況から見て、先ほど飛び散った魔力を切っ掛けに、王立国教会本部内の人たちが何らかの影響を受けてしまったと考えるべきでしょう」


 キャリルに問われてシンディ様はそう応えた。


「起きてしまったことは仕方がありません。国教会の皆さまと協力して、場を収めることを考えましょう」


 イネス様はそう告げるが、直ぐにシンディ様が首を横に振る。


「あなたはサイモンに付き添うべきですわ。ウルリケとプリシラもそうです」


「しかしシンディ」


「大丈夫ですわイネス。わたくしが居ますし、キャリルもウィンもニナも居ります。ホリーはプリシラたちを護衛した方がいいでしょうか」


「はい、弁えておりますシンディ様」


 シンディ様の言葉にホリーが頷く。


 あたし達がそこまで話していたところで、儀式を行っていた部屋に突如法衣を着た二人組が駆け込んで来た。


 彼らは教皇様が儀式を行っているのを見て一瞬ホッとした表情を浮かべるが、すぐに表情を硬くした。


「お二方。国教会の方とお見受けしますが、外はどうなっておりますの?」


 シンディ様が声をかけると、彼らは困った様子で説明し始めた。




 彼らは別の部屋で儀式を行っていた、大司教さまと司教さまだと分かった。


 その大司教さま達は無事に儀式を終えて、担当した信徒の心を回復させることに成功したという。


 結果に満足して感謝を述べられていたのも束の間、奇妙な魔力が壁を通り抜けて飛んできて、その場の数名に命中したそうだ。


 変化が無かった者も居たそうだけれど、命中したほとんどの人は神官か信徒かを問わずに状態異常に陥ったという。


「状態異常ですか?」


「はい。酩酊状態だったり、錯乱しているような状態です。中には暴れ出したり歌を歌ったり、着ているものを……おっと。とにかく、普通ではない状態になってしまいまして」


 イネス様が確認すると大司教さまがそう教えてくれた。


 でも『着ているものを』って言いかけたのが、あたし的にはイヤな予感がするんです。


 大司教さまたちは上長である枢機卿さまに連絡を入れて相談し、教皇さまの指示を仰ぐことになったそうだ。


 とはいうものの、状態異常を起こさなかった神官の皆さんが動き始めたとのこと。


 手分けして場を収めているらしい。


 具体的には魔法で眠らせたり、気絶させたり、動けなくしたりしているとのことだった。


「状況は分かりました。そうなると教皇様とお話すべきですが……」


「どうかお気になさらず。お伝えしました通り、対処は始めております。それに見たところ、そろそろ儀式も終わりそうです」


 心配そうな表情を浮かべるイネス様に、大司教さまは穏やかに応じる。


 そして程なく、サイモン様の儀式が閉式した。


 大司教さま達が教皇さまに駆け寄るので、同じタイミングであたし達もサイモン様に近づく。


 神官戦士団の人たちが【収納(ストレージ)】から用意した毛布を敷いて、サイモン様は床に寝かされている。


 近くで表情を見る限り、サイモン様は疲れて寝入っているような顔をしていた。


 すぐにイネス様が無詠唱で魔法を使ったけれど、魔力の感じではたぶん【鑑定(アプレイザル)】を使ったんだろう。


「全く心配をかけて、困った子ですねサイモン」


 イネス様はそう呟いてため息をついた。


 そんなやり取りを見ていると、大司教さまからの説明を聞いたのか教皇さまがあたし達のところにやってきた。


「色々と予測せんかったことは起きたが、儀式は成功したのじゃ。サイモン殿は儀式の影響で一週間ほどは魔法の威力が上がったりするが、直ぐに元通りになるじゃろう」


『ありがとうございます教皇さま!』


 イネス様とウルリケ様とプリシラが声を揃えて頭を下げる。


「気にせんでいい。吾輩たちは務めを果たしただけじゃからのう。――ただ、可能ならば本人を交えて、このような状態となったきっかけについて聞き取りを行いたいところじゃ」


「承知いたしました。本人が回復次第、そのように整えます」


 教皇さまの言葉にイネス様が再度頭を下げた。


「うむ。――それでじゃ、吾輩はこれより国教会の敷地内で起きている事態を収拾せねばならんのじゃ」


「その件ですが教皇さま、イネスの依頼を受けましたので、わたくし達も助力することはお許しいただけますでしょうか?」


 シンディ様の言葉に教皇さまが少し考え込み、口を開く。


「助力は確かにありがたいのう。――恥ずかしい話じゃが、今回のことは吾輩たちの見込みの甘さが原因じゃ。こういったことは過去にもあったし、レディ・キュロスカーメンは気に病まないで欲しいのじゃ」


 教皇さまの言葉にイネス様は納得がいかない様子だったけれど、シンディ様が「いまは対処が先です」と諭していた。


 そして教皇様からも協力を求められる形で、あたし達も手伝うことになってしまった。


 イネス様と教皇様から頼まれ、シンディ様に促され、キャリルがノリノリになっている。


 その時点であたしとしては、厄介ごとの予感しかしなかったのだけれども。



挿絵(By みてみん)

ホリー イメージ画 (aipictors使用)




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