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08.身分相応ならもっとマズい


 美術部でニナやアンとお喋りをしながら木炭画を描いていたら夕方になってしまった。


 アンがそろそろ引き上げるというので、あたしとニナも寮に戻った。


 自室で過ごし、夕食はアルラ姉さん達と食べる。


 『聖地案内人』の話になったけれど、高等部の各クラスはけっこうバタバタしているみたいだ。


「ウィンとキャリルも担任の先生から説明があったと思うけれど、『聖地案内人』は高等部から始まるのよね」


「私もアルラも初日の参加になったわ」


「そうなんですのね」


 アルラ姉さんとロレッタ様の話にキャリルが応じる。


 ロレッタ様が初日と言ったけれど、正確には二月第一週地曜日の放課後ということになる。


 南広場に各校の参加者が集まり、隣接する衛兵の詰め所で点呼やら班の組み合わせを行って開始するらしい。


「班の組合せって、他校との組合せってことよね?」


「そうね。当日現地に行って衛兵の人が割り振るみたいなのよ」


「「ふーん」」


「ですが今日風紀委員会の打合せで聞いた話では、生徒が少ない学校は一度に参加する班が少なくなりそうですわね」


 ああそうか、リー先生の話では各校で全生徒が『月に一回参加』になる。


 学院やブライアーズ学園は生徒数が多いから班の数が多くなって、セデスルシス学園やボーハーブレア学園は班の数が少なくなるんだろうな。


 セデスルシス学園といえば、黒血の剣(こっけつのつるぎ)の悪ガキたちはマジメに学んでいるだろうか。


 引き渡した時の印象では、軍隊みたいな生徒たちだった気がするけれども。


「どうしたのウィン?」


「何でもないわロレッタ様。――案内といっても基本的には商業地区まで行って、困っている人がいたら声掛けして、またスタート地点まで戻ってくる感じよね?」


「そうだと思うわ。護衛の人たちもいるし、放課後の時間帯だから不審者なんかは少ないいでしょう」


「それでも気を付けてね、ロレッタ様、アルラ姉さん」


 あたしの言葉に二人は微笑んで頷いた。


「もし狼藉者がいるようでしたら、迷わずわたくしを呼んで下さいまし。ただちに全力全開で駆け付けてブチのめしますわ」


 キャリルの言葉にあたしとアルラ姉さんは苦笑し、ロレッタ様はこめかみを押さえていた。




 夕食後はいつものように自室に戻り、宿題を片付けた。


 そろそろ日課のトレーニングでも始めるかと思っていると、【風のやまびこ(ウィンドエコー)】でデイブから連絡があった。


「――お嬢すまねえ。こんな時間に悪いが、ちょっと頼みたいことがある。店まで来れるか?」


 特にデイブの声からは、感情の振れみたいなものがそぎ落とされている感じがする。


 その段階で、月輪旅団としての仕事で何かがあったのかも知れないと察する。


「分かったわ。デイブの店に行けばいいのね? 明日は闇曜日で学院が休みだけど、いまから行った方がいいってことかしら」


「ああ、裏口から頼む」


「分かったわ。出来るだけ急いでいくから」


「すまねえ」


 そこでデイブとは連絡を終えた。


 あたしは部屋のドアに鍵をかけ、ベッドに寝ているように偽装する。


 そして戦闘服に着替えてワイバーン革のコートを羽織った。


「武器は……、【収納(ストレージ)】に入ってるからいいか」


 蒼月(そうげつ)蒼嘴(そうし)は【収納】に入っているので、あたしは内在魔力を循環させてチャクラを開く。


 身体強化しつつ場に化すレベルで気配を消し、自室の窓から出てデイブの店に急いだ。


 デイブの店の裏口をくぐると、バックヤードには知った顔があった。


 鉱物(ミネラル)スライム捕獲で同行してくれた、月輪旅団の人たちが数人いる。


 初めて見る顔もあるけれど、デイブを除くと八人か。


 気配の感じで月転流(ムーンフェイズ)を修めているのは分かった。


 気を付けていないとその辺に居そうな普通の人たちに見えるけれど、みんな冒険者が着るような黒や茶色なんかの濃い色の服装をしているな。


 それよりも今日はブリタニーの姿が無いけれど、どうしたんだろう。


「こんばんはー」


『こんばんは』


「こんばんはお嬢」


 あたしが挨拶すると、みんなも挨拶を返したくれた。


「悪いなお嬢、今日はカチコミじゃねえから、そういう意味じゃあ気楽なんだが、手が足りなくてな。声を掛けさせてもらった」


「手が足りない? なにか厄介ごとなの?」


「ああ、とりあえず第二陣まではもう送り出してて、ここに居るメンバーが第三陣だ」


 あたしがデイブと話していると、横から食堂の奥さんのマーシアが声をかける。


「戦力の逐次投入ってことも無いでしょうし、追跡とか調査よね?」


「まあ調査だな。声を掛けたメンツが揃ったし、説明するぞ――」


 そう言ってデイブはあたし達に話し始めた。


 と言っても途中まではあたしも知っている話だった。




 冒険者ギルドのディンルーク支部支部長であるオーロンから、デイブが王都の拡張事業に関するカネの流れで懸念があるという話をきいた。


 ほぼノーヒントだったが、オーロンが気にしている時点で最悪を想定し、王都の経済で金貨を滞留させる計画が浮上した。


 その可能性をデイブがブライアーズ学園の商業科の先生に相談したところ、拡張事業で建設される不動産が押さえられるリスクが指摘された。


 仮定に仮定を重ねた話だったため、デイブは冒険者ギルドの仲介でディンラント王国暗部と状況分析を行ったところ、リスクが否定できないという話になったらしい。


「――とまあ、ここまでが前提になる話だ。ここからが本題だが、みんなには商家に忍び込んで調査を行ってもらいたい」


 デイブの説明によれば月輪旅団以外にも暗部の部隊や、王国の指名依頼を受けている冒険者も調査に参加しているらしい。


 変わったところでは、ホリーの実家のクリーオフォン男爵家からも人が出ているようだ。


「調査内容は、拡張事業を牛耳る勢力の洗い出しだ。商家を調べて、その背後にいる勢力や貴族家を整理したい。ここまでで何か質問はあるか?」


「不動産が押さえられるっていうのは、結局どういうことが起きるって話なんだ?」


 彫金師をしているナイジェル・トレヴァンという青年が問う。


「そうだな。表面上は何も変わらねえし、王都の庶民に影響がある訳じゃあねえ――」


 でもじわじわと不動産を押さえた商人や貴族が、有利に商売を進めるようになる。


 建物を貸すだけで利益になるし、その資金力で王国への発言力が増す


 そういう説明をデイブが淡々と告げた。


「ヘンな話だけど、身分不相応な商人や貴族なら横やりが入るんじゃないかしら?」


 そう告げたのはセリーナ・ドラムモンドという女性で、鍛冶師ギルド職員をしている。


 彼女は年齢的にジャニスの少し上らしいけれど、落ち着いた雰囲気をしているかな。


「だろうな。『身分相応』ならもっとマズい。ヘタすりゃ王都を切っ掛けに国が割れる」


 デイブがそう告げると、みんなは眉を顰める。


「……どういうこと?」


 あたしが問うと、マーシアが教えてくれた。


「王都の拡張で貴族の派閥絡みの問題になったら、収拾が付かなくなるわ」


「それは……、直ぐにでも手を打たなきゃ」


 マーシアとあたしのやり取りを聞いていたデイブが告げる。


「まあ、そういうことだ。それでみんなに動いてもらってる」


 そう言ってからデイブは、くたびれたように息を吐いた。


 ちなみに貴族絡みの調査なのに、それにクリーオフォン男爵家が噛んでいるのは大丈夫なのかが気になった。


 それをあたしが訊いてみると、書店のオヤジさんのサイモンドが口を開く。


「あの家は代々、ゴリゴリのディンラント王家至上主義だ。どんなに普段仲良くしていても、王家に仇為す相手は貴賤(きせん)を問わずに斬るぞ。むしろ斬り過ぎるから、男爵以上の爵位を上げられないって話があるくらいだ」


 そう言って肩をすくめると、みんなも頷いていた。


 あたしはそれを聞いて、改めて貴族っておっかないなと思った。


 戦闘がある前提の集合に比べて、今日はユルい感じの空気が漂っている。


 みんな油断をしているわけでは無いし、デイブから説明を受けて問題点の共有は済んでいるだろう。


 忍び込むことへの緊張感は持っているのだろうけれど、戦闘が前面にあるかどうかは大きいと思う。


 その空気の中、デイブが指示を飛ばしてチーム分けし、あたしはマーシアと二人一組(ツーマンセル)で動くことになった。


 具体的には指定の商会に忍び込み、書類を調べる仕事らしい。


 表に出ているものも出ていないものも調べて、背後関係を洗い出すのが目的だった。


 チームごとに担当する商会も指定された。


「それじゃあ準備ができ次第、掛かってくれ」


『応』


 そういってみんなは動き出した。


 ちなみにデイブは第四陣に連絡を入れるのだと言っていた。


「ウィンちゃんよろしくね」


「こちらこそよろしく、マーシア」


 あたし達はそう言い合ってハイタッチをして、デイブの店の裏口から夜の王都に向かった。



挿絵(By みてみん)

アン イメージ画 (aipictors使用)




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