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02.家を継ぐこと


 寮の食堂を出るときに、あたしとアルラ姉さんにキャリルが声を掛けた。


「ところで今日は重大発表がありますの。あとで姉上の部屋に集合して下さる?」


「べつにあたしは今からでも行けるわ。姉さんは?」


「私も大丈夫よ」


 そう言って姉さんはニコニコと笑う。


 もしかしたら、用件を知っているのかも知れないな。


「じゃあ、みんなで行きましょうか」


 そうしてあたしたちはロレッタの部屋に集まった。


 さすがに寮の部屋に四人集まると狭く感じる。


「ちょっと待ってね。念のため防音をした方がいいの?」


「お願いしますわ」


 あたしは【風操作(ウインドアート)】で見えない防音壁を作って、部屋のカベを覆った。


「いいわよ」


「はい、ありがとうウィン。――それでお話なのですが、この度私の婚約が決まりました。相手はペレ・ラッセル・クライトンです」


「おめでとう、ロレッタ!」


「おお、おめでとうございます!」


「改めて、おめでとうございます姉上!」


「ありがとうみんな」


 ロレッタは機嫌がよさそうに微笑んだ。


「ペレ先輩って、あたしは話したことは無いけど歴史研究会の人ですよね?」


 歴史研の部室で、レノックス様とペレが話しているのを見たことがある。


 ややぽっちゃりした印象を与えるけれど、観察すれば鍛えていることが分かるタイプの人だ。


 日本での記憶でいえば、ぽっちゃり型の柔道家体形に近いと言えるだろうか。


 話し方も穏やかだったので何となく文系のイメージが強かったけれど。


「そうね。のんびりした人だけれど、貴族家に生まれただけあって切替えるところは切替えられる人よ。あと、ペレの家も我が家と同じで虚礼は好まないのも良かったと思うわ」


「貴族家の話をするなら、ラクルブルム伯爵閣下の孫にあたる方ですわね。閣下の二男の二男ですの」


「派閥の話もペレの家が、王国の南部で中立派だったのも幸運かもしれないわ。でも、貴族としての付き合いなんてホントに最低限でいいと思うんだけど」


 そう言ってロレッタは苦笑した。


「先週末と今週末、休みに予定が入っていたのはその件だったんですね」


「そうだったのよ。でも、高等部卒業までは何が変わるわけでも無いけどね。卒業しても将来的に家を継ぐのは私だから、彼には入り婿になってもらうし」


 ディンラント王国の貴族は、王家の方針で女性が当主として家を継ぐことも許されているらしい。


 だから、今後の変化としてはティルグレース伯爵家に家族が増えるという話だろう。


「――以上、婚約の報告でした」


 にこやかにそう告げたロレッタに、あたしたちは拍手した。


「そうなると次はキャリルよね」


 あたしが視線を移すとキャリルは首を傾げていた。


「そうなのですけど、一時期に比べて父上と母上からそういう話が出てこなくなっているんですの」


「キャリルについては父上も母上も色々な可能性を検討していると思うわ。あなたは余計な心配をせずに、自分を磨き続けなさい」


「分かりましたわ、姉上」


「あたしも応援する(、、、、)よ、マブダチだからね」


 キャリルとロレッタを交互に見ながらそう告げた。


 キャリルは頷き、ロレッタはニコニコと笑っていた。




 九月も最後の週になった。


 授業なども相変わらず順調に受けているし、学院生活のリズムができてきたので気分的に楽に過ごせていると思う。


 やっぱりラクって正義だとおもう。


 お昼休みになって実習班のメンバーで昼食を食べたあと、四人で連れ立って風紀委員会の部屋を訪ねた。


 予備風紀委員の話を受けるためだ。


 実習室がある講義棟は相変わらず学生が少ない。


「生徒がおらん校舎って、独特の雰囲気あるなあ」


「そうね。別に嫌な感じってわけでも無いけど、ちょっと寂しいよね」


「夜に校舎の中を歩いてみたら、何かが出て来そうな感じがするかも知れませんね」


 なにやらジューンがまた妙なスイッチが入っている気がするけど、とりあえずスルーする。


 その廊下を歩いて部屋にたどり着くが、幸い室内には人が居る気配があった。


 扉をノックすると、中からニッキーが顔を出した。


「こんにちはウィンちゃんとキャリルちゃん……と初めて見る子もいるわね。いま他に居ないけど、中に入って」


「はい。おじゃまします」


 そうしてあたしたちは部屋の中に入った。


「それで、この間の件かしら?」


「はい」


 ニッキーに返事をしてから一度キャリルに視線を向けるが、キャリルは頷き返す。


「あたしもキャリルも予備風紀委員として参加します」


「分かったわ。他のメンバーや先生には私から連絡しておくわね。書類上の手続きはあるけど、仕組みの上では今この瞬間からあなたたちは予備風紀委員よ。よろしくね」


「「よろしくおねがいします」の」


「まず、時間がある時でいいので、予備風紀委員として各クラス委員長の所を回って顔と名前を憶えてもらってきてね。ノルマとか無いので、いつまでにやりなさいとかは無いから。あと、風曜日か光曜日の放課後にここに顔を出してください」


「「わかりました」わ」


「ふふ、頼もしいわね。――それで、その子たちは見学かしら?」


「付き添いで来てくれたんです」


 あたしはサラとジューンを紹介した。


「サラちゃんとジューンちゃんか。改めて、風紀委員の副委員長をしているニッキー・ブースです。週の後半の放課後は誰かしら居るから、気軽に遊びに来てね」


「はい、ありがとうございます」


「あんじょうよろしゅう」


 そのあとあたしとキャリルは、ニッキーと【風のやまびこ(ウィンドエコー)】で連絡が取れるようにした。


 そうしてあたしたちは風紀委員会の部屋を離れた。




 放課後になって、あたしとキャリルは初等部の図書館に行ってみた。


 王都南ダンジョンの攻略情報が書かれている本が無いかと探しに行ったのだ。


 目的の本は割とあっさり見つかった。


 司書の人にも相談してみたけど、王都南ダンジョンに初めて挑む人は学院では初等部の生徒が多いらしい。


 そのため、できるだけ最新の初級者用の攻略情報が書かれた本を、何冊も置いているのだという。


 あたしたちは同じ本をそれぞれ借りた。


 この他にも高等部の図書館には、他の地域にある未踏ダンジョンが整備されるまでをまとめた本があると教えてもらった。


 その辺は、今後必要なら調べてみようとキャリルと話した。


 図書館を出たあと、キャリルに誘われて歴史研に行くことになった。


「昨日、姉上の部屋で話た件で人を紹介したいんですの」


 ペレをあたしに紹介してくれるのか。


 キャリルにとっては義理の兄になるんだよな。


 男兄弟が身内に居ないから、義理とはいえ兄ができるのが嬉しいのだろうか。


「そういえばキャリル、昨日聞いた話は当面は内緒だよね」


 今回は入り婿だし、ティルグレース伯爵が主催する晩餐会で発表されるまでは秘密だろう。


「ウィン、あなた薬草を医学で利用することを考えているんですわね?」


「そうだよ? どしたの急に」


「わたくし、歴史研の先輩で農学史に詳しい方を知っておりますの。その方、ご本人も庭いじりが趣味らしいんですの」


 なるほど、さっきまでの話の続きか。


「分かったわ、そういうことね。その人にちょっと薬草の歴史を訊いてみたいかも知れないわ」


「そういうことでしたら紹介しますわ」


 得意顔でキャリルが告げたので、彼女にくっついて部活棟の歴史研究会の部室に向かった。




「こんにちは。顔を見かけたことはあったけど、僕はペレ・ラッセル・クライトンだ。よろしくね。――アルラの妹さんだったっけ? レノとかキャリルと仲がいいと聞いているよ」


「こんにちは、ウィン・ヒースアイルです。キャリルのマブダチです。よろしくおねがいします。部活は薬草薬品研究会に顔を出していることが多いです」


「そうなんだ? 僕は農学史とか庭仕事みたいな土いじりが好きなんだ」


 初めて話してみたが、穏やかな印象を与える人だった。


 だが、握手をしたとき手に剣だこが出来ているのに気が付いた。


「ペレ先輩は歴史研所属で農学史が好きだってお話ですけど、剣も得意だったりするんですか?」


「まあ、それなりにはね」


「ペレ先輩。あなたの腕をそれなりというなら、学院の多くの生徒は剣の才能が無いということになるぞ」


 近くに居たレノックス様が話しかけてきた。


「ペレ先輩ってそんなに凄いんだ?」


「そうだ。いわゆる古式ディンルーク流剣術と言われる竜芯流(ドラゴンコア)を使いこなす人だ」


「バリバリの正統派剣術じゃないですか」


「ははは。正統派かはともかく、父が得意でね。小さいころから仕込まれたんだ」


 そう言ってペレは朗らかに笑った。


 竜芯流(ドラゴンコア)は利き腕に片手剣を持ち、逆の手に盾を持って戦うオーソドックスなスタイルで戦う剣術だ。


 ディンラント王国内で制式剣術に採用する騎士団や領軍が多いことで知られる。


 剣術と言いつつ、剣が使えない時の素手の技も練習するので隙が無いとも言われている。


 古式剣術なので魔力を用いる実戦剣となっていて、きちんと練習すれば身体強化や反射増強、疑似思考加速もできるから高速戦闘にも反応ができる。


 守勢に回ればとても堅く継戦能力がとても高いが、盾を使ったタックル技を除けば攻撃力は低めらしいけど。


 ということは、キャリルたちの身内になった日には動くマト役として練習に重宝されるだろうな。


 ウォーレン様とかシャーリィ様のスイッチが入らないことを祈りつつ、あたしは心の中で密かに合掌した。なーむー。


 その後、あたしとキャリル、レノックス様とペレに加えて、ロレッタとアルラ姉さんを交えてハーブの話をしていたが、途中でカリオが加わった。


 カリオからも話を聞いたけれど、薬草の使い方は共和国でも大差がないらしい。


 そんな話をしていると、歴史研の他の部員も集まってきて話に加わった。


 だが農学以外では、薬草とか薬物を歴史的観点からまとめた資料は見かけたことが無いという。


「多分だけれど、歴史の視点からすれば医学の歴史に関わってくると思うわ」


 ロレッタがそう言ってまとめていたが、先日の高等部の先生たちとの話である程度想像できていたから、あたし的には驚きはなかった。


「薬草や薬品の歴史をまとめるときは、歴史研にも噛ませてほしいかな」


 歴史研の部長をしている女子生徒がそんなことを告げた。


「その時は相談しますね、部長さん」


 ただ、歴史的観点から薬草や薬品の情報をまとめるなら、先に情報の取りまとめが必要かもしれない。


 分類というか博物学的な視点が必要になるかも知れないな、などとあたしは考えていた。



お読みいただきありがとうございます。


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