10.日々が有意義であることを
地上に帰還したあたし達は王都南ダンジョンの出口ゲートを通過して魔石買取口に向かった。
そこで魔石を換金したあと、レノックス様はマジックバッグに格納した魔獣を売却しようとした。
冒険者ギルドの王都南ダンジョン前支部で買い取りをしてくれるらしい。
売却する当てがあるなら王都に持ち帰って売るのも間違いじゃないけれど、仕留めた魔獣の鮮度が新しいうちに売る方が高値が付くのだそうだ。
その辺りの話をあたし達はしてから、レノックス様がマジックバッグを受け取ろうとした。
すると冒険者の格好をした護衛の近衛騎士さんたちが、あからさまに困ったような顔を浮かべた。
彼らは護衛の都合もあるし、売って来るだけなら自分たちが行くと言って譲らなかった。
レノックス様は細く息を吐いたあとに「手間をかける」と呆れたように呟いて彼らに任せた。
その後、レノックス様はあたし達に移動するように促した。
そのまま『敢然たる詩』のみんなで衛兵の駐屯所に向かい、転移の魔道具で王城まで移動する。
あたしとキャリルは戦闘服から普段着に着替え、みんなで応接室でお茶を頂いた。
それはいいのだけれど、あたしとキャリルが応接室に入ったところで、レノックス様があたし達に会わせたい人たちがいると告げる。
特に断る理由もないので、あたしを含めてみんなはそれを了承する。
「会わせたい人とは誰ですの?」
「それは、会ってからのお楽しみということにさせてもらう」
キャリルが問うとレノックス様は薄く笑ってお茶を飲んでいた。
この時点であたしは誰が来るかをある程度察してしまったけれど、状況的に逃亡できないので腹を括ることにした。
いや、急にお腹が痛くなったとか言いだして席を外す手もあるのかも知れないけれど、直ぐに魔法で回復させられて退路が断たれる気がする。
そんなしょうもないことを想起しつつ、今日のダンジョン攻略の話をしながらみんなと過ごした。
少しして応接室の扉がノックされ、侍女さんが一人入ってきて告げる。
「皆さまお待たせいたしました。恐れ入りますがご起立のうえお待ちください」
「分かった。――みんなすまん、最初だけだ。ちょっと起立してくれ」
あたしとしてはこの時点で王族の方か、将軍閣下などの王族の関係者がいらっしゃるのを確信し、こっそりため息をついた。
すると応接室には一組の男女が入ってきた。
華美では無いけれど、二人とも上質な服装を着込んでいる。
男性の方は武の心得がありそうなたたずまいで、かなり強そうな気配がした。
たぶん父さんとか、ウォーレン様と同じくらいは立ちまわれるんじゃないかな。
二人は上座に移動すると男性の方が口を開いた。
「こんにちは諸君。私はライオネル、こちらは妻のローズだ。いつもレノックスが世話になっている。加えてローズのために鉱物スライム捕獲に助力してくれたことには感謝を伝えたい。ありがとう」
そう告げてライオネル様は、ガチ王子様然とした品のいい笑みを浮かべる。
隣に立つローズ様もザ・妃殿下という感じで、そこにいるだけで品位を振りまいているぞ。
「ごきげんよう皆さま。ローズと申します。先日は私のためにダンジョンまで足を運んでくださり、本当にありがとうございました。お陰さまで命を繋ぐことが出来ました」
ローズ様はそう告げて柔らかく微笑んだけれど、単純に美しいというだけじゃなくてその雰囲気に高貴さを感じるのが不思議だった。
これが王族か。
そう思ってあたしはカーテシーをした。
図らずもレノックス様以外のパーティーのみんなも、同じタイミングで礼やカーテシーをする。
まあ、レノックス様には普段から接しているし、なぜか陛下にもお会いしているのだけれども。
「さて、今日は公の場では無い。堅苦しいマナーなどは抜きにして、率直に話をさせてもらって良いだろうか?」
「兄上、彼らは父上で慣れています――ピザパーティーで顔見せしましたし。その点は構いませんが、ほどほどに頼みます」
レノックス様がそう言って笑うと、ライオネル様も機嫌良さそうな笑顔を浮かべる。
「ははは、分かっているぞレノ。――というわけでお前たち、いちど直接礼を言いたかった。ありがとうな。まあ座ってくれや」
『はい……』
そう告げたライオネル様からは、さっきまでの王子様モードは霧散していた。
ローズ様にしても妃殿下というよりは、貴族家のご令嬢というくらいまでは雰囲気を和らげているか。
あたし達としてはやや当惑気味ではあるのだけれど、ここがレノックス様の実家ということはライオネル様やローズ様がいらっしゃってもおかしくはないだろう。
そんな感じであたし達の前に、将来のディンラント王国国王陛下とそのお妃さまが登場した。
ライオネル様もローズ様も、話し始めると終始上機嫌だった。
レノックス様からあたし達のことは聞いているそうなので、王都南ダンジョンでの攻略のことや学院での過ごし方などの話題を振ってきた。
あたし達は卒なく応えていたけれど、ライオネル様が「学生時代は有意義に過ごせ」という話をした。
するとローズ様が自身の健康の話をして、一時は身まかる――病による死を覚悟した話をした。
「――私の場合は以前より体調が優れませんでしたが、病は誰にも起こりうるものです。ですので穏やかに過ごす何気ない日々でさえも、本当に尊いと私はおもうのですよ。ですので私は、皆さんの学院での日々が有意義であることを願っています」
ローズ様の言葉に、あたし達は思わず頭を下げた。
彼女はその様子を目にしてからあたしに問う。
「ところでウィンさん。あなたは先ほど薬草に関する研究会に所属していると仰いましたね? それは伝統医療も関係する話なのでしょうか?」
そう言えば王室は今後、伝統医療にも注力していくような話をしているのだったか。
「じつは学院の薬草薬品研究会は、栽培などの農業の方の研究が主たるテーマになっているのです」
「必ずしも医療とは関係無いと?」
「部活動の中では、医療と関係するのは回復魔法研究会になってしまうでしょうか。ただ個人的には、魔法医療で対応できない病の治療に薬草が使えないかと思っております――」
そうしてあたしはアミラ先生などに相談して、医学を勉強するよう勧められた話をした。
「ですのであたし――私は薬草のより良い使い方を考えるには、医学の知識が必要だと思っています」
「素晴らしい着眼点ですね。ウィンさんにはこれからも頑張ってほしいです。それにあなたが薬草のより良い使い方を研究するようになる頃には、王国でもそれを支援できるようになっていると思いますよ」
「分かりましたローズ様。微力を尽くします」
研究の道に進むかは分からないけれど、関心はあるし可能性は高いんだよな。
「ローズ姉上、ウィンもそうだが学院でオレたちは、タヴァン先生と面談して伝統医療の話を聞いている。そのときに薬草を使った伝統医療があると聞いた」
「でしたら王国としては、それを研究したいですね。そうですねライオネル殿下?」
ローズ様の言葉にライオネル様が頷く。
「そうだな。だがウィンが気付いているように、学生のうちに医学の勉強をしておくというのは妥当な話だろう。研究体制は王国が用意できるが、そこで研究を行う実力は自分で磨いてほしいからな」
「承知しました、ライオネル様」
あたしの返事に頷いた後、ライオネル様はじっとあたしを観察する。
何かヘンなことでも言ってしまっただろうか。
そう思っていると彼は笑みを浮かべた。
「ライオネル様?」
「いや、レノからはお前たちの話は色々聞いているからな。それを思い出していたのだ」
「兄上……?」
ライオネル様の言葉で、レノックス様が微妙に動揺したような表情を浮かべる。
「カリオは鷹揚で器が大きい。コウが繊細で柔軟な気質がある――」
名が挙がったカリオとコウは、それぞれ目を丸くしたり固まっている。
「キャリルは率直でどこまでも優しく、ウィンは知性と感性のバランスがとれている、だったか?」
「「……レノ?」」
あたしとキャリルは反射的にレノックス様に視線を向けるが、彼は張り付いたような笑みを浮かべて「はっはっは」と笑っていた。
レノックス様はいきなり普段の言動をバラされて誤魔化しきれなかったので、そういう反応になった予感がした。
「いずれにしても、俺たちにとって友とは貴重だ。これからもレノをよろしく頼む」
『はい!!』
べつに第一王子殿下から頼まれたからじゃなくて、あたし達はすでにレノックス様とは友人であり仲間だ。
そう考えたのは、たぶんあたしだけでは無かったと思う。
その後ライオネル様とローズ様が応接室を後にして、あたし達も王宮から学院に移動した。
身体強化と気配遮断を掛けて王都を移動したのだけれど、みんなは道すがら気になるものを見付けては足を止めてメモを取っていたりした。
キャリルが『物流管理者』、レノックス様が『都市計画者』を、コウが『資材管理者』を、カリオが『税吏補佐』だったか。
それぞれ地道にトレーニングをしているみたいだ。
それを横目に自分がダンジョンで『薬草使い』のトレーニングをしなかったのは、ちょっともったいなかったなと、あたしは考えていた。
コウ イメージ画 (aipictors使用)
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