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09.全体を把握している人って


 一夜明けて光曜日になり、今日授業を受ければ明日は休みだ。


 そしていつも通りに授業を受け、お昼を過ごして午後の授業を受け、放課後になった。


 風紀委員会の週次の打ち合わせのために、あたしとキャリルは委員会室に向かった。


 委員会室にはニッキーとエリーが居て、あたし達は挨拶をして他のメンバーを待った。


 程なくみんなとリー先生が到着し、打合せが始まった。


「はい、それでは皆さんが揃っていますので、週次の打合せを始めます。皆さん、こんにちは」


『こんにちは(ですの)(にゃー)』


「先ずは皆さん、先週末に『聖地案内人』の件で下見に行ってくださって助かりました。本当にありがとうございます」


 そう言ってリー先生はあたし達に頭を下げた。


「制度が本格的に運用され始めれば問題が出てくるでしょうが、そのベースラインというか最低限気を付けるべき点が整理できたと思います――」


 あたし達が先週末の闇曜日に商業地区を散策して得た課題は、たたき台にすることが決まったそうだ。


 情報提供の基準であるとかガイドラインの整備なども、商業ギルドや王立国教会を巻き込んで進める話が出ているらしい。


 基本的には商業活動に関することは商業ギルドに、信仰に関することは王立国教会に相談するよう誘導することになりそうとのことだった。


「――現時点で確定しているのは安全のための共通装備の提案で、魔道具を縫い込んだ腕章を生徒に装備させる予定になりました。魔道具の機能は位置の特定で、王都内とその周辺であれば追跡するマーカーになる性能を持っています」


 追跡マーカーときいて、あたしは日本での記憶が脳裏によぎる。


「リー先生、すみません」


「何でしょうウィンさん」


「細かい話で済みませんが、マーカーは追跡のみの機能ですか? ほかに機能を追加したりは出来ませんか?」


「わたしは魔道具開発には詳しくありませんが、追跡用の機能と聞いています。他の機能とはどんなものですか?」


 確か日本で流通していた追跡用のスマートタグは、高齢者などの安否確認用の場合は一定時間同じ場所に居ると警告を出すんじゃなかったろうか。


「追跡機能はいいとおもうんです。でも仮に腕章の魔道具のことが知られたら、それを生徒からはぎ取った後に連れ去る連中が出ると面倒です」


『あ~……』


 風紀委員のみんなも同意するような声を上げてくれた。


「それは確かにそうですね」


「何か解決策がありそうですかウィン?」


 キャリルがあたしに問うが、日本の知識ですこしだけズルをする。


「ええ。腕章を使い始めてから、一定の時間おなじ場所から動かなかったら、衛兵の詰め所とかに警告が出るようにすればいいんじゃないかしら」


『おお~』


 すみません、あたしのアイディアじゃあ無いんですよ。


 でも、初めに指摘しておく方が隙は減らせるだろう。


「いいアイディアだと思います。魔道具担当の先生に相談しておきますね」


「お願いします」


 その後もリー先生は『聖地案内人』の話を続けた。


 先生からの説明では、制度の運用開始は来月からを予定しているそうだ。


「その時期になったのは、なにか理由があるんですか?」


 ニッキーからの問いに、リー先生は頷く。


「皆さんにはお伝えしますが、王都の拡張計画の公的な開始日が、来月の一日に決まりました。ですので、可能な限り早めの運用開始となります」


「分かりました」


 リー先生の言葉にニッキーが真面目な表情で頷くけれど、みんなも同じような表情をしている。


「と言っても、直ぐに工事などが始まるわけでは無いでしょう。ですが、拡張事業が王国の公式な予定に組み込まれている以上、『聖地案内人』も早めの運用開始を目指すことになりました。皆さんは学生ですし、直接お仕事を頼むようなことは無いと思いますが、今後の予定を覚えておいて下さい」


『はい』


 あたし達の返事にリー先生は表情を緩め、個別の報告をするようにあたし達に促した。




 カールから順に今週の出来事を報告していったけれど、エルヴィスが非公認サークル関連で妙な動きを察知したそうだ。


「すでにリー先生やカールには報告してあるし生徒会にも報告してあるけれど、今までそれほど問題を起こしていない非公認サークルで問題が起きているようなんだ」


 非公認サークルが起こす問題は、場合によっては深刻な結果になる。


 先生たちに報告がされていて、今日まであたし達に個別で連絡が来なかったから、そこまでひどい内容では無いとは思うのだけれど。


「今週起きたのは、『幻獣声帯研究会』と『王都の中心で月夜に吠える会』が吠え声対決をして、獣人の生徒から何とかしてほしいと言われた件なんだ」


 あたしはその内容で脱力した。


 吠え声対決って何なんだよ。


「『幻獣声帯研究会』は確か、魔獣の中でも『幻獣』と呼ばれる伝説的な存在の鳴き声を想像して、吠え声を上げて研究する連中だな」


 カールがそう言って考え込む。


「要するにごっこ遊びの延長みたいな感じですか?」


 アイリスがそう言ってカールに確認するけれど、カールは微妙そうな顔を浮かべた。


 というかアイリスはいきなり核心を突いたな。


「そう言ってしまってもいいのだけれど、本人たちはいたく真面目に取り組んでいるようなんだ」


「でも参考にしている文献が学術的に怪しいものばかりだから、公認サークルになれないみたいなのよね」


 補足するようにそう言って、ニッキーが苦笑した。


『ふ~ん……』


 あたしを含め、件の研究会を知らなかったメンバーは微妙そうな顔を浮かべている。


「もう一方の『王都の中心で月夜に吠える会』は共和国出身の留学生の中で、イヌ系の獣人の生徒たちの連絡会みたいなものらしいよ」


「それで時々集まって、故郷でそうしているように吠え声を上げているってことですか?」


「そういうこと」


 エルヴィスの説明にジェイクが確認したけれど、直ぐに肯定された。


 今回の騒動に関してはすぐにリー先生に報告され、リー先生が他の先生に指示を出して現場に向かわせ事態を収拾したそうだ。


「皆さんの中ではエリーさんが該当しますが、獣人の血を引く生徒の中には聴覚が鋭い子たちが居ます。彼らの迷惑を考えましょうということで、お説教をして今回は警告で終わりました――」


 リー先生いわく、問題の生徒たちからの聞き取りをしたそうだ。


 新学期になり一年生たちも学院生活に馴染んだので、個別のサークルの活動を本格化させたくなったと話したという。


 今後も同様のケースがあるかも知れないので、何かあれば先ずは風紀委員会の先輩やリー先生に連絡をということで落ち着いた。


「それにしても非公認サークルって色々あるようですが、全体を把握している人っているんですか?」


 あたしがみんなに問うと、少し考えてからカールが告げた。


「非公認サークルに関しては、諜報技術研究会が一番詳しいだろう。中でも部長のウェスリーが漏れなく把握していると思う」


「うわぁ……。分かりました、とにかく何かあったらカール先輩やニッキー先輩に相談します」


 非公認サークル情報のすり合わせでウェスリーと会話するのは、色々とエネルギーを使うことになる予感がした。


 最悪の場合は本人たちには悪いけれど、フェリックスかパトリックを巻き込むことにしよう、うん。




 風紀委員会の週次の打合せは、その後は特に何もなく終わった。


 その場を解散し、あたし達は委員会室を後にする。


 あたしはキャリルと一緒に部活棟に向かい、玄関で別れて回復魔法研究会の部室に向かって歩いていた。


 すると普段話したことのない女子生徒から声を掛けられた。


「あの、すみません。風紀委員会のウィン・ヒースアイルさんですよね?」


 そう告げる彼女は何やら焦ったような表情を浮かべている。


 といっても外見上の情報のほかに、あたし的にはすぐに彼女に底意があることに気が付いてしまったのだけれど。


 なにか企んでいるのだろうか、と思ったところで何となく非公認サークルの『美少年を愛でる会』の関係で見かけた生徒だと思いだした。


 さっきまでの風紀委員会の打合せで注意喚起があった。


 そうなると非公認サークル関連の動きなら、情報を集めた方がいいだろう。


 あたしはその時、そう考えてしまった。


「はい。あたしはウィン・ヒースアイルです。どうしましたか?」


「余計なお世話かもとは思ったんですが、急いでウィンさんに知らせたいことがあるんです。少し付き合ってもらえますか?」


「ええと、構いませんが、どういう話ですか?」


「時間が無いんです! それに見てもらった方が早いと思うんです!」


 何やら必死な様子で女子生徒は告げるが、その言葉自体にはウソは無さそうだった。


 仕方がないのであたしは彼女に案内されて構内を駆け、大講堂前の広場が伺える場所に辿り着いた。


 そこには私服姿のコウとシルビアがいて、何やら楽し気に談笑していた。


 私服姿ということは、これから王都のどこかに出かけるのかも知れないな。


 それでもここに居るということは、誰かを待っているのだろうか。


「見てくださいウィンさん、あの二人お知り合いですよね?」


「ええと、そうですね」


「あの二人さっきまで別の場所で、妖しげな雰囲気で楽しそうに話し込んでいたんです……!」


 ホントかなあ。


 妖しげな雰囲気って何だろう。


「はぁ……、でも仲がいいならいいんじゃないですか?」


「そんなことを言わないで、事情聴取した方がいいと思うんです。二人で妖しいことをしたらイケナイと思いませんか?」


 えー、でもデートとかに行くなら行くで、いいと思うんですけど。


「事情聴取しましょう? ね? 何なら私も同行しますから」


 彼女から何やら今度はまた、底意があるような気配を感じた。


 正直気乗りはしなかったけれど、話を訊くくらいならいいかと思ってあたしはコウとシルビアのところに向かった。


 同行すると言っていた女子生徒は、あたしが歩いていくのを後ろから見守っていた。



挿絵(By みてみん)

リー イメージ画 (aipictors使用)




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