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10.大丈夫だったと思いたい


 何やらあたし達が忍び込んでいた商会に、二人組の男が侵入者の確認にやってきた。


 あたしとマーシアは気配と痕跡を消してやり過ごしたけれど、彼らの会話を聞く限り二人組が所属する団体が警戒態勢に入っているようだ。


 彼らは傭兵団か何からしく、取引がある商会二つで侵入者騒ぎがあったと話していた。


 そういう話をする二人組なので、所属する団体のレベルも大したことも無いのかも知れない。


 そうでないなら大きな組織で、管理が行き届かない下っ端が確認に来た感じだろうか。


 いずれにせよあたしとマーシアは、その二人組を尾行することにした。


 気配を小動物並みに抑えて商会の裏口を出て、マーシアが外から魔力の刃の応用で施錠する。


 その足であたし達は、すでに表通りを歩き始めた二人組の気配を追った。


 夜の商業地区の通りは賑わっている。


 冬の夜の染み込むような寒さを、通りに面した店舗からの光が和らげる。


 照明の魔道具の光は心理的にホッとするけれど、尾行中だし気を緩めるわけには行かないんだよな。


 とはいうものの、あたしとマーシアの尾行対象はお気楽な感じでのんびりと歩いている。


 確認に来た商会を出るときに彼らは速足だったけれど、道に出てしまえば巡礼客を含む雑踏に紛れている。


 これが『忙しなさを隠すことで注目を浴びないようにするテクニック』とかなら凄いんだけど、たぶん違うんじゃないだろうか。


 なぜそう思うかといえば――


「ねえ、連絡する様子が無いわね」


「そうね。“確認”した段階で普通はリーダーとかに報告すると思うけれど、よく分からないわ」


「狙ってやってるのかな?」


「ユルんでるだけじゃないかしら。わたしはそう思うわ」


「あたしも同感よ」


 あたし達は思わず息を吐くけれども、気を抜くわけには行かなかった。


 そういう予感は無いけれども、尾行対象の二人組をおとりにして動かす連中がいると面倒だし。


 諜報活動をやる人たちって、よくこんなことをいつもやってるよなと思う。


 そう思っていると、二人組の後輩が先輩を誘って酒場に入ろうと肩を掴んだ。


 スゴく熱心な感じで説得してる様子だったけれど、商会を確認に来た時には見せなかった表情だ。


 そして先輩の方は肩をすくめたと思ったら、後輩のスネの辺りに蹴りを入れていた。


 もはやどうツッコんだらいいのやら。


「あれはもうチンピラね。ウィンちゃんはああいう男に引っ掛かっちゃダメよ」


「ご心配なく、あたしは速攻で逃げます」


 ああでも、友達が絡まれてたら躊躇なく殴りに行きそうだ。


 ゲイリー達との初対面の時は、そんな感じだった気がするけれども。


 ホントに彼らの知り合いじゃ無いだろうな。


「あら、買い食いはしちゃうのね」


「あたしも何か食べたくなってきましたよ」


「ダメよ、終わってからにしてね」


「はーい」


 うーむ、残念だ。


 そう言いつつ尾行するけど、なにやら屋台で買い食いするのは二人組の先輩が許容したようだ


 これは意外と時間が掛かるんだろうか。


 あたしとしては面倒に感じるけれど、この二人組を尾行した方がいい予感は続いていた。


 それを思って思わずため息が漏れた。




 尾行を続けていると、時々二人組の方へと視線が向けられたりしていた。


 マーシアの話では、情報屋だろうとのことだった


「いまのところわたし達を付ける気配も観察する気配も無いし、特に警戒されている感じではないわ」


「それは勘かしら?」


「そうね。それなりに調査の仕事は手伝っているから、何となく分かるのよ」


「ふーん。(あの二人組が)どこに向かってるのかは分かりそう?」


「ある程度は絞れるけれど、建物までは把握したいわ」


「はーい」


 その後、寄り道をしながら商業地区を西に進んだ二人組は、貧民街まで行かない辺りで建物に入って行った。


 建物について詳しく確認しようとして、あたしとマーシアは人出のある通りを進む。


 けれど、あたしの中の予感が大き目の警報を出したので、雑踏の中で彼女の手を引く。


 マーシアは不思議そうにこちらを見るけれど、あたしは首を横に振ってから小さく「予感よ」と伝えた。


 なにかがあの建物にはある気がする。


 そうでなければ、あたしにそう予感させるような人間が居るんだろうか。


 マーシアはあたしの表情をうかがってから告げた。


「引き返すわ。気配を消して最短で行くわよ」


 それと同時に、彼女は急速に気配を消していく。


 あたしも彼女に倣い、二人でそそくさとその場から撤退した。


 その場を離れるとき、かすかに二人組が消えた建物からこちらを窺うような気配がした。


 あたし達に気づいたかどうかは微妙なセンだ。


 敵意は感じなかったから、大丈夫だったと思いたいけれども。


 マーシアと二人で通りを進み、途中から縦方向の立体機動で商業地区を移動する。


 そのあと大回りをして、自分たちに尾行が付いていないことを確認してからデイブの店に戻った。


 裏口から入ると、戻ってきている仲間が十人くらいバックヤードに居た。


 なにやらユルい感じで話し込んでいるので、それぞれ担当した商会の調査は終わったんだろう。


 デイブとブリタニーは、それぞれがどこかに魔法で連絡をしているような感じだった。


「「ただいまー」」


 あたしとマーシアがみんなに声をかけると、みんなも返事をしてくれた。


「よう、マーシア、ウィンのお嬢、お疲れ。首尾はどうだ?」


 デイブの幼なじみで、酒屋の主人をしているロクランが話しかけてきた。


「こんばんわロクラン。報告はあなたにすればいいのかしら?」


 そう言ってマーシアが応じる。


 ロクランがまずは自分が取りまとめるというので、あたしとマーシアは【収納(ストレージ)】からメモや複写した書類を取り出す。


 その上で目に付いた内容を口頭で説明し、調べた商会に指示を出していたより大手の商会とか貴族についてかいつまんで説明した。


「さすがだなマーシア、手慣れてるじゃねえか」


「わたしよりもウィンちゃんの方が仕事が早かったわよ? 魔法を使ってもの凄い勢いで書類の複製を用意してくれたし」


「その方がラクそうじゃない?」


 ロクランはマーシアとあたしの言葉に口元を緩める。


「調査結果は大体そんな感じか?」


「わたしとウィンちゃんの担当はそうなんだけど、気になる連中が居たから尾行したわ」


 マーシアがそう告げると、それまで話し込んでいたみんなが一斉に彼女に視線を向けた。


「どういう意味で気になったんだ?」


「わたし達が調査をだいたい終わらせたころに、素人というかチンピラっぽい二人組がやってきたのよ。侵入者騒ぎがあったから、『確認』に来たって話していたわ――」


 そしてマーシアが経緯をカンタンに説明してくれた。


「――それで商業地区の西の端に辿り着くわけだ」


「ええ、入ってからしばらく監視できれば良かったんだけど……」


 そう言ってマーシアがあたしを見る。


「あたしが引き返すようにマーシアを止めたの」


「わたしも何となく妙な気配がした気がしたから、ウィンちゃんの意見を採用して二人で引いたわ」


「なるほど。それでそいつらはどこに向かったんだ?」


 あたしはその辺は知らないけれど、マーシアは知ってるんだろうか。


霧鉛兵団(むえんへいだん)の事務所だったわ」


「なるほどな」


 ロクランはそう応えて息を吐き、みんなも何やら考え始めた。


 名前の響きからすれば傭兵団だろう。


 あたしはさすがに日常生活の中で、月輪旅団以外の傭兵団に接することは無いけれども。


「けっこう有名どころなの?」


 あたしの言葉にロクランが目を丸くしたあと口を開く。


「なんだ、お嬢は知らんのか」


「さすがに傭兵団は月輪旅団(うち)以外は知らないわよ。あたし学生ですけど」


「そりゃそうか。そうだなあ……。連中は歴史はそれなりにあるんだが、ここ十年くらいで急速に勢力を伸ばしてきた傭兵団だ」


 勢力を伸ばしてきた、か。


「でもマーシアも言ったけど、その二人組の片方はどうしようもないチンピラだったわよ? 」


「そう言ってたな」


「うん。それで彼らは『団長』とか『取引先』とか言ってたけど、商会の状態を確認した直後に現地から魔法で連絡しなかったのよ? あと移動中に買い食いしてて、あたしも食べたくなって大変だったんだから」


「ああ、そいつは大変だったな」


 ロクランはそう言って優しい笑みを浮かべた。



挿絵(By みてみん)

ブリタニー イメージ画 (aipictors使用)




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