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10.奇妙な連鎖を繰り返した


 『クッキー焼き大会』も微妙な感じで終わり、あたしは実習班のみんなと食堂に向かった。


 すると何やらあたしへの好奇の視線を感じた。


 サラも気が付いたし、あたしの気のせいでは無いと思う。


「ウィンのファンになった人たちでしょうか」


 あたしにファンがいきなり出来るようなことはあるのだろうか。


 ジューンよ、色々不安になるからそういうことは言わないでほしい。


「ふむ、ファンというよりは、どちらかといえば珍獣を観察するような視線なのぢゃ」


 ニナよ、色々見えないダメージが蓄積するから、そういうことは言わないでほしい。


「珍獣ですの? それはどうかと思いますが、怖いもの見たさで様子を伺っている感覚でしょうか」


「そういえばウィンちゃん、挑戦者みたいな人らをちょちょいと片してしもたやんな」


 考え込んでいたサラが、キャリルの言葉で思いついた案を口にした。


 みんなは彼女の言葉に反応する。


『それか?!』


 どれなんだよ。


「確かにその手並みが噂で広まれば、ウィンを好奇の目で見るかも知れぬのぢゃ」


「……」


 あたしがイヤそうな視線をニナに向けるが、彼女は特に気にする様子も無かった。


 人ごとだと思ってるな、うーむ。


「どうせなら、訊いてみた方が早くないですか?」


「ききたくないです……」


 ジューンの提案を秒で否定したけれど、あたしの代わりに彼女が訊きに行ってくれた。


 その結果――


「どうやらウィンが、模擬戦を申し込んだ生徒を次々対処したのが噂になっているようです」


「確かにあざやかな手並みでしたわね」


「妾も同感なのじゃ。あれは武術的には高度な技術と思うのじゃ」


 キャリルとニナには『時輪脱力法(じりんだつりょくほう)』のことを説明したし、妙に納得した表情を浮かべている。


 あたしとしては噂の内容が気になる訳ですが。


「そうなんですね。――『斬撃の乙女(スラッシュメイデン)が達人の域に達した』とか言って、新しい二つ名で呼ぶ人もいるようです」


 正直カンベンして欲しい。


 いままでだとこういう時は、決まって妙な二つ名が付いた気がするんですよ。


「ちなみにどんなものかしら?」


「そこまでは……」


 ジューンはそう言って苦笑いを浮かべた。


「ウィン、そういうことならステータスを確認してみれば良いと思いますわ」


 すごく、確認したくないです。


 それでもいずれ分かることだからとサラに説得され、【状態(ステータス)】の魔法で確認した。


 その結果は――


 あたしは思わず空疎な笑みを浮かべて、ひとつため息をついた。


 思えば、ことあるごとにあたしは妙な二つ名を得ている気がする。


 それはもちろん自分で狙って得ているものじゃあ無い。


 ただあたしが日々を誠実に生きて、その行動が誰かの目に留まる。


 その結果としてあたしは『誰かにとってのあたし』という立場になる。


 そういうことがこれまでも、そしてこれからもあるんだろうと思う。


 いろいろ納得できないことも多いけれど、少なくともあたしに視線を向けたことには感謝すべきなのかもしれない。


 直ぐにはそう思えない事も多いけれども。


 でもそう思ったとき、あたしは前に進めるのかも知れない。


 そんなことを考えていた――


 「完」










 ――――――










 ――――










 ――と言っていきなり人生が終わるようなことは無いんですよ。


 生きている限りは、前に進まなければならないわけで。


 あたしがステータスを確認してその内容にビミョーな衝撃を受けていたら、キャリルが声を掛けてきた。


「ウィン、何か分かりましたの?」


「はぁーーー、何だかあたし的には微妙な称号が増えたのよ」


「微妙ということは、そこまで酷い称号では無かったのじゃろう?」


「そうだけど……。『適当無双 (仮)』って称号だったわ……」


 まえに増えた『撲殺君殺し(スマッシャーキラー)(仮)』やら『モフの巫女 (仮)』とかもまだ残っているし、あまり妙な称号は増えて欲しく無いんですよ。


『…………』


 実習班のみんなはそれを聞いてあたしに何かを言おうとして、それぞれが思いとどまって固まるという奇妙な連鎖を繰り返した。


 せめて何か言ってほしい。


 それでも最初に真っ当なことを言ったのはジューンだった。


「いまそれを気にしても仕方が無いですよウィン。――こうして立ち話していても仕方ないですし、まずは昼食を食べましょう」


 あたし達、というかあたしは微妙に心に衝撃を残したまま、みんなと昼食を取ったのだった。




「それはやっぱり、ウィンの掛け声のせいじゃないのか? 気にしなくていいと思うけどな」


 カリオが割と冷静な感じでそう評した。


 もしかしたらバカにされるんじゃないかとも脳裏に過ぎったけれど、そんなことは無かった。


 あたしとキャリルは実習班のみんなと昼食を食べた後に別れ、魔法の実習室にいる。


 『敢然たる詩ライム・オブ・ブレイブリー』の打合せのためだ。


 打合せ自体はすぐに済んで、今週は王都南ダンジョンに向かうことになった。


 鉱物(ミネラル)スライム捕獲のために、第二十階層のボス撃破をスキップしてしまった。


 その分の穴埋めとして、あたし達だけでボスに挑もうという話をした。


 それはいいのだけれど、あたしが浮かない顔をしていたらコウが心配してくれた。


 あたしが曖昧に応えていたら、あたしが称号を得てそれを気にしているのをキャリルが説明した。


 べつにこのメンバーなら話してもいいかと思い、『適当無双 (仮)』だと告げたらコウとカリオとレノックス様は考え込んだ。


 そしてカリオの反応に至る。


「確かにウィンは妙に自然な所作で相手に触れて、それだけで状態変化を解除したように見えたな」


「“無双”といっていいくらい、鮮やかだったかもしれないね」


「でも『適当』ってのは気にしなくていいと思うぞ。あくまでもそういう風に見えた奴がいるってだけのことだし」


「そうですわウィン。本当に適当だったなら、カッコ仮など付かなかったと思いますし」


 キャリルの言葉にほかのみんなも頷く。


「適当というよりも、オレは相当な手練れという印象が強まった気がするぞウィン」


「だったら良かったんだけど、まだあの技術は練習中なのよ。やり方は秘密よ」


「あれは技術だったのかい? ボクでも習得できるかな?」


 コウが興味深そうな表情を浮かべてあたしに問う。


「ごめん、コウ。その辺も含めて言えないの」


「そっか。ちょっと残念だけど分かったよ」


「秘伝って奴だな。俺が覚えた風漸流ヴェントトルトゥオーソも丸ごと秘伝の塊みたいな武術だから、言えないっていう縛りは分かるぞ」


 カリオのあのぬるぬるした往なしも秘伝なのか。


 秘伝とは果たして、奇妙な物に付けられる名前なんだろうか。


 あたしが微妙そうな表情を浮かべていると、カリオがそれを見て笑っていた。


 確かにカリオが言った通り、気にしなくていいと思うしかないだろうな。


 それにステータスを確認して気が付いたこともあった。


 ステータスの情報の“加護”の欄に、『時神の使徒』という項目が増えていた。


 これは神域でソフィエンタを交えて、三柱の女神たちと話していた内容だろう。


 『薬神の巫女』に加えて、この項目も隠す必要があるだろうなとあたしは考えていた。




 『敢然たる詩』の打合せは、午後の授業が無い関係でいつもよりも長くなった。


 打合せと言ってもダンジョン行きのことは話し合ったし、雑談をしているだけなのだけれども。


「――それで、今回の『クッキー焼き大会』の騒動では、ケガ人はどのくらい出たのでしょうか?」


「ボクがウェスリー先輩から聞いた話では三十名強らしいけれど、全員軽傷で済んだらしいね。それにすぐに魔法で治療が行われたみたいだよ」


 キャリルからの問いにコウが答えた。


 コウはウェスリーから情報が回ってきたのか。


 確かに諜報技術研究会の部長だし、ウェスリーはこういう時は耳が早そうだ。


「治療については、ディナ先生もそんなことを言ってたよな?」


 カリオがそう口にするけれど、あたし達は頷く。


 ケガ人の話は、あたしも気になったんだよ。


「その話をきいたとき、アルラ姉さんやロレッタ様、アンやカレン先輩、ジャスミン先輩なんかを守れたらって考えてたわ。戦えない生徒は何とかしたかったわね」


 あたしの言葉にキャリルが目を丸くする。


「ウィン、ロレッタ姉さまは戦えますわよ?」


「え゛? ……そうだった?」


「ええ。魔神騒乱のときに、わたくしと一緒に邸宅(タウンハウス)内で天使たちを狩りましたもの。姉上は戦えますわ――戦いたくないだけで」


「それは別に普通の反応な気もするけれど、確かにティルグレース伯爵家のひとなら戦うことは出来るのね」


「もちろんですとも」


 キャリルはそう告げて胸を張った。



挿絵(By みてみん)

サラ イメージ画 (aipictors使用)




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