08.それぞれの時間は
『闇神の狩庭』のことでアシマーヴィア様に質問するつもりで、まずはソフィエンタに相談した。
すると話の流れで、ティーマパニア様とアシマーヴィア様と友だちになった。
あたし的にはそれで何かが変わるとも思わないけれど、そういうつながりが出来た。
傍らに立っていたアシマーヴィア様がソフィエンタに告げる。
「ワタクシとティーマパニアはウィンちゃんと友だちになったけれど、ソフィエンタは友だちじゃあないのよね~?」
そう言って彼女はニコニコと微笑む。
それってなにか煽ってるようにようにも見える訳で。
「ちょっと可哀そうかしら~」
「ひとを友だちが居ないボッチみたいに言うな!」
ソフィエンタはそう叫んだ後にため息をつく。
「……いちおうあたしにも友だちの女神たちはいるんです」
「「ふ~ん」」
「………………」
「何この連中?! むかつく!」
あたしとアシマーヴィア様が感心したような声を上げ、ティーマパニア様はじっとソフィエンタを眺めていた。
それがソフィエンタ的には気に食わなかったようだ。
何だか見ていていたたまれなくなってきたので、あたしは口を開く。
「ええと、話を戻すけれど、あたしはソフィエンタ達からアカシックレコードの話を聞いたことで時属性魔力を使った魔法や技術が上達したのよね?」
「はあ……、その通りよ。時魔法はもちろん、絶技・識月も上達しやすくなるとおもうわ」
「そうなのね。すこしだけ頑張ってみるわ」
「……うまく、つかってください……」
そう言ってティーマパニア様はあたしの頭を撫でた。
「……時はすべての人間、すべてのいき物、すべてのそんざいに等しくながれます……そしてそれぞれの時間は、じぶんだけのものです……」
「……分かりました」
ティーマパニア様はやっぱり無表情だったけれど、彼女からは何となく嬉しそうな雰囲気を感じた。
その後ティーマパニア様は自分で椅子を出し、またみんなで席に着いてたい焼きを頂いてから現実に戻してもらった。
するとあたしは、自分が目をつぶって胸の前で指を組んでいるのに気づいた。
自室に戻ったことを確認すると、勉強机の上でスウィッシュが小首をかしげる。
「もしかしてもう行って来たのかい?」
「ええ、用件は済んだわ。説明しましょうか?」
「記憶を共有した方が早いよ。魔力に戻るね」
「分かったわ、また何かあったら呼ぶから」
「はーい」
そう言ってスウィッシュは魔力に戻り、あたしに吸収された。
神域でソフィエンタ達から訊き出した話を思い出していたけれど、時魔法の上達の話が気になった。
「上達って言ってもなあ……。なにか客観的に測る方法……、ってあったわね」
独り言をつぶやいていると、今日ニナが熟練度を測る魔道具を使っていたことを思いだした。
でも初めて見た魔道具だし、魔法の実習の授業とかでも見かけたことが無い。
「けっこう値段が高いのかしら。幾らくらいするんだろう……」
こんどの闇曜日の休みに、探しに行ってもいいかも知れないとあたしは考えていた。
「日課のトレーニングを片付けますか」
魔道具のことは気になるけれど、日課を片付けることにした。
そしてトレーニングが終わったところで時計の魔道具に視線を向けると、まだ寝るのには少し早そうだった。
時計の魔道具を見ながら、あたしは神域でティーマパニア様と友だちになったことが脳裏に過ぎった。
アシマーヴィア様も面白がって友だちになってくれたけれど。
そのうえでふと気になることがあった。
ティーマパニア様は時の女神だ。
同時に創造神さまからは、『テクノロジーを担当する』と決められているみたいだけれど、少なくとも王国では知られていない気がする。
相手が人間なら、あたし的には勝手に仕事を増やすのはどうかと考えてしまうだろう。
でも彼女は神だ。
権能がきちんと知られたら信者が増えるだろうし、神さまにとっては信者が増えることはいいことなんじゃないだろうか
「とはいうものの……、そう簡単に神さまの知られていなかった権能っていうか、ご利益を広める方法なんて……」
時神の巫女さまとか覡が居れば広めてるだろうけれど、そうしていないんだろうか。
いや、あたしの知り合いに、巫女とか覡とかの神々の関係者が結構いるぞ。
そこまで考えたら、誰に頼るのが早くて確実かと考えてしまい、気が付いたらあたしは同じ寮生のディアーナにお願いすることに決めていた。
まだ消灯時間ではないので彼女の部屋を訪ね、扉をノックすると直ぐに開いた。
「こんばんはディアーナ」
「こんばんはウィンさん。どうしたんですか?」
「こんな時間にごめんなさい。ちょっと神さまのことで話があったんだけどいいかしら?」
なにやら宿題のことを相談するくらいの軽さで訊いてしまったけれど、ディアーナは特に身構えることも無く部屋に通してくれた。
ディアーナの部屋はどこの文化なのか、地球でいえばネイティブアメリカンの柄のようなラグを床に敷いていて、土足禁止になっていた。
ベッドの掛布団のカバーもネイティブ柄だし、これが彼女の趣味なんだろう。
その色合いとかデザインを見ていると、不思議と落ち着く感じがした。
あたしはローテーブルを前にクッションに腰掛け、ディアーナが淹れたお茶を頂いていた。
「それで、神さまのことでしたか?」
「ええ。ちょっと防音にするわね」
【風操作】で周囲を防音にした後、あたしはさっきまでソフィエンタ達と話していたことを説明した。
「――ということで、時神さまのテクノロジーに関する権能の話を聞いてしまったのよ」
「そうでしたか……。わたしも魔神さまのほかに豊穣神さまと神域で何度かお会いしたことはありますが、友だちですか……」
やっぱり、そこが気になるか。
確かに畏れ多いのはそうなんだよな。
でもだからと言って、あの話の流れ的に突き放すのも違う気がしたんだよ。
「なんかデリカシーが無い子みたいかしら?」
「いいえ! そんなことは無いと思います。それに女神さま達も同意してくれたんですよね?」
「それはそうよ」
「なら問題無いですよ」
ディアーナはそう言って頷いた。
「時神さまの知られていない権能の話も分かりました。確かにそれは国教会はもちろん、王国や周辺国も知るべき内容だと思います」
「そうなのよね。――ディアーナ、面倒なことを頼んでしまうけれど、あなたは魔神の巫女として王国に知られている存在じゃない?」
「ええ、大丈夫ですよ。そこまで言ってくれれば、わたしも国教会に助言するくらいはしますよ」
ディアーナはそう言って微笑む。
頼もしいなこの子は。
「手っ取り早く魔神さまから、時神さまの隠された権能の話を聞いたことにしましょうか?」
「それ、お願いしていいかしら?」
「ちょっと本人に確認してみますね」
そう言ってディアーナは鼻を鳴らし、あたしが何か答える前に胸の前で指を組んで目を閉じた。
一瞬神の気配――神気が流れた気がしたと思ったら、彼女はすぐに目を開けた。
なにやらツヤツヤした笑顔を浮かべている。
「確認しましたが、オーケーが出ました!」
「そ、そう? なにかいいことでもあったの?」
「いえ、魔神さまと言葉を交わせた喜びを、かみしめているだけです!」
ディアーナは右こぶしを握りこんで、あたしにそう言った。
まあ、彼女の場合はこれでいいんだろう、うん。
けっきょく時神さまの件は、ディアーナが魔神さまの神託として国教会に報告することになった。
彼女の話では、ティーマパニア様から直接神託を得るために、国教会が儀式を行うだろうとのことだった。
あたしはそのあとディアーナの部屋で彼女の旅の話を少し聞いて、自室に戻ってからは読書してから寝た。
ディアーナ イメージ画 (aipictors使用)
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