07.未来を手に入れるため
日課のトレーニングをしようとしてスウィッシュに確認したけれど、魔法のトレーニングと同じように使い魔を仕舞って行った方が効率がいいらしい。
そういうことならばとあたしはスウィッシュを魔力に戻した。
そして日課のトレーニングを行おうとした段階で、ステータスをきちんと確認しようとしていたことを思いだす。
【状態】を使って調べてみると、以下の情報が確認できた。
【状態】
名前: ウィン・ヒースアイル
種族: ハーフエンシェントドワーフ(先祖返り)
年齢: 10
役割: 魔法司書
耐久: 100
魔力: 400
力 : 100
知恵: 300
器用: 360
敏捷: 400
運 : 50
称号:
八重睡蓮
斬撃の乙女
諸人の剣 (仮)
悪魔刺し(仮)
撲殺君殺し(仮)
モフの巫女 (仮)
加護:
豊穣神の加護、薬神の加護、地神の加護、風神の加護、時神の加護、魔神の加護、
薬神の巫女
スキル:
体術、短剣術、斧術、弓術、罠術、二刀流、分析、身体強化、反射速度強化、思考加速、影拍子、影縛居、影朔羅、専心至斬、隠形、環境把握、魔力追駆、偽装、獣洞察、毒耐性、使徒叙任、環境魔力制御、周天、無我、練神、風水流転
戦闘技法:
月転流
白梟流
固有スキル:
計算、瞬間記憶、並列思考、予感
魔法:
生活魔法(水生成、洗浄、照明、収納、状態、複写)
創造魔法(魔力検知、鑑定、従僕召出)
火魔法(熱感知)
水魔法(解毒、治癒)
地魔法(土操作、土感知、石つぶて、分離、回復、情報固定)
風魔法(風操作、風感知、風の刃、風の盾、風のやまびこ、巻層の眼、振動圏)
時魔法(加速、減速、減衰、符号固定、符号演算、符号遡行、純量制御)
魔力の値がずい分伸びているけれど、それ以前に耐久が百になっている。
ステータスの各値は百で一般成人なみというのは以前知ったけれども、自分がそこまで体力があるのかはちょっと考えてしまう。
ただ、すばしっこさという面では以前から自信はあったし、そういう面で体力を効率的に使うことが出来ていると思うことにする。
この世界では魔力も身体の一部だし、もしかしたら十歳とはいえ魔力が伸びれば体力にも補正が掛かるんだろうか。
敏捷の値が達人レベルの値を指すという四百に到達しているけれど、よくよく考えればこれはあたしの身体の状態の情報だ。
達人であることを保証する情報、ではない。
『敏捷の値が高いからと言って達人とは限らない』んじゃないのか。
逆にいえば結果として、『達人は敏捷とかのステータスの数字が四百を超えている』んじゃないのか。
そんなことを考えたりする。
その辺はソフィエンタに訊けば分かる気もするけれど、そこまで厳密に確認すべきことでも無い気もするんだよな。
いまのところステータスが何かの条件になっているようなことは無い。
『医学の勉強を始めるにはステータスの値が一定以上でなければならない』みたいな条件は聞いたことが無い。
だから、ステータス値の伸びはとりあえず気にしないようにしようと思う。
それよりも、『夢の世界』で新しい“役割”を選べるようになった気がするんだよな。
そう思って“役割”を切り替えようとすると、『経津』というものを選べるようになっていた。
スキルは『雷切』で覚えた専心毀斬が、専心至斬というものに進化したようだ。
効果を確認すると『集中するほど対象をよく斬れる』とあった。
「ああ、『闇ゴーレム』を斬るのに集中はしたわよね……」
“役割”の『経津』の方を確認すると、『斬ることの本質に気付く者』とある。
「うーん。そんな大層なことを考えて斬っていた気はしないんだけれど……」
改めて言葉にされると『斬ることの本質』って何だろうって思ってしまう。
ステータス情報のこの箇所に意識を集中してみたけれど、そこまでは教えてくれなかった。
「『斬ることの本質』っていわれてもなあ……」
あたしにとって斬ることは戦うことだ。
それはミスティモントで父さんの手伝いをしていたころから、大きくはズレていないと思う。
それならあたしにとって『斬ること』や『戦うこと』は何だろう。
たぶん、父さんの手伝いという意味でなら、大切な誰かの助けをするということだ。
もっと個人的な視点でいえば、自分のための何かを手に入れる手段だ。
きみは「そっち」に行ってはいけないよ――
思わず、さっき引っ込めたスウィッシュの言葉が聞こえた気がした。
ああ、たしかに壊したり殺しきるために、あたしは斬っている訳じゃあ無い。
「そうね。未来を手に入れるために、あたしは斬るのね」
独りで部屋の中で、あたしは思考を言葉にする。
そしてその言葉は、自分にとって説得力あるように感じられた。
いわばあたしにとっての『斬ること』は、『未来を手に入れること』と同じだ。
それが本質かは分からないけれど、今は他に思い浮かばなかった。
「でもあんまりバトル方向に進むと、スウィッシュから『粋じゃ無い』って笑われそうだし、なにか考えないといけないよね」
ただ、今回覚えた『経津』ってどこかで見た記憶がある気がして考え込むと、日本の神様にそういう方が居たことを思いだした。
「こっちの世界で和風だとマホロバだけど、マホロバと縁がある“役割”とかスキルなのかしら? ……ナゾだわ」
あたしはそう呟いてから日課のトレーニングを行った。
トレーニングが終わると寝るには少し時間があった。
そして何か忘れていないかをふと考えて、デイブから相談された話を思い出した。
今日の昼休みあたりに思いだしていれば、『敢然たる詩』のみんなと話ができただろうに。
「うーん、失敗したわね。でも仮に相談したとしても、カリオの前で王都拡張の問題点の洗い出しとかしても大丈夫かしら」
べつにカリオがそこで話したことを悪用するとは、これっぽっちも思っていない。
思っていないのだけれど、カリオの場合ふとしたきっかけでフレディやニコラスに話してしまいそうな気がする。
迂闊にカリオ経由で共和国の駐在武官に伝わったことが、万が一にも王国にとってヤバい話だったら、あたしは情報漏洩でタイホされるんじゃないだろうか。
「十歳でガチなスパイ扱いとか、ホントにカンベンなのよね」
思わずため息が出るけれど、繰り返すがカリオの人間性を信頼していない訳ではない。
ただ心配なだけなのだ、うん。
「忘れないうちに、キャリルに『神鍮の茶会』を開きたいと連絡しておこう」
あたしが【風のやまびこ】でキャリルに連絡を入れると、開催を快諾してくれた。
明日の昼休み辺りであたしはコウに、キャリルはレノックス様に連絡を入れることになった。
そこまで決めてからあたしは早めに寝た。
一夜明けて、一月第三週二日目の水曜日になった。
昨日の『夢の世界』ではいろいろと普段と違うことが起きたので、何となく気疲れしているような感じはある。
でも普段通りに授業を受けていれば、気がまぎれるだろうと思うことにする。
事実、お昼休みになる頃には食欲の方が勝って気疲れとかどこかにすっ飛んでいたのだけれど。
実習班のメンバーとお昼を食べ、キャリルと二人で用事があると言って抜け出し、食堂から離れて【風のやまびこ】で連絡する。
「こんにちはコウ。昼休みにごめんなさい。いまいいかしら?」
「あ、うん。ちょっと待ってね。――うん、大丈夫だよ? どうしたんだい?」
「ええと、また相談事があるから『茶会』を開きたいの。キャリルとも話していたのだけれど、明日の放課後とか都合がつかないかしら――」
そう言ってあたしは大体の時間と集合場所を連絡した。
「分かったよ。長くならないなら大丈夫かな」
「その時でどうこうなる話では無いと思うから直ぐ済むわ。あたしも狩猟部の練習に行きたいし」
「うん、了解したよ」
「ありがとう」
そう言ってあたしはコウとの連絡を終えた。
キャリルの方もレノックス様の予定を押さえられたようなので、明日放課後に『神鍮の茶会』の開催が決まった。
コウ イメージ画 (aipictors使用)
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