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11.どんな道を選んでも


 神域でソフィエンタと魔神さまとあたしとで話し込んでいたのだけれど、魔神さまが何か言おうとしたところでソフィエンタが割って入った。


 話の流れ的には赤の深淵(アビッソロッソ)の件で『ちょっとこのあと』と魔神さまが言ったところで遮られた。


 もしかしなくても、連中が面倒なことを起こすんだろうか。


 そう思ってソフィエンタに視線を向けると苦笑いを浮かべている。


「ウィン、悪いけど言えないわよ」


「はあ……、あんまりヤバいなら教えてほしいんですけど」


「その辺も含めて、いまは一般的な事しか言えないわね」


 そう言ってソフィエンタは肩をすくめてみせる。


 一般的とはどういう意味だろう。


 赤の深淵は人間を供物に使うような、前時代的な狂信者の集団だ。


 それに気をつけろということなんだろうか。


「なにか、気を付けた方がいいの?」


 そう言いながら、あたしはソフィエンタと魔神さまの表情をうかがう。


 ソフィエンタに関してはいつもの澄ました笑みだけれど、こういう時は何かある気がするんだよな。


 魔神さまは何か言いたそうにしてこちらを見ているけれど、ときどきチラチラとソフィエンタの様子を窺っている。


 ソフィエンタは魔神さまに視線を向けて一つため息をついた後口を開く。


「当面は問題無いわ。でも、そうね、連中を目の敵にする連中が動き始めるから、気をつけなさい」


「闇ギルドってこと? 気を付けるって言っても、そもそも接点が無いわよ」


「ヒントをいえば、呪術とか魔力の感知を注意なさい」


 ソフィエンタがそう告げると、魔神さまが何やらしたり顔で頷いている。


「ふーん? 呪術かあ、あまり面白い話じゃ無さそうね」


 王国では魔法の技術の一種という位置づけみたいだけれど、あたしとしてはあんまりいい印象が無いんだよな。


「ああ、あとたぶんお祭りがあるから、古代遺跡調査は少し延期になるわよ」


「あ、うん……。え? 古代遺跡調査? って何だっけ?」


 あたしがそう言うと、ソフィエンタが信じられないという視線をあたしに向ける。


「あなたはそろそろ、ライゾウくんが主導していた王都地下の古代遺跡の調査に参加するんじゃなかったかしら?」


「ああ、やっぱりその件なんだ。何ていうかソフィエンタの口ぶりだと、古代遺跡があるのが確定な感じで言ってるような気がしたのよ。すでに存在が確定してる古代遺跡の調査の話ってあったかなあって思ったんだけど」


 そう言ってあたしは不敵な笑みを向けると、ソフィエンタはイヤそうな顔を浮かべた。


「前に『魔神騒乱』関連の話をしたときに、あたしが教えていいのかって確認して『やっぱりいい』って応えてたのはどこのどなた様でしょうね?」


「う゛、いや、確かにあるかどうか知っても、あたしが行くか分かんないし、聞いても仕方ないかなって思ったっていうか……」


 何となくしどろもどろにソフィエンタに応えていると、彼女は鼻で笑った。


「まあいいわ。うすうすは予感めいたものは感じているようだけれど、王都ディンルークの地下には、超魔法文明の古代遺跡が眠ってるわ」


「ああ、やっぱりそうだったのね。ていうか、あたしが予感で感じ取ってるって分かってたの?」


「うん。なにせあたし、あなたの本体ですから」


「ぐぬぬ」


 あたしとソフィエンタのやり取りを、微笑ましいものを見るような表情で見守っていた魔神さまが口を開く。


「それで、お祭りの話をしておくんだよね、ソフィエンタ先輩?」


「ああそうそう。ローズちゃんが元気になったから、その件でお祭りになるみたいね」


「そうなんだ?」


「ええ。それでももし古代遺跡調査で入り口が開いたとき、スタンピードが起きたらお祭りどころじゃ無いわ」


「ああ……、ヘタをしたら死傷者が出るわよね? 確かにお祭りどころじゃなくなるわね」


 そういうことなら王都地下の古代遺跡の調査は延期されるのか。


 ただ、目の前に居るのは神々だ。


 調査を行って、それが切っ掛けでほんとうにスタンピードが起こるのかを訊くのはダメだろうか。




「ねえソフィエンタ。根本的な話だけど、王都地下の古代遺跡調査でスタンピードって起きるの?」


「遺跡の封を解いただけじゃあ起きないわよ。あそこは超魔法文明関連の施設があったエリアだもの」


 ソフィエンタからの話を聞いたあたしが安心したのも束の間、魔神さまがもっと具体的な話を突っ込んできた。


「でも人為的に起こせるというか、似たようなものが起こってしまうことはあるだろうね」


「ダメじゃん?! ダメですよねそれ?!」


「さて、この場合は何をもって『ダメかどうか』を決めたらいいんだろうね?」


 魔神さまはニコニコと微笑みながらそう言った。


「イイですねアレスマギカ。神としての視点が伸びてきている言動ね」


「いや、あたし的には煙に巻かれたような気がするんですけど?!」


 あたしの言葉に少し困ったような表情を浮かべた後、魔神さまは言う。


「どういう判断が為されるにせよ、放置するよりは調査した方がいいと思うよ」


 そう言って彼はハハハと朗らかに笑った。


 スタンピードに『似たようなもの』と言っていたけれど、ソフィエンタの話では『施設』という単語が出てきたか。


 あるいは『闇神の狩庭(あんじんのかりにわ)』の『夢の世界』で闇ゴーレムが出てきたように、条件が揃うと防衛機構が働く感じなんだろうか。


 それを果たして目の前の神々に訊いてしまっていいものか考えていると、魔神さまと目が合った。


 あたしは一つ嘆息して思わず訊いてしまった。


「あの、魔神さまは人間だったころ、探検家だったんですよね?」


「そう呼んでくれる人はいるけれど、どうだったんだろうね」


「周りからそう認められているなら『探検家だった』ってことにしていいんじゃないですか? そのうえで、探検家として何かアドバイスとかもらえませんかね?」


「ウィン、あなただんだん遠慮が無くなってないかしら? アレスマギカは新人とはいえ神よ?」


 そんなことを言われても、目の前に居るのはある意味プロ中のプロみたいな存在だ。


 コツとかヒントとか聞いておきたいんですよ。


「アドバイスねえ……。情報の重要性とかは分かるかい?」


「一般常識の範囲では分かると思います。斥候とか狩人とかの視点に偏っているかも知れないですけど」


「充分だよ。ならそうだな……。うーん……『前に進むと決めたんだったら、どんな道を選んでも正解だよ』かな」


「おおー!」


 おお、何か名言っぽいものを聞けた気がするぞ。


「もっと身もふたもない言い方をすれば、『やったもの勝ち』ってことかも知れないけれどね」


「おー……」


 でも助言は助言だし、魔神さまの知恵とか実感がこもった言葉なら大切にすべきだろう。


「参考にさせてもらいます魔神さま」


「あんまり気にしないで。ぼくの発言内容とか視点とかを参考にしたいのだったら、ウィンの場合はディアーナに訊いてみるといいとおもうよ。ぼくの失敗も含めて、色々教えてくれるんじゃないかな」


「神さまになるような人でも失敗するんですね」


 その点は少し意外だ。


「当時は人間だよ。ぼくもそうだけど誰だって失敗するし、そういう意味ではディアーナとかも心配かな」


 そう言って魔神さまは可笑しそうに笑った。


「でもそうだね、何ならディアーナと二人で探検家になってくれたなら、ぼくは安心できるんだけど」


「アレスマギカ? うちのウィンに何を吹き込んでるんです?」


「ああ済みません先輩。今のは独り言です」


 大きな独り言だったなあ。


 そう思いながらあたしはカフェラテを啜っていた。




 ローズ様が鉱物(ミネラル)スライムを使った治療で救われたのは、魔神さまとソフィエンタの仕込みだということは確認できた。


 その他にも赤の深淵の話だとか王都地下古代遺跡の話だとか、ローズ様の快癒のお祭りの話を訊き出してしまった。


 そのあとは特に話題が広がらなかったし、あたしは適当なところで現実に帰還させてもらった。


 元々はあたしが暮らす世界に、地球で使われていたような薬があったほうがいいのではと思って願ったことだ。


「自分でゼロから薬の研究を進めるよりは、絶対ラクになると思うのよね……」


 あたしは自室でそう呟いてから椅子から立ち上がり、共用の給湯室でハーブティーを淹れてから宿題や日課のトレーニングに取り掛かった。



挿絵(By みてみん)

ライゾウ イメージ画 (aipictors使用)




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