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11.何かを担ってるってこと


 あたしとマーシアは調査を担当した商会の報告を終えた。


 そのあとに尾行をした件でロクランに話をしているけれど、その場にいる月輪旅団のみんながマーシアとあたしの話に聞き入っている。


 デイブとブリタニーは二人で手分けして魔法で連絡しているみたいだけれども。


 尾行した二人組が買い食いしていたことを話したら、ロクランは笑っている。


「マーシアもそうだったと思うんだけれど、念のため隙を見せてる可能性を考えたのよ? でも陽動で別に監視してる奴はいなかったわ」


 あたしはそう言って肩をすくめ、マーシアに視線を向ける。


 彼女もあたしの方を見て頷いているな。


「……チンピラだな。……傭兵団では捨て駒だろう」


 話を聞いていたオズウィン・カムランというお爺さんが、横からボソッと喋った。


 オズウィンは喫茶店の店主らしい。


 捨て駒か、あまりいい言葉じゃあないよね。


 みんなもオズウィンの言葉に頷いているけれども。


「話を戻すが、マーシアの話では霧鉛兵団(むえんへいだん)の拠点ということだろう」


「それは間違いないわ。立ち寄っただけの可能性もあるし、彼らが所属していたかまでは分からないけれど」


「いや、たぶん確定だろ」


 ロクランはマーシアにそう応えた。


 そこまで話が進んで、あたしは気になることがあった。


「チンピラが傭兵団の仕事をできるの?」


「普通はムリだ。だが連中は肉壁要員として使っているな」


 ロクランの言葉に「損耗を前提の使い捨て要員だね」という声を上げる人もいた。


 それを聞いたあたしとしては気分が悪い。


「ムカつくんですけど。何よ、そのやり口」


「まあ、うちじゃあ考えられないな。だがあいつらは闇ギルドとの噂が絶えない連中でね。加えて料金設定の幅が広いから、上手く稼いでる」


 ロクランが苦笑しながらそう説明した。


「闇ギルド?! あと料金設定って……」


「霧鉛兵団の団長は闇ギルドの幹部だっていう話は、ずい分前から言われてる。ただ連中は闇ギルドの兵隊にしては、仕事がそこまで汚く無いんだわ」


 『仕事が汚く無い』というのは、対人戦闘などで残虐な戦い方をしないという意味みたいだ。


 ロクランの話では、霧鉛兵団のトップ層は冒険者ランクでいえばSに届きそうな腕利きで、下はそこら辺にいるチンピラレベルらしい。


 仕事によって上手く使い分けて、手広く仕事をしているそうだ。


「月輪旅団では考えられないが、あいつらはそれで業績を上げてるって話だな」


 業績か。


 傭兵団も仕事のひとつである以上、命のやり取りでお金を稼いでいる。


 でも捨て駒という単語を聞いてしまったあとだと、業績という言葉があたしには重く感じた。


「ええと――、あたしとマーシアが尾行したのは『霧鉛兵団』の使い捨て要員で、イヤな予感がしたのは腕利きが控えてたってことかしら?」


「ん? イヤな予感?」


 あたしの言葉にロクランが不思議そうな顔をする。


「建物に近づくとダメそうな気がしたのよ」


「そうか……。ならそうなのかもな。マーシアも妙な気配を感じたんだろ?」


「ええ、そうね」


「ならそうなんだろうな」


 やっぱりあの時点で引き返して良かったんだろう。


 冒険者ランクのSということは、場合によってはデイブとかニコラスとかに届くような手練れが出てくるかもしれない訳か。


 それは戦いたくないなあ。




「霧鉛兵団については分かったけど、その傭兵団は関係しそうかしら?」


「否定も肯定も出来ないな。取引先の商会が共通してるってのが偶然じゃ無いなら、今回の件に関係あるかもだな」


 あたしの言葉にロクランはそう応えた。


 他にも気になることはある。


「闇ギルドがどうとか言ってたけど、裏に居るのが闇ギルドってことはあり得るの?」


「さてな。いまは情報が無い。調べるなら相手が相手だし、暗部のケツを蹴って徹底的にやらんとな。だが俺たちが前に立ってやるのは、正直かったるい」


 そう言ってロクランは腕組みする。


「……王国のリスク管理という話なら、クリーオフォン家が喜んでやるだろう。……今なら『双剣の鷲獅子ツインソードグリフォン』も居るようだしな」


 オズウィンがまたボソボソと話すけれど、頷いている人もいる。


 クリーオフォン家って要するにホリーやフェリックスの実家の男爵家のことだ。


 場合によっては、ホリーが駆り出されることはあるんだろうか。


 それに『双剣の鷲獅子』ってグライフのことだけど、公国の人間に協力させるのだろうか。


「――グライフの兄貴が何だって?」


 あたし達がそこまで話したところで、魔法を使った連絡が一段落ついたのか、デイブが会話に加わってきた。


 ブリタニーも連絡を終えたようで、あたし達にお茶を用意し始めたので手伝うことにした。


 淹れたお茶を頂きつつ、みんなでここまでの話をデイブに伝える。


「――霧鉛兵団か。無ぇ話じゃあねえな。そもそも今回の話は、商人が王都の拡張事業で不動産を押さえまくるんじゃないかって話だ。貴族が噛んでるなら、ある話だ」


「つまり、霧鉛兵団が拡張事業の動きで何かを担ってるってことなの?」


 デイブの言葉にあたしが問うと、デイブはあたしの目をじっと見て告げる。


「お嬢はどう思う?」


「あたし? うーん……。いち傭兵団としては『雇い主に協力する』って動機はありそうね。闇ギルドの部隊だったって話だと、『闇ギルドの勢力拡大を狙う』もアリかしら」


「確かに動機っていう点では、関与はありそうなんだよなあ……」


 そう言ってデイブは考え込む。


「動機以外の側面だと、単純に揉め事の対策とか、警備のための人員よね?」


「まだあるね。裏仕事を受けるなら、拡張事業の商売敵をジャマしたり暗殺したり、色々担当するだろ」


 あたしの言葉にブリタニーが補足するけど、闇ギルドの部隊っていうならそういう仕事もするんだろうな。


 その後もみんなで霧鉛兵団について話したけれど、月輪旅団(うち)の方針としては今の段階では独自に動くことはしないということになった。


 今日の調べ物については、あたし達の担当分は完了した。


 何も成果が無かったか、魔法で報告が済むメンバーは家に直帰したそうだ。


 あたしも寮を抜け出しているし、手伝いが済んだのでそろそろ帰ろう。


 そう思ってから、さっき思いついたことをデイブに訊いてみた。


「ねえデイブ、グライフさんだけどさ、王国の調べものなのにグライフさんを巻き込むのかな? ていうか、あの人は諜報とかできるの?」


「政治的な話なら、冒険者の守秘義務とかあるから男爵閣下が上手くやるだろうよ。実力については、公国にある高難易度のダンジョンに長期で潜る人だぞ? 王国の組織の調査なんざ庭の散歩みたいなものだと思うぜ」


「ふーん」


 筋肉の塊みたいな人だから想像しがたいけれど、ヤバい魔獣がウロウロするダンジョンに長期潜入できるなら、確かに問題無いんだろう。


 そこまで話をしてから、あたしは寮に帰った。


 ちなみにマーシアとの尾行の話をデイブとブリタニーにしたら、おやつをもらえた。


 われながら現金だと思いつつ、買い食いすること無く寄り道せずに帰ることにした。


 寮の自室に戻っておやつを食べて、少し休憩してから日課のトレーニングを軽めに行って寝た。




 一夜明けて一月第五週の闇曜日になった。


 部屋の扉がノックされるけれど、扉の向こうにサラとニナの気配がする。


 そういえば、なんだったっけ。


「朝やでウィンちゃん、朝食とってプリシラちゃんちに行くでー」


 扉の向こうでサラがそう告げたのがかろうじて聞こえた気がした。


 あたしはのそのそとベッドを抜け出し、扉を開けるとサラとニナが居る。


「おはよう……、ちょうしょく……たべようね……」


「おはようウィンちゃん」


「おはようなのじゃウィン。ここで待っておるから、食堂に行くのじゃ」


「うん……わかったわ……、すぐに……支度するから、先に行ってて」


「大丈夫やでウィンちゃん。待っとるからゆっくり支度したらええよ」


「分かったわ、ちょっと待っててね」


 しっかりと目が覚めたあたしは身支度を整え、サラとニナと一緒に寮の食堂に向かった。


 食堂には今日プリシラの家――キュロスカーメン侯爵家の邸宅(タウンハウス)を訪ねるメンバーが揃っている。


 あたしもそこに加わって、みんなで朝食を食べた。



挿絵(By みてみん)

グライフ イメージ画 (aipictors使用)




お読みいただきありがとうございます。




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