04.学院非公認サークルはいろいろと
学院生活も、薄皮を剥がせば面倒ごとがあるかも知れない。
以前そう言っていたのは、あたしの話を聞いたコウの反応だったか。
目の前で青い顔をしているのは、あたしたちに相談をしてきた同学年のクラス委員長の一人だった。
「昨日さ、君たちが僕に挨拶しに昼休みに来てくれただろ。同じ日の放課後に、……不穏な会話を聞いてしまったんだ」
「不穏な会話って?」
昼休みになって昼食もとり、あたしとキャリルは今日は教養科のクラス委員長に挨拶をしに行こうとしていた。
その道すがら、声を掛けられたのだ。
内緒の話だというので講義棟を出て近くのベンチに向かい、【風操作】で見えない防音壁を作って話を聞くことにした。
「クラスメイトでいつも一人になっている女子がいたから、放課後に声を掛けようとしたんだ。そうしたら先に、別の女子生徒に話しかけられててね」
「同じクラスの生徒ですの?」
「違うよ。制服から判断して、たぶん初等部で上の学年だと思う」
「名前とかは分かるかな?」
「話しかけてた方は残念ながら分からない」
「それで、どんな内容を喋っていたんですの?」
「ええと、『自分が見つけたからあなたはもう孤立することは無い』とか最初に言ってたな」
「……ほかには?」
「そのあとに、『明日の夜、自分たちが行う集会があるから、そこで魂を解放すれば天にも昇る心地になる』とか言っててさ。……完全にヤバくないか?」
「その話しかけられた子は王都の子?」
「違うね。自己紹介では東の地方から来たって聞いてる」
「それじゃあ寮生よね。夜に集会ってどういうことかしら」
「その話しかけられていた女子生徒の名前を教えてくださる? 女子生徒同士が話していたということですし、まずは女子生徒である風紀委員の副委員長に状況説明して判断を仰ぎますわ」
「分かった。ええと、その子の名前は――」
名前を聞き出して情報をくれたクラス委員長を戻らせた後、キャリルからニッキーに魔法で連絡を入れた。
「――という話でしたの」
「ちょっと待って頂戴ね。……昨日の段階で『女子生徒』が『明日の夜集会』を行って、『天にも昇る心地』って言ったのね?」
「そうらしいですわ」
「…………」
「ニッキー先輩?」
「……あいつら……あれだけ念入りに注意したのに……!」
「なにか心当たりがあるんですの?」
「ああ、ごめんなさい。話は分かったわ。対策をする必要があるから、今日の放課後あなたたちは予定は大丈夫かしら?」
あたしたちが特に予定が無いことを伝えると、放課後に風紀委員会の部屋に集合することになった。
放課後にあたしたちが集まると、直ぐに昼間の話になった。
「学院非公認サークル、ですか?」
「まず間違いが無いわね。会話の内容と女子生徒であること。時期的に来月収穫祭があって、筋肉競争の大きな競技会があることも影響しているかも知れないわ」
ニッキーが苛立った表情で告げる。
ここでも筋肉競争かよ。
「どういうサークルですの?」
「あくまでも現段階では情報が断片的すぎるけれど、『美少年を愛でる会』だとおもう」
思わずあたしはその単語を聞いて脱力した。
その様子を見て察したのか、エリーがあたしに言う。
「ウィンちゃんまじめに聞くにゃ。過去にはこの集団のメンバーがストーカー事件を起こして、男子生徒が女性恐怖症になったことがあったらしいにゃ」
「そうだな。騎士を志望する新入生が、筋肉競争部に入ったらしいのだが標的になってな。その挙句、生徒の父母に話が及んだ上にその家が騎士の家でな。騎士団長から学院に苦情が来る事態になったことがある」
カールがうんざりした表情で説明した。
「うわぁ……」
「ちなみにそれ以来、リー先生は筋肉競争部の顧問だから『美少年を愛でる会』を目の敵にしてるにゃ」
絶対それ、リー先生の私怨が入ってる気がするな。
地雷原として脳内にメモしておこう。
「ところで今晩の対策はまた話すとして、学院非公認サークルは他にもありますの?」
「あるねぇ。厄介なことに、学院側でも全容は把握しきれていないと思うよ。『学院裏組織』なんて呼ぶ子も居たりするかな」
エルヴィスがキャリルに応えた。
裏組織ってなんだそれ。
「それでも、特に注意が必要なものは限られると思う。今回の『美少年を愛でる会』と双璧をなす『地上の女神を拝する会』とかがあるかな。これは男子生徒が女子生徒を追う方だね。あとは名前だけ挙げるけど――」
ジェイクによると注意が必要な集団として、精霊魔法研究会、虚ろなる魔法を探求する会、魔道具を魔改造する会、微生物を魔改造する会、学院裏闘技場、カンニング技術を極める会、闇鍋研究会、などの名前が挙がった。
「…………それ、どこからツッコんだらいいんです?」
ジェイクの話の途中からあたしは死んだ目をしていたと思う。
「いきなり聞いても面倒な話よね。基本的には情報収集と、対症療法的な対策ね。個別の生徒への風紀委員会の仕事とやることは大きく変わらないわ」
「学院裏闘技場だけちょっと毛色が違うかも知れないにゃー」
「エリー、いまは話が逸れるから別の機会に話そう」
ジェイクがそう告げた。
以前生徒会に行った時にも、役員たちがいろいろ気にしていた。
風紀委員会と生徒会と学校の連絡体制からして、学院非公認サークルはいろいろと厄介な問題を含んでいるのかも知れない。
ともあれ、今晩の対策の話の前に、あたしとキャリルは風紀委員会の全員と【風のやまびこ】で連絡が取れるようにした。
最初は先輩の強引な誘いが少し怖かった。
放課後に声を掛けられて、引きずられるようにして講義棟近くのベンチに行った。
「明日の夜、『美少年を愛でる会』の集会があるの」
その妖しげな響きに一瞬戸惑いつつ、先輩が告げた言葉の意味に頭を巡らせた。
「美少年を愛でる、ですか」
「そうよ。あなた、カッコ良かったり可愛らしい顔の男子生徒は気にならないかしら」
「ええと……」
素直に答えるなら、気になるに決まっている。
女子ならそういう面があるのは仕方がないと思う。
「否定しないっていうことは、あなたも同士よ。明日の集会では美少年の情報を交換するの」
「……」
「その時、【素描】の魔法が使える先輩も来るから、紙やハンカチに気になる生徒の画を描いてもらえるわよ」
それを聞いた瞬間、先輩の手を掴んでいた。
「それ、……欲しい……です」
「大丈夫、あなたもこっち側よ。同士はたくさん居るの」
そう言って先輩は嫌らしく笑った。
すぐ次の日になって一日も終わったけれど、今晩のことを考えていたらあっという間だった気がする。
夜になって指定の時間が近くなったので、制服に着替えて昨日渡された目元を覆う仮面を用意した。
時間になると教わっていたリズムでドアがノックされた。
そこからは仮面をつけて先輩の案内で寮を抜け出し、夜の学院内を移動する。
目的の教室に近づくにつれて、同じように仮面をつけた女子生徒が増えていく。
移動した先は高等部の講義棟があるエリアで、一階にある実習室らしい大きな教室にみんなで集まった。
みんな適当な場所で椅子に座っている。
部屋の中は野外で使うような照明の魔道具が使われていて、外に大きな光が漏れないようにしているようだ。
「それじゃあ、集会を始めます。と言っても、この集まりは情報交換がメインです。みんな、心のままに美少年について語ってください」
『はい』
どうやら集会が始まったようだ。
「この子について、情報がある人はいませんか?」
そう言って先輩らしき女子生徒があたしの近くを見渡す。
その手には魔法で作ったのだろう、精巧なデッサンがあった。
「少しだけ、情報があります」
デッサンされていた少年が同じクラスだったので、自己紹介で聞いていた内容を話すと先輩は仮面の奥でうっとりした表情になっていた。
「先輩、そのデッサンは誰に頼めばできますか?」
「ワタシが作れるわ。デッサンそのものに興味があるなら、美術部に行きなさい。……ワタシが知ってる子だったら今日のために作り置きしてあるわよ?」
「それじゃあ、コウ・クズリュウ君のデッサンがあったら欲しいです」
「ああ、あなたも好きねぇ……」
そう言ってニヤリと笑いながら、先輩は【収納】の魔法で仕舞ってあったデッサンを取り出し、渡してくれた。
「ありがとうございます!」
「がんばりなさい。……あと、【収納】の魔法が使えるなら破ったりする前に直ぐに仕舞いなさい。どうせここ暗いし、自分の部屋でゆっくり見てね。結構自信があるの」
忠告に従って、直ぐにそのデッサンを収納の魔法で仕舞った。
美術部でデッサンが学べるなら、顔を出してみてもいいかも知れないと思う。
そのあとしばらく周りにいた人たちと話していたけど、急に強い眠気に襲われた。
「あ……れ……?」
あっという間にぼんやりとしていく意識の片隅で、誰かが『ガサ入れだー!』と大きな声で叫んでいるのが聞こえた。
そのあと、意識が暗転した。
『美少年を愛でる会』の取り締まりは、魔法科の先生方も巻き込んで行った。
【睡眠】の魔法を使える先生やニッキーとジェイクが、その場に集まっている生徒をどんどん寝かしていく。
その他の先生や、カールやキャリルが教室に踏み込み、睡眠の魔法を抵抗した生徒を無力化して順次縄で拘束していく。
夜間戦闘に慣れた先生や、エルヴィスとエリーとあたしは、窓を飛び出したりして教室から逃げ出した生徒を気絶させ確保した。
大半は睡眠の魔法で無力化することに成功したので、取り締まり自体は楽な作業だった。
教室から逃げ出した生徒には【麻痺】なんかの魔法を撃ってきた生徒もいた。
でも、先生たちも居たので、盾の魔法で支援してもらったりして大した手間でも無かった。
相手に麻痺を与えるような魔法も盾の魔法で防げると知ったのは勉強になった。
「やれやれ、こんなに集まって何をやってるんだか」
そんなことを呟きながら、教室の外から明かりがつけられた実習室の方を見る。
周囲の気配を探りながら彼女たちが集まっていた教室に向かうが、制圧は完了していた。
教室の中を見まわっていると、魔法で眠らされている生徒に男子が数名混ざっている気がするが、その理由は考えないことにした。
ふと視線を動かすと、辺りに生徒が居ない場所に何かが落ちているのを見つけた。
落とし物なのか、あるいはここにいる誰かの持ち物かは分からないけど、取りあえず手に取ってみる。
金属製のペンダントトップみたいなもので、第一印象は知恵の輪だろうか。
一筆書きで描かれた三つ葉模様みたいなものだったが、何となく日本で生きていた時の記憶で似たものを見かけた気がした。
だがとりあえず教室が雑然としていたので、深く考えることもなくあたしは制服のポケットに入れた。
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