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05.権威ある学校って


 『美少年を愛でる会』の取り締まりは一区切りついた。


 あたしたち風紀委員会のメンバーは、確保した学生たちの処分を先生たちに任せて寮に戻った。


 上級生たちはともかく、新入生たちに関しては副学長とクラス担任からのみっちり二段階のお説教と反省文で済むらしい。


 上級生たちはさらに内申点への影響と、保護者への連絡が待っているようだ。


 そういうのが分かっててもやるんだから救いがたいよな。


 制服から部屋着に着替えるときにポケットの中の物を思い出したが、取りあえず自室の机の目立つところに置いた。


 救いがたい生徒たちのお陰で日課が滞るのも負けた気がするので、大急ぎで宿題やらトレーニングを済ませてから、ダンジョンの攻略本を読み進めた。


 翌日、普通に授業を受けてから昼休みになった。


 昨日の取り締まりがあって、あたしは何となく気分的にくたびれていた。


 キャリルと相談して、今日の昼休みは実習班のいつものメンバーでお喋りして過ごすことにした。


「なんやウィンちゃん、くたびれた顔しとるな」


「ちょっとね。……キャリルは顔に出さないのは大したものね」


「実際大したことはありませんわよ。昨日の話はまたあとでしませんこと?」


「分かったよ」


「ところでサラ、それは……パスタですか? 変わった形をしていますね?」


「ん? これはペンネいうパスタやで。中が空洞で筒状になっとって、ソースが絡みやすい特徴があるんやわ」


「それは、美味しそうですね……」


 サラの説明にジューンがベーコンが入ったチーズクリームペンネを観察する。


「まだ匙を付けとらんし、少し分けようか? 美味いで~」


「いいんですか?! じゃあ、私もフリッターひとつあげますね」


「おおきに! それクリームソースに合う奴やろ! ありがとう!」


「ああ、あたしもそれにすれば良かったな」


「ウィンはシチューですわね。少しサイコロステーキを差し上げましょうか?」


「いや、大丈夫。量的には充分足りるわ」


 そんなやり取りをしながらお昼を食べた。




「それで、昨日の話って、何かあったん?」


「昨日の夜、風紀委員会による取り締まりがあったんですの」


 あたしたちは食堂を離れ、適当なベンチでお喋りをしている。


 話す内容が不穏な気がしたので、すでに【風操作(ウインドアート)】で見えない防音壁を作ってある。


「王立ルークスケイル記念学院には、学院が公認にしていない『学院非公認サークル』と呼ばれる集団がいくつもあるらしいんですの」


「風紀委員会の先輩たちによると、学院裏組織って呼ばれることもあって、色々と問題がある集団みたいなのよ」


「学院裏組織……!」


 あたしの言葉でジューンが目を輝かせ始めたな。


 これはクギを刺しておいた方がいいかも知れない。


「昨日の夜そのうちの一つ『美少年を愛でる会』が集会を開いてね。その取り締まりをしたのよ」


「何や妖しい響きがある集団やな」


 表情からするに、サラも興味を持ってしまったようだ。


「間違っても関わったらダメよ。過去にはそのメンバーがストーカー行為をして、被害者の親が騎士だったから騎士団長が学院に苦情をいうことになったらしいわ」


「「うわぁ……」」


 あたしの説明でサラとジューンはドン引きした表情を浮かべている。


「昨日の取り締まりで、参加していた学生にはペナルティが課せられましたわ」


「ペナルティですか?」


「新入生たちはお説教と反省文で済むようですが、上級生たちは他に内申点を下げられたり保護者に連絡がされるようですわ」


「そんなんアカンわ。何年も身内にいじられるやつやん」


「学院非公認サークルって、全体像を学院側も把握しきれていないみたいなのよ。特に注意が必要な集団も名前は聞いてるわよ。ねぇキャリル?」


「そうですわね。今回の『美少年を愛でる会』が男子生徒を標的にしていて、他に女子生徒を標的にする『地上の女神を拝する会』の名はすぐに出てきましたわね」


「ほかは名前だけ聞いてるけど、『精霊魔法研究会』、『虚ろなる魔法を探求する会』、『魔道具を魔改造する会』、『微生物を魔改造する会』……」


「魔道具とか微生物とか、ウチらと被りそうやんそれ」


「学院が問題視するなら相当ですね……」


 サラとジューンが何やら考え込む。


「まだありますわよ。『学院裏闘技場』、『カンニング技術を極める会』、『闇鍋研究会』でしたわね」


「どんなんやそれ……」


「ええと……学院って王国で権威があるんですよね……? 権威ある学校って一体……」


 サラとジューンが死んだ目をしているけど、気持ちは分かる。


「今日の放課後あたしは風紀委員会に顔を出すけど、みんなで行ってみない? 一度学院非公認サークルの話を聞いておいた方がいいかも知れないし」


「そうですわね、いいと思いますわ」


「うん、そやね。ウチたちも部活で接点があるようならヤバいし」


「分かりました、行きましょう」


 そして、みんなでまた風紀委員会に話を聞きに行くことになった。




 放課後に風紀委員会の部屋に行き、初対面のメンバーも居たのでサラとジューンを紹介した。


 エルヴィスが相変わらずイケメンスマイルを振りまいていたが、コウで免疫ができていたのかサラとジューンが動揺することは無かったようだ。


 それでもエルヴィスは嬉しそうにしていたけど、何となく身内の女の子というか、もっと言えば妹を見るような視線を一瞬感じた気がした。


 新しい報告が無いかを委員会のメンバーにカールが確認したが、特に出てこなかった。


 昨日の今日なので、皆ホッとした表情を浮かべていた。


「それで、要注意な学院非公認サークルの話を訊いておきたいんですけど、大丈夫ですか?」


「構わない。あまり彼らについて大っぴらに議論などをしないなら、知っておいた方が君たちの安全にもいいことだろう」


 カールがそう頷いてから、ジェイクに視線を移した。


 ジェイクは頷くと口を開く。


「じゃあそうだね。『美少年を愛でる会』に関してはキャリルとウィンには話してあるし、後で聞いてほしい。その男女逆の集団が『地上の女神を拝する会』だ。彼らは一応女子生徒への距離感は最後の一線を越えていないが、内部派閥があるようなんだ」


「あからさまなストーカー行為をする参加者には、会をあげて鉄拳制裁をするみたいにゃ。それで、遠くから見るのが会の主流派らしいにゃー。でもお目当ての女の子に何度も告白するのを外道と判定して、時々内部抗争を起こすにゃ」


 内部抗争ってどんな集団なんだよ。


「抗争とは穏やかで無いですわね」


「そうだね。結構ストレートな恋愛感情も絡む話らしくてね。大規模な抗争に発展すると大量のケガ人が出てしまうんだよ」


「恋愛感情かあ……」


 それは厄介そうだ。


「ボク個人としては共感できる部分もある。でも、その度に駆り出される学院の治癒回復要員から風紀委員会に泣き付かれたことがあって、ボクたちが介入することになっているんだ」


「取りあえず次の非公認サークルの話に移ろう。『精霊魔法研究会』と『虚ろなる魔法を探求する会』は、それぞれ精霊魔法の研究と、呪いなどの継続効果を付与する魔法を研究する集団だね」


 ジェイクが別の非公認サークルの話を始める。


「精霊魔法の方は、広域魔法研究会に入れなかった生徒が作ったって言われてるわ。本場は共和国らしくて、教えられる人間が少ないわね。でも精霊魔法は使用者の精神に影響が出る魔法でね、王国では要監視対象なの」


 ニッキーが腕組みをしながら説明する。


 その様子にジェイクが頷いて、さらに告げる。


「呪いの方は四大属性魔法を使っていることは確かなんだけど、継続効果がある代わりにこれも使用者の精神に影響が出るみたいだ。ぼくの親は魔法兵で、その関係で聞いたことがあるけど、王国では王宮付きの魔法使いが研究しているという噂はあるかな」


「いま言った二つの魔法のサークルは、学院側の対策で学内での活動はほぼ無い。だが、二つともそれぞれ王都内に拠点を持つという噂がある」


 カールが重苦しい表情で補足した。


 王都内に拠点を持つというのは、不穏な話だ。


「その二つの集団は、学生以外に活動を支援している者がいる可能性は考えられませんこと?」


「その辺はもう王国の管轄にゃー。アタシたちは学院内で警戒するしかないにゃ」


 学院の外とも関係する話か。


 なんでも風紀委員会で取り締まるというわけにはいかないよね。


「さっき大っぴらに話すな言われた意味が分かったわ。めちゃヤバい話やん」


「そうですね。でも、知っておけば何かのときに相談することはできます」


「うん。いつでもボクたちに相談をして欲しい。プライベートの悩みでも、いつでも歓迎するよ」


 そう言ってエルヴィスはニコニコしているが、サラとジューンは曖昧に笑ってごまかした。




 そのあとニッキーがハーブティーを淹れてくれて、エリーが自信作だという焼き菓子をふるまってくれた。


 お茶を飲みながら、主にジェイクがその後の説明を続けてくれた。


 その内容は以下のようなものだった。


・『魔道具を魔改造する会』は、搭乗型ゴーレムを密かに開発している。いちど機体を暴走させて農場を荒らして以来非公認サークルになった。


・『微生物を魔改造する会』は、食品研究会の過激派が興した。発酵食品に使える微生物を、魔法を使って改良している。王都内に拠点を持つという情報がある。


・『カンニング技術を極める会』は、学院内の試験を不正に攻略する技術を研究している。試験問題を事前に入手する派閥と、試験中にカンニングする技術を求める派閥がある。


・『闇鍋研究会』は、参加者が持ち寄った食材(?)を煮込んで食する活動をしている。当初は食文化研究会を名乗っていたが過激化し、過去に集団魔力暴走事件を起こして以来非公認サークルになった。


「集団魔力暴走事件て何やねん……」


「一時的に環境魔力が際限なく自分の魔力に加わる現象ね。正気でなくなってしまうから、身体に入ってきた魔力を本能的に身体の外に出そうとするのよ。その結果、覚えている魔法をバンバン見境なく撃ち始めるの」


「なかなか面倒そうですわね。意識を奪ったとしても、身体が魔力吸収を続けてしまうならあまり好ましい事にはならないと思いますわ」


「そうだな。だから非公認サークルとして取り締まり対象になっている」


「ところで、そろそろ『学院裏闘技場』の話をするにゃー」


 微妙に嬉しそうな表情を浮かべてエリーが告げた。


 それを聞いた風紀委員会のメンバーの反応としては、苦笑したり眉間を押さえたりしていた。



挿絵(By みてみん)

ジューンイメージ画(aipictors使用)




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