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03.幹部の方じゃないですか


 その日ユリオは王立国教会本部での用事を済ませ、商業地区にあるデイブの店へと移動していた。


 彼は、自身が所属する魔神信仰の秘密組織――白の衝撃(インパットビアンコ)の先兵として、王都ディンルークを訪れている。


 その目的は魔神の聖地の巡礼客を保護することであり、王都の衛兵などでは救えないトラブルに自身の身一つで対応することを想定していた。


 共和国に居る彼の仲間もいずれこの地を訪ねてくるだろう。


 それまでに王都の状況を把握し、必要な行動――ユリオが必要だと判断した行動を行うことを考えていた。


 ところがいざ現地に着くと友人であるニコラスと再会した。


 自身が修めた武術である風牙流(ザンネデルヴェント)の宗家に連なる者で、共和国建国史に登場する伝説の傭兵団の月輪旅団と接点があるという。


 その伝手を活かし月輪旅団に紹介してもらうことに成功し、王都での知り合いも増えた。


 ユリオとしてはこのまま冒険者として活動しながら、本来の使命である巡礼者の保護を少しずつ始めるつもりだった。


 だが月輪旅団の王都の取りまとめ役であるデイブから、『表の職業を持て』と忠告を貰った。


 冒険者として暮らすのは全く問題無いが、今後共和国から仲間が来るというなら受け入れ態勢を作った方がトラブルにならないだろう。


 デイブからはそう忠告され、くれぐれも暴力沙汰を起こす前には相談しろとも言われた。


 ユリオは冒険者以外で稼ぐすべをとっさに思いつかなかったのだが、デイブとの面談で魔法を使った建築の仕事が手伝えるだろうと言われた。


 共和国では白の衝撃の仲間たちと行動するとき、戦いの影響で街を破壊してそれを自分たちで再建するのを何度も経験している。


 一般的な建築物に加え、魔神以外を奉ずる教会や、魔神を奉ずる教会の建設もユリオは関わったことがあった。


 それを話すとデイブは呆れたような表情を浮かべてから、王立国教会本部への紹介状を書いてくれた。


「それを持って行きゃあどうとでもなる。冒険者ギルドの相談役がこんなことを言うのも何だが、おまえは建築の仕事もやってみろ」


「建築ですか?」


「そうだ。これから王都は巡礼客を受け入れるためにどんどん街が大きくなる。おまえが建築の仕事を手伝えば、巡礼客を助けることにもなるだろう。それって魔神さまのためになるんじゃねえの?」


 デイブからそう聞いたときは、ユリオは身が引き締まる思いがした。


 畳みかけるようにデイブは言った。


「それにあれだ、国教会の連中に顔を覚えてもらったら、お前の腕前なら格闘神官(モンク)の連中がダチになってくれるだろう。王都での試合相手に困らなくなるぜ」


「いまからこの足でダッシュで国教会に向かいます! デイブさん、本当にありがとうございました!」


 そう言ってからデイブの返事を聞く前に王立国教会に駆けた。


 国教会の本部でデイブの紹介状を提出すると、幸いにもすぐに教会の設備部門を担当する司祭と格闘神官の司祭が一人ずつ現れた。


 紹介状の中に白の衝撃(インパットビアンコ) の話もあったらしく、格闘神官の司祭が親身になって話を聞いてくれた。


 共和国で教会建築を手がけたことはとても評価された。


 最終的にはユリオは、国教会が委託した建築の仕事を行う形で、当面のあいだ冒険者として指名依頼を受けることになった。


 それが軌道に乗れば商会を興してもいいし、国教会に加わってもいいだろうという話で落ち着いた。


 話が落ち着いた後は格闘神官の司祭に案内され、神官戦士団の訓練場で彼の仲間に紹介されて訓練に参加した。


「相談役殿にはよろしく伝えてくれ。またいつでも遊びに来なさい」


「ありがとうございました!」


 ユリオは王都での新生活の可能性が広がるのを感じ、王立国教会を後にした。


 そしてデイブに報告をするために彼の店に向かった。




 ユリオがデイブの店の表玄関から中に入ると、デイブとブリタニーのほかに中年の男が店内にいた。


 中肉中背で特徴が無いのが特徴のような、そんな人間だった。


「こんにちはデイブさん、ブリタニーさん」


「おうユリオか。国教会はどうなった?」


「はい! お陰さまでしばらくのあいだ、国教会の建築を担当する部門から指名依頼をいただく形で働くことになりました」


「そうか。ホント言うと建築ギルドあたりに登録してもいいんだが、カネもかかる。おまえの場合は冒険者だし、その辺はおいおい考えてきゃあいいだろう」


「はい! 何から何まで、本当にありがとうございましたデイブさん」


「気にすんな。白の衝撃の連中は新聞なんかで知る限りはいい印象はねえが、おまえは不器用なだけで悪い奴じゃあ無さそうだ。表の仕事をもってりゃあ、その伝手でいざってときに取れる選択肢も増えるだろう」


「それが月輪旅団の流儀なんですね」


 ユリオが感心したように告げると、その場の三人は穏やかに微笑む。


「そんな大層なもんじゃないよ、ただの生活の知恵さ」


「そうそう。市井の者の姿をしてりゃあ、情報集めに有利だろ?」


 ブリタニーの言葉に合わせて、中年の男が口を開いた。


 ユリオとは初対面の人物で、名前を聞いていなかったことを考える。


「ええと、あなたは初対面の方ですね」


「ああ。俺はロクラン・オクターンという。デイブとは昔から腐れ縁でな、旅団では副官兼参謀兼便利屋をしている」


 その言葉でユリオは居住まいを正す。


「それは! 幹部の方でしたか。すでに耳にしているかも知れませんが、僕はユリオ・フェルランテと申します。旅団の方にさらにお会いできて光栄です」


「よしてくれ。今も言ったが要するに雑用係だ。俺の代わりはゴロゴロいるし、幹部なんて大層なもんじゃあねえ。……それよりもユリオ、お前は酒は飲む方か?」


「お酒、ですか? 白ワインは好きですが、人並みですね」


「なんだそうか。……なぜか旅団経由で知り合う奴は、そんなに飲まねえんだよな」


 つまらなそうにそう言いつつ、ロクランは【収納(ストレージ)】から小ぶりな瓶を一本取り出してユリオに差し出した。


「挨拶代わりだ、これをやる――白ワインだ。俺は『スライアン酒店』って店をやっててな、この店を出て前の通りをずっと右に行くと左手に見えてくる。酒を買いたいときは来てくれ」


「ご丁寧にありがとうございます。よろしくお願いいたします!」


 そう言ってユリオはワインの瓶を掲げながら深く頭を下げた。


 その様子を見てロクランは不思議そうな表情を浮かべる。


「こうやって話してる分にはホントにまともそうな奴なんだよな。白の衝撃って連中の評価も色々と考えにゃならんかもだな」


「おまえは鬼ごっことかで絡まれてねえから、そういうことを言うんだ。もうおれはやらんぞ――ユリオ、もしおれと試合をしたくなったらロクランに申し込めな」


「いや、俺も腕相撲とか指相撲くらいしかやらんぞ」


「みみっちい野郎どもだね」


 デイブとロクランのやり取りに、ブリタニーは苦笑していた。




「それでユリオ、今日俺がデイブの店に顔を出したのは、お前から話を聞いておきたくてな」


「お話ですか?」


 ワインの瓶を【収納】で仕舞いつつ、ユリオは首をかしげる。


「ちょっと確認しておいた方がいいことがあってな、ロクランを呼んでおいたんだ。こいつには偵察役の取りまとめを頼んだりすることもあるんでな」


「なるほど。……やっぱり幹部の方じゃないですか?!」


「そんな大層なもんじゃ無いんだってほんとに。雑用だっつーの。話が進まねえから仕切るが済まんブリタニー、店を一時的に閉めてくれ」


「あいよ」


 ロクランに頼まれてブリタニーは店の入り口に向かい、表の『開店中』の札を下げて入り口にカギを掛けた。


 そしてブリタニーが戻ったところでデイブが【風操作(ウインドアート)】を唱え、周囲を防音にした。


「それでまあ、あんまり楽しい話でも無いだろうが、赤の深淵(アビッソロッソ)の話を聞いておきたくてな」


 ロクランが告げるとユリオは眉をひそめる。


「赤の深淵のお話でしたか。……何か動きでもありましたか?」


「いや、そこはまだ不明だ。ただ貧民街を訪ねた魔族の話が王都の情報屋に流れてな。下調べをするにも取っ掛かりが欲しいからデイブと話してたんだ」


 そう言ってロクランはデイブに視線を向ける。


「ああ。現状で魔族の関係でヤバいのは、共和国本体からは考えられねえ。あるとしたら魔神信仰の秘密組織の関係なんだが、その中でも特にヤバいのが……」


「赤の深淵というわけですね? 懸念されている内容は分かりました。魔族が貧民街を訪ねただけというのでは、僕としては赤の深淵と判断できません」


「そうか。生贄を狙って貧民を標的にするようなことは考えられねえか?」


「可能性は無いとは言えませんが……。以前僕が共和国で聞いた話では、連中の禁術の実践には『誕生日が分かっている』ということが条件とされると聞いたことがあります」


 ロクランの質問にユリオが応えると、その場の空気が引き締まった。


「それって、学校なんかが狙われやすいってことかい?」


「そうですね。私塾を含めて学校などでに通う子どもは、きちんと誕生日などが判別しやすいので狙われやすいようです。あとはヤギやヒツジなどの中型の家畜ですね」


「動物を生贄にする分には勝手にしろって感じだな」


 デイブの言葉にユリオは首を横に振る。


「あまり放置するのもお勧めしません。連中は都市の中では広場や路上などの公共の場で、生贄を使った儀式をするので」


「「「うわぁ……」」」


「加えて、動物を使った儀式を重ねた末に、人間を使うことも何度もありました」


『…………』


 ユリオの言葉に思わず絶句するデイブ達だった。


 デイブ達にしても裏社会の面倒な人間相手に戦いをした経験はある。


 それでもそういう連中は主として金銭目当てに暴れる連中だ。


 勝手が違う相手に、デイブ達は嘆息した。



挿絵(By みてみん)

ブリタニー イメージ画 (aipictors使用)




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