06.神さまから直接聞けない内容
用意されたたい焼きはしっかりと焼かれていて、ザクっとした食感の中にもっちり感を主張する生地と控えめな甘さのつぶ餡が含まれている。
これは何個でも行けるんじゃないかと思いつつ、アシマーヴィア様も居るのでさっそく話に入る。
「それで、『闇神の狩庭』について詳しい話を伺いたいんですが」
あたしはそう言ってアシマーヴィア様とソフィエンタへと、交互に視線を走らせる。
彼女たちは両方ともたい焼きを美味しそうに頬張っているが。
「何を知りたいのウィン?」
「ええと、そうね。そもそも『夢の世界』って何?」
「ひとことで言えば情報の保管庫ね~。見た目がウィンちゃんの寮の建物になったのは、もともとあの魔道具を作った人たちがそういう風に設計したからよ~」
ソフィエンタへ問いにアシマーヴィア様が応えてくれた。
「そういう風に設計した、ですか? 当時はあたし達の寮なんて無かったでしょうから……、持ち主の現在位置から展開されるんですか?」
「ええ。現在位置というか、魔道具を発動させた位置がスタート地点になるわね~」
スウィッシュの説明では、魔法の工業的な会社があそこを整えたような話だった。
ジューンなんかも『魔力の流れから何となく人工物っぽい』とか言ってたんだよな。
「ウィンに分かるようにズバッと説明すると、あれはマジックバッグの中みたいな空間よ」
「はー……。現実でマジックバッグに入ろうとしても、植物はともかく動物みたいな自我がある生物は弾かれるわよね? ああでも、仮死状態で行けたんだったか……」
マジックバッグにはそういう性質がある。
「その辺りは魔力の流れで解決しているの~。それに入っていると言っても実際には意識だけでしょ? マジックバッグの中を確認するとき、意識を向ける必要はあるじゃない?」
そう言われたらそうか。
確かに中身を確認するときは、マジックバッグに自分の意識を向けてモノを出し入れするかを決めている。
「そうなると、『闇神の狩庭』はやっぱり、完全に人工物なんですか? スウィッシュ……、あたしの使い魔の話だと超魔法文明の会社が作ったみたいですけど」
「それは正解ね~。ただ、人工物だったものを、ワタクシが手を入れて不安定な個所を調整して完成させているわ~」
そう告げてアシマーヴィア様は得意げな表情を浮かべた。
あたしとしては事実を知れば知るほど『闇神の狩庭』の価値が上がっていくので、感覚がちょっと麻痺してきているのだけれど。
「それってめちゃくちゃレリックですね」
歴史的な遺物で、なおかつ宗教的な価値を持つ特殊な魔道具をレリックというそうだ。
その要件を軽く満たしている訳ですが。
「そうね~。ワタクシの信者の子に売ればお城が建つわよ~」
「いや…………、せっかく頂いたものですし、今のところ売り払う予定は無いですけど……」
それに何となくだけれど、『闇神の狩庭』をあたしにくれたのには意図があると感じる。
「あの、アシマーヴィア様」
「何かしら~?」
「何ていうか、あたしにあの魔道具を下さったのは、観賞用ってわけじゃあないですよね?」
アシマーヴィア様はあたしの言葉に嬉しそうにうなずく。
「そうね。ウィンちゃんは『構成情報』のことはもう把握したのよね?」
「ヘンなじゅもんですよね? まだ試して無いですけど、いちおうやり方は理解しました」
アシマーヴィア様は微笑みつつ告げる。
「あの魔道具にはウィンちゃんが将来薬を作りたくなった時に、必要になるかも知れないものが揃っているの。魔力だけで材料を生成出来たらラクよね?」
そう言われると納得するしかない。
冷静になればなるほど、破格の価値を持つ魔道具なんだよな。
あたしが考え込んでいるのを見て、たい焼きを食べる手を止めてソフィエンタが告げる。
「もちろんウィンが将来、そういう道に進まないなら好きにしてもいいと思うわ。レリックとして売り払ってもいいし、家宝として保管してもいいじゃない」
「ワタクシもそう思うわよ~。ウィンちゃんは自由であるべきよね?」
アシマーヴィア様が『自由』と言ってくれたことで、あたしは少しだけ気分が楽になった。
それに期待を受けているなら、それに応えたいような気持はあたしにもある。
「ありがとうございます。どういう道を選ぶかは分かりませんが、大切にさせて頂きます」
そう応えてから、あたしは新しいたい焼きに手を伸ばした。
「それで確認なんですが、『夢の世界』で保管される情報にはどういったモノが入ってるんですか?」
あたしはソフィエンタとアシマーヴィア様を交互に伺いつつ訊いてみた。
具体的にどういうものが格納されているのかは、知っておきたい気がしたので。
「そうね~、鉱物と植物が格納されているわ」
「鉱物ですか……」
「薬の材料になりそうな化学物質を含むものが、けっこうあるわね。使い方は自分で調べなさいウィン」
「うん……」
もしかして魔力以外は、元手が掛からずに材料を揃えられるのだろうか。
それを訊いてみると、『構成情報』から生成した材料から必要な成分を手に入れるため、もうひと手間二手間かけていく必要はあるのだという。
「――どの鉱物や植物が有効化っていう情報は自分で吟味する必要はあるけれど、それでもとんでもない魔道具なんですね。アシマーヴィア様、改めてありがとうございます」
あたしが頭を下げると、アシマーヴィア様は機嫌良さそうな表情を浮かべた。
「あれはノーラの件でのお礼ってことだし、ワタクシとしてはそれだけ感謝しているってことなの。上手に使いなさいね~」
「はい」
その後も『闇神の狩庭』について確認したけれど、使用者に害がありそうな不安定な部分は取り除いてあるそうだ。
だから『闇ゴーレム』に関しては完全にイレギュラーだったらしい。
「まさか使い魔を見つける前に光属性魔法を使う子が出てくるとは、ワタクシも思わなかったのよ~」
「はぁ……」
「それでもウィンちゃんたちの強さなら問題にならない存在だと思ったし、放置したのだけれど」
「参考に教えてください。『闇ゴーレム』って名付けたあの防衛機構ですけど、何度も呼び出して大丈夫ですか?」
「大丈夫にしてあるけれど、戦闘の経験を積むことを考えているなら、同じ時間でダンジョン深部とかに行くことを勧めるわ~」
「そ、そうですよね……」
正直耐久性が高いだけで、面倒なだけの敵だったもんな。
キャリルがまた呼び出そうとしたら、みんなで止めることにしよう、うん。
あたしは引き続きたい焼きと緑茶を頂きながら、何気なく疑問に思ったことを質問してしまった。
「ところでマジックバッグって話が出ましたけど、『闇神の狩庭』やマジックバッグって、アカシックレコードと何か関係があるんですか?」
あたしが女神たちに訊くと、ソフィエンタは機嫌が良さそうな表情を浮かべる。
「どうしてそう思うの?」
「え? だって、『構成情報』の保管庫の『闇神の狩庭』は、マジックバッグと似たものなのよね?」
「そう言ったわね」
「『構成情報』を使って現実にモノを生成するのって、宇宙の全ての情報を含むアカシックレコードと似たものなのかなって思ったんだけど」
以前ソフィエンタから聞いた話では、全ての物質的な存在は同時に情報的な存在だと言っていた。
そしてその情報は『アカシックレコード』と呼ばれるっていう話だった。
あたしの問いにソフィエンタは「そうねえ」と呟いてから考え込み、口を開く。
「同じかといえば、違うわね。ただ、物質のエネルギー状態を魔力的に変換するという意味では、似ている面もあるけれど」
その説明で納得すれば良かったのかも知れないけれど、あたしはここでキチンと訊いておいた方がいい予感がしていた。
なにか重要な知識な気がする。
まあ、『アカシックレコード』自体が神々の秘密に関わるような話だろうから、普通の人間は神さまから直接聞けない内容ではあるんだけど。
「根本的な質問をしていい? アカシックレコードって情報なのよね? 情報と生き物が全くイコールってイミわかんないんですけど」
と、率直にソフィエンタに訊いてみる。
「それはたぶん、部分部分で見るから分からなくなるだけね~」
横からアシマーヴィア様が告げる。
それに頷いてから、ソフィエンタが話を続けた。
「そうね。どう言ったらいいものやら……。ねえウィン、地球の記憶を元にすれば“3Dゲーム”ってあるじゃない?」
「え……? うん……」
あたしはあまりゲーマーじゃ無かったと思うのだけれど、世界一有名な配管工のゲームとか色んな格闘ゲームとかは3D表示だったような気がする。
それが何か関係するんだろうか。
アシマーヴィア イメージ画 (aipictors使用)
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