05.その区切りがつくまでは
流れでみんなに教えてしまったけれど、ディアーナは『魔神さまが人間だった時の最後の弟子』ということは秘密にしてほしいとお願いしていた。
「王宮の文官さんには、この件は秘密にするようお願いされているので」
ディアーナはそう言って苦笑いを浮かべる。
それって国から秘密って指定されている気もするけれど、だれも突っ込まなかったな。
みんなとしても特に異論が出なかったので、その件はこのメンバーの秘密ということで落ち着いた。
「ディアーナの話では、魔神さまのお弟子さんたちは超魔法文明のことを学んだそうですし、過去にも王国に情報が上がっているのかも知れませんわね」
「その可能性は十分考えられるわね。でも歴史の教科書に載るほどの扱いにはなっていない以上、王宮がストップを掛けているのでしょう」
キャリルの言葉にロレッタ様が裏事情を想定するけれど、超魔法文明の話となると遺跡が見つからないと話としては表にできないだろうと思う。
「ディアーナちゃんが超魔法文明の報告を王国に提出しているなら、私たちは無理に関わる必要は無いわ」
「あたしも同感ですロレッタ様。でもディアーナ、もし王宮からムリなことを言われるようなら、直ぐに相談してね。あなたにはあたしたちが味方になるから」
「はいっ! ありがとうございます!」
ディアーナから聞いた話は、あたし達が黙っていればいいだろう。
もともとみんなには『闇神の狩庭』のことを秘密にしてもらっているし、今さらディアーナの秘密が増えても大したものでは無いような気もする。
でもロレッタ様とアルラ姉さんは、モノ申したかったかも知れないけれど。
「ええと、ディアーナちゃんが超魔法文明の知識を持っていることは分かったし、ウィンの『闇神の狩庭』を急いで王国に調査してもらう必要性は下がるかしら」
「ロレッタ、もうこの魔道具の件は当面保留にしましょう。いまこのメンバーで魔法のトレーニングで使っているけれど、それが目鼻がついてから考えてもいいわ」
「うーん……、そうね。『超魔法文明の物証』という点ではちょっと釈然としないけれど、私もそう思うわ。魔法か……。ニナちゃんはどう思う?」
「妾はウィンの判断に任せるのじゃ」
あ、ニナはあたしに丸投げたか。
ロレッタ様と姉さんに加えて、みんなの視線があたしに集まる。
「あたしは姉さんの意見に賛成かしら。結局ここには“単一式理論”のためのトレーニングに来ているじゃない? その区切りがつくまでは、『闇神の狩庭』を王国に調査してもらうのは保留でいいと思うけれどどうかしら?」
あたしの言葉にみんなは考え始めるが、そこでサラが決を取った。
さすが一学期の元クラス委員長だな。
「ムリに言うてるのとちがうけど、ウィンちゃんとアルラ先輩の案でええと思う人は手ぇあげてくれへん?」
『はーい』
全員が手を挙げてくれたけれど、この時ロレッタ様も納得した表情で手を挙げていた。
『闇神の狩庭』の取扱いが当面秘密となった。
今まで通りになったことで、あたし達は緑の本のことを片付けることにした。
テーブルの上の焼き菓子をかじりつつ、あたしは自分の肩に止まっているスウィッシュに話しかける。
「スウィッシュ、この緑の本は魔法を覚えるのよね?」
「そうだね。さっきウィンが確認したとおり、闇魔法と時魔法と地魔法で覚えられるんだ」
「何で三属性の魔法が用意されているんですか?」
ジューンが興味深そうにスウィッシュに確認する。
確かに地魔法を覚えてしまえば、他の属性の魔法は必要ない気もする。
「魔法を使う場所の特徴によっては、魔法を選ぶ必要があったみたいだよ?」
『ふーん?』
「場所の特徴のう……。具体的にはどうなるのじゃ?」
「例えばこの場所に入るための魔道具でいえば、光魔法の使用は絶対ダメだよ」
『やっぱりか!!』
スウィッシュの言葉を受けてみんなの視線はキャリルに集中したけれど、彼女は照れたような謎の笑みを浮かべて頭を掻いている。
スウィッシュと同じような感じでキャリルの肩に止まっている白いハトのソアは、空気を読んで困ったような表情を浮かべている。
というか、人間臭いハトだな。
まあ、使い魔なんだけれども。
とりあえずあたしはツッコミを入れる。
「キャリル、みんなはたぶん褒めてるわけでは無いと思うわよ」
「そ、そうですの?」
キャリルの反応にみんなは一斉に首を縦に振っていた。
スウィッシュからの説明を受けて、あたし達は緑の本を順番に音読して魔法を覚えた。
あたしは時魔法を使えるから【符号固定】と、地魔法の【情報固定】の二つだ。
ニナやアルラ姉さんなどは闇魔法の【記録固定】も覚えたけれど、他のみんなは【情報固定】だけ覚えていた。
スウィッシュからは覚えた魔法の使い方の説明もあった。
最初に『夢の世界』に大量に転がっている『構成情報』の本から、目的の本を使い魔に探させる。
目的の本を見付けたら、内容を使い魔に記憶させる。
あとは現実世界に戻って、緑の本で覚えた魔法を使えばいいそうだ。
使い魔が主人の魔法の発動を補助するので、必要な魔力の量が足りなければ発動させなかったりするらしい。
「安全のためにそうすることになっているの。魔力切れになったりしたら危ないからね」
「ああ、確かにそうね」
あたしは思わず同意するけれど、スウィッシュの説明を聞いていたプリシラが手を上げる。
「質問は良いでしょうかスウィッシュ」
「はい、なんだろうプリシラ?」
「基本的な事ですが、使い魔の皆さんは他に何が出来るのかを教えてくれるのを希望します」
プリシラの言葉にみんなも頷いている。
「そうだね。細かい話は自分の使い魔に確認して欲しい。だからぼくからは大まかな説明をするよ――」
スウィッシュによれば、『魔法司書』の使い魔は情報収集や魔法発動の補助が出来るのだそうだ。
具体的には図書館であるとか書庫での文献調査などを任せれば、自分で判断してどの本にどういう情報があるかを記憶として持ち帰るのだそうだ。
行動範囲はだいたい使い魔の主人から数キロ圏内らしい。
また、魔法の発動については成功率を上げるように補助できるのだという。
専門的には魔力の波長の安定化という話だったけれど、ロレッタ様とアルラ姉さんとニナとジューンが食いついていた。
「そして『魔法司書』で経験を積めば『魔法典籍官』になって、スキルが『使徒執行』に上位互換されるよ」
「それはどのような効果のスキルかを説明して頂くのを希望します」
「うん。かんたんにいえば、それまでの仕事に加えて、自分の主人が覚えている初級の魔法を同じ練度で発動できるようになるよ」
『おお~』
「それは主人と使い魔で合体魔法が出来るということかの?」
「それだけじゃないよ。初級魔法に限るけど、もう一人の自分みたいに、全く別の初級魔法の発動を手伝うようなこともできるね」
『おお~!』
なかなか便利だし、使い方によってはラクが出来る気がする。
「これは早めに『魔法司書』の習得を検証して、マーヴィン先生に報告する必要がありそうなのじゃ」
ニナはそう言ったけれど、魔法が得意な生徒にとっては新しい可能性になる気がした。
そのためにはジェイクやアイリスに頑張って覚えてもらおう、うん。
そこまで話が進んだところで、あたしはふと気になったことがあった。
「離れた距離での連絡は可能なの?」
「連絡用の魔法を使えば可能だよ。考えたことが勝手に使い魔に伝わるようなことは無いから気を付けてね」
「分かったわ」
偵察目的で働いてもらうには工夫が要るのかも知れないな。
「でも、ぼくらは自分の主人と魂を共有しているから、主人の魂に戻れば記憶は共有されるよ」
「それは便利ね。よろしくねスウィッシュ」
「うん。よろしくねウィン」
あたしとスウィッシュのやり取りを聞いていたみんなも、それぞれの使い魔とお喋りを始めた。
「スウィッシュ、ヘンな話ですがあなたが自分より大きな鳥などに襲われたり、人間に攻撃されてしまったら、そのダメージはウィンのダメージになるのですか?」
「ぼくに使われている魔力が戻らなくなるだけで、ウィンの体力や記憶なんかに影響が出ることは無いよ。ただ、禁術や呪いなんかは気を付けた方がいいと思う。あと、使い魔が戻らないときは、一日経てばまた呼び出せるよ」
使い魔が戻らない時って、捕まったり何かに襲われたときとかだろうな。
「……分かりましたわ」
キャリルはもしかしたら、バトル面での利用を考え始めていたのかも知れないな。
でも、あたしとしてはそこまで使い魔を多用するかは、現状では分からなかった。
ジューン イメージ画 (aipictors使用)
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