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01.誰でも安心安全に


 この前『闇神の狩庭(あんじんのかりにわ)』でスウィッシュを使い魔にした後、『夢の世界』から現実に帰還するまでに魔法のトレーニングをした。


 その時にあたしは自分のスキルについてニナに相談してみた。


 いや、正確には『闇ゴーレム』を斬った絶技・識月(しげつ)について訊かれたので、その話題を変えるために訊いたのだけれども。


「そういえばウィン、あなたが先ほど放った斬撃ですけれど、初めて見たワザな気がしますの」


「む、妾もその話は興味があるのう。なかなか珍しい魔力を使っているように感じたのじゃ」


 やっぱりこの二人が食いついてきたか。


 そのときあたしは反射的に細く息を吐いた。


「ええと、そうね……。ごめんなさい、あまりはっきり言えることは無いのよ」


「何ですって、ウィンがわたくしに隠しごとですの? はっ、もしや二人きりで無いと話せない内容ですの?」


「キャリルよ、分かって言っているのうお主。あまりウィンを困らせてはいけないのじゃ。――そうじゃな、スキルの類いに近いものやもしれぬのう」


 ニナがツッコミを入れると、キャリルも笑顔を浮かべた。


 ニナにしてもスキルという風に話を逸らしてくれたけれど、たぶん月転流(ムーンフェイズ)の秘伝の類いだと想像してくれたのだと思う。


 そこまで話が及んだところで、あたしは自分のスキルのことで考え込んでいるものがあったのを思い出した。


「スキルで思い出したんだけれど、ちょっと相談に乗って欲しいものがあるの」


 具体的には『影究(テナシティシャドウ)』という“役割”で覚えた『影朔羅(かげざくら)』というスキルの使い方だ。


 ステータスの魔法を使って調べられる情報では“対象の影への行為が本体に通る”というものだったけれど、その曖昧さに使い道が思いつかなかった。


「スキルの相談のう。どういうものじゃ?」


「二人だから話すけれど、あたし『影究』っていう“役割”で『影朔羅』ってスキルを覚えたのよ――」


 あたしがニナとキャリルに説明したところ、まずは使ってみろという話になった。


 スキルを発動した状態でニナの影に対し、【治癒(キュア)】を使ってみる。


 時間的には夜の風景だったけれど、練習場所にしている屋上には照明の魔道具が設置されていて影も出来る。


「うむ、【治癒】の効果は感じられないのじゃ。恐らくは現実で同じように行っても、妾に対して【治癒】による物理的な効果は無いと思うのじゃ」


「それは、スキルの使い方が違うということですの?」


「恐らくはのう。しかしウィンが妾にスキルを使ったことで、魔力の作用があることは察知したのじゃ」


 ニナによればかなり微細な魔力の作用で、あらかじめスキルを使うことが分かっていてようやく把握できるレベルだという。


「どんな作用なの?」


「精神活動への作用と思うのじゃ」


 そう言ってニナは妖しい笑みを浮かべる。


「魔力を使った精神への作用ですの? それは闇魔法ということでしょうか?」


「あたしは闇魔法は使えないわよニナ」


「それを言うなら妾も時魔法は使えぬが、【時間計測(タイマー)】は使えるのじゃ」


 ニナの言葉をきいて、あたしは当惑した。


 【時間計測】の魔法はいわゆる生活魔法だからだ。


「生活魔法と同じようなものってことなの? そこまで簡単に覚えられるようなスキルとも思えないけれど」


「まあ待つのじゃウィン。生活魔法とよばれて一般に普及している便利な魔法じゃが、魔法理論の上ではひどく高度な魔法なのじゃ――」


 ニナによれば年端もいかない子供が簡単に覚えられ、(基本的には)安全に使えて使用する魔力が少なく、適性が無い属性でも効果を及ぼす。


「……そう言われると、何も考えずに使ってたあたしがバカだった気がしてくるわ」


 あたしの反応を見てニナが苦笑する。


「仕方が無いのじゃ。魔法理論的には生活魔法は別の名を持っておるのじゃ。『属性環境魔力技法』と呼ぶ者も居るのじゃ。しかしそれを一般人に説明するメリットも少ないのじゃ」


「ええと、ちょっと待って、……『属性環境魔力技法』? 生活魔法って環境魔力を使っているの?」


「そうなのじゃ。補助的に使っておるのじゃ」


 ニナの説明を聞いてキャリルが口を開く。


「ふと思ったのですが、環境魔力を使う魔法ということでは、竜魔法や精霊魔法に近い魔法では無いでしょうか?」


「妾は竜魔法についてはディンラント王国の民では無いゆえ、詳細は学べないのじゃ。しかし精霊魔法に近いというのはいい視点なのじゃ。生活魔法を歴史上最初に開発したのは魔族という説もあるのじゃ。連中は精霊への造詣が深いしのう」


「「はー……」」


 あたしのスキルを相談していたら、生活魔法に関するトリビアを知ってしまった。


 確かに誰でも安心安全に使える魔法って、魔法への高度な理解が無いと作れないんだろう。




 あたしのスキル『影朔羅』についてはニナの協力の元、核心に迫る事実が判明した。


「効果としては精神への干渉ということでいいの?」


「うむ。いま闇魔法の【自我回廊(エゴコリドー)】を妾に掛けた状態で、ウィンのスキルを妾に使ってもらったのじゃ――」


 ニナによれば以下のことが分かった。


 ・『影朔羅』は対象の精神への双方向の干渉が可能。


 ・対象が精神活動を行わない場合は効果が無い。


 ・対象の影に触れていると効果が高まる。


「――という感じなのじゃ」


「なかなか闇魔法に近いようにも聞こえますわ」


「いや、あくまでも疑似的な闇魔法なのじゃ。本来の闇魔法ならば、記憶を含めた精神活動への細やかな働きが出来るのじゃ。しかしウィンのスキルでは、表層意識へ干渉するのみなのじゃ」


「それでも充分すごいわ」


 あたしの反応にニナは頷く。


「たしかにのう。実習の授業であるとか、どこかの工房の職人仕事を覚えるときに使えそうなのじゃ。言葉にしづらいコツを把握するには便利そうじゃのう」


 なにそれスゴくラクが出来そう。


 あたしは思わずあやしい踊りをしそうになった。


「ただ、そうじゃな。戦闘で使うには注意が必要かも知れぬのじゃ」


「どういうこと?」


「ウィンは武術の使い手ゆえ、“認識と同時に斬る”ということが出来るのじゃ。しかしこの『影朔羅』というスキルは、高速戦闘に使うには発動速度が少々遅いのじゃ」


「「ふーん」」


「でしたらまずは、使い込んでみたら良いのではないですか?」


 キャリルがそう言ってくれたので、あたしは二人に協力してもらって色々試してみた。


 じゃんけんで相手の手を読みながら、連続して勝ったり負けたりあいこにした。


 ニナとキャリルに、あたしが思い浮かべた食欲を自分の食欲と錯覚させて怒られた。


 キャリルが『考えた方向と逆の方向に回避する』トレーニングを手伝った。


 色々試した(あそんだ)結果、この『影朔羅』というスキルは相手からの情報収集と相手に錯覚を起こせることが分かった。


 最終的にはスキルのコツがつかめたあたしと、行動と思考を切り離すコツをつかめたキャリルが怪しい笑いをしていた。


 それを見たニナとその場のみんなからは、可哀そうな人を見るような視線を向けられた。解せぬ。




 ウィクトルと彼がお姫様抱っこして抱えている女子生徒は、あたしとキャリルが揃ったことで安心した表情を浮かべている。


 たしかに不審者はキャリルの一撃で、最寄りの講義棟の外壁にすっ飛んでクレーターを作った。


 けれど、気配の感じでは意識はありそうなんだよな。


 壁のクレーターからはがれて地面に仰向けに横たわっている。


「相手はまだ意識があるわ。いつでも動けるようにしておいて」


 あたしがそう告げた直後に不審者の手のひらが動き、キャリルを狙った衝撃波のようなものが放たれた。


 魔力の感じでは風魔法を無詠唱で使ったようだけれど、放たれたのは空気の塊というか空気の弾のような感じがした。


 でもキャリルは相手の手の動きが把握できていたので、構えていた戦槌(ウォーハンマー)を動かして自身をガードした。


 彼女の雷属性魔力を纏った戦槌は、不審者の攻撃では特に弾かれるようなことは無かった。


 あたしとしては油断なく不審者を観察していたけれど、相手が使ったのは魔力の感じから【風操作(ウインドアート)】と思われた。


 以前『夢の世界』でみんなと話している時、吹き矢のように空気の塊を作って飛ばすのはどうかと提案したことがある。


 それを実際にこの目で見ることが出来た。


 不審者はもちろんブッ飛ばすけれど、【風操作】の興味深い使い方を見せてくれたのでそのお礼にできるだけ無傷で無力化してもいいかも知れない。


 ふとそんなことを考えていた。


「参りました、いまの攻撃を対処しますか。ルークスケイル記念学院の生徒は思いのほか優秀なのですね。――本当に困った」


 そう言いながら不審者はヨロヨロとその場に立ち上がる。


 いまなら制圧できそうだけれど、ムリをするつもりは無い。


 元より増援待ちだし、ウィクトル達も護る必要がある。


 それにそろそろ増援らしき気配が近づいていた。


 だが不審者はあたし達を観察しながら虚ろな表情で告げる。


「ですが、どういう生徒がいるかを知れたのは収穫です」


 そう言って不審者は無詠唱で腕の中に【収納(ストレージ)】から魔道具のようなものを取り出し、そのまま片手で操作しようとした。


 その時、魔力の矢が不審者の死角から撃ち込まれ、魔道具を握った手が肘の辺りで切断された。


「ガァアアッ……!」


 魔力の矢はすぐに消えてしまったが、矢じりの部分は丸型スコップの先端のような形で、切断するための形状をしていた。


「動くな! いまのは警告です!」


 気配を隠した状態で、講義棟の上の方からディナ先生の声が聞こえた。


「直ちにその場に(ひざまず)くか、そのまま地面に伏せなさい!」


 どうやら最初に到着した増援はディナ先生だったようだ。


 あたしの気配察知の感覚では、先生は警告を告げたあと気配を消したまますぐに位置を移動していた。


 不審者に位置を特定させずに、第二矢を射る体制に入っていることは想像できた。



挿絵(By みてみん)

ディナ イメージ画 (aipictors使用)




お読みいただきありがとうございます。




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