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01.お家のためということ


 キャリルとアルラ姉さんとロレッタ様を連れて、あたしは魔法の実習室外にある訓練スペースに来ていた。


 風魔法の上級魔法である【風壁(ウインドウォール)】の練習が目的だったけれど、そこには裁縫部の人たちがいた。


 プリシラなんかの姿もあったけれど、中にはナタリーもいてあたしに話しかけてきた。


 彼女の話では、『虚ろなる魔法を探求する会』で彼女とつるんでいた生徒たちと離れ離れになりつつあるらしい。


 あたしとしては面倒事が減りそうなのは歓迎できるのだけれども。


 思わずそういう気持ちを口にすると、ナタリーはイヤそうな顔をしている。


「あたし風紀委員なので、そういう本音が出てしまうのは勘弁してください。それで『同胞が』という話ですか……」


「そうね、良くつるんでいた同胞はみんな離れて、私だけになってしまったわ――」


 ナタリーによればゴードンという人は、パーシー先生が顧問を始めた『魔獣素材研究会』で忙しくしているそうだ。


 今回マニュエルという人が高等部の先生の監督下に入ったので、ナタリーとしては気軽に相談できる相手が『虚ろ研』から居なくなってしまったのだという。


「あれ? もう一人いませんでしたか? 外見的には特徴が無さそうな、でも雰囲気がヘンな感じの人が」


「ホントに酷いわねウィンさん……」


「すみません、思わず本音が」


「はあ、まあいいわ。フレイザーのことだと思うけど、彼はブライアーズ学園に転校したのよ」


 転校とな。


 学院から学園に移ったのか。


 何か妙なことを企んでいなければいいのだけれど。


「学園で暴れまわる、ってわけでは無いですよね?」


「基本的に彼は穏やかな人間よ。そういう意味ではウィンさんの方がよほど武闘派じゃないかしら?」


「まことにイカンですが、そういわれるとこまってしまいますせんぱい」


 あたしがしどろもどろに応えると、ナタリーは笑う。


「まったく……。フレイザーに関しては、学園で学びたいことがあるらしいわよ?」


「そうだったんですね。うーん……、たしかにブライアーズ学園は実学が強そうなイメージがありますし、そういうこともあるんですかね」


「そうかも知れないわ」


 そう言ってナタリーは寂しそうに微笑んだ。


「ナタリー先輩は“例の研究会”でまだ活動するんですか?」


「どうしようかしらね。最近、裁縫部の仲間に誘われて、【従僕召出】の魔法を色々試しているのよ。新しい魔法をイチから調べ上げるというのも、貴重な経験じゃない?」


「それは分かります。あたしとしてはそのままナタリー先輩にはそっちの道に進んで欲しいです」


「あなたホントに率直ねえ……。まあいいわ、そろそろ練習するからまたね」


 ナタリーはそう言って裁縫部の人たちのところに歩いて行った。


 裁縫部の仲間と笑顔で語り合う彼女からは、以前感じた陰のような雰囲気は感じなかった。




 穏やかな冬の日差しを浴びつつ、シンディは趣味の庭いじりを終えて屋外のテーブルで休憩していた。


 作業着姿のままお茶の香りを味わいつつ、彼女は昼前に来たイネスからの使いのことを思いだしていた。


 キュロスカーメン侯爵家の使いの者によれば、シンディを今週の闇曜日に邸宅(タウンハウス)に招待したいのだという。


 なんでもキャリルやロレッタがイネスの孫であるプリシラに誘われ、彼女を訪ねることになったそうだ。


 他にもプリシラの友人たちが集まって、皆で魔法の鍛錬を行うという。


 そこまではロレッタから魔法による連絡で聞いていた話なので、シンディは使いの者に参加することを伝えて帰した。


 その折に、彼女はキュロスカーメン家の使いの者から封書を預かった。


 イネスのサインがあり、あて先はシンディになっている。


「当日訪ねるまでに目を通して欲しいとのことでしたが、何でしょうね」


 そう呟いてシンディは無詠唱で【収納(ストレージ)】から封書を取り出す。


 手の中の封書に対し、さらに無詠唱で【風の刃(ウィンドカッター)】を使って事もなげに開封した。


 封書の中には一枚のカードが入っており、イネスの筆跡で短文が記されている。


 “プリシラ関連のことで相談があります。当日はよろしくお願いします。”


 それだけが記されていた。


「さて、どう判断すべきでしょう」


 シンディはそう呟いてお茶を一口飲む。


 プリシラについて、シンディはイネスから直接話を聞いている。


 誠実で知性はあるが不器用な少女で、人付き合いは今後の課題となるだろうという話だった。


 キャリルが友人となり、ロレッタとも親交があるらしい。


 シンディの孫たちに任せれば、プリシラは自然と人付き合いも得意になるだろう。


 そんな話をした。


「プリシラ関連(、、)、ですか。侯爵家の方針については、わたくしが噛む話ではありませんし、単純な家庭の問題とも思えませんわね」


 そこまで呟いて、自分にこのカードを書いたイネスの心情を想像する。


「彼女が自分なりに調べて、わたくしで同じ結論に至るか否か――そういう話でしょうか」


 つまりは、プリシラ本人かその周辺の人物について、魔法的な観点から何かを調べる必要がある。


 そこまで考えて、シンディは何らかの魔法的な疾患か呪いの可能性を想起する。


「ずい分回りくどいですが、お(いえ)のためということですわね」


 シンディはそう呟くとカードと封筒をテーブルの上に置き、無詠唱で【分解(デコンポーズ)】を使って紙片の塊に変えた。


「我が家に損が無いうちは、マブダチは助けねばなりませんわね」


 シンディは穏やかにそう告げて微笑んだ。




 魔法の訓練スペースでキャリル達と一緒に【風壁(ウインドウォール)】を練習していたのだけれど、あたしは集中できなかった。


 原因は単純で、視界の隅でラブリーな縫いぐるみたちが群舞していたからだ。


 裁縫部の人たちが中心になって【従僕召出(コールサーバント)】の練習で、縫いぐるみのダンスを延々と行っていた。


 完全に無視すればいいのだけれど、縫いぐるみが集団で踊りまわるのがかわいいのなんの。


 あれだけで大道芸としてショーが出来るんじゃないかと思ってしまう。


 なかなか見ものではあったのだけれど、あたしにとっては【風壁】の練習を邪魔する要因になった。


 最後は仕方ないので裁縫部の人たちに背を向けて、訓練スペースのすみっこに移動して【風壁】を練習を行う。


 その後適当な時間であたし達は魔法の練習を切り上げて、寮に戻った。


 夕食はいつものようにアルラ姉さん達と食べ、自室に戻って宿題を片付け、日課のトレーニング行う。


 日課のトレーニングの後は、スウィッシュとお喋りをしたりして過ごしてから寝た。


 そうして一夜明け、一月第五週の風曜日になった。


 いつものように授業を受けて放課後になり、みんなと部活棟まで移動してからあたしは回復魔法研究会の部室に向かった。


 挨拶をしながら医学の入門書を借り、適当な席に座って自習を始めた。


 しばらく机に向かっていたのだけれど、ふとイヤな予感がしたところで誰かが慌ただしく部室に跳び込んで来た。


 回復魔法研究会の女子の先輩だけれど、何やら焦っている様子だ。


「誰でもいいからちょっと手伝って!! 部活棟の脇で無茶なトレーニングのまね事を始めた子たちが居るの!! 私が言ってもやめないのよ!!」


 それを聞いて何人かの先輩たちが立ち上がる。


 あたしも風紀委員会に所属する身として、出来ることがあるかも知れない。


 そう思って部室に跳び込んで来た先輩に声をかける。


「先輩! 無茶なトレーニングってどういう状況ですか?!」


「あなたは?! 良かった、魔法を受けとめるトレーニングをしてる子が居るんだけど、とにかく現場に行って! 部活棟の玄関を出て右に進んで直ぐよ!」


「分かりました! 先輩はリー先生などに連絡を! 先に行ってます!」


 そこまで告げてあたしは部室を大急ぎで飛び出した。


 軽く身体強化をした状態で部活棟の玄関を飛び出し、教わった通りに駆けて行くと生徒たちが集まっている。


 人混みをすり抜けてその先に向かうと、防具を着込んで何やら構えを取っている女子生徒数名と、彼女たちに手を伸ばして魔力を集中し始めた女子生徒の姿があった。


「風紀委員会です! 全員その場を動かないでください!」


 あたしはそう叫んだものの、魔力を集中していた女子生徒はそのまま魔法を発動しようとしている感じだった。


 集まっているのは風属性魔力だったけれど、魔力量から言って上級魔法――【風壁】なんじゃないだろうか。


 それに対して構えを取っている生徒は、それぞれに内在魔力を身に纏わせているだけで、盾の魔法なども展開していない。


 まさか自分の内在魔力だけで【風壁】を凌ぐつもりなんだろうか。


 できないとは言わないけれど、確かに無茶だろう。


「実力行使します!」


 あたしはそう叫んで【風壁】をまさに放とうとしていた女子生徒の傍らに移動し、素手で鳩尾に四撃一打を叩き込んで意識を刈り取った。


 タイミング的には間に合ったようで、気絶させた女子生徒に集まっていた風属性魔力は霧散していった。



挿絵(By みてみん)

ニッキー イメージ画 (aipictors使用)




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