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04.説明できる形の答え


 神妙な顔をしてあたしに視線を向けるドニーに問う。


「今回は試合形式の模擬戦でしたが、あたしの勝利となりました。ですがこれが実戦なら、ドニーさんは死んでいたと思います。そのことをどう思いますか?」


「そうですね……。ひたすら自分の未熟を思うよ。エイミーからの助言があって油断は無かったが、八重睡蓮(やえすいれん)という冒険者の噂にたがわぬ強さだった」


 本題から逸れるけど、ちょっと待って欲しい。


「噂ってなんですか?」


「ええと、ここで話していいかい?」


 遠慮がちにそう告げるドニーの表情であたしは何かを察した。


「………………やっぱりやめてください。コホン」


 視線を感じたのでそちらを見ると、ルナが興味深そうな表情であたしを見ていた。


 いまはあたしの話はいいんです。


「でも、そうですね、――護衛の依頼をこなしていれば、ヤバい敵とかと戦わなきゃならないこともあるんじゃないですか?」


「確かにその通りだ。『敵うか敵わないか』じゃなくて、どうやって依頼主やマジックバッグなどの護衛対象を守るのかという話だったりする」


 あたしは無理やり本題にもどして確認すると、想像通りの答えが返ってきた。


 ドニーはすでに、そういう(、、、、)戦いの中に身を置いている。


「それって勝つための戦いというよりは、『負けないための戦い』ですよね?」


「いい事を言ってくれる。まさにその通りだ」


「それを踏まえると、個人の強さってそのための手段ですよね?」


 あたしの念押しに少し考えて、ドニーは頷く。


「ああ。冒険者にとって、依頼が全てだ。強さはそのための道具の一つです」


 良かった。


 ここまで確認できたなら、ドニーはエイミーに答えを示せるだろう。


「その言葉を聞いたうえで確認です。冒険者にとって依頼がすべてで、強さが道具なら、『実戦を戦い続ける』のは目的ですか? それとも手段ですか?」


 あたしの問いにドニーは反射的に何かを言いかけ、それを飲み込んで考える。


 そして応えようとした。


「それはやはり――「すみません!」」


 彼の言葉をさえぎって、あたしはさらに問う。


「もう一つ。いま訊いた『目的か手段か』への答えを踏まえて、エイミーの実家がやっている商売はどう思いますか? 冒険者としての強さより大切なものですか?」


「…………」


 あたしの問いに、ドニーは黙り込んでしまった。


 ただ、彼の表情は暗いものでは無い。


 おそらくドニーの中では、エイミーに説明できる形の答えがあるんじゃないだろうか。


 あたしはそう予感した。


「ドニーさん、いまあたしが訊いたことの答えを、エイミーに話してあげてくれませんか?」


「ウィンさんにではなく、ですか?」


「だって、――あたしが聞く話じゃないですよホントは」


 そう言ってから思わずあたしは吹き出してしまった。


 ドニーは目を丸くした後に柔らかい表情を浮かべる。


「分かりました、ありがとう。やっぱり八重睡蓮の噂は正しかった……!」


「…………」


 あたしとしてはここであたしの『噂』について確認するべきか、脳内で何度も計算したけれど、けっきょく何も聞かなかったことにしてスルーした。


 その後ドニーはあたしや武術研のみんなに挨拶して、警備の衛兵さん達と一緒に屋内訓練場から去って行った。


 ドルフ部長を始め何人かの先輩たちは、魔法で彼と連絡を取れるようにしたみたいだった。


 衛兵さんに褒められて恐縮するドニーの背中を見送りながら、デイブに連絡することを考えていた。


 あとジャニスをシメなきゃな。


 ちなみに後日エイミーに確認したのだけれど、彼女はドニーと友だちという関係で交際を始めたそうだ。




「冒険者の強さとは、騎士や貴族にとってのそれと似ている部分があるんですのね」


「どうしたのよキャリル。あなたのことだから王国の安全のためには『強さ自体を目的としますわ』って言いだす気がしたけれど」


 あたしの言葉にキャリルは不敵に微笑む。


「やはりそれは『道具』ですわよウィン。――模擬戦のあとの判断も含めてお見事でした」


 そう言ってキャリルは右拳をあたしに向ける。


「ありがとう。正直エイミーのことじゃ無かったら逃げてたわよ」


 苦笑いを浮かべつつ、あたしはキャリルとグータッチをした。


 武術研のみんなを見ると、それぞれにスパーリングなどを再開したり、あたしとドニーの模擬戦の話などをしていた。


 そんな中、ルナがあたしの傍らにやってきた。


 彼女に絡まれ、冒険者としてどんな活動をしているのかとか、八重睡蓮って何だとか色々訊かれた。


 無難に応えたらルナは自分も冒険者登録をすると駄々をこね始め、なにやらライナスに諭されていた。


 それを横目にキャリルに声を掛け、デイブから回収したブツを寮の自室で食べようと誘って二人で引き揚げた。


 寮の自室ではコーヒーを用意して、キャリルと二人でケーキを頂いた。


 カタチ的にはタルトだと思うけれど、生地はしっとりしている。


「~~~~~っ、アーモンドの香ばしさと洋梨(ペアー)の食感や甘さがバランス取れてるし最高ね!!」


「これは素晴らしいですわね……」


 そうして二人でもきゅもきゅとケーキを頂いた。


 さすがに夕食が食べられなくなるとアルラ姉さんにお説教されるので、ある程度で済ませて【収納(ストレージ)】に仕舞ったけれども。


「そういえば模擬戦後の講評のときに、ドニーさんはウィンのことを『虎の魔獣のようだ』などと言っておりましたわね」


「言ってたけど……、またヘンな称号が付くとイヤだなあ」


 そう呟いてから思い立ち、あたしは【状態(ステータス)】を使って確認した。


 幸い今回は妙な称号は付かなかったようだ。


 それをキャリルに報告すると、『八重睡蓮』の二つ名の方が印象に残ったのではと言われた。


「そうなのかしら?」


「ほかに考えられますの?」


「たしかにそれが無かったら、みんな好き勝手に呼び始めたかも知れないけれども……」


「わたくしは鍾馗水仙(ショウキズイセン)の二つ名は気に入っておりますわ」


 キャリルは機嫌良さそうにそう告げる。


「まあ、あたしもヘンな二つ名よりは、花の名前で助かっているけどさ」


 でも確かジャニス情報で、睡蓮の花言葉に『滅亡』があることが分かっている。


 それを思い出して細く息を吐くと、キャリルが微笑む。


「それともウィンは、もっとゴージャスな二つ名の方が良いのでしょうか?」


「おねがいです、かんべんしてください」


 そんなことを話しながら二人でのんびりと過ごした。




 夕食はいつものようにアルラ姉さん達と取り、周囲を魔法で防音にして武術研で模擬戦をした顛末を説明しておいた。


 夕食後は姉さんの部屋に寄ってケーキをお裾分けしたあとに自室に戻り、【風のやまびこ(ウィンドエコー)】でエイミーに連絡を入れた。


「こんばんはエイミー、ちょっといいかしら」


「こんばんはウィンちゃん。ドニーさんの話ですよね」


「うん。けっきょく話をしてから、試合形式で模擬戦をしたわよ」


「そう……。面倒なことを頼んでゴメンなさい」


「ううん、エイミーが悩んでることだもん。こういう時はお互いさまよ。――ジャニスとかデイブに対応してほしかった気もするけど」


「あはは……」


 あたしはドニーに確認した内容や、戦った時に抱いた印象を説明した。


 そしてエイミーに、『あたしからの問いの答え』を説明するように言ったのを伝えた。


「――だから、エイミーが感じてた不安みたいなものは、整理できたとおもうわ」


「ありがとうございます。目的と手段ですか……。そう言われたら納得です。ウィンちゃんに相談して良かった」


 エイミーが喜んでくれること自体は嬉しいんだけれども。


「相談じゃなくて丸投げだったと思うんですけど?」


「ううん、私はウィンちゃんを信じてますよ」


 あくまでもシラを切るか。


 エイミーがそういうつもりなら仕方がない。


「それじゃあ確認するけれど、そもそも今回のことは最初にジャニスに相談して、ジャニスがあたしに相談するのを勧めたのよね?」


「そうですよ」


「ならあたしが部活でのトレーニングの時間を使われたのを、ジャニスに文句を言いに行って軽くシメてきても、エイミーが責任をとってくれるのよね? あたしを信じているなら」


「ええと――。あ、ちょっと母が仕込みを手伝えと言ってるので――」


「すべてはエイミーの責任ってことで。あと、デイブへの相談はそっちでやってね。おやすみでーす」


「ちょっとウィンちゃ――」


 そうしてあたしは朗らかにエイミーに用件を言いきってから、こちらから連絡を終えた。


 そのあとは宿題と日課のトレーニングを片付けて、読書をしてから寝た。



挿絵(By みてみん)

キャリル イメージ画 (aipictors使用)




お読みいただきありがとうございます。




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