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10.進むけれど破綻は無い


 予定通りあたし達は、まず王都南ダンジョンの第十九階層入り口まで魔道具で転移した。


 現在小休止をして装備のチェックなどを行っている。


 すでにチーム分けは済んでいて、三つのチームは第二十一階層に移動済みだ。


 ここに居るのはあたし達『敢然たる詩ライム・オブ・ブレイブリー』に同行する人たちで、近衛騎士と暗部の人たちで約十名にデイブたち月輪旅団が四名がいる。


 それにフレディとニコラスがいて、シンディ様が居るところにあたし達五人だ。


 総勢で約二十名のチームになった。


「皆、そのまま聞いてくれ。オレ達は小休止を終え次第、移動を始める。基本的にはこの密林内を伸びる道をたどり、気配を消した状態で駆けていく。陣形に関しては縦に伸びた縦列で進む」


 そこまで話してレノックス様は、暗部のロッドに視線を向ける。


 ロッドは頷き口を開いた。


「密林エリアでの移動は暗部のメンバーが先行して露払いを行います。従い、陣形は暗部、近衛、『敢然たる詩』、殿(しんがり)は月輪旅団の四名でお願いします」


「おれ達はそれでも構わないが、暗部の連中の負担が大きくなるのはいいんだな?」


 デイブが問うがロッドは冷静に頷く。


「はい。第二十一階層からはじまるエリアに入るまでは、今回の目的には関係ありません。露払いは暗部が担当しますので、それ以外の皆さんは力を温存してください。この段階で魔獣との戦闘が始まっても、そのまま駆けて下さって結構です」


 そこまでロッドは告げて表情を緩める。


「もっとも、このエリアでは我々の敵になるような魔獣はいないでしょう」


「たしかにまだ二十階層付近だしな、そう言われたらそうなんだが……。このメンツなら問題は無いか。――了解した」


 確かに寄って来る魔獣は斬り捨てて、魔石を回収せずに前に進むだけならそれで行けるだろう。


 回収できればお小遣いになるだけにもったいない気はするんだけど、状況が状況だし捨てていくしかない。


「それでは三分後を目安に出発する。最終確認をしてくれ」


『はい (ですの)!』


 あたしはもう蒼月(そうげつ)蒼嘴(そうし)を腰に装備しているし、すぐにでも出かけられる。


 レノックス様は密林内部に視線を向けている。


「レノ、大丈夫だ。将軍様も動いてるんだろ? 俺たちは出来ることをするだけだ」


「分かってる。それは同感だが、先ずは移動を済ませねばな」


 カリオの言葉にレノックス様が応じた。


「期せずして今回も、密林エリアのボスはパーティーとしては戦わずに進むことになりそうだね」


「そうね。もしかしたら通りすがりに一太刀浴びせられるかも知れないけれど、そのまえに暗部の人たちで対処するとおもうわ」


「こうなったら仕方ありませんわ。第二十階層のボスはまた別の機会に挑むことにしましょう」


 キャリルはそう言うけれど、いつものあたしなら再挑戦は面倒くさいと考えてしまっただろう。


 それでもなぜかこうして鉱物(ミネラル)スライム捕獲に来ていると、ズルをしているように感じられる。


 あたしはラクするためには努力を惜しまないけれど、ズルをしたいわけでは無いのですよ。


 なにやら根本的な部分で何かを間違えている気もするけれど、あたしの中での実感としてはそういう想いがあった。


「それでも各階の転移の魔道具に魔力を登録しておけば、次に来るときはもう少しラクだと思うわよ」


「ああ。鍛錬にはまたこればいいからな」


 あたしの言葉に頷きながら、レノックス様がそう告げた。




「それでは、移動開始せよ!」


 レノックス様の号令を受けて、あたし達は密林の中を伸びる道を進み始めた。


 身体強化を掛け、気配遮断を軽めにかけて進むけれど破綻は無い。


 というか、いつものダンジョンでの鍛錬の時の移動に比べて、移動に関する安心感が段違いだ。


 あんまりこの感覚に慣れると、次に来た時に戸惑いそうな気がするな。


 そう思いつつ、あたしはみんなと密林の中を駆ける。


 途中の道沿いには魔獣の気配もあって、あたし達の移動に普通にぶつかる。


 けれども気配察知を行っていると、あっという間に魔獣の気配が消えてしまう。


 対処したんだろうなと思いつつその辺りを通過すると戦闘の痕跡さえも無くて、バッサリ斬られた魔獣が道端に転がっていたりした。


「暗部の人たちの技が炸裂してる感じかしらね」


 思わず呟いてしまうけれど、後ろからキャリルが告げる。


「なかなか見事な切り口ですわね。彼らは剣などを持っていませんから、体術の技なのでしょう」


 以前キャリルもレノックス様から不生流(ノーバース)の名は聞いている。


 それを思い出したんだろう。


 魔力の糸を使う切断技が組み込まれた体術だったはずだけれど、これだけ斬れるなら確かに武器とか要らない局面は多そうだ。


「今回はラクが出来そうね」


「クリスタルアントの巣を見つけてからも、ウィンからその言葉が聞ければいいのですが」


 キャリルはそう言ってくれるけれど、確かにどうすればラクが出来るかは今から考えた方がいいだろうな。


 せっかくいつもよりも安心感があるので、あたしは周囲の気配を探りながらアリ型魔獣について考えを巡らせていた。


 そのまま密林の中をかなり速いペースで道沿いに移動して、十五分ほどで第十九階層の出口に辿り着いてしまった。


 そのまま第二十階層の入り口に向かい、転移の魔道具に魔力を登録する。


 魔力を登録しているのは『敢然たる詩』のメンバーだけなので、何気に他の皆さんは王都南ダンジョンに来ているのだろうなと思う。


 そして直ぐ移動を再開して道なりに進むけれど、あっという間に密林エリアのボス魔獣の気配に辿り着き、気が付いたらここまで同様に対処されていた。


 ハイオークとその取り巻き十二体だったはずだけれど、樹木が開けた広場みたいなところを通過するとその斬殺死体が転がっていた。


 かなり容赦なくコマ切れになっているので、魔獣と戦ったことの無い人が見たらドン引きするだろうなあれ。


「魔石を放置するのが何となく残念ね」


「仕方ないですわウィン。いまは急がねばなりません」


「もちろん分かってるし、足を止めて無いでしょ」


「そうですわね。またわたくし達で挑みましょう」


 あたしは振り返らずにキャリルとそんな話をしていると、あっという間に第二十階層の出口に辿り着いた。


 そしてそのまま第二十一階層の入り口に移動して、転移の魔道具に魔力を登録してから新しいエリアに移動した。


 知識としては知っていたけれど、入り口を抜けるとそこは森林と山のエリアだった。


「よし、ここで小休止して昼食を取るぞ。準備を頼む。その間に俺たちのチームの別の班と、将軍たちのチームと連絡を取ってくれ。最新の状況の確認を頼む」


『はい!』


 レノックス様は近衛騎士たちに指示を出すと、彼らは忙しなく動き始めた。


 それを観察していると、近衛騎士の一人が真っ赤なカバンを抱えて歩き回り、そこから次々に物資を取り出していた。


「あれはマジックバッグかしら?」


「いえ、もしかしたらあれは――」


 キャリルがそこまで告げると、傍らにいたシンディ様が口を開いた。


「あれはマジックケージですわね。普通のマジックバッグと区別するために、敢えてあのようなハデな色合いにしているのだと思いますわ」


「やはりそうでしたか」


「そうなんですね」


 あたしとキャリルとシンディ様が話している間にも近衛騎士の人たちは動き回り、あっという間にテーブルと長椅子が並べられた。


 テーブルの上にはサンドイッチ類が大量に並び、お茶も用意されているようだ。


 こうなると野営地というよりは、キャンプ場のテラス席みたいな雰囲気がしている。


 下はウッドデッキでは無くて地面だけれども。


 少なくともダンジョン内という感じじゃ無いけれど、今回はもう特別だと思うしかないな。


「皆さんの食事の準備が出来ました!」


「よし、全員それぞれ食事を取ってくれ」


『はい (ですの)!』


 レノックス様の言葉に返事をして、その場の者は食事を取った。


 近衛騎士の人の何人かがまだ魔法で連絡をしているようで、食事にありつけないようだった。


 それを横目に微妙に申し訳ないような気分になりつつ、あたしはサンドイッチを頂いた。


 その後報告があったけれど、将軍様たちのチームは大規模なクリスタルアントの巣を見つけたらしく、これから攻撃を始めるとのことだった。


 あたし達のチームの別の班も探索を進め、周辺のクリスタルアントの巣の位置を幾つか特定できたようだった。


 レノックス様は別班に安全な場所で小休止を取るように指示を出し、あたし達は昼食を済ませた。



挿絵(By みてみん)

ニコラス イメージ画 (aipictors使用)




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