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02.勇気を示してくれたのだ


 いきなりの『闇ゴーレム』の襲撃を受けて『夢の世界』の調査を始めることにしたあたし達は、寮の玄関で平積みされた本の山を見つけた。


 現実ではもちろんそんなものは無造作に置かれていない。


 怪しいことこの上ないけれど、ニナの【鑑定(アプレイザル)】では『魔法的な手段』で『構成情報』なるものを記録した本らしい。


 この『構成情報』が表音文字だけで記されている意味の無い文字列で、あたしはおもわず日本の記憶で『ふっか〇のじゅもん』を想起してしまった。


 ちなみに手に取った一冊は名前の感じからすればキノコの類いの本に感じられた。


「『構成情報』の本か。それをもとに物理的な存在を復元できるというなら、とんでもない技術ね」


 ロレッタ様が呻いているけれど、下手をすれば神の御業に近い気がする。


 この『夢の世界』はアシマーヴィア様から貰った『闇神の狩庭(あんじんのかりにわ)』で入り込んだ空間だけれど、まさか神々の秘密に関わったりしないだろうな。


 その辺りのことが心配になってくるんですけど。


 みんなはその間にも相談しているようだ。


「――復元できるとして、蘇生の魔法と同じように魂の状態まで保たれているのかしら?」


「そこは分からぬが、魔法の原理的に魂までは再形成は出来ぬというのが学術的な意見となるのじゃ。蘇生の魔法も、魂の本体は呼び出しているだけなのじゃ」


 アルラ姉さんからの質問にニナが応えている。


 どうやら魔法に関する側面から考えを深めているらしい。


 そこにロレッタ様も加わる。


「魂そのものを扱うことが出来るのは、教会の神術よね?」


「もしくは各国が秘する禁術なのじゃ。いずれにせよこのような本で記される量の情報で扱える代物ではないと思うのじゃ……」


「「「うーん……」」」


 何やら姉さんとロレッタ様とニナは腕組みして考え込んでいる。


「この本をもとに何かを蘇生とか復元する魔法は、ぜったい無いの?」


「アン、そこまでは言っておらぬのじゃ。もしかしてそのような魔法がどこかに隠されて居るかもしれんのじゃ。それが見つかっていない以上、妾は分からぬとしか言えんのう」


「魔法が、かくされているの? どこかしら?」


「順番に家探しを続けるしか無いと思うわ」


 アンとニナのやり取りに、横からあたしはそう告げた。


 真相はどうあれ、確認できるところは確認してしまった方がいいだろう。


 みんなからも異論は無かったので、あたし達は見て回ることを優先して移動を再開した。


 寮の一階部分には食堂や厨房の他に、シャワー室や来客用の客間や応接室、会議室、宿直室、倉庫、トイレなどがある。


 それらを一つ一つ確かめる。


 施錠されている扉もあったけれど、『夢の世界』では念じるだけで開くから侵入が楽だ。


 あたしの場合は鍵開けは習っているから心配は無いけれど、みんなの前で披露したら呆れられる気もするんだよな。


 確認の結果、客間や応接室、会議室、そして宿直室は平積みされた本で埋め尽くされていた。




 どうしていままで本の山に気が付かなかったのか。


 それはもちろんあたし達が、寮の中を探索しなかったからなんだけれども。


「この本の量じゃ、一冊ずつ何かを探すのは現実的じゃないわねー」


 ホリーが苦笑いを浮かべるけれど、確かになにかラクをしたいところだ。


 その後も家探しを続け、寮生の部屋を二つ覗いたところでディアーナが気付く。


「ちょっと待って下さい、皆さん」


「どうしたんですのディアーナ?」


 あたし達が確認した寮生の二つの部屋は、両方とも平積みの本で埋め尽くされていた。


 本来の部屋の持ち主とは知り合いでは無いけれど、少なくともこんな本の山の中で暮らすようなことは無いはずだ。


 その点はみんなも同意してくれると思う。


 そしてディアーナは、あることに気付いた。


「寮生の部屋を二つ見ましたけれど、ヘンだと思いませんか?」


「何がヘンなの?」


「ええと…………。そう! 分かった! わたし達ニナさんの部屋から食堂に向かったじゃないですか?」


「あー、そういうことかー?!」


 ホリーもディアーナの言葉で叫び声を上げるが、あたしもそこまで言われて気が付いた。


 ニナの部屋には平積みされた本が無かった。


「妾の部屋には本の山は無かったのう」


「そうなんです!」


 これはたまたまなんだろうか。


「え、でも、ニナちゃんの部屋は入り口だからだとおもうわ」


「どういうことなん?」


「ええと、お伽話だと、物語のはじまった最初のスタートじゃないかな? そこはこの世界の入り口だと思うの」


 アンがそう告げるとプリシラの目がシャキーンと輝く。


「アンの意見は説得力が強いと結論します。そして入り口にはこの世界の案内役が控えているべきと想定します」


「プリシラちゃん?」


 当惑したアンに向かってプリシラは畳みかける。


「そして私はさらに、その案内役がカワイイ存在であることは強く希望します!」


『あ~……』


 確かに物語だとそういう展開は良くあるよね。


 でも『闇ゴーレム』とか出てくる空間だし、必ずしもカワイイものが出てくるとも限らないよな。


 そもそも案内役がいるかはまだ不明だし。


「無視できない話では無いでしょうか。もしこの『夢の世界』が人の手によるものなら、プリシラがいう通り案内役が居てもいいです」


 ジューンも真面目な顔をして頷くけど、説得力はある。


 もっとも、実際にはアシマーヴィア様の手も入ってしまっているのだけれど。


 案内役が居ると仮定するなら、入り口付近に用意されるのは妥当ではあるか。


 もしそうなら、今まで完全に無視して好き勝手にウロウロしてたことになる。


 だって使い方とかほぼノーヒントだし、仕方が無いと思う。


 結局みんなと話し合って、ニナの両隣の部屋を覗いてみようということになった。


 廊下から見てニナの部屋の左側の部屋は、平積みされた本で埋まっていた。


 そしてあたし達は右側の部屋の扉を開けた。


 するとそこには綺麗に片付いた部屋の中に床置きの書見台が二つある。


 木製の書見台の上にはそれぞれ本が置いてあった。




 ニナの【鑑定(アプレイザル)】を頼りにあたしたちが本を調べると、一冊は魔法を覚える本で、もう一冊はスキルを覚える本と分かる。


「妾もこんな仕掛けを見るのは初めてじゃ。……魔道具とも違うのじゃが、本自体に緻密な魔法が施されておる」


「ええと、本を読むだけで魔法やスキルを覚えられるってこと?」


 アルラ姉さんが当惑したような表情を浮かべる。


 みんなも正直半信半疑だ。


「恐らくはそういうことじゃろう。闇魔法の精神への働きを軸に、強制的に魔法やスキルを記憶させるのじゃろうが……。すまぬ、妾にも良く分からん……」


「魔法はとかく、スキルって記憶するだけで覚えられるものですの?」


「すまぬキャリル、妾にも理解の範疇を超えておる。ただ、ざっと鑑定する限りでは、本自体に怪しいものは仕込まれていないと思うのじゃ」


『…………』


 みんな黙ってしまったな。


 確かにニナにも判別がつかないものなら、使うかどうかを含めて当惑するのは仕方が無いと思う。


 でもあたしは、『闇神の狩庭(あんじんのかりにわ)』がアシマーヴィア様からの報酬だと知っている。


 ここはあたしが試してみるか。


 そう思った時に、アンが口を開いた。


「まずは試してみるわ、わたし、この世界のことをもっと調べてみたいの」


 そう言って彼女は微笑む。


 そのどこか無謀さを感じるような、ある意味で危うい無邪気さは、彼女が以前非公認サークルに関わっていたことをあたしに思い出させた。


 いや――


 あたしは何を考えているんだ。


 ここはアンが勇気を示してくれたのだと思うべきだろう。


「まってアン。『闇神の狩庭』はあたしの持ち物です。試すならあたしから行うのがいいと思うわ」


「……そうじゃな。それに、ウィンがこの魔道具の持ち主と鑑定結果で分かる以上、持ち主を害するようなものが目に付くような形で置いてあるのもヘンなのじゃ」


「ウィンちゃん……」


 アンは心配そうな表情であたしを見る。


 でもまあ、たぶんそこまで心配することは無いと思う。


「大丈夫よ。あたしの予感では、危険なことは起こらないと思うの。……それでニナ、この本はそれぞれ、どんなスキルや魔法を覚えるの?」


「ふむ。こちらの表紙が白い本が、この場所のガイドを呼び出すスキルを覚えられるようじゃ。そしてこの緑の本が、『構成情報の固定化』のための魔法を覚えられるようじゃ」


「ならガイドを呼び出すスキルからね」


 ニナの言葉に頷き、あたしは白い本を受取った。



挿絵(By みてみん)

アン イメージ画 (aipictors使用)




お読みいただきありがとうございます。




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