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08.パッと見でどうだい


 あたしとキャリル、そしてアルラ姉さんとロレッタ様は、広域魔法研究会の部室を出て学院構内にある魔法演習場に向かった。


 広域魔法研究会の生徒が戦術魔法を練習するスペースだ。


 クラウディアの案内だったけれど、そこで環境魔力制御の練習を行うのだという。


「実習棟の外にある、魔法の訓練スペースじゃあ無いんですね」


「そうだね。環境魔力の扱いは、留学生なんかには指導できないからさ」


 あたしの言葉にクラウディアはそう言って微笑む。


 その言葉であたしは、改めて広域魔法がディンラント王国の秘匿技術であることを思いだした。


 やがて目的の魔法演習場に着くと、生徒が二人ほど戦術魔法の練習を行っていた。


 彼らを横目にあたし達は、魔法演習場のはじっこでクラウディアの説明と指導を受けた。


 以前も披露してくれたけれど、環境魔力の取り込みを見せてくれた。


「パッと見でどうだい? 以前に比べたら、自分でも出来そうな感じがしないかい?」


 クラウディアが弾んだ声であたしとキャリルに告げるけれど、確かにあたしは環境魔力の動きが把握できていた。


 思わずキャリルの方に視線を向けると、彼女は自信ありげな笑みを浮かべる。


「仰る通りですわクラウディア姉さま。わたくしでも環境魔力の動きが把握できておりますの。――ウィンもその表情なら大丈夫そうですわね?」


「え、うん……。確かに行けそうな気がするわね」


「まったく、わたくしが武術よりも魔法が苦手とはいえ、そんなに心配そうな表情を向けないでくださいまし」


「う゛、ごめんねキャリル。べつにあなたをどうこう言う積もりは無いのよ」


 ただちょっと彼女がいう通り、魔法の技術ということでキャリルを心配してしまっただけだ。


 あたしたちのやり取りに頷きつつ、クラウディアはアルラ姉さんとロレッタ様に告げる。


「これからちょっとキャリルとウィンに基本を説明してしまうから、アルラとロレッタは見ていてくれるかな」


「「はい」」


「さて、現時点までの鍛錬で、キャリルもウィンも環境魔力の流れ自体は制御できるようになっているとおもう。これから説明するのはその取り込み方の基本だ――」


 クラウディアによれば、広域魔法研究会が採用しているのは王立国教会が継承を管理しているメソッドであるという。


 国教会によればこの世界における環境魔力から個人の内在魔力への魔力の流れは、基本的には上から下に向かう流れなのだという。


 逆に広域魔法の発動における魔力の流れは、下から上に向かう流れなのだそうだ。


 これはディンラント王家が使用する竜魔法を調べることで見出されたが、同時に神々の奇跡における魔力の流れでも見られるそうだ。


「例外はあるらしいけれど、国教会によれば環境魔力は天上の神々のもの、内在魔力は地上の自分たちのものって覚えるのが基本らしい。事実、魔神さまが神になったときの魔力の流れも、上から下方向への流れだったみたいだね」


「「そうなんです(の)ね」」


「それを踏まえて、もう一度私が環境魔力を取り込む制御をお手本として見ていて欲しい」


「「はい(ですの)」」


 そうしてクラウディアは実演してくれた。


 その環境魔力の流れは以前と変わらず上から下方向だったけれど、頭頂部から環境魔力を流し込み、尾てい骨から余分な魔力を抜けさせるのがはっきりと感知できた。


「――こんな感じで環境魔力を取り込む前に、私がやったのと同じ魔力の流れを自分の身体に通してみて欲しい。ただ通過させるだけだから、この段階で勝手に魔力が取り込まれることは無い。安心して練習してね」


 クラウディアの説明を受けて、あたしとキャリルは彼女のお手本通りの流れになるように練習を始めた。


 それを確認するとクラウディアは、アルラ姉さんとロレッタ様に指導を始めた。


 何となく聞くでもなく耳にしていると、『環境魔力を最初に感じた時の感覚によって、効率のいい取り込み方が決まってくる』とかそんな話をしていた。




 その日の放課後、学院内にある倉庫の一つから二人の男子生徒が姿を現した。


 食堂がある建物の倉庫だったが、入り口は施錠されていなかった。


 もし施錠されていたとしても、彼らは魔法で開錠して侵入するつもりだったが。


 目的を果たした生徒二人は挙動不審になることも無く、堂々と廊下を移動して外に出る。


 そのまま歩を進め、適当な講義棟の角を曲がったところで尾行を確認する。


 誰にも尾行されていないことで安どしたあと、二人はそのまま構内を歩いて移動し、部活棟近くのガゼボの一つに辿り着いた。


 そこには彼らの仲間である、『闇鍋研』残党の生徒たちが揃っていた。


「首尾はどうだ?」


「問題無い。『クッキー焼き大会』で野菜クッキーを作るのは情報通りだった」


「特に鍵も掛かっていなかった。まあニンジンだのカボチャだのだからな」


 問われた二人が順に応えると、その場の者は嬉しそうな表情を浮かべる。


「それなら計画通りなのね――?」


「俺たちが経験した高みを、広く知らしめる機会になるのか……!」


「仮に鑑定を行ったとしても、注意深く確認しなければバレることは無いだろう――」


 何やら盛り上がっている彼らに、オブザーバー(相談役)としてその場にいるマニュエルが口を開いた。


「ああ、気だるい午後の密やかな計画の相談は、美しいものだね。念のため確認するけれど、もしものときも【解毒(デトックス)】で片付く食材なのだね?」


 マニュエルの問いに、その場の彼らは揃ってうなずいた。


「いいだろう、“超人食材”を生徒が愉しむ機会を得るのは、美しい運命だと思うよ」


 彼の言葉に、『闇鍋研』残党の生徒たちは怪しく笑った。




 適当なところまで練習したあと、あたし達は揃って寮に戻った。


 その道すがら、あたしはクラウディアにタヴァン先生の話をかいつまんで伝えた。


「へえ、それじゃあ差し当たっては、スライムの仕分けの作業が大量にあるんだね」


「そうなんです。治療に使えるものですし、早めに何とかした方がいいんでしょうけれど」


「そういうことならウィン、明日にでも二人で行ってみないかい?」


「確かに明日は休みですし、午前中なら手伝ってもいいですね。休みの日に仕分け作業をしているかは分かりませんが……」


 あたしとクラウディアのやり取りに、キャリルが横から食いつく。


「ウィンとクラウディア姉さまが行くのでしたら、わたくしも行ってみたいですわ」


「キャリルも伝統医療に興味があるの?」


「いいえ。それよりはむしろ、魔獣の家畜化というお話が興味深いと思っていますの」


「確かにその点も興味深いね」


 キャリルの言葉にクラウディアが頷く。


「ふーん。ところでキャリルは“食事会”は大丈夫なの?」


 デイブが断ったという食事会に、キャリルは誘われていないのだろうか。


「お祭りの食事会のお話なら、お爺様達が向かうので大丈夫ですの」


 そこまで話してから、あたしはタヴァン先生に【風のやまびこ(ウィンドエコー)】で連絡を入れた。


 タヴァン先生も明日は午前中だけ附属研究所に向かう予定だったそうで、あたし達が手伝いに向かうことを歓迎された。


 ちなみにアルラ姉さんとロレッタ様は魔獣という時点で『今回は遠慮する』と言ってた。


 寮に戻った後は自室で過ごし、いつものように姉さん達と夕食を食べて宿題を片付けた。


 その後は日課のトレーニングを行い、スウィッシュとお喋りをしてから寝た。


 一夜明けて闇曜日になった。


 自室の扉をノックする音で、扉の向こうにキャリルとクラウディアの気配に気づく。


 あたしはがんばってベッドから起き出して扉を開けた。


「…………」


「おはようございますウィン」「おはようウィン」


「おはよう……ございます……(スピー)」


 ダメだ、どうにも眠くて仕方がない。


 いまはいつなんだろう。


 でも休みの日なのはまちがいないはずだ。


「ウィン、起きなさいまし。まずは食堂で朝食を食べますわよ。この時間ならスープとパン以外にももう一皿付くはずですわ」


「……ちょっと……まってね。うん、……きがえてから、しょくどうに行くわ。ふぞく研究所に行くのよね。すぐ行くから」


 あたしは何とか意識を起動させることに成功した。


 その後あたし達は三人で朝食を済ませてから、学院の附属研究所に向かった。




 附属研究所の玄関に向かうと、そこにはすでにタヴァン先生が待っていた。


 あたし達が挨拶をすると穏やかに微笑みつつ挨拶を返してくれる。


「タヴァン先生、今日はあたしの先輩でクラウディアという学院生徒を紹介します。彼女は実家がお医者さんで、自身も医療の道に進みたいそうなんです」


 あたしがそう言ってクラウディアを示すと、先生は無難に自己紹介を始めた。


「そうですか。初めましてクラウディアさん。私はタヴァン・ストレイカーと申します。学院の附属病院で内科に勤務しています」


「初めましてタヴァン先生。私はクラウディア・ウォーカーです。ウィンから話がありましたが、私も医師になれればと考えていますがまだ勉強中です。よろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします。医療の道は日々勉強です」


「はい。親からも同じことを言われます」


「ええ。厳しい道ですがあなたが女医になるというのなら、例えば女性の患者さんに寄り添う日々は充実してエンジョイできるでしょう。女医だけにエンジョイ(、、、)ッ」


 そう言い放ってタヴァン先生はツヤツヤした笑顔を浮かべた。


 初対面の相手にいきなり炸裂するのか。


 あたしは思わずゴクリと唾を飲んだ。


「女医をエンジョイ、ですか。素晴らしいです。医師を目指す以上、一心 (いっし(、、、)ん)に勉強したいと思います。医師だけにっ」


 クラウディアはそう言ってタヴァン先生にサムズアップした。


 そのやり取りで、あたしとキャリルは思考停止したように固まってしまった。


 だがあたし達の目の前で、タヴァン先生とクラウディアは声を上げて笑いながら握手していた。


「キャリル……、クラウディア先輩ってこういうヘンな――特徴的な話し方をするの?」


「そのようなことはありませんわ。ですが会話の中で、決して相手を置き去りにしないように、クラウディア姉上のお父上から言われているそうです」


 あたしはその話を聞いて、医療の道ってスゴいんだなと思った。



挿絵(By みてみん)

クラウディア イメージ画 (aipictors使用)




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