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01.標的にされるのは面白くない


 あたし達『敢然たる詩ライム・オブ・ブレイブリー』のメンバーは、キャリルの意向を受けてリー先生に相談しに行くことになっていた。


 何の話かといえば、王都内の学生で自衛のためのパトロールを行う件についてだ。


 先生には魔法で連絡が付いたのだけれど、面談する時間まで少し間があった。


 そこであたし達は食堂に移動して、おやつを食べながら次回のダンジョン行きの話をして過ごしていた。


 するとそこにウェスリーたち『諜報技術研究会』幹部とパトリックが現れた。


 あたしとしては他の人たちはともかく、ウェスリーと話すのはくたびれるので関わりたくなかった。


 それでも『敢然たる詩』の男子メンバーに促されて魔法で防音にしていたのを解除した。


 するとウェスリーはジェストン兄さんやイエナ姉さんの名前を口にした。


 彼によれば、ブライアーズ学園で『興味深い話』があるという。


 兄さんたちの名前を出されてしまっては、あたしとしては聞いておかないといけない気がした。


「それで、どういう話なんですか?」


 あたしが問うと、ウェスリーが応える。


「そうだな。そもそもの話をすると、ブライアーズ学園にいる俺の知り合いから相談があった。レベッカという女で俺の一つ上だが武術の同門で姉弟子だ」


「ウェスリー先輩の姉弟子ってことは、色々と問題がありそうな人かしら」


「その言い方は非常に気になるところだが……、レベッカが問題ある奴なのは残念ながら事実だな。あいつは悪食(あくじき)で食事は『質より量』というタイプでな。それでもほっそりした体型だから、同門の仲間内では胃袋があの世にでも繋がってるんじゃないかって話があってだな――」


「ウェスリー、レベッカが大食いなのは今は関係ないだろー? 本題に入ろうぜー」


 それまで黙っていたフェリックスが口を開く。


 ていうかウェスリーめ、かなりマジメな雰囲気で話してたからレベッカという人に何か問題があるのかと思ったぞ。


「レベッカさんて人に問題が無いのなら、何が本題なの?」


「いや、レベッカに問題があるか無いかでいえば、問題がある人間だ」


「だからー、ウェスリーが混ぜっ返すと話が逸れるだろ? 俺がブライアーズ学園までパトリックと行ったんだし、俺から説明するよー?」


 フェリックスがそう言いだすけれど、他の諜報研の幹部たちも頷いている。


 そういうことなら、初めからフェリックスが話せば良かったんじゃないだろうか。


 ウェスリーが話を脱線させそうだったのを知って、あたしは思わず眉間を押さえた。


「それでウェスリーからレベッカの名前が出たけど、彼女は向こうの学園で『斥候部』の部長をしているんだ――」


 フェリックスによれば、学園の斥候部は『冒険者としての斥候技術を研究する部活』らしい。


 それでも冒険者には単なる斥候以外にも諜報活動に近い依頼もあるので、学院の『諜報研』に近い活動をしているそうだ。


 レベッカたちは昨年十二月ころ、学園の生徒から相談を受けた。


 学園の敷地内で何の対策もせずに内緒話をしていると、奇妙な視線と気配を感じるようになったとのことだった。


「――その視線と気配は俺とパトリックも確認したぜー」


「誰かに監視されているということかしら?」


「こちらを窺っていたという意味では、監視されてたなー」


「でもウィン、人間の気配を感じなかったんだよ。強いていえば魔獣の類いかも知れないけれど……」


 パトリックがそこまで口にして考え込む。


「確証が無いし、『魔獣』ってキーワードを使わない方がいいと思うぜー」


「そうですね、すみません」


 フェリックスはパトリックの言葉に微笑んで頷く。


「それでまあ、レベッカから説明を受けて、俺たちで検討してたんだけど多分魔法だろうということになったんだ」


「その根拠は何だろうか?」


 フェリックスの言葉にレノックス様が問う。


 それに対してフェリックスは以下のようなことを説明した。


 ・視線や気配は時間帯や周囲の人口密度によらずに発生した。


 ・視線や気配の角度が一定せず、場合によっては真上に発生したケースがあった。


 ・学園内の随所で確認され、ほぼ敷地内の全域が含まれた。


「――という説明だったんだ。この時点で魔道具か魔法だろうということになった。人間が組織的に行ってるなら目立つからさー」


「うむ。だが魔道具なら学園全体をカバーするには、魔力の動きがかなり大きなものになるだろう。レベッカがそれを見逃すはずはないな」


 フェリックスの説明にウェスリーが補足した。


「それならそういう魔法を使える奴を探せばいいんじゃないか?」


 そう言ってカリオがいきなり核心を突く。


 方針としてはあたしもそれでいいと思うんだよな。


「カリオ、確かにそうだけれど、そもそもそんな魔法があるのかも僕らには分からなかったんだよ」


 パトリックはそう言って首を横に振る。


「ああそうか、魔法が特定できなければ、誰を調べればいいのかも見当が付けられないのか」


「いいえ、そんなことは無いはずですわ」


「あたしもキャリルに同感ね」


 レノックス様やコウも、キャリルの言葉に頷いている。


 カリオを含め、この場にいるそのほかの面々は当惑しているけれども。


「今回の奇妙な現象は、結果だけいえば『監視』とか『のぞき見』、あるいは『情報収集』ですわ」


「……ああそれもそうだ。動機の面から洗えばいいのか」


 ウェスリーがキャリルの言葉に頷く。


「まだあるわね。魔道具のセンが無いというなら、そういう魔法を使えそうな人物をピックアップするのは行ってるわよね?」


「でもどんな魔法かが分からなければ……」


「パトリック、それでも学園全体を範囲にできる人物という条件はあるんじゃないかしら?」


『…………』


 キャリルやあたしの言葉に、諜報研のメンバーは何やら考え始めた。


「やれやれ、手段を特定しなければ標的に迫れないと思い込んでいたぞ。俺たちもまだまだだな」


 ウェスリーにしては珍しく、素直にそう告げて肩をすくめてみせた。


 それを目にしたコウが口を開く。


「でもウェスリー先輩、方針が決まったならそのレベッカさんに連絡を取って、調査を始められるんじゃないですか?」


「その通りだ。何ならコウ、お前も参加するか? 俺たちは歓迎するぞ」


 そう言ってウェスリーは怪しく笑う。


 それに対してコウは首を横に振った。


 よし、いいぞコウ。


「ウェスリー先輩すみません。ちょっとボクらはパーティーの活動があるんです」


「そうか。そういうことなら仕方が無い。だが、俺たちの強さは情報集めに手を抜かないところだ。それを知りたくなったらいつでも来い。コウやお前たちなら歓迎する」


「あたしは“残念ながら”遠慮します」


 そう言ってあたしは秒で断っておいた。


 その様子を見ていた『敢然たる詩』のみんなは苦笑していたけれども。


 あたしは気を取り直してフェリックスに視線を向ける。


「それでフェリックス先輩、気になることがあるんですけど」


「どうしたんだ?」


「その奇妙な現象に遭った人は、その後に何かに巻き込まれたり、被害に遭ったようなことは報告されてますか? 兄さんと姉さん達が心配なので」


「ああ、そうか。そうだねー……。いちおうレベッカから聞いている話ではそういうことは無さそうだけれど」


 そう言ってフェリックスはウェスリーに視線を向ける。


「そうだな。単純に監視されただけのようだ。もっとも、情報集めが終わった後に何かを行うというのなら、気を付ける必要があるだろうがな」


「ええと、ジェストン兄さんやイエナ姉さんとかリンジーに、注意喚起した方がいいですかね?」


 あたしが問うとウェスリーは珍しく表情を消し、視線をテーブルの上に落とす。


 そうして長考したあとに口を開いた。


「いや、当面はいつも通りがいいだろう。ヘンに構えてしまってそのことで標的にされるのは面白くないしな」


「確かにそうね」


 あたしの予感でも、いまはウェスリー達に任せた方がいい気がした。


 そこまで話した段階で諜報研の幹部の人たちが順に口を開き、ブライアーズ学園の誰にどういう手はずで探りを入れるのかという話を始めた。


 あたし達がその場にいるのも気にせずに話していたけれど、彼らとしては単純にあたし達に気を許していたというわけでは無い予感がした。


 さっきウェスリーが歓迎すると言っていたけれど、諜報研としては協力してくれそうな人間を探しているのだろうか。


 なし崩し的に戦力に数えられるのも困るし、あたしとしてはノーサンキューだったのだけれども。



挿絵(By みてみん)

レベッカ イメージ画 (aipictors使用)




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