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11.単純に捕獲のために戦うのは


 王都南ダンジョン内の荒野と礫漠のエリアを進み、オリバー達は標的となる蟻の魔獣であるクリスタルアントの巣を見つけた。


 正確には蟻の魔獣と共生関係にある、鉱物(ミネラル)スライムの捕獲が目的ではある。


 ただ、事前の情報ではクリスタルアントが狂暴であることは分かっていた。


 戦うことが避けられない以上、オリバーたちのチームの標的と呼んでも良いだろう。


 蟻の巣の手前数キロの位置で、オリバーは進軍を停止させる。


 進軍といっても今回は、光竜騎士団と近衛騎士から選抜したスペシャルチーム百名だ。


 年に幾度か行う軍事演習に比べたらささやかな規模ではあるのだが。


 そう思いつつもオリバーは荒野の中に整列した騎士たちの前に立ち、口を開いた。


「諸君! この場に我らが居る事は誉れである!」


 オリバーがそう叫ぶと、騎士たちの目に熱がこもる。


 彼はさらに言葉を続ける。


「王国に仕え、王国の民と王家に尽くすのが我らの喜び! 今まさにこの時、我らはその力を尽くすのだ!」


『おおーーー!!』


 続けてオリバーは、演習のときに叫ぶ言葉をここでも使う。


「諸君! 剣で殺す者は?」


『剣で死ぬ!!』


「剣で戦うものは?」


『剣で生きる!!』


 オリバーはそこで一同を見渡してから問う。


「ならば、剣で護る者は?」


『剣で勝つ!!』


「我らは此度も勝つだろう! 準備ができ次第かかれ!!」


『おおーーー!!』


 そう叫んだあとオリバーと騎士たちは一斉に動き、その場に陣形を作り出した。


 数名で班を作り、それらが決められた位置に動いて陣形を作る。


 移動前に彼らが作り出した陣形は、高所から見たらV字形をしていることが分かるだろう。


 いわゆる鶴翼(かくよく)の陣だが、王国では大鋏(オオバサミ)の陣とも呼んだりする。


 V字の一番奥にはオリバーとその護衛の一団が位置し、そこへとクリスタルアントを誘導して横から攻める手はずだった。


 陣形が整った報告を受けると、オリバーはそのまま進軍を指示した。


 それにより部下が叫び、完全武装して身体強化をしたオリバーたちはクリスタルアントの巣へと突撃した。


 荒野のエリアを砂煙を上げつつ彼らは走る。


 すると進行方向には荒野の中に巨大な丘が広がり、そのふもとにはぽっかりと口を開けた大きな穴が見えた。


 そして彼らの足音が聞こえたのか、あるいは罠で使われる魔獣寄せの香の臭いに引きつけられたのか、次々と黒いものが穴から飛び出してくるのが見えた。


 そこに雄たけびを上げながら、身体強化した騎士たちが全力で突撃していく。


 異常な地響きと砂煙が巻き上がりながら、クリスタルアントと騎士たちの戦闘が始まった。


 そこはもう戦場だった。


 硬質な音が各所で響くが、クリスタルアントの外殻を切断しようとする騎士たちの攻撃の音だ。


 それに加えて蟻たちの体当たりや噛みつき攻撃の音が被さる。


 攻撃は騎士たちは防御をするが、蟻たちは狙い通りにV字陣形の奥に誘導されて側面からの攻撃を受けるようになった。


 騎士たちの狙いは半ば的中していたが、的中しなかったこともある。


 それはクリスタルアントの硬さだった。


 防御に関しては全く問題がないことが直ぐに確認できたが、騎士たちの攻撃では蟻たちにそれほどダメージが通っていないことが見てとれた。


 その状況も想定していたため、オリバーたちは慌てることも無くクリスタルアントたちに攻撃を加えて行った。




 あたしは腹八分目くらいで昼食を済ませ、みんなの様子をうかがう。


 すると魔法で連絡をしているように見えるデイブが視界に入った。


 席を立って近くに向かい、長椅子でデイブの隣に座っているブリタニーに声をかける。


「何か連絡があったの?」


「いいや、念のため各班の状況を月輪旅団(うち)のメンバーから確認してるだけさ」


「ふうん? さっき、幾つかクリスタルアントの巣を見つけたって近衛騎士の人が言ってたわね」


「それも詳しく確認してるはずだよ」


 確かにデイブの場合、『見つけました!』というだけの話なら情報とは呼ばない気がするな。


 おおよそでも、どの位置にどのくらいの規模の巣があるのかを把握しようとするんじゃないだろうか。


 そんなことをふと考えていると、デイブは連絡を終えたようだった。


「どうしたお嬢?」


「ううん、何でもないけど、デイブが他の班と連絡してるのかなって思って見に来ただけ」


「べつに連絡なんざ普通にするだろ。そんなに面白いものでもねえよ」


「まあそうだけれども」


「それより何か不安に思ってることでもあるか? いちおうこれでもギルドの相談役だし、お嬢の相談にも乗ってやるぜ?」


 そう言ってデイブはドヤ顔を浮かべて見せる。


 確かに言ってることは妥当なんだけど、何か微妙にハラが立つのは気のせいなんだろうか。


 まあここは、気にしたら負けだからスルーして情報を集めておくか。


「不安って程じゃあないけど、あたし的にはもうちょっと鉱物スライムの情報が欲しいかなって思ってたけど」


「ん? どんな情報だ?」


「そもそも蟻の魔獣と鉱物スライムは共生してるっていう話だけど、どういう形で共生してるの? 蟻の巣穴に間借りしてスライムが住んでるの? それとも蟻が身体の中にスライムを取り込んで、身体の中で飼ってる感じなの?」


「あー……。おれもその辺りはうろ覚えだけど、身体の中で飼ってるはずなんだよな」


「うろ覚えって大丈夫なの? というか、レノから説明が無かったけど、それって巣の中を探せば見つかるって思ってるのかしら?」


 そのまま確認せずに、スルーしたあたしも良くないんだけれども。


「……たしかにそりゃレノックス様に確認しといたほうがいいな。つうかその前に、その手の小ネタはサイモンドのオヤジに確認した方がいいな」


 そう言ってデイブは【風のやまびこ(ウィンドエコー)】を唱えた。


 地上で紹介を受けた月輪旅団のメンバーで、サイモンド・グレンウィスという名前の書店のオヤジさんと連絡をするんだろう。


 デイブの口ぶりだと、魔獣に関する色んな知識を持っているのかも知れないな。


「――なるほど、じゃあおれの覚えてたので間違いねえんだな? ――了解だ、安心したぜ。――確認できたぜお嬢。やっぱり蟻が身体の中で、鉱物スライムを飼ってるので間違いねえようだ」


「そうなのね……。ふむ……」


 そうなると、ちょっとこのまま単純に捕獲のために戦うのは、何となくイヤな予感がする。


「どしたお嬢?」


「うん、じつはね、すごく引っ掛かってることがあるのよ――」


 あたしは自分の懸念をデイブに伝えてみた。


 するとデイブだけじゃなく、あたし達の話を聞いていたブリタニーやジャニスやエイミーも考え込む。


「私もウィンちゃんが心配するのは分かるわ。ふだん店に立ってるし」


「エイミーがそう言うってことは、マーシアにも確認した方がよくね?」


「私も同感だね。デイブ、ちょっと連絡しちまいな」


「あいよ。……やれやれ、毎度の忙しねえ感じになってきたな」


 デイブはそう言って、食堂をやっている家の奥さんであるマーシアに、魔法で連絡を入れて確認していた。


「――わかった。――ああ、もしかしたら来てもらう。だがまずはそっちは情報収集してくれ。じきにレノックス様から連絡があるだろう。――やれやれ、お嬢やエイミーと同意見だとよ」


「そうかい。まあ、理解できる話だが、先ずはレノックス様に相談だね」


 デイブの言葉にブリタニーが頷いた。


「ああ。おれから話を通してくるわ」


「あたしも行くわ」


 そう言ってあたしはデイブに同行し、確認してもらったことなどをそのままレノックス様へと説明してもらった。


 レノックス様は腕組みして考え込んでいたけれど、まずは正攻法で進めてみると言っていた。


 やがてその場のチームのメンバーは昼食も終わり、出発する準備を始めた。


 テーブルや長椅子を片付けて、装備を整えてあたし達はすぐに移動できるようにした。


 そこでレノックス様が話を始めた。


「そろそろ出発をするが、その前に連絡事項がある。まず、将軍たちのチームは蟻の制圧に時間が掛かっているようだ。防御は問題無いそうだが、とにかく硬いらしい」


 それを聞いて、あたしはやっぱりラクがしたいなと思う。


「次に、情報の共有だ。今回の目的は鉱物スライムの捕獲だが、これはクリスタルアントと共生関係にあるのはすでに説明してある。この話の補足だが、鉱物スライムはクリスタルアントの身体の中で飼われているらしい」


「それって、生け捕りのためには、クリスタルアントをバラす必要があるってことか?」


 レノックス様の話にカリオが手を上げて確認する。


「そこは確認が必要だが、一つ目の蟻の巣ではクリスタルアントを解体する予定だ」


「分かった」


 レノックス様は確認事項が無いかを促したけれど、他は特には質問は出なかった。


 その後、最初に向かう巣の位置が説明され、あたし達は出発した。



挿絵(By みてみん)

エイミー イメージ画 (aipictors使用)




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