02.落ち着けば想像が出来るお話
食堂でウェスリーやフェリックスから話を聞いているうちに時間が過ぎた。
まだリー先生と会う約束の時間までは少し早いけれど、遅れるよりはいいかと思いあたしは『敢然たる詩』のみんなに移動を促した。
「確かにリー先生を待たせるよりは、早めにうかがった方が良いですわね」
「うん。レノ、それでいいかしら?」
「ああ、そうしよう。ウェスリー先輩、その他の先輩方もパトリックも、興味深い話に感謝する。ありがとう」
「俺たちの案出しに付き合わせた形になったが、君らの参考になったのなら幸いだ。何なら今回に限らず、イールパイの話ならいつでも「それじゃあ失礼しますね」」
あたしは容赦なくウェスリーの話をぶった切って席を立った。
諜報技術研究会の人たちは手を振ったりして送り出してくれた、――ウェスリーはまだ話足りなそうな顔をしていたけれども、機嫌は良さそうだ。
あたし達は食堂を離れ、高等部の職員室に向かう。
その道すがら、あたしはふと気になってレノックス様に確認した。
フェリックスたちからブライアーズ学園での奇妙な現象の話を聞けたけれど、レノックス様から王宮に報告するのかという点だ。
「そうだな。オレとしては話を聞いた限りでは、いまは問題としない」
あたしとしてはどちらでも良かったけれども。
「そうなのかレノ? 放置して大丈夫っていうのは勘なのか?」
「いや、話を聞く限りでは、特定の話題に絞った情報収集というわけでは無さそうだ。仮に何か動きがあるにせよ、その時は前兆があるのではと思ったのだ」
「そうかも知れないねえ」
カリオの問いにレノックス様が応えて、コウが同意した。
確かにブライアーズ学園での現象について見落としが無ければ、レノックス様の言うとおりだろうか。
「それにだな、あの学園は冒険者ギルドが運営に参加しているし、王国としてはあまりうるさく言えないだろう。ウィンやカリオは気になるのか?」
「俺は半信半疑だな。よく分からない」
「あたしは少し気になる現象かしら。ただまあ、誰かに相談するなら知り合いの先生が一人いるし、タヴァン先生に双子の弟さんを紹介してもらう手もあるかしら」
「エイダン先生のことでしょうかウィン? でもお医者様に相談する内容ではない気がしますわ」
たしかにキャリルの言う通りなんだよな。
原因も把握できていない段階で、ただでさえ忙しいはずのエイダン先生を巻き込んだら色んな方面からお説教を食らいそうな気がする。
「知り合いってどういう先生だい?」
「あ、うん。コウはグライフさんと会ったことがあるじゃない?」
というか、『魔神騒乱』のときに『諸人の剣』で共闘したんだよな。
「もちろん覚えているよ。凄い人だよね」
「うん。――それでね、グライフさんの知り合いでフィル先生って人が居て、その人からあたしとニナが来月以降に地魔法を教えてもらうことになっているの」
「ホントに色々やってるなあウィンは……」
あのときはアルラ姉さん経由でニナに相談をしたのが最初だった。
『諸人の剣』の報酬で魔法を覚えられることになって、参考情報を集めたらニナが覚えるとしたら【粒圏】を選ぶと答えた。
【粒圏】の効果は『任意の空間に含まれる魔素の固定化を行う魔法』らしい。
要するに、魔素を原料にした物質生成をすることが出来るそうだ。
ソフィエンタによれば、生成したモノには時間制限があるらしいけれど。
それで【粒圏】に興味が出て、地魔法ということで地神の分身であるグライフに相談した。
グライフは【粒圏】を使えなかったけれど、フィル先生を紹介してくれたのだ。
ちなみにフィル先生は特級魔法を幾つも覚えているらしい。
世の中にはいろんな達人が居るんだな。
「ウィンはフィル先生に相談するんですの?」
「うーん……。大丈夫だとは思うけれど、じつは犯人がフィル先生だったら反応に困るのよね」
グライフが魔導馬車についてアイディアを出して、フィル先生がそれをもとに論文を書くって話になっていた。
魔導馬車の研究ともなると、技術を盗もうとする連中もいるだろう。
その対策で学園内を監視しているというシナリオなら、フィル先生が犯人として浮上する。
それでいきなり『あなたが犯人です』とか言ったら怒られそうだ。
というか論文化を手伝わないと、あの先生の勢いだと軟禁されそうで恐ろしい。
そこまであたしは頭の中で計算して、キャリルに応える。
「あたしとしては、まずはデイブに相談した方がいいと思ってるわ。デイブはブライアーズ学園の商業科に通ってたらしいし」
ジャニスの恥ずかしい話を聞きに行ったときに教わった話だ。
本人談だけれど、成績は並だったらしい。
隣でブリタニーが嬉しそうに笑ってたけれども、あれはどういう笑いだったんだろうか。
「ウィンの場合はそれでいいのではないでしょうか?」
「うん、そうよね」
あたし達はそんなことを話しながら高等部の職員室に向かった。
高等部の職員室では、先生たちが自分の机に向かって書類仕事をしていた。
午前中の『クッキー焼き大会』での騒動の後始末かと思ったけれど、先生たちの顔は普段通りだ。
見た感じ書類仕事とひとことで言っても、先生ごとに別のことをしている。
本来今日は授業がある日だし、もしかしたら休みなのは生徒だけで先生たちは仕事があるんだろうか。
お祭りなんだから休めばいいのに。
あたしはそんなことを思いつつ、みんなとリー先生の机に向かう。
先生に声を掛けると、職員室の隅にあるパーティションで区切られた打合せスペースで話をすることになった。
あたし達はソファに座って相談を始めた。
「それで、生徒の安全のことで相談があるとのことでしたが、みなさんも関係するお話ですか?」
リー先生はそう言ってあたし達を見渡す。
「いえ、ご存じかも知れませんがあたしたちは『敢然たる詩』というパーティーを組んでいます。その打合せをしていたんです」
「その時に、王都への巡礼客と学院生徒が揉めることの話をしていたんですの」
「ああ、その件でしたか」
そう言ってリー先生は少しホッとした表情を浮かべた。
この顔ぶれで押しかけたら、なにか緊急性がある話かと思ってしまうだろうか。
リー先生は副学長だし、レノックス様が居る時点でいろいろ心配を掛けてしまったかもしれないな。
あたしは心の中で頭を下げつつ、リー先生に説明する。
「風紀委員会の週次の打合せの時に報告した件で、『学生が自衛のためのパトロールをしたらどうか』という話を相談していたんです」
「ええ、ムリですね」
そう言ってリー先生は穏やかな笑顔を浮かべた。
いきなりのっけから秒殺されてしまったけれども。
「理由をうかがってもよろしいですか、リー先生?」
そう問いかけるキャリルは、どうにも納得していない様子だな。
「はい。と言っても、少し落ち着けば想像が出来るお話ですよ?」
警備に関する活動を王都で行うには、法的には王宮から許可を得る必要があるとのことだった。
なぜならそういう活動を際限なく認めると、貴族や豪商などが私兵を大量に集める口実になるかららしい。
そう言われたらその通りだよね、うん。
「――なので、学生自治の範囲内で生徒の安全を確保したいなら、そのように行動する必要がありますね」
「具体的には、どのような内容だろうか?」
リー先生の説明に、レノックス様が興味深そうな表情を浮かべる。
「手間を考えれば、王都各地にある衛兵の詰め所に駆け込むよう啓もうするのが一番です」
『…………』
返ってきた正論を、あたし達はそれぞれ反芻していた。
その様子を見ながら、リー先生は言葉を続ける。
「でも、駆け込むこともできない場合は、何らかの魔法的な手段で衛兵や学院に知らせるという手が考えられるでしょう」
「魔法で連絡を入れたり、魔道具を使うということですか?」
「そういうことです。ただ学院に連絡があっても、先生たちも現場に向かいますが同時に衛兵にも連絡を入れます。その方が数を頼りにできますからね」
結局衛兵に頼るなら、衛兵に通報した方が話が早いような気がしてきた。
でもそうなると、学生自治でパトロールとかは無理筋なんだろうか。
あたしとしては非常に安心できるのだけれども。
そこまで考えてあたしは秘かに安どしていた。
ウェスリー イメージ画 (aipictors使用)
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