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03.こんな時に食い意地なの


 ソフィエンタには容赦なく、豊穣神さまからゲンコツが落とされた。


 そのあとでワンピースの女神さまは「豊穣神のタジーリャです」と自己紹介して下さったけれど、あたしが鉄拳制裁されることは無かった。


 ただひどくマジメな顔をしてから、じっとあたしの目をのぞき込んで告げた。


「ウィン、あなたには生まれる前に加護を与えたのでこう言います。本体みたいにおバカなまま年をとると残念な大人になりますよ?」


 そう告げる豊穣神さまは、母性を感じさせるとても優しい笑顔を浮かべていた。


「それは確かにイヤです! 反省します豊穣神さま!」


「ええ。あなたは、まっとうに育ちましょうね?」


「はい!」


 あたしの言葉を聞きながら、ゲンコツを落とされたソフィエンタは自身の頭を抱えつつ「うらぎりもの~」と呟いていたけれども。


 そして白いスーツのおじさんは創造神さまだと分かった。


 あたしとしては先ほどの発言を平謝りするしか無かったのだけれど、「お主たちは本当に面白いのう」と嬉しそうにしていていたたまれなかった。


 ちなみにあたしが創造神さまにお会い出来たことが光栄だと伝えると、「ワシは普段はヒマしとるから、ウィンを含めいつも地上の皆のことは見ているんじゃよ」とか言われた。


 それを聞いたあたしは、すこしはマジメに生きようと反省した。


 そんなやり取りの後、あたし達は席に着いた。


「それで、ウィンに説明の途中だったんですが、邪神群について分かっていることがあるんです」


「そうですね。先だっての魔神の召命のときに、――地上の者たちは『魔神騒乱』と名付けたようですが、その時に三柱の神々が関わったことは分かっています」


「連中を追跡するために色々と手を打っているのじゃが、可能性の一つとしてウィンたちとニアミスする目が出てきたのじゃ」


「ええ。ですのでソフィエンタがウィンに説明するのを察して、創造神さまと足を運んだのです。神々の事情に巻き込んで手間をかけますねウィン」


 そんなことを言われても、あたしとしてはまずは恐縮してしまう。


 ソフィエンタの分身だから神々と縁があるとはいえ、ただの人間だぞあたしは。


 ニアミスとかエサとかいっても、そんな重要そうな役目を果たせるのだろうか。


「ええと、何というか普通に追跡できないんですか?」


「追跡はずっとしています。それ専任の神々が居て、調査と追跡を行っているのです」


 豊穣神さまがそう告げて、少し困ったような表情を浮かべる。


「それでも追いきれないと?」


「ステルスモードになってるのよ、そいつらは」


 ソフィエンタはイヤそうな表情を浮かべて、あたしにそう告げた。




 寮の自室で過ごしている時にふと邪神群のことを想起したら、ソフィエンタに神域の彼女の家に呼び出された。


 なんでもあたしをエサにして邪神群をおびき出すつもりなのだという。


 その説明をするということになったら、創造神さまと豊穣神さまがソフィエンタの家にやってきた。


 豊穣神さまからは、ソフィエンタよりもまっとうに育つように諭されてしまったけれども。


 ただ根本的な問題として、あたしは邪神群を追跡できないのかを訊いてみた。


 だって目の前では、豊穣神さまがニコニコ微笑んでいる。


 ディンラント王国の王立国教会では主神クラスの信仰を集めている神さまのはずなんだよな。


 それに加えてカーネ〇おじさんを想起するけれど、親しみやすそうな表情をしているのは創造神さまだという。


 あるいみ宇宙最強の存在の気がするのだけれど、この二柱が揃っていて追跡できないというのはどういう状況なんだろう。


 あたしの質問にはソフィエンタが答えた。


 邪神群たちはステルスモードになっているのだというが。


「ええと、どういうこと?」


「詳細な実態は捕まえないと分からないけれど、『存在の虚数域』に自分たちの分身を送り込んで活動しているの。その分身は秘神という存在だけれど、元々はちゃんとした目的があるのよ――」


 ソフィエンタによると、強大すぎる権能をもつ神々がその力を抑えて現実に介入するときの裏技として、秘神という存在を活動させることがあるらしい。


「裏技? 虚数域ってなに?」


 むずかしい言葉で誤魔化そうとして無いだろうな、ソフィエンタめ。


 あたしがふとそんなことを想起すると、あたしの思考を読んだのかソフィエンタは怪しく微笑む。


「そうねえ――。個別の宇宙を造ったときに、神々の通常業務を補助する意味で時間だけで独立した次元にした領域を、創造神さまが用意したのよ。それを“存在の虚数域”とか呼んだりするわ」


「ワシが造ったのじゃ」


 創造神さまが何やら嬉しそうに告げる。


「はあ……。独立した次元? ですか?」


 通常業務の補助と言っている以上、街の商店の従業員用通路みたいなものだろうか。


 宇宙とか大層なことを言っているけれど、要するにそのレベルの話な気もする。


 しかしソフィエンタは容赦なく話を進めた。




「ここでいう時間って、現実で流れる時間の鏡像としての時間のことね。それだけで独立した次元という話なんだけど、そうね。地球の物理学なんかでも虚時間(イマジナリータイム)と呼ぶ学者がいた筈よ。それで――」


「あ、そこまできけばいいです。よくわからないので」


 思わず本音が出てしまった。


 物理学者の理論的な話とかされても、また魂がはみ出そうになる気がする。


 あたしはもう『時の本質』の話で懲りたんですよ。


「それではウィン、ここまでの話で邪神群が追跡できないということは理解できたのですね?」


 豊穣神さまが少し意外そうにあたしに訊いた。


 理解できたかでいえば、正直怪しいかも知れない。


 でも何というか、学者の先生レベルの理解は必要なんだろうか。


「ええと……。『時間のみで独立した次元』に隠れて活動する神さまが居るんだよって話は分かりました」


 時間のみの次元ということは、方程式とかでいえば一次方程式みたいな単純な空間なんだろうか。


「でも、そうですね。何ていうかフクザツな現実世界で探すよりも、『時間だけの次元』に潜んだ神さまを探す方がラクなんじゃないですか?」


 あたしが思わずそう指摘すると、ソフィエンタは眉間にしわを寄せる。


 彼女は微妙に機嫌が悪そうに、『時間だけの次元』の場合は存在のあり方がハッシュテーブルに似るのだと言い出した。


「ハッシュテーブル?」


 ハッシュドビーフは食べてみたいです。


「こんな時に食い意地なの? ええと、ハッシュテーブルを現実で例えれば、図書館での本の仕舞い方みたいなものなのよ――」


 ソフィエンタはそう言ってあたしに微笑み、トーンをやや落として丁寧に説明を始めてくれた。


 たぶん邪神群のことを想起して、イラついていたんじゃないだろうか。


 ソフィエンタの説明は以下のような話だ。


 図書館では、本のタイトルを管理台帳で調べれば、どの棚に目的の本があるか分かる。


 でも今回の場合は、その管理台帳を隠して活動している神がいる。


 この場合、無限の広さがある虚時間(=図書館)を探しきらない限り目的の神(=本)が見つからない。


 さらにやっかいなのは、神が活動場所を変えたら調査はフリダシに戻るという。


 どういうことかというと、隠れている神が管理台帳を書き換えることがあるそうだ。


 これに対して(虚時間ではない)現実の宇宙の場合は造りが複雑だから、現場に証拠が残りやすい。


 だから現実では目的の神が活動した痕跡をもとに、次に活動する確率が高い場所を想定することが出来る。


 恐らくそういう内容の説明を言っていたと思う。


 けれど正確な話について、あたしは理解をあきらめていた。


 あたしが思わずため息をつくと、ソフィエンタはあたしの思考を読んだのかひと言告げた。


「ちなみに、『時間だけの次元』は一次方程式じゃ無いわよ?」


 なにやらここでツッコミを入れて来たぞ。


「じゃあ何だって言うのよ……?」


 自分でもわかるくらい、やや力なくそう訊く。


「ひと言でいえば、『ある種の関数』ね。aという値を与えたら、a´に加工してくれる道具みたいなものよ」


「それは……、単純化しすぎじゃない?」


「なら宇宙論とか勉強する?」


「………………ぎぶあっぷ」


 あたしはそう応えておもわず重いため息を吐いてしまったけれど、同時にプシューという何かが漏れだす音が聞こえたような気がした。


 あたしのため息に、豊穣神さまが優しく声を掛けてくれた。


「大丈夫ですよウィン。結果的に“存在の虚数域”の話になりましたが、そこまで理解できていれば、取りあえずはあなたに必要な知識は満たされました」


「ありがとうございます、豊穣神さま」


 その言葉で正直あたしはホッとした。



挿絵(By みてみん)

ソフィエンタ イメージ画 (aipictors使用)




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