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09.それはお疲れさまです


 ディンラント王国の王宮内の一室に、ローズの身は移されていた。


 救命措置は宮廷医師たちによって、後宮内の寝室で行われた。


 小康状態に入ってからは、より治療のしやすい環境ということで、海外からの国賓を滞在させる部屋へと移った。


 後宮は王族のプライベートスペースだが、迎賓の部屋は警備を含め様々な状況を想定されている。


 今後のローズの治療で、どのような人員や魔道具が投入されても問題無いようにという配慮だった。


 王国の威信をかけて贅を尽くした部屋だったが、そのベッドのある部屋に今はローズとライオネルの二人しかいなかった。


 ローズのベッドには魔道具が備え付けられており、体調の変化は隣室に控える宮廷医師たちにリアルタイムでモニターされている。


 だが、迎賓の部屋の寝室は、その贅を尽くした設えがローズにとっては非日常を感じさせていた。


「ねえ、ライ。お城の中なのに、まるで違うところに来たみたいですね」


「仕方ないさ。俺たちの寝室では、医者たちが動きづらいようだからな」


 クイーンサイズの大きなベッドに臥せっているローズだったが、そのベッドに腰かけるようにして身体を寄せ、ライオネルはローズの傍らで頭を撫でている。


 ライオネルはローズの言葉で思い出したことがあった。


 それを想起しながら苦笑いを浮かべる。


「全く、お前には王妃になって貰わんと困るんだが」


「分かっております。国内の派閥への手当てはありますし」


 ローズが妃となるまでは、貴族家同士の駆け引きは熾烈なものがあった。


 それでも彼女が選ばれたのは、ローズが政治的に中立な立場である南の辺境伯家の令嬢であることと、本人の賢さゆえだった。


 ただ、そういった妃としての条件は、ライオネルにとってはいつしか些末なものになっていたのだが。


「そういうことじゃあ無い。お前と結婚したときの約束を果たさなきゃならん」


「約束、ですか」


 ローズの言葉にライオネルは困ったように頷く。


 その表情に、ローズは穏やかな笑みを返す。


「『各国を巡り、二人で名物を食べ比べよう』、でしたね。ですが……」


 そこまでローズが告げたところで、ライオネルは唇を重ねてから告げる。


「ローズ。勝手に俺の前から去るのは許さん」


「はい、ライオネル」


 ローズはそう言って静かに微笑んだ。


 返事を聞いたライオネルは彼女の頭を撫でてから、ローズに眠るように促して部屋を離れた。




 王城から転移の魔道具を使い、あたし達は王都南ダンジョンの地上の街に移動した。


 いつものように衛兵の駐屯所に移動するが、ダンジョンには向かわずに中庭に向かった。


 するとそこには近衛騎士の装備をした人たちやロッドとその仲間に混じって、デイブ達の姿があった。


 他にはフレディとニコラスの姿もあるけど、みんな全速力で走ってきたんだろう。


「デイブ! みんな! 来てくれたのね、ありがとう!」


 あたしの言葉に月輪旅団のみんなは得意げに微笑む。


「今回はウィンの仲間の身内を助けるための戦いだろ? 分かりやすくていいやって話になったのさ」


 そう言って歯を見せて笑うのはジャニスの母親のジャネットだった。


「そうは言っても、みんな仕事とか大丈夫なの?」


「気にすんな、こういう息抜きがねえとやってられんだろ」


 そう言ってデイブと同じくらいの歳に見える男性があたしに話しかける。


 クラン『黒血の剣(こっけつのつるぎ)』の騒動の時に、デイブと一緒に動いてた人だな。


 そうか、月輪旅団のみんなにとっては息抜きなのか。


 普段どんな仕事をしてるんだよ、まったく。


「こんにちは。こうやって話すのは初めてね」


「そうだなウィン。俺はロクラン・オクターンだ。酒屋をやっててデイブの幼なじみだ」


「あー、それはお疲れさまです」


「お嬢……? 何かトゲがねえかそれ」


「気のせいじゃないかしら?」


 あたしの言葉にデイブがツッコむが、それは華麗にスルーした。


 この後は中庭で説明を行うって話だけれど、まだレノックス様は駐屯所の建物から出てこない。


 たぶん先行している将軍たちのチームの状況とか、今後の動きを整理しているんだと思う。


「なあお嬢、せっかくだしみんなを紹介しとくよ」


 ブリタニーがあたしの傍らに立ってそう言ってくれた。


 あたしはお言葉に甘えることにしたけれど、月輪旅団の仲間で集まって魔法で周りを防音にして簡単に自己紹介をしてもらった。


 デイブとブリタニーとジャニスとエイミー、それからジャネットは自己紹介は省いた。


 ロクランもさっき名前とか聞いたので自己紹介は済んでることにした。


 その他のメンバーは、『黒血の剣』のときに顔は知ってる人たちだ。


 ピザパーティーの薪を買いに行ったときに見かけた乾物屋のおじさんは、エドモンド・ローシアンという名前だった。


 他にも名前と表の顔を聞いたけれど、一緒に聖セデスルシス学園で戦った食堂の奥さんはマーシア・カーディスという名だと分かった。


 商業ギルドの職員の女性でルクレシア・モンティスという人が居たので、イエナ姉さんがもしかしたら卒業後に行くかもと伝えたら笑っていた。


 他にも書店のオヤジさんや喫茶店のお爺さん、彫金師の青年や鍛冶師ギルド職員の女性がその場には居た。


 というか、恰好こそ冒険者っぽい服装だけど、言われなければ分からないくらい普通っぽい人たちだな。


 みんなの自己紹介が済んで、あたしはそんなことを考えていた。




 少しして、駐屯所の建物の中から中庭へとレノックス様が現れた。


 あたしは『敢然たる詩ライム・オブ・ブレイブリー』のみんなのところに移動して、話を聞くことにした。


 と言ってもレノックス様の説明はあたし達が王宮で聞いた話ばかりだったので、そこは内容の確認をしただけだけれども。


「――以上が、今回の鉱物(ミネラル)スライム調達に至る経緯だ。そしてここからはオレ達の予定を説明する」


 レノックス様の説明では、『敢然たる詩』以外の者を四つのチームに分けるそうだ。


 三チームを先行させて第二十一階層に転移させ、鉱物スライムかクリスタルアントの巣を探索する。


 一チームは『敢然たる詩』と同行し、第十九階層と第二十階層を速度優先で突破して合流する。


 以降は探索と捕獲を繰り返しつつ、下の階層に向かう。


「済まんが、権限の都合で近衛騎士に指示を出せるのが、状況的にオレしか居ないためこの流れになった。急いでいると言いつつ、迂遠な流れになって恥ずかしいがよろしく頼む。ここまでで何か確認はあるだろうか?」


 するとデイブがスッと手を上げた。


 レノックス様が発言を許す。


「月輪旅団のデイブです。第三王子殿下、チーム分けですが月輪旅団も四チームに分けて割り振る形にさせて頂きたい」


「先ず、オレのことは今回、解散するまでレノックスと呼んでくれ。情報の正確さのために敬語なども不要だ。――それで、月輪旅団メンバーを四つに分ける理由は何だろうか?」


「単純に効率の問題ですレノックス様。月輪旅団(われわれ)は色々な評価はありますが、斥候や情報収集、集団戦の補助や遊撃などは得意です。我々のみで纏まるよりは、集団戦を行うメンバーと組んで動いた方が、状況ごとの選択肢が増えるでしょう」


 デイブの言葉にレノックス様は頷く。


「よし、その意見を採用する。そちらのチーム分けは任せるので、決まったら報告を頼む。他には無いか?」


 その後は特に目立った意見も無かったので、チーム分けをした後にあたし達は出発した。


 『敢然たる詩』が居るチームには、月輪旅団からはデイブとブリタニー、ジャニスとエイミーが加わった。


 他にもフレディとニコラスに加え、最終兵器的な感じでシンディ様が控えている。


 近衛騎士や暗部の人たちも居るので、正直かなり凶悪なチームになった気がする。


 駐屯所の建物を出てダンジョンの入り口に向かうけれど、あたし達はその場にいた冒険者たちからの視線を浴びまくっていた。


 妙な噂が立たなければいいのだけれど。


「かなり注目を集めているわね」


 気のせいかもしれないけれど、何となく知り合いの誰かが居たような気がした。


 いまは確かめるどころじゃないけれども。


「わたくし達の見送りに集まって下さっていると考えましょう」


 あたしの言葉にキャリルがそう応えて笑う。


「そういう問題じゃ無いと思うんだけど」


「でもまあ、今回のことはいずれ新聞なんかで発表があるんじゃないかな」


 コウがそう言ったことで、あたしはイヤなことを思いだした。


 勝手に妙な二つ名をつけられて新聞記事にされてしまった記憶だ。


 さすがに今回はローズ様の方が記事のウェイトが大きいだろうし、鉱物スライム捕獲の本命は将軍様の部隊だ。


 あたし達はあくまでも保険みたいなものだし、新聞記事になるとしたら将軍様たちだろう。


 そう自分に言い聞かせてあたしは歩を進めた。



挿絵(By みてみん)

ジャネット イメージ画 (aipictors使用)




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